帰り道で、私は思った。
高校の、卒業式が終わってしまった。
友人たちは、就職し進学し浪人し、各々に忙しく、この土地を離れ生きていく。そのためなのかどうなのか、皆が皆、泣いていた。私は特別、悲しくなどは無かったけれど、空気に流され泣いてしまった。
さて、私の進路はと言えば、家の近くの短大へ進学が決まっている。中々に行きたかった学校であり、おまけにさほどの学費はかかりはしないのだ。
家を出る気は到底なく、母と父と弟と、四人仲良くつむまじくと、そうやって、しばらくは生きていきたい。
友人たちと帰路を離れ、私は一人歩いている。幾度も幾度も通っていた、通いなれたこの道を。大して、楽しい高校生活というワケではなかった。つまらなくも無かったけれど、さして楽しくもありはしない。
けれど今だけは、最高の三年間だったのだと偽ってしまえ。そうして紛い物でも感慨に溺れ、今日の日の空気を青春としよう。
一人で歩き、気持ちが良い、少しの寒さを肌に感じる。空は青い。晴れているのだ。なんておあつらえ向きな、まるで狙ったかのような。
ああ、今日は卒業日和だったらしい。
私はひとり笑いながら、ふいに足取りを軽くする。
そうして浮き足立った気分で、これからの事を考えてみた。
春休みには、人生初のバイトというのをしてみようか。今までもやりたくあったのだけど、部活部活で出来なかった。私の好きなあのお店が、アルバイト募集の張り紙をしていた。ダメもとだろうと行ってみよう。そして店員になれればいい。
進学したらどうなるだろう。メンバーは今までと変わるだろうが、土地が同じなら変化は大きくないのだろうか。
何をしよう、私は何がしたいだろう。
私は、幼い子どものように考えていた。今の私は無邪気なようで、純粋な願いが頭をよぎる。
恋がしたいな、と私は思った。
まるで可憐な少女のように、唐突に、けれど純粋にそう思った。
今まで生まれて18年、そんな事は、考えたことも無かったのに。
浮き足立った話なんて、私には到底ありはしない。あった事など一度も無い。
けれど私は今満たされて、更なる満たしを望んでいて。癒して欲しいと確かに思う。甘えさせてはくれないものかと。そして二人で楽しく過ごし、色んな事を語り合いたい。
まだ見ぬ誰かに胸を焦がして、私はふふふと一人笑った。
それに私はもう18になっていたのだ。恋する権利くらいはあるはず。
恋がしたい。
周りの華やかな女の子達は、きっともう、とっくの昔に幾度もしている。なかには、恋に恋をしていた子だっていたけれど、それにしたところで、無いよりはずっとマシなのだ。
キスなら皆しているだろうか。処女を失った子もいるのか。
溜息を付いた。浅く深く、溜息をついた。それから少し、鼻歌を歌う。折角の心地よい気分を、台無しにしたくは無かったのだ。
誤魔化すように鼻歌を歌い、けれどそれはラブソングで。
私は、自分の失態に呆れてしまった。なんてことだ、こんな曲を、選ぶつもりはなかったのに。
私は一人笑いながら、恋がしたいなと、確かに確かにそう思った。
後半の「恋がしたいな」系の所だけが先にあって、他は後からつけたしました。
何かこっぱずかしいような、純粋っぽいのが書きたくて仕方なかったんです。
しかしなんて季節はずれな(笑)