5話 最強の能力
町から出てみて感じた事。それは草原の雄大さ。ほとんど人の手が加えられていないその草原にはかつて俺がいた世界では見れないほどの壮大さがあった。
圧巻。その一言に限る。
よくよく見ると遠くにはモンスターの姿も確認できる。ゴブリンは今のところ見つからないが。こういった場所へ来ると、否が応でも異世界へ来たという事を感じさせられてしまう。
「素晴らしいぜ。空気が美味しいな」
やはり、この大自然が生み出す空気はとてもすんでいる。何よりも気分を落ち着かせてくれる。
「よし、ゴブリンだ。どこらへんにいるのかな?」
取り敢えず、森の中にでも行けばゴブリンの1匹や2匹はいるだろう。綺麗な草を踏みつけながら進むのは若干心苦しいが、しかしながら全てを避けて行くのは不可能だ。時として腰の高さまである草をかき分けながら森へ近づいて行く。
鬱蒼と生い茂る木々が作る小さな暗闇は俺の恐怖心を若干かきたてる。が、それよりも俺には1つ気がかりなことがあった。
それは俺の能力だ。アミラをナンパから助けた時、俺は妙に体が軽かった。まるで俺の筋力が急に増えたような、そんな感じ。その正体を俺は知りたかった。使いようによっては強力な能力になるかもしれない。
俺は満を持して森の中へ足を踏み入れていった。
「見たこともない木ばっかりだな。うん、ぱっと見、俺が知ってるのが1つもない」
当たり前といえば当たり前だろう。個人的には言葉が通じている事が不思議でならないぐらいだ。もしかしたら、あの女神に何かされたのかもしれないが。
しばらく、整備もされていない足場の悪い森を歩いていくと、何やら声が聞こえてきた。いや声でない、これは何らかの唸り声だ。
「どこにいる……?」
俺に敵の気配を察する事のできる力はない。敵が何なのか、どこにいるのか、何も分からない。分かるのは、どこかに俺を狙っている猛獣がいるという事だけ。
足を止め、どこから攻めて来るのかしっかりと見極める。が、相手も警戒しているのか、未だこちらへ来る気配がない。
と、不意に後ろから草を踏みつける音が聞こえた。慌てて振り返るが、何もいない。すると今度は左から音が聞こえた。が、そこにも何もいない。
「何だってんだ」
俺は奇妙なこの現象に声を漏らす。三度、今度は右から音が聞こえてきた。もちろん何もいない。
緊迫したこの空気。いったん落ち着くために、俺は深呼吸をした。
その時。
「グギャアアアアア‼︎」
猛獣の鳴き声とともに全方位からモンスターが襲ってきた。油断をしてしまった俺は咄嗟のことに慌てることしかできない。
殺られる!
しかし、モンスター達は俺との距離がわずか数センチまで迫った所で、突然逆方向に吹き飛ばされた。
一体何なんだ……?
モンスター達もこれには驚いているようで、困惑したように辺りをキョロキョロと見渡している。よく分からないが、何にせよスキが生まれた。
俺はモンスターの一体に近寄り、思いきり殴り飛ばす。するとモンスターは「グギャッ!」と叫び木々をなぎ倒しながら飛ばされていった。
「……強いな俺。もしかして、これが女神から貰った力か……? それとも異世界転移した時に何らかのブーストでもかかってんのか?」
どっちにしろ、俺が強くなったことに変わりはない。俺は喜び、飛び跳ねる。モンスター達はそんな俺の挙動にさらに警戒を強める。
と、よくよく見てみると、俺と対峙しているモンスターは緑色の小さな体と手に持つ棍棒が特徴的なモンスター、ゴブリンだった。一目見てすぐに分かってしまった。
「よっしゃ! 勝負だオラ!」
俺はゴブリン達を殴り飛ばしていった。以前まで、俺は暴力はおろか、喧嘩すらした事がなかった。それは俺が平和主義だからではない。単純に怖かったのだ。
だが、強力な力を手に入れた俺に恐怖などなかった。
「ふぅ、こんなもんかな」
気づけば、俺の周りはゴブリンの死体だらけ。罪悪感はもちろんあるが、それに勝る高揚感が俺の体を支配していた。
使っているうちに俺の能力の全容が分かってきた。これは力が尋常でないほど高くなる訳ではない。恐らく、重力を操作しているのだと思う。
現に……。
俺は近くの木を睨めつけた。すると木は大きな音をたて、向こう側に倒れた。
このように触れずに物に力を加える事も可能なのだ。これならば、俺に触れる前に吹き飛んだゴブリンにも納得がいく。俺は随分と素晴らしい当たりくじを引いていたようだ。
「うんうん、俺にしてはものすごいラッキーだったな」
なかなかのチート能力だと言えるだろう。しかも能力の制御も簡単にできてしまう。しかし、何故アビリティストーンでは雑魚と検出されたのだろうか……? 俺の力にはアビリティストーンでは測れない何かがあったのだろうか?
と、俺が能力の考察をしていると、背後から再び猛獣の唸り声が聞こえた。しかも先ほどよりも大きい。圧倒的に。
振り返るとそこにはトラのような、ライオンのような、オオカミのような、体調3、4メートルはあろうかという巨大なモンスターがいた。キメラと呼ばれるモノだろう。
「ふむ、こいつは俺の能力の実験台には丁度いいぜ!」
俺にはもう恐怖心はなかった。
・アビリティストーンでは雑魚検出されたのに実は最強でしたという設定はおかしいと感想欄で指摘がありました。
主人公が何も不思議に思わずにいたので違和感を覚えた方もいると思います。
なのでとりあえず書き足してみました。