3話 最弱の転移者
気がつくと、俺は大通りの真ん中に立っていた。ぱっと見、時代は中世ヨーロッパ。異世界ならば王道と言えるだろう。また、道路を行き交う人々の中には耳や尻尾の生えた、いわゆる亜人と言われる者もいる。
「剣や杖を持っている人もいる。ふむ、つまりこの世界は魔法マシマシの物騒な世界ということか」
俺としては、己の魔法がどれだけのモノか早急に把握しておきたいところである。不穏な言い方だが、実験体がいれば嬉しいのだが。そもそも、力の使い方すらよく分かっていないのだ。土壇場で咄嗟に分かるのだろうか。
「まあ、適当で分かるだろ!」
そう言いながらふと隣を見ると、何やら物騒な雰囲気の建物が。入口には傭兵と思われる人が剣を持ち、2人立っている。また、建物の至るところに剣が固定されている。ここが異世界でないなら、真っ先に警察が事情徴収にかけてきていただろう。
だが、看板に書いてある文字に俺は顔を光らせた。なんと、その看板に冒険者の文字が見えたのだ。
「冒険者、あるのか!」
やはり異世界転移といえば冒険者だろう。そこはもう当然だ。
とはいっても先ほども述べたように、入口は傭兵が2人立っている。非常に入りづらい。しかし入らないわけにもいかない。
恐る恐る、慎重にギルドと思われる建物に入っていく。入る際、傭兵に何か声をかけられるかと思ったが、特に何を言われることもなかった。
「おお、スゲーなぁ!」
ギルドの中は木製のテーブルとイス、それと奥にはカウンターがあり、受付嬢が冒険者の対応をしている。俺が想像していた通りの冒険者ギルドだった。やはり、想像するのと実際に見るのでは興奮度が全く違う。
早速俺はカウンターに近づき、受付のお姉さんに声をかけてみた。
「すいません」
「はい、いかがいたしましたか?」
「冒険者登録したいんですけど」
「あ、はい、登録ですね。しばらくお待ちください」
ビンゴ。予想通り、冒険者になるにはこのギルドの受付に言うだけで良かった。金は持っていないが恐らくは必要ないだろう。
受付のお姉さんは営業スマイルでぺこりとお辞儀し、そのまま奥へと消えていった。何か用意する物があるのだろうか?
しばらく待つと、お姉さんが戻ってきた。手には何やら手のひらサイズの青い綺麗な石が。
「お待たせいたしました。では登録を始めます。まずこちらのアビリティストーンに手をかざしてください。こちらであなたのステータスを計ります」
なるほど、異世界冒険者といえば次はステータスか。これで女神から授かった力が強力なものか無力なものかが分かるだろう。恐らくは弱いものであるが、少し期待してしまう。
「よし、いくぜ!」
俺はアビリティストーンに手をかざした。するとすぐに石は青白く光りだした。そして少しして光は治った。
するとお姉さんが小さく唸った。顔も少し険しい。何かあったのだろうか……?
「タカヒト ヤマサトさん、申し訳ありませんがあなたの安全のために正直に言わせていただきます」
どうやらあの石に手をかざすだけで力だけでなく名前も分かってしまうらしい。もしかしたらプライバシーも丸見えかもしれない。何ということだ。犯罪し放題ではないか。
「はい、何でしょう?」
「はっきり言ってあなたのアビリティでは冒険者になることは厳しいです。規定で決められている冒険者になれる最低アビリティは越していますが、かなりギリギリです。これでは命がいくつあっても足りません。もちろん強制する権利は我々にございませんが、それでも推奨することはできます。やめておいた方が身のためですよ」
どうやら、神様から受け取った力は相当に弱いモノだったらしい。しかし、俺はあまり喪心してはいない。初めから大体予想していたことだ。
俺は「そうですか」と一言言い、今後の生活を考えた。もしここで冒険者にならなかったとして、今後の生活金に困るのは必至だ。金がない、住所不定、実績なしの俺を雇ってくれる所なんてほとんどないだろう。
それならば、危険といえど今ここで冒険者になっておくのが無難ではある。それに、これは利害も何も考えていない俺の単純な希望だが、俺は冒険者になりたい。昔からの夢、今叶えないわけにはいかないだろ。
「大丈夫です。俺は冒険者になります」
そう俺が言うと、お姉さんは明らかに気落ちしたように肩を落とした。が、お姉さんに断ることはできない。
「本当に、やめておいた方が良いですよ。最終忠告です、やめておいた方が良いですよ」
「大丈夫です!」
即答すると、お姉さんはさらに肩を落とし嘆息した。そして心配そうに俺を見て、
「何かあればすぐに言いつけてくださいね」
と言い、何かのカードとペンをカウンター下から取り出して何か記入し始めた。こうなると、散々お姉さんに忠告されてたのに、無視してしまった罪悪感に苛まれてしまう。
「なんかすみませんね」
「タカヒトさんのような方も時々いらっしゃるんですよ。弱いと言われつつ、それでも冒険者になる方」
「ああ、案外いるんですね」
俺が仲間がいたのかと安心するが、お姉さんはさらに顔を暗くした。
「みな、死にました。モンスターに殺されて」
瞬間、空気が鉛のように重くなった。
死んだ。トラックに跳ねられ死を1度経験した俺だからこそ、死というものがどのようなものかよく分かる。お姉さんにかける言葉が見つからない。
しばらく無言でお姉さんがカードを書いているのを見ていたが、不意にお姉さんのペンが止まった。
「はい、終わりました。では、頑張ってくださいね」
俺はお姉さんからカードを渡され、そのまま受付を離れた。カードには冒険者タカヒト ヤマサト、そして俺のアビリティが書いてある。
「お姉さんには悪い事をしてしまったが、まあこれで俺は晴れて冒険者だ!」
俺の異世界物語が今ここに始まる。
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