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一般人がチートスキルで最強に⁉︎  作者: てるのー
第2章 痛哭の王誕祭
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2話 付けポーションは恐ろしい

 頭に心地よい感覚。心配そうに俺を呼ぶ声。俺は重たい瞼をゆっくりと上げた。すると目の前にクーゼの顔があった。とても心配そうな表情を浮かべている。近くには、ナナシアもいる。クーゼ同様不安そうな顔。


「起きた。よかった」

「はぁ、怖かったぁ……」


 2人とも安堵したように肩を撫で下ろした。状況が分からない。何がどうなって……。


 目前に映る美少女2人の顔。さらにその後ろには天井が見える。頭にはこの世のものとは思えないほどの至福の感触。……つまるところ、これは男の子の夢! 膝枕! クーゼが膝枕してくれているご様子!

 本来ならここで起き上がるべきだろう。だが、俺は勿体ないことはしない。未だ覚醒しきっていないフリをして、膝の感触を存分に堪能しようとする。が。


「もういいでしょ」


 そう言うとクーゼは立ち上がってしまった。反動で俺は地面に頭をぶつけ、鈍い音を鳴ららせた。尋常でない痛みに頭を抱え、呻き声をあげる。

 クーゼさん、マジヒドイっす……。


「あ、ごめん」


 こうなる事まで予想していなかったのか、クーゼが申し訳なさそうに声をあげた。いやホント、気をつけていただきたい。

 だが、痛みのおかげか俺は完全に覚醒し、こうなった経緯についてもしっかりと思い出せた。

 タニスギポーションを舐めたのだ。その結果、意識が保てなくなり倒れてしまったわけだ。つまり、タニスギポーションはただの劇薬だったという事である。


「ああ、ありがとう。2人とも」


 そう礼を言いつつ、頭を上げた。しばらく横になっていたせいか、立ちくらみがそこそこ酷い。なんとか体を起こし、周りの状況確認。


 小さな部屋に可愛らしいテーブルやカーテン。まるで女の子の部屋のようだ。……ていうかここ、女の子の部屋なんじゃね……? クーゼかナナシアの部屋なんじゃね?

 という推理まではできたのだが、もし間違っていたら恥ずかしい。ので、何も分からないフリをして2人に聞いてみる。


「ここはどこなんだ?」

「私の部屋」


 と、俺の質問にクーゼが答えてくれた。服もそうだし、この部屋の様子からもクーゼはどうやら可愛いもの好きらしい。物静かな様子のクーゼには、あまり想像がつかないモノではあるが、実に可愛い趣味だと思う。

 クーゼについてすこし知れたところで、ナナシアが未だ心配そうな表情でこちらを見ていることに気がついた。


「どうした? ナナシア」

「本当に大丈夫? 付けポーションを舐めたって聞いたから、驚いちゃったよ」


 不安げに言うナナシア。だがそれに対して、俺はナナシアから信じられない言葉を聞いた気がして、己の耳を疑ってしまった。


「あの、今なんて……?」

「え? だから付けポーションを舐めたって聞いたから……」


 付けポーション。初めて聞く単語だが、何となく意味を察する事ができる。これは傷口などに塗って治す薬なわけだ。

 俺はポケットに入っていたタニスギポーションを取り出した。ビン貼ってあった小さな紙には確かに付けポーションの文字が見てとれる。

 つまりはアレだ。本来傷に塗るべきものを間違えて舐めてしまったと……。


「うわあああああああ! やめてええええ! こっち見ないでええ! めちゃくちゃ恥ずかしい! ウッソだろ俺! うわああああ!」


 言葉にならないような事を叫びながら、床にのたうち回る。少し頭がフラつくがそんな事はどうでもいい。軽くトラウマを作ってしまった。こうなってくると、クーゼたちも心内では笑っているのではないかと不安になってくる。

 大丈夫だよな……。


「ああああああ……。マジでか……」

「ポーションの使用には最新の注意を払うべき。薬が一転して毒になる」


 ……薬が毒となる。それにしても、いささか効き過ぎな気もしなくはないが……。だが、俺のミスならば文句の言いようもない。


 黒歴史をまた1つ生み出してしまった。


「もうお嫁に行けない……。元から行く気もないけど」


 俯き、赤面した顔を手で覆いながら俺は小さく呟いた。少しギャグ的に言ったのは俺なりの精一杯の照れ隠しだ。まあ、もう随分と遅いが。


「それだけ言えるなら大丈夫じゃない。でも、本当に気をつけてね」


 ナナシアがずいと顔を近づけ言い聞かせるように言った。お姉さん的キャラのナナシアらしいポーズだ。ナナシアにはそのポーズがすごく板についている。

 いや、まあ年齢的にもお姉さんなワケだが。


「そのキャラを極めよう!」


 俺はグッドマークを手で作り、ナナシアに向けながら言った。が、ナナシアは言っている意味が分からなかったらしく、頭にクエスチョンマークを浮かべている。だが、すぐにナナシアはグッドマークを返すと、「はい!」と答えた。

 そういうノリの良さ。お姉さん的ポジションから少し遠ざかってしまった気がする。まあ、俺がやらせたのだけれども。


「さてと、で、これからどうする? 俺は少しクラクラするけど、もう十分元気だ。もう少し武器見る?」


 個人的にはもう少しクーゼと買い物を楽しみたい。だが、もしもクーゼたちに安静にしてろと言われたのなら、言う通りにしなければならない。

 俺が心配していると、クーゼはアゴに手を置き考えだした。だが、すぐにそれを解くと、笑みを浮かべた。


「もう少し武器を見てまわろう」


 その言葉に俺は顔を明るくさせた。正直、まだ武器も防具も全くもって見足りなかったんだ。いろんな装備を見てみたかった。


「よし! じゃあ行こ──」

「だけど」


 俺の言葉を遮って、クーゼは続けた。


「先にご飯を食べに行こう」


 ちょうどその時、俺の腹の虫が鳴りだした。しばらく寝ていたので気づかなかったが、もう昼ごろらしい。


「あ、じゃあ私も行く!」

「ナナシアはもうすぐ仕事でしょ。悪いけど、タカヒトと2人で食べる」


 昼ごはんに釣られ、ナナシアも手を勢いよく上げるが、すぐさまクーゼに叩き落とされてしまった。ナナシアはションボリと肩を落とし、小さな声で「はい……」と言った。


 先述したが、現在は昼頃。それから逆算すると大体2時間程度気絶していたようだ。少し舐めただけで一瞬で気絶させ、2時間眠らせるポーション。やっぱり劇薬なのではないだろうか……?

 なんて考えて、手に持つ怪しいポーションの説明書を読んでみる。が、そこに書かれているのは回復の付けポーションという文字と使用上の注意のみ。まあ、毒に毒と書くヤツはいないか……。効果を試してみたいところだが、だからと言ってもう試してみる気にはなれない。結果、保留という形でポケットの中に入れておいた。


「クーゼ、行こうぜ」

「了解」

「あ、私も行く」


 クーゼの家を出てナナシアと別れた後、俺たちは再び商店街に向かっていた。

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