17話 魔人の虫
俺はアンマ町に帰り、普段使用している宿のベッドで寝込んでいる。何をしようにもやる気が起こらない。結果、何もしないで、ニートのごとき姿になってしまっている。いや、もとニートの俺にはお似合いか。
俺の様子にクーゼも気づいたようだが、今のところ何も声をかけてこない。今は1人でいたい。非常にありがたい。
もう何度寝したことか。いくら寝ようとしても、もはや寝られない。
と、その時、ドアを2度ノックする音が聞こえた。
「……はい」
ノックに対し小さな声で返事をする。すると、1人の男が入ってきた。どこかで見たことのある顔だ。誰だったか……?
「ワシだ」
その一言で俺は誰だかすぐに分かった。その声には聞き覚えがある。それは、俺がハダーを倒す際に邪魔をしてきたお爺さんだった。
「何か用か? あんまり余裕がないんだが」
「受付のお嬢さんにお主の場所を聞いて来た。何かされたか? 白い巨大な虫に」
俺はベッドから飛び起きた。白い巨大な虫。それは例のあの怪物の的を射ている。何故分かったのか? 何故知っているのか?
「その反応を見ると図星じゃったようじゃな」
「何かあのバケモンのことを知ってるのか……?」
「ああ知っている。あれほどやめておけと止めたのにな」
止めた? お爺さんが止めたのはハダー討伐ぼ時しか記憶にないが……。他に何かあっただろうか?
「記憶にないな」
「お前がハダーを討伐しようとした時、ワシは止めただろ」
「ハダー? それに何の関係があるんだ……?」
「あの化け物はハダーから生まれたモノだ?」
お爺さんがそんな事を言ってくる。が、さすがの俺でもあり得ないとすぐに分かった。まずサイズが合っていない。あのバケモノはハダーとは圧倒的にサイズの差がある。いくら何でもあの20メートル以上のバケモノが2メートル程度のハダーから生まれたとは考えづらい。
「面白くねーぞ」
「嘘じゃない。まあ、正確にはハダーから生まれた訳じゃなく、ハダーに寄生していただけだが」
「寄生?」
「そうだ、寄生だ。ヤツはハダーに棲みつき、ハダーの脳を支配する。そしてハダーを操っていたんだ。本来起きていないはずの時間にハダーが活動していたのも、タバコを吸っていなかったのも、全て寄生されていたからだ」
そういえば、ヤツを見た時妙な既視感を覚えた。もしかして、ハダーを倒した際に出てきた虫、それがヤツなのか……?
いやだが、まだ決定的なアリバイが残っていた。それはサイズ。先述したように、ヤツはデカすぎるのだ。それはハダーの中に入るわけがない。
しかし……。
「ヤツは自由に自らの大きさを変えられる。最大で25メートルほどになる。そして、ヤツは宿主が殺されると凶暴化し町を襲いだす。凶暴化した姿があれだ」
これで、ヤツが寄生していた訳ではないという理由が全て失ってしまった。つまり、おそらくヤツは俺が倒したハダーに寄生していた寄生虫であったという事だ。
「ヤツは新種の寄生虫、名をセイドーという。魔獣博士のワシが言うのだから間違いない」
魔獣博士。随分と子供じみた名前である。
「まあ、何が言いたいかと言うとだな。お前があれをやったという事だ。ワシは散々止めたのに。もう知らんぞ、ヤツがどこまで暴れるのかは分からんが、すでに町1つ破壊されている。まだ止まらないだろうな」
そして、最後に「お前の所為だ」と小声で言い、魔獣博士は部屋から出ていった。
俺は、ただただ申し訳なく感じていた。あのバケモノは俺が世に開放してしまったのだ。俺が悪いのだ。
不意に、ベッドに水滴が垂れた。それが俺の涙だと気づくのにそう時間はかからなかった。
俺は何をやっているのだろうか……? たまたま強い力を手に入れ、強い力に酔いしれ調子に乗り、周りを巻き込んで、結果はコレだ。
俺は漫画や小説のようなかっこいい主人公に憧れていた。強い力を手に入れ、俺にもなれるんじゃないかと歓喜した。だが、俺には永遠になれないようだ。
「クソ、クソ、クソ、クソ、クソォ……」
ベッドをなんども殴りつけ、鬱憤ばらし。だが、溜まったものはとても無くなりそうになかった。
話の内容がどんどん重くなってきている...
あらすじ詐欺とはこの事である。