14話 モンスター
外が騒がしい。五月蝿い。人が気持ちよく寝ているってのに……。
俺はゆっくりと頭を起こした。やはり外が五月蝿い。何か悲鳴まじりの声も聞こえる。
…………悲鳴?
俺はゆっくりと宿の窓を開けると外を見てみた。まず覚えたのは違和感。町の真ん中付近に何か大きな建造物が建っている。昨晩寝る前にはあんなもの無かったはずだ。一晩で建った? そんなバカな。
そして、町の通りではまるでその建造物から逃げるように走る人々。皆、顔を恐怖に染めている。一体どうしたと言うのか……?
「おーい、どうしたんだ⁉︎」
町行く人に声をかけてみるが、返事は返ってこない。それどころか見向きもされない。一生懸命何かから逃げている様子。
一目見て異常事態だと分かる。こういう時は冒険者ギルドに行くのが定石だ。
俺は急いで準備を済ますと冒険者ギルドに……。
行けなかった。
誰もいない宿から出た瞬間、何かの足のようなものが俺の元に降ってきた。咄嗟に重力を使い弾いたが、反応が少し遅れれば踏み潰されていた。一体なんだこれは……!
何が降ってきたのか確認するために俺は上を向き……、そして絶句した。
巨大な、小さく見積もっても20メートルはあろうかという白い体。虫の様な見た目。そう、あの建造物かと思っていた巨大な何か。それが動いていたのである。しかも、どこか既視感を覚える様な形だ。
とにかく、モンスターであることは間違いない。冒険者の出動である。
「でかいな。ちょうど良い、俺の力がどこまでなのか試してみようか」
俺は今まで本気を出したことがなかった。それは出すまでもなかったからだ。だが、これほどのサイズの敵ならば本気を出すに値するだろう。俺は、自分の手の届く範囲を知りたかった。
力を溜め、能力を発動させる。そして相手を吹き飛ばそうと──
「大丈夫か⁉︎」
エアロンの声。咄嗟に俺は能力を発動をやめ、力をしまい込んだ。俺は目立ってはいけないのだ。そして振り返ると、そこにはエアロンだけでなく、ジークやアデラの姿もあった。
「俺は無事だ。そっちはどうだ?」
「俺らも無事だ。それよりアレの対処だぜ。どうするよ」
ジークが横目でアレを見ながら言った。どうすると言われたって、冒険者が出来ることは1つしかない。それしかできないなら、それをただ全うするだけだろう。
「正直めちゃくちゃ逃げたいんだが、冒険者として戦うぜ」
エアロンが言った。
「私も戦う」
アデラが言った。
彼らの考えも俺と同じのようだ。ならば、することは1つ、戦うだけだ。
と俺が意気込み戦おうとした。が。
「タカヒト。俺たちの道具を持って隣町へ行ってくれ。お前を危険に合わせることはできない」
ジークが俺に荷物を渡そうとしながら言った。が、俺は受け取らない。受け取るわけがない。俺も戦うんだ。町が危険な今、俺だけ簡単に逃げる訳にもいけない。
「俺も戦う。お前らが思ってるほど俺は弱くない」
「いや、あなたは弱い。あなたが思っているほどあなたは強くないわ」
俺が参加したいという旨を伝えようとするが、アデラが止めてきた。そういえば、アデラは俺の魔力がほぼ皆無だと知っているんだ。俺の事を弱いと思うのも仕方がない。
「悪いが、俺は行くぜ」
そう言い残し、モンスターの元へ駆け出そうとする。が、咄嗟にジークが俺の体を抑えてきた。ジークは、短剣を使っているとは思えないほど力が強い。流石はB級冒険者。俺の力だけではとても引き離せない。
「離せ! 俺は行くぞ!」
「やめとけ! お前じゃ勝てねーよ! 殺されるって!」
「死ぬわけねーだろ! だって俺は……!」
言い切る前に俺は口を噤んでしまった。いや、それどころではない。同時に意識が暗転してきた。
「な……にを…………」
「悪いな、タカヒト」
おそらく、エアロンが俺の首筋を叩いたのだろう。俺は能力がなければただの人だ。不意打ちにはめっぽう弱い。
「く……そ……」
俺は、気を失った。
次回から主人公鬱回。
苦手な方はごめんなさい