11話 人間の王
今回も短いです
今まで、漫画や小説の中でしか聞いたことがないようなセリフ。それを実際に聞くと、人はどのような反応をするだろうか……? 嘘だと思う? 信じる?
俺は……。
「え……? 今、なんて……?」
聞こえてはいた。が、それでも聞き返さずにはいられなかった。今聞いた情報が間違っているのではないかと俺は疑っていた。が、次のクーゼの言葉でその疑念もすぐに打ち砕かれてしまった。
「だから、国家を滅ぼそうって言った」
何でもないかのような表情でクーゼは言っている。が、口調はどこか重々しい。少なくとも冗談ではなさそうだ。ならば、彼女は何を意図して言っているのだろうか。イキナリ国家を滅ぼそうと言って簡単に了承する人物なんているはずがない。
「どういう事だ? 説明してくれないと訳が分からん」
「分かった」
クーゼは俺の顔を見据え、続けた。
「まず、あなたは王を見たことがある?」
王? この世界に来たばかりの俺が見たことあるはずがない。が、そんな事を言えるはずもない。
「いやないな。俺はすごく田舎のところから来たんだよ」
「そう。王は年に一度開かれる王誕祭に顔をだす。私は昔、一度見たことがある。王は子供だった。それだけじゃない、王は残虐。子供ゆえの残酷性かもしれないけど、とにかく殺し好き。王誕祭のメインイベントは犯罪者の見せしめ大量虐殺。裁判なんてロクにしていないから、冤罪だらけ」
クーゼの口調が話すごとに重くなっていく。表情も暗く、悔しげだ。クーゼの仲間も王に殺されたのかもしれない。
「私は王を許せない。だから滅ぼす。王を、殺す」
殺す。その言葉を放つクーゼには怒りが感じられた。このクーゼを見るとどうしても助けたくなる。が、同情程度で動くほど俺は安くない。まだ俺に実害はない。失礼な話だが、俺はクーゼが俺を心を揺さぶるために嘘を言っているのかもしれないとも疑っている。
ともかく、話だけで国家を滅ぼす、いわゆるテロリストになろうと決心はできない。
「そちらの事情は分かった。だが、悪いが俺はまだ了承しかねる。王の話だって本当かどうか俺には分からない」
「分かってる。それを見越してもう1つお願い。ちょうど一月後、王誕祭がある。それに一緒に参加しよう」
ふむ、実際に王誕祭の様子を見せて俺に異常性を確認させようという魂胆か。俺としても非常に興味がある。断る理由はない。
「分かった。一月後だな」
「そう、一月後。門前に集合。くれぐれもナナシアとか他の人には言わないで」
「ああ、分かった。でも何で? 友達なんだろ?」
と、俺が聞くと彼女は頷いた。その目には親友を思う暖かな感情がこもっていた。
「ナナシアには、戦いに参加してほしくない」
なるほどね。ナナシアの言う通り、クーゼはとても優しい子のようだ。だからこそ、彼女の言う、「殺す」という言葉がひどく気がかりだった。
「分かったよ」
そう俺が言ったのを確認すると、クーゼはどこかへ去っていってしまった。俺はポツンと1人路地裏に取り残されてしまった。
この国の王。そういえば、気にしたこともなかった。世界の転覆か。何だかものすごい話になってきたな。
正直、俺は怖かった。彼女に国を転覆させられるほどの力があるのだろうか? 国は強大だ。いくら個人が強くても、数の暴力で封殺されてしまう。簡単に落とせるものとはとても思えない。
できれば、クーゼにも俺は戦ってほしくない。だが、彼女のあの決意は俺がいくら説得したところで変わりそうにない。俺にできることは何もない。
「殺す、か」
彼女のセリフが俺の中で反芻していた。見た目からは想像もできないような過激なセリフだった。
俺はため息を一つ漏らすと、路地裏から出ていった。