第8話:精霊指定都市?
「そういえば、カリーナさんってここによく来るんですか?」
「えぇ、少し暇なとき、日々疲れた心を癒すために来たりするんですよ。」
「そうなんですか。そしたら、俺って少し邪魔だったですかね?」
「そんな事ないですよ。逆にダイキ様にもここからの景色の良さがわかっていただき嬉しいです。夜景もいいですけど、昼間は海が輝いて綺麗ですし、夕暮れも街と海がオレンジ色に染まって綺麗ですからぜひ、今度見に行きましょう!」
「そうなんですか⁉︎今度見てみます……って、えぇ‼︎」
ダイキの耳には今、カリーナが誘ってくれているように聞こえた。
まさか、カリーナは俺の事気になってる?
と思いつつ、念のためもう一度聴いてみる。
「カリーナさんと一緒にって事ですかね?」
「もちろんそうですが。」
カリーナはけろっとした顔で答える。どうやら別に恋愛感情で言っているようでは無いみたいだ。
「少しでもソフィアとカリーナのハーレムを期待していた俺が馬鹿だったぜ。」
「何か言いました?」
「え!いやいや今のはただの独り言で…」
カリーナに聞かれていたようだがうまくごまかせたようだ。もしはっきりと聞かれていたら、少し引かれていただろうか?それともハーレムという概念が無いのだろうか?というか、まずソフィアでさえダイキに恋愛感情を持っていない可能性が高いのだ。ハーレムもへったくれもない。
と考え込んでいるダイキにカリーナは言った。
「では、私はこれから半年ほどかなり忙しくなりますので、そうですねぇ……半年後でどうでしょうか?」
「半年ですか…結構長いっすけど、分かりました。それじゃ半年後に!」
半年後というのはかなり長めの約束だが、忙しいというのなら仕方がないだろう。実質、ダイキもこれから忙しくなる…かもしれない。半年後はダイキも少し落ち着く頃かもしれないので、それはそれでちょうど良いのだ。
「それじゃ、俺は部屋に戻るんで。」
「そうなんですか?もう少しここにおられてもいいのでは?」
ソフィアと同じくらいの美少女であるカリーナが、俺を誘っている。本来ならばこの誘いに乗り、もう少し夜景を眺めたい所だが、明日の朝は早い。というか、ソフィアが朝早くに起こしてきそうな気がするのだ。なにしろあんなに気合いが入ってたからなぁ。
「明日、早くから用が入っているので…すみません。」
「そうなんですか。それでは仕方ありませんね。では半年後に…」
「そうですね…では半年後に。おやすみなさい。」
「おやすみなさい。」
螺旋階段を降りて行く途中、ふと後ろを振り返る。
屋上には月明かりに照らされた金髪の美少女が手すりに肘を置き、頬杖をつきながら夜景を眺めていた。それも、なぜか物哀しい表情で…
◇翌朝
「ーーーっ……ダイキ………ダイキ………」
なんだろう。眠くてよく分からん。
「ダイキくん!店舗探しに行くんでしょ、早く起きないと遅れちゃうわよ‼︎」
耳元で叫ばれてダイキは目を覚ました。まだぼやける目をこすっていると、だんだんと青髪の美少女の姿が浮かんできた。
「ダイキくん!さ、早く支度して‼︎」
ソフィアから急かされ、ダイキはベットから起き上がった。
その後、着替えと朝食、歯磨きなどを猛スピードで済ませた。
「俺はまあまあの割合で学校遅刻しそうな時があるからな。こんな早業もう慣れっこだぜ!」
「……?」
全然自慢にならないことを胸を張って、主張するダイキをソフィアはキョトンとした顔で見ていた。
「そんじゃ、行きますか!」
「うん。準備は出来たみたいだし、行きましょ♪」
ソフィアがやけにうれしそうにニコニコしている。
「えらく上機嫌だな。もしかして街に行けるのが嬉しいのか?」
「うん。…あっ、でも、もちろん目的はダイキくんの店を開くために必要なことをしに行くだけだから‼︎」
「そんなに否定しなくても。……いいよ。俺の用が早く済んだら街をぶらぶらしようか。と言っても金は持ってないから、金はソフィア持ちになるけど…」
「いいの?ごめんね、わがまま言っちゃったみたいで。」
「いいよ、そんなの気にしなくて。逆に俺のわがままに付き合わせているようなもんだから。そうと決まれば、なおさら早く街に行かなきゃな!なるべく早く済ませて、今日は楽しもうぜ‼︎」
「うん‼︎」
ダイキには、ソフィアが城の外に興味を持っている事はソフィア本人から聞いた話、そして、カリーナから聞いた話でだいたいわかっていた。ソフィアは外に出られるだけでも嬉しかったのだろうが、せっかく街に出るのであれば、ソフィアにも楽しんで欲しかったのだ。そのため、ダイキはこの一週間、密かに城にいる兵士や使用人などにオススメの店を紹介してもらっていたのだった。
そう!今日は店舗探し兼デートなのだ‼︎
「よし!今日は気合い入れて頑張るぞ‼︎」
ちなみにダイキの脳内図はこうなっていた。
店舗探し<デート‼︎
2人は城門を出て、丘を下っていく。
城を出てすぐの丘を下っていく道には両脇に大きく立派な店が並んでおり活気があったが、店と店の間にある路地をの奥を覗いてみると、閑静な民家がたくさんあるばかりだった。
「それにしても、この表通りには店があるが、一本でも奥に入ると民家ばっかりだな。」
「このエリアには、私たちが歩いてる大通りには店があるけれど、ほとんどが城で働いている者たちの民家があるのよ。いざという時もすぐに城に行けるようにね。」
「なるほど。」
ダイキには気になることがあった。それは、城を出てからソフィアがフード付きマントを羽織っていたことである。
「ところでソフィア、そのマントって何?」
「ほら、一応、私って、王女でこの国ではそこそこ有名人だから。」
「そりぁそうだ。愚問をしてしまい申し訳ありませんでした!」
ダイキはふざけ半分で大げさに頭をさげる。
「べつにそこまで言わなくてもいいんだけど…」
そう言いながら、ソフィアはクスッと笑った。
彼女の笑顔はベタな表現になってしまうが天使のようだ。見ているとこっちも幸せな気分になってしまう。
「ウフフッ、もう大げさなんだから。……ダイキくんといるとなんだか楽しい♪」
「俺もソフィアといると楽しいよ。」
そして2人で笑い合った。
ダイキはこの幸せな日常が永遠に続く気さえしていた。
そして、今のダイキには、まだ、未来で起こる大事件を知る由もなかった。
丘を下り終えると、異世界物でよく見る、ザ・王都と言えるような街が広がっていた。丘を下っていくときの大通りの店がどこまでもたくさん立ち並んでいるといえば分かりやすいだろうか…いや、分かりにくいな。
そしてそして、ファンタジー感が溢れる街を歩いている大勢の人々。
ダイキと同じ普通の人間もいれば、エルフ、ドワーフ、イヌミミ、ネコミミなどなどここから見るだけでもいろんな人種がいる。
「なんかさ、なんかすっごいワクワクするな!」
「うん!なかなか街来れないからワクワクする♪」
ワクワクは一緒でも、そのワクワクの理由はお互い違っていた。
「で、店舗貸してくれるとこはどこ?」
「このメインストリートを歩いて行って、1つ路地に入ったとこよ。さ、行きましょう。」
「あぁ、そうだな。しかし、それにしても人が多いなぁ〜。」
「それはそうよ。この国は島国で人口も多くも少なくもないのだけれど、王都は50万人いて、さらに、ここは中継貿易で栄えてるとこだから
、外国人もたくさん滞在してるから、多い時は70万人くらいいるかも。」
「50万でも結構な数字だけど、70万人か…
てか、50万って政令指定都市になれるじゃないか!」
「精霊指定都市?どういう意味?」
「なんか政令の文字が違うけど…まっいいか。なんでもないよ。」
そのあとも、ダイキはソフィアから街のことをいろいろと教えてもらった。簡単に説明するとこうだ。
今ダイキがいる所はシア王国の王都のメインストリート。メインストリートとは港から王城までを通っている大通りのこと。ダイキたちが下ってきた丘の大通りもそうだ。そして、このメインストリートを中心に街は広がり、発展している。
「なるほど、なるほど。で、この運河はなんなの?」
メインストリートには丘のふもとまで運河があった。
「この運河は人や者を運ぶための移動手段みたいなものよ。そして…」
ソフィアは声をひそめて言った。
「王城へ運ぶ荷物もこの運河を通って、運ばれていくの。それから丘にある王城関係者しか知らない隠しトンネルで王城まで運ばれていくの。あっ、この話は内緒ね!」
ソフィアは唇に人差し指をあて、『秘密にね。』とジェスチャーをまじえた。
そうこうしているうちに、路地を一本入って行き、目的の店に着いた。
看板には土地、建物の売買・賃貸のことならぜひ!と書かれている。
「なんか古いし、胡散臭そうな店だな。」
「そんなこと言わないの。さ、入りましょ!」
そう言って、ソフィアは躊躇するダイキの背中を押しながら店内へ入っていった。
次回も明日、午後6時台に投稿します。