第7話:カリーナ
俺は牛丼屋になってこの世界で生きていく。
だが、それまでにはいろいろ時間がかかる。それまでは、この王城で客人として暮らすことにした。
そして、今から今後のことをソフィアに話すために俺の部屋まで来て欲しいと呼んでいるのだ。
数分後、ドアをノックする音がし、ソフィアが入ってきた。
「ダイキくん、話ってなんなの?」
「そのことなんだけど、これからのことを一応君に相談したくて。」
思えば、ソフィアにはこの世界に来てからというもの世話になりっぱなしだ。もし、俺が牛丼屋を始めてしまえば、彼女にはもう会えなくなるかもしれない。そう考えると、この城で一生暮らしていくのも悪くないのかもしれない…
だが、もう決断したことだ。
「俺は牛丼屋になることにした。」
「ギュウドン?あっ、あの時食べさせてくれたもののこと?」
「そうだ。」
「私は良いと思うけど…でも、お店を開くんだったら店舗も必要だし、お金も、あっ!あとあのお肉もいるし、下の白い柔らかい豆みたいなのも…」
指を折りながら、必要なものを挙げていく。
「どうしてそんなに…いいのかな、そんなにお世話になってしまって……」
「それはそうでしょ。やらなきゃいけないことがたくさんあるんだから!明日から早速、店舗探しを始めましょう。」
ソフィアはそう言うと、「じゃあ、明日ね。」と言ってダイキの部屋をあとにした。
結局、店舗も資金も食料の調達も彼女に手伝ってもらうことになった。
「なんか、思ってたのと違うなぁ…」
ダイキは呟いた。それもそうだろう。異世界に来るのなら、どうせだったらヒロインであろうソフィアにカッコいいところを見せたかった。
しかし、どうだろう。今のダイキの状況は真逆だ。
彼女のおかげで城内では、ソフィアを救った英雄のように扱われているが、実際はソフィアに救われっぱなしだ。情けない。
そんなことばかり考えていたせいか、ダイキの心はネガティヴになっていた。
しかし、落ち込んでいても仕方ない。そんな心を癒すため、城の案内時にソフィアから聞いていた、綺麗な夜景が見えるという城の最上階の塔テラスに行くことにした。
塔の最上階に行くためには、城の中央にある螺旋階段を登っていかなければならないらしい。
「はぁ……はぁ…」
息が上がる。
最上階に行くためには階段をかなりの段登っていかなければならない。中学卒業以来、部活も入っておらず大して運動もしていないダイキにとってはかなりのキツさだった。
「やっと着いた。」
豪華な装飾が施された螺旋階段をやっとの思いで上がり終えると、すぐにテラスが見えてきた。
「ここがソフィアの言っていたとこだな。」
さっそくテラスまで移動する。
「うわぁ!めっちゃ綺麗じゃん‼︎」
眼下に広がる王都の町は、明かりの量は現代の日本の夜景には敵わない。しかし、宝石が散りばめられているような夜景はとても綺麗で暗い気持ちも吹き飛ぶほどであった。
「ーーダイキ様、こんなとこでどうされたのですか?」
声の主はソフィアの姉、カリーナ。
夜景に見入っていたダイキは突然の声掛けに驚いた。
「か、カリーナ様…おれは…じゃなくて、ワタシクシハ、夜景が綺麗と聞いたもので…」
なにぶん、こんなめちゃくちゃ身分が高い人と話したことはないため、ダイキはどういう言葉で話せばいいのか分からなかった。
「そんなにかしこまらなくてもいいんですよ。」
「そ、そうですか?じゃぁ…」
俺はもともとそんなに敬語を使わないたちだ。ソフィアとは普通に話せるようになったが、ソフィアの家族にはまだ敬語を使っている。だが、カリーナ自ら言ってきたので、カリーナの言葉に甘えさせて貰う。
「じゃぁ、カリーナ…いや、カリーナさん。さすがにさんぐらいはつけさせてください。」
「えぇ、それで構いませんよ。あっ、そういえばどうされたのでしたっけ?」
カリーナのほうも少しだが、タメ口っぽくなっている気がしたのは俺だけだろうか。
「実は、俺はソフィアを救った英雄でもなんでもないんです。俺は逆にソフィアに救われただけで…」
カリーナに全ての事情を話した。
「そういうことだったのですね。でも、あの子はすごく心の優しい妹なんです。昔から人の事を第一に考えて、自分のことはいつも後回し…少し世間知らずなとこもありますけど、これからもソフィアのことをよろしくお願いしますね。」
「よろしくお願いしますとはどういうことっすか?way?」
「あの子はずっと城の中にいたので、友達がいないんです。」
「ということは、俺がソフィアとの初めての友達?」
「そういうことになりますね。ソフィアは意外と寂しがり屋なとこもありますし、あの子は外の世界に憧れてるんです。いつか、ソフィアに外の景色を見せてあげてください。」
カリーナの切実な願いだった。ソフィアがお人好しなら、姉のカリーナもかなりのお人好しだ。ソフィアの幸せを思い、俺にそれを託しているのだ。
「OK!いつかソフィアに外の世界を見せまくってあげます。きっと!」
あの日、牛丼を食いながら、ソフィアとも、いつか世界を見せてあげると約束した。そのとき泣いていたソフィアは笑顔になってくれた。彼女の悲しそうな顔はもう見たくない。
彼女の笑顔を見ていたい。
俺は彼女に返しきれない恩を…彼女の夢を………
あらすじに書いてる猫耳少女ですが、出番はもうちょい先です。