第4話:この世界で生きていく
短めです。
ソフィアの口からいろいろとファンタジー的な言葉を聞いてしまった。やはり、俺は異世界に転移したということで間違いないだろう。
「なるほど、ここはシア王国っていうのか。にしても王都にしては田舎すぎないか?」
「それはそうよ。さっきも言ったけどここは王都のはずれにある村なの。もっと詳しく説明するとね、この村は王都の城壁の外側にあるの。」
「だから、俺たちが抜けてきた森が村の隣にあるってことか。となると、この村は貧困層が住むところ?」
城壁に囲われてない人たちは、王から見捨てられた者たちというのはありがちな話だ。
しかし、その問いかけにソフィアは首を横に振った。
「そういうことでもないの。もともとここには村はなかったのよ。でもここに木こりたちが移り住んだの。」
「でもさぁ〜、わざわざモンスターが出る危険な森の横に住もうとするかな?」
「木こりの人たちはもともと腕っ節が強い人が多いから…モンスターから襲われてもたいていは大丈夫なのよ。それでも、たまにヘルウルフから食い殺されたって話は聞くけどね…だけど木こりたちはわざわざ王都から木を切りに行くよりも、森から近いとこに家を建て、効率的に多くの木材を手に入れる道を選んだのよ。」
なぜこの村が存在しているのかという理由は分かった。しかし、ダイキには新たな疑問が浮かぶ。
「ヘルウルフって俺たちが襲われたあのオオカミのことか?」
「えぇそうよ。ヘルウルフはとても凶暴で、その名の通り『地獄のオオカミ』って言われるほど恐れられているわ。それにしても、ダイキ君って本当にこの国のこと全然知らないんだね。これまでどうやって生きてきたの?」
ソフィアは不思議そうに俺の顔を見てくる。しかし俺にとってはこの国に来たのはつい昨日のことだし分からないのは当たり前だ。それよりはソフィアの【コンパスの針がどこを指しているのか分からない問題】の方がよっぽど重症だと思うのだが…
「じゃ〜、一気に基本的なことをダイキ君に説明してあげるね。まずこの港のずっと左側を見てみて。」
そう言って、ソフィアは護岸から堤防に先までダイキを手招きしながら走り出す。
ダイキはソフィアの手招きした堤防の先まで走ってきた。
ソフィアの指を指す方向を見てみると大きな帆の帆船がいくつも見えた。
「あそこが王都でも1番活気がある場所、貿易港よ。」
ソフィアは自慢げに言った。
「そしてそして、ほらあそこ。」
ソフィアが人差し指を移した先には丘の上に中世ヨーロッパ時代のような立派なお城が建っていた。
ソフィアは得意げに腕を組んで紹介した。
「あそこが王が住む城よ♪」
「それにしても夕日きれいだな〜。」
「…って無視かい!」
城には無反応で夕日に向き直った俺に向かってソフィアのツッコミが炸裂した。新たなソフィアの一面が見れた。
夕日は海をオレンジ色に輝かせ、シア王国の城や街にも光を照らした。ダイキは今までこんなきれいな風景を見たことがなかった。ダイキらしくない涙が目から零れ落ちた。
そんな様子を見てソフィアは不思議そうに尋ねた。
「こんな光景いつも見られるのに、なんでそんなに泣くの?」
「俺、今までこんなにきれいな夕日を見たことがなかったんだ。見る暇もなかった。世界って本当はこんなにも美しいものなんだよな。」
満員のバスでぎゅうぎゅうになりながら家の最寄の停留所でバスを降り、下を向きながらとぼとぼと家まで歩く毎日。夕日なんて気にもしなかった。
突然、俺の中でやる気が満ち溢れてくる。
俺とって現実世界はクソつまらなかった。だが、今いるこの異世界はどうだ?この世界は俺の心がまだ腐ってないことを教えてくれた。そして、隣には出会ってまだそんなに時間は経っていないのに、そばにいてくれるとなんだか落ち着く、タメ口で話すことができる美少女。現実世界では俺に親しげに話してくれる女の子なんていなかった。その前に友達すらもいなかったが…
俺はこの世界で生きて行こう!俺がいた世界に比べたらこの世界の方が絶対楽しいに決まってる。
「日本から来た一文無しイイダダイキ!この世界で全力で生きて参ります‼︎」
次話は明日の午後6時台に投稿予定。