第2話:森で出会った少女
森の中に獣の鳴き声が響き渡る。
まだ昼間なのだが、森の木によって日の光は遮られ、森の中は薄暗くなっていた。
その森の中に必死で走る二つの影が見える。
ハァ、ハァ、
息絶え絶えなダイキは隣を走る、同じく息を切らしている少女に尋ねた。
「ハァ、ハァ、いつになったら、ハァ…この森抜けられるの?」
「おかしいな〜。ハァ、ハァ…、この地図によると西の方に王都があるはずなんだけど…」
少女はそう言って、ダイキに地図とコンパスを見せる。
それを見たダイキはなぜ、いつまで走っても森の中なのか、ましては、どんどん森の深い方向に行っているのかと心の中で感じていた理由が解けた。
確かに、少女のいう王都は西の方角にあった。しかし、2人はコンパスの赤い方角に思いっきり走っていたのだ。
「これって、俺たち北の方向に走ってるんですけど…」
それを聞いた少女は慌てだす。
「えっ、そうだったの⁉︎でも、この森に行く際にお父様からいただいたから、てっきり赤い針が王都の方向だと思ってたんだけど。」
少女は自分のミスに気づき、恥ずかしそうにかおを赤らめた。
そんな彼女にダイキは説明した。
「このコンパスの赤い針が向く方は北って決まってるんだ。はい、ここテストに出まーす!」
ダイキは先ほどまで惚れていた少女のありえないミスに戸惑っていた。
「もしかして少し天然なのだろうか、それとも、『お父様』とか言ってたから世間知らずなお嬢様?」
ダイキからの少し失望した目で見られた少女は恥ずかしさに顔を赤らめながら舌をちょっぴり出し、「ゴメンなさい。」と謝った。
これを見てしまうと許すしかほかないだろう。ダイキは「ま〜気にしないで。ドンマイドンマイ!」と少女を励ました。
ダイキからすれば、先ほどまでの命の恩人であり、何もかも完璧そうで、美しすぎる彼女が遠い存在のようだったのに対して、今の一件があり、彼女も自分と同じ人間なんだなぁという親しみを感じることが出来たのも事実なのだ。事実、ダイキは彼女に気軽に話しかけることが出来ていた。
そして、ダイキは薄々ではあるが、この状況を理解してきていた。
この何もかもありえない世界はもはや、自分がいた世界ではないということだ。ダイキ自身これ系の小説はいくつも読んでおり、少し憧れていた。
もし、この世界が俺のいた世界じゃないとすれば、ここは異世界‼︎
そして、隣で走っているのはヒロイン。それなら、現実世界ではあり得ないくらいのこんなに可愛い美少女がいることも納得できる。
「ま〜少しぐらい天然さがあっても悪くないよな〜。」
頭の中が天国状態だったダイキは少女の声によって、今自分たちが置かれている状況に返ってきた。
「……、 ね…、…ぇ…、ねぇ!」
頭の中から帰って来たダイキは少女を見て、つい叫んでしまった。
「ん…あっ、ヒロインだ!」
それを聞いて、少女は少し怒った表情になった。
「ヒロインってなんのこと?…いや、それより、あなたずっとニヤニヤして考え事してたわよ。今は、モンスターから追われてるんだから走るのに集中して!」
「ゴメンゴメン、そうだったな。走るのに集中す………って、うぇーーーーーーー‼︎」
なんと、2人の頭上には先ほどのオオカミが飛びかかってきていたのだ!しかも、上だけではない。前、横、後ろからオオカミの群れが襲いかかってきた。全部で20匹くらいはいるだろう。
これが四面楚歌というのか。
「どうやら、回り込んで四方八方から飛びかかってきたらしいわね。でも、無駄。」
少女はそう言うと、手のひらを頭上に掲げた。
「聖なる水の力によって汝を浄化する」
彼女が呪文を唱え出す。
すると手のひらには、輝く青い水が渦巻きだした。
『アクエリアス、ストリーム』
手のひらから、青い光がほとばしり、それと同時に、水は激流のごとくオオカミたちを襲った、そのあとも、水は竜巻のように、少女の周りを駆け抜け、2人に襲いかかってきたオオカミは1匹残らず倒されてしまった。
あまりの凄さに、呆気にとられているダイキに向かって、息を切らしながら少女は言った。どうやら、今の魔法でかなり体力を使ったらしい。立っているのもやっとのようだった。
「ハァ、ハァ、本当はこれは使いたくなかったんだけど…あんな数から襲われたんじゃ仕方ないわよね。」
「もしかして今のが魔法?」
「えぇ、ハァ…これは私の最大威力の魔法だから…ハァ…、1回撃ってしまうともう立てないのよ………」
そう言うと、少女の視界はぼやけていき、意識を失った。
今後も毎日午後6時台に投稿していく予定です。