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第21話:くすぐったい

今回も短めですが…

 


「リリィ、風呂沸かしてあるから入ってきたらどうだ?」


「いいんですか?」


「当たり前だよ。」


 風呂の入れ方はこの前、ロムとギールに聴いてようやく分かった。この世界では一般的には、浴槽に手の平サイズの灼鉱石(しゃくこうせき)をひとつ置き、水を張る。そうすれば、灼鉱石によって水がお湯になるらしい。


 灼鉱石は高温の熱を保っているため、他にもいろんなものに使われているようだ。この世界では、ちびっこでも知っている一般常識らしく、ダイキは2人から「大丈夫か?」と聞かれ、ひどく赤面したのを思い出した。


 リリィがお風呂に入っている間に、リリィの食べた食器の後片付けを始めた。

 米粒一つ残らず平らげているのを見ると、リリィが今までどれだけ辛い空腹の生活を送ってきたのかと痛いほど伝わってきた。



 ダイキが食器の後片付けを終える頃、タオルを頭に巻いたリリィが二階から降りてきた。濡れた髪は少し色っぽく、シャンプーの香りがほのかにする。


「湯加減大丈夫だったか?」


「えぇ、とてもいいお湯でした。こんなに暖かくて気持ちの良いお風呂は久しぶりで…」


 嬉しそうに笑った顔を見て、ダイキは安心した。


「そういえば、この世界はドライヤー的なものは無いのかな…」


「どらいやーですか?」


「俺の故郷の国の物なんだけど、髪ってタオルじゃなかなか乾かないだろ。ドライヤーは温風をあてて髪を乾かすための物なんだ。」


「そんな便利なものがあるんですか。ですけど、髪のことは心配しなくて大丈夫ですよ。こうやってタオルを巻いておけば乾きますから」


 ドライヤーのような機械がこの世界に無い。ダイキは生まれてこのかたドライヤーを使ったことなどない。髪の短いダイキにとってドライヤーは不必要なものだった。だが、母親はもちろんのことだが使っていた。


 この世界は魔法があるため、便利グッズの発展が遅れているのは明白だった。というのも、ダイキ自身この世界に来てから不便に思うことによく遭遇していた。


(グフフ、牛丼屋よりも日本の知識を活かして、いろんな発明をしたほうが儲かるかもな…)


「ダイキさん、目がペルになってますけど…」


「え、嘘⁉︎」


 金のことを考えているあまりに、眼までペルになってたらしい。

 こんなに純粋な子に今のゲスい目を見られたと思うと、ダイキは落胆した。



「あの〜、落ち込まなくても大丈夫ですよ。変に思ったりしてませんから」


「ほ、ホント⁉︎」


 ダイキの子供のような分かりやすい表情にリリィは笑みをこぼした。


「ダイキさんって小さな子供みたいですね。見てるとなんだか癒されます」


「俺のほ……いや、なんでもない」


 ダイキは『俺の方こそ、リリィを観てると癒されるよ』と言いそうになり、誤魔化した。そう言っていたらロリコン認定されてしまいかねない。慌てて訂正しようとするダイキをリリィは不思議そうな顔でまじまじと見つめていた。

 ダイキは話題を変えようと必死だった。


「あ、あのさ、二階に客人用ベッドがあるからそれを使ってくれ。今から案内するよ」


「あ、はい。ダイキさんは?」


「俺用のベッドがある……って、しまった!」


「どうされたんですか?」


 心配そうにダイキの顔を覗いてくるリリィ。


 ダイキの『しまった!』はベッドについてだった。ソフィアが兵たちにこの家の家具の準備をさせてくれたのはありがたかったのだが、客人用のベッドが事もあろうにダイキのベッドの横に置かれていたのだ。一度は自力で退けようと踏ん張っていたのだが、ダイキ1人の力ではビクともしなかった。

 というのが理由で今でもベッドは二つ並んで置いてある。


「ごめんな。こんなよく分からない男と隣のベッドで寝れるわけないよな」


「へ、平気ですよ。ダイキさんは私の恩人です。そんな変なことをするなんてあるわけないじゃないですか!」


「そう思ってくれるとありがたい。」


 ダイキが客人用ベッドにシーツやら毛布やらを敷いてやると、リリィは礼を言って眠りについた。随分と疲れていたのだろう。すぐに小さく、可愛らしい寝息を立てていた。


「それにしても美少女だよな。さすが異世界ファンタジーだ……」

 そんな可愛らしい姿を見ながら、ダイキも眠りについた。











 朝日が瞼の隙間から差し込んでくる。


「ん、なんだろう…この天国のような気持ちの良いモフモフは……」


 頬に感じるモフモフ感を手で触って初めてリリィの猫耳だということに気がついた。


「う、嘘だろ⁉︎」


 モフモフで目の覚めたダイキの目の前にはリリィの可愛らしい寝顔。まるで天使のような穏やかで優しげな表情で寝ている。どうやら、寝ている間にダイキのベッドに転がり込んできたらしい。


「こ、こ、こんな状況初めてだ‼︎」


 思わず後ずさりしてしまう。それも当然、日本でのダイキは女の子とはとんと無縁な生活を送っていた。この世界に来てから、ソフィアと出会い、女子と普通に会話を出来るようにはなってきたが、さすがに寝顔を5センチしか離れていないとこで見るなんて機会はさすがになかった。


(…猫耳をモフモフしたい!)


 寝ていながらも時折ピクピク動く猫耳を無性に触りたくなってしまっていた。まぁ、異世界で猫耳少女がいれば、モフモフしたいのは当然だろう。


「ちょっくら失礼して」


 リリィが起きないか、恐る恐る慎重に手を近づけていき、猫耳に触れる。


「す、すごい!これはハマる‼︎」


 毛並みの良さは抜群だった。きっと風呂に入ったおかげだろう。モフモフモフモフと病みつきな感触になってくる。


 すると…


「ん〜……くすぐったいですぅ…」


 あまりにモフモフし過ぎたせいか、リリィを起こしてしまった。


「ご、ごめん!つい触ってしまって…」


 眠い目を擦りながら、リリィは目の前にいる少年をハッキリと目でとらえた。


「ん……っ!ごめんなさい‼︎もしかして、私、勝手にダイキさんのベッドに⁉︎」


「俺は構わないけど…」


「本当にすみません。猫族ってついつい人のベッドに入ってしまったりするんですよね」


「暖かい所が好き…みたいな?」


「はい…」


「俺の方こそ、勝手に耳触っちゃってごめん」


「いえ、ダイキさんが私の耳を気に入ってくださってくれるのなら私は嬉しいです。ただ、少しくすぐったくって…」



明日の投稿は厳しそうなので、次回は明後日になります。

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