20話:獣人リリィ
短めですが…
「あなたは…」
リリィは少し驚いた表情を見せた。
そして、ダイキから逃げ出すように駆け出した。
ダイキはすぐさま追いかける。だが、相手は獣人。身体能力はダイキよりも優れている。
リリィは膝を曲げ、ジャンプすると民家の屋根に着地した。さすが獣人、驚異の跳躍力だ。
「待ってくれ!」
ダイキは喉が潰れるほど、大きな声で叫んだ。こんなに大声を出したのは久しぶりかもしれない。
リリィの足が止まる。
「すいません、商人ギルドでのことは……どうか見逃してください。」
「俺はべつに君を捕まえようなんて気は更々無い。ただ、君と話がしたいんだ!」
ダイキには商人ギルドの件でリリィを責める気なんか、全くない。あるのは、彼女と初めて会ったときから感じていた、彼女の暗い部分を知りたいという気持ちだけだ。できれば、その気持ちを理解して、彼女の力になってやりたい。ただそれだけだ。
ダイキの必死の思いが通じたのか、リリィは屋根から飛び降りるとダイキの目の前に着地した。
「さぁ行こう!」
ダイキはリリィの手を引き、歩き始めた。リリィには訳がわからない。
「ちょっ、ちょっと待ってください。いきなりどこに連れて行く気ですか!」
「外はもう暗くなるしさ。俺の家に行こうと思ったんだ。飯も出せるし。」
「で、でもあなたは私のこと何も知らない。なんでそんな私に…」
「君に何があるっていうのは聞かなくてもだいたいわかるよ。」
「えっ…?」
「まぁ、よくありがちというか、言ってもわからないと思うけど」
ダイキには彼女の素性がだいたいわかる自信があった。おそらく彼女は親が居らず、貧乏なため、やむを得ず盗みをしているのだろう。そう考えると、ヤンキーに襲われていたのも、ギルドで一瞬ビックリしていた様子も説明がつく。
彼女が無理をして辛いことを語らなくてもいいよう、黙って彼女の手を引いた。そのことで抵抗されるのではないかとダイキは思っていたのだが、意外にも抵抗せずに黙って付いてきてくれている。
帰ったら、ゆっくりでいいから彼女の事について話してもらって、なにか助けれることがあったら助けよう。
ダイキはそう決心した。
結構な距離を歩き、ようやく家に着いた。スラム街から家まではかなり遠く、足が筋肉痛になりかけている。
「ようやく着いた。 リリィ、ごめん。疲れただろ?」
「いえ、私は全然平気です。あの………。」
「あ、ごめん。俺の名前まだ言ってなかったよね。俺はイイダダイキ。よろしく!」
「あ……はい」
リリィとダイキは握手を交わした。
その後もダイキはリリィに「ゆっくりしてていいよ」というのだが、リリィはずっと落ち着かない様子だ。
ダイキはリリィの緊張を解くため、いろいろと冗談を言ったりしたが、全くウケなかった。
「それじゃあ、晩御飯にしようか。リリィも腹減ってるだろ?」
「はい…」
「よし、そこのカウンターに座って待っててくれ。今から作るから!」
ダイキがリリィをカウンターに座らせる。
ちょこんと席に座り、床に着かない足をバタバタさせながら、ダイキの料理を興味津々に見ている姿は誰が見ても癒される可愛さだ。
(猫耳がピクピク動いてるし、尻尾も可愛い! 可愛すぎだろ‼︎)
「料理に興味あるのか?」
「はい…」
相変わらず、リリィはダイキに対して心を開いてはいない様子だった。だが、ダイキに敵意は抱いていない様子だ。
「ほら、できたぞ!」
ダイキの持ってきた丼から漂う、今まで嗅いだことのないような美味しそうな匂いにリリィのお腹はグゥ〜と鳴り、恥ずかしさで顔を赤らめる。
「い……いただきます…………」
リリィは小さな口にスプーンいっぱいにすくった米と肉を頬張った。
「お…美味しいです……。とっても!」
そう言って、リリィは微笑んだ。
「そうか、それならよかった。」
「はい、ホントに美味しかったです。今日は本当にありがとうございました。」
リリィは丁寧に頭を下げて礼を言うと、店を立ち去ろうとした。
「ちょっと待ってくれ、話があるから聞いてくれないか?」
「話ですか?」
「君にここで働いて欲しいんだ。もちろん住む場所、食事は保証する。給料は少なめだが。」
「私が働く?」
「うん、そうだ。どうかな?」
「い、いいんですか、私が?」
「べつに無理にとは言わないけど。」
「いえ、お願いします。」
リリィはぺこりと頭を下げた。
「こちらこそ、これからよろしく!」
こうして、うちの店に1人店員を雇うことになった。




