第19話:再会の猫耳少女
間が空いてしまいました。
デートから数日後、また平常通り牛丼屋を営業している。だが、今日はなんとソフィアが忙しくてこれないらしいのだ。しかも、明日も‼︎
今まで毎日会っていたので、今日一日会えないかと思うとダイキの気持ちは沈んだ。とはいえ、落ち込んでいてはいけない。なんと、口コミの影響で今日の客の人数は今までの2倍はある。うれしい悲鳴だ。
昼のピークを過ぎると、客の足は一旦減り、ダイキはやっとホッとできる。
まかないをつくって食べ、食器洗いなどをし始める。
「ふぅー、やっと一息つけるな。」
と言ったのもつかの間、店内に2人の客が入ってきた。
見覚えのある2人はあの日から毎日、この店に来店してくれた若い冒険者2人だった。
「いらっしゃい!ロム、ギール」
2人は牛丼をかなり気に入った様で、毎日食べに来ている。ダイキとの話も弾み、今では常連であり、友達にもなっていた。
「ギュウドン二杯頼む。 あと、酒は持ち込みだったらいいか?」
「まあ、禁止している理由もないし、いいよ。」
冒険者2人は自分たちで持ってきた酒をグラスに酌み交わす。
「プハァー、やっぱりダンジョンのあとの酒はサイコーだなぁー!」
「おう、このために毎日ダンジョンに潜っていると言っても過言じゃないな!」
ダンジョン終わりに仲間と一杯。ダイキは憧れていた冒険者を前に自然にため息をついてしまっていた。
「どうしたんだ、ダイキ?」
「元気ねぇーな。」
ため息が聞こえていたのだろう。2人はどうしたのかとダイキに尋ねてきた。
「実はさ、もともとは冒険者になりたかったんだ。」
「なればいいじゃないか。」
「確かにな。」
「それはそうだけどね。」
なろうと思えばなれることぐらい分かっていた。しかし、日本ではろくに運動もしないで生きてきたダイキにとって、特に運動神経がいいわけではなく、しかも異世界転生しておきながらチートの1つもないというのは冒険者を諦める十分な理由になった。今の状態のダイキがダンジョンに潜ったところで苦労するのは目に見えている。
と、そこへセレナが青ざめた顔で店の扉を開けてきた。息遣いが荒く、焦って大急ぎで駆けつけてきたことが見て取れた。
「ダ、チキンダイキ様!」
「どうした?…って、ちょっと待て。今、ダイキ様と言おうとしてチキンダイキ様っていい直したよな⁉︎」
「そんなことより」
「そんなことより⁉︎」
「数日前のダイキ様にあった日、覚えてますか?」
「覚えてるけど。」
「あの日、商人ギルドに寄りましたか?」
「寄ったけど。」
「何か盗みましたか?」
「ちょ、なんでそうなる⁉︎」
いきなりの窃盗容疑にダイキは困惑した。なにしろ全く身に覚えがないのだ。
「証拠は?」
「証拠って……あ、そうだ。猫耳のリリィって子が知っているはずだ!」
「リリィ?」
リリィという名前を聞いたセレナは眉をしかめた。同じところで働いている割にはおかしな反応だ。
「リリィというのは?」
「ギルドの職員だろ!」
「そんな人いませんし、あの日は私が留守にしていたので無人になってたはずですよ。」
「えっ⁉︎」
ダイキの脳内は混乱していた。
あの日、ギルドのカウンターに居たはずのリリィはギルド職員の中に実際には存在していなかったのだ。となれば、怪しいのはそのリリィだ。
「2人とも、これから中心街に用があるから、お代はそこらへんに適当に置いておいて。あと、店出るときは店先に閉店って張り紙つけといてくれ。」
「おう!」
「なんか大変そうだな。がんばれよ!」
ロムとギールに頼み終えると、ダイキとセレナは急いで商人ギルドに向かった。
「ダイキ様、なにか心当たりが?」
「いいや、いちおう現場に行こうと思っただけだ。」
ダイキはリリィが怪しいということはセレナには伝えないようにした。どう見てもリリィが怪しいのだが、過去何度か彼女に会ったなかで、彼女はなにか秘密を抱え込んでいる気がしてならないのだ。
ダイキは、これは異世界ものでよくある、暗い過去を背負った美少女が出てくるイベントだと確信していた。
商人ギルドに着き、セレナに商人ギルドの捜索を任せると、ダイキはすぐさま王都を駆けずり回った。過去2回ともたまたま出会っただけなので、また会える可能性は低い。だが、必ず彼女は王都にいるはず。身なり少し薄汚れていたので、もしかすると王都のスラム街にいるのかもしれない。
「スラム街に一度行ってみるかな。」
王都をむやみやたらに駆けずり回る作戦?は中止し、ダイキはスラム街に向かうことにした。
スラム街は王都の東の端にある。
スラム街に近づくにつれ、街並みは暗く寂しげに変わっていった。
さっきから、ダイキは一度も人に出会っていなかった。中心街の賑わいが嘘のようだ。
ダイキは、道の角を曲がった。すると…………
そこには、あの猫耳のリリィが歩いていた。後ろ姿だが、間違いない。どうやら、ダイキの予想は的中したようだ。
ダイキはリリィに声をかけた。
「リリィー!」
ダイキの声に気づき、リリィは振り返った。
「あなたは…」




