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第16話:オープン5日目

今日はオープンしてから5日目。セレナの口コミなのか、決して多いとは言えないが、お客さんが来店するようになってきた。


「ここかー、ギュウドンっていう食べ物食わせてくれるところは?」

「もう俺、腹ペコペコだぜー。」


またまたお客さんだ。若い男2人で、軽装の防具に、腰には片手剣。多分この人たちは冒険者だ。


2人はカウンターに腰をかける。そこへソフィアが注文をとりにいく。注文をとりにいくのはソフィア担当になっている。


「ご注文は何になされますか?」


「おー、随分と綺麗なお嬢さんだ!」


「えっ!えーと、その~…」


ソフィアはひどく動揺していた。

今まで王城で暮らしてきているお嬢様なのだから、男たちに言い寄られたりすることもないのだろう。

「ここは俺がなんとかしなくては!」とダイキが3人のところへ向かった。が、


「まぁまぁ、そんなにパニクらないでくれよ。」

「別に何もしないからさ。」


「そ、そうなんですか。すみません! 私、あまりそんなこと言われた事ないので。」


どうやら、ダイキがいくまでもないようだ。

ソフィアは気を取り直して、注文をとる。


「ご注文は何になされますか?」


「メニュー表とかないのか?」


「すみません。メニュー表はないですけど、この店はギュウドンと飲み物くらいしかありませんが…」


それを聞いていて、(おい、くらいしかは余計だ!)とダイキは心の中でツッコミを入れた。


「じゃあ、ギュウドンと酒で。」


「あ、すみません。 お酒は扱っていなくて…」


「なんだと、酒を扱ってない⁉︎」


「ほ、本当にすみません‼︎」


「まぁ、いいさ。じゃあギュウドン二杯だけ頼む。」


「はい、わかりました‼︎」


注文をとり終わったソフィアが厨房に戻って来た。表情は暗くなっており、強い口調に心のダメージを受け、完全に自信をなくしたようだ。

ソフィアはウエイトレス的な役目だったのだが、落ち込んでいるソフィアの代わりに、ダイキが牛丼を客に出しに行った。


冒険者2人は牛丼を見ると、セレナと同じくまじまじと直視し、不思議そうにスプーですくって食べた。


「「うめぇー‼︎」」


冒険者2人は丼を口に近づけると、一気にかきこんだ。よほど美味かったらしい。


「お前が店主か?」


「はい。」


「スゲェー美味かったぞ!」


「ありがとうございます。」


「あと、さっきの娘にちょっと言い過ぎたと伝えておいてくれないか?」


「もちろん。」


冒険者2人は上機嫌で帰って行った。

2人ともなかなかいい奴そうだ。

ダイキはひとまず、落ち込んでいるソフィアにあの2人が謝っていた事を話してやらなければならないと思い、ソフィアに話しかけた。


「さっきは少し言い過ぎたって言ってたよ。」


「でも、あんなに怖い感じの声で言われたのは初めてで…」


「別にソフィアが落ち込む事はないだろ。酒を置いてないのは俺の責任だし。」


「でも…」


「あの2人だって、すごいいい奴だったじゃん。」


少しは落ち着いたようだが、まだまだ落ち込んでいる。

まだ日は高い時刻だが、今日は早じまいする事にした。

ソフィアはこの5日間、よく働いてくれている。ダイキはソフィアには心も体も休んでもらった方がいいと思ったのだ。



今日の収入は、客が20人。

牛丼一杯が500ペルとして、500×20で10,000ペルだ。

牛丼一杯が500円なんて高すぎだろ! という人がいるかもしれないが、これはこの世界でただ1人作れる食べ物なのだ。少々高くても人は来るはず。

というのがダイキの魂胆だ。



10,000ペル。1日の収入としては決して高い金額ではないけれど、ダイキにはとても大事で貴重で高価なものに見えた。

日本では学生だったダイキは、親からお小遣いをもらっても、別にありがたいともなんとも思わなかった。それが当然だったからだ。だが、この異世界で自分の力で働き、収入を得て、初めてお金のありがたさ、そして大切さがわかった気がした。


「さてと。」


ダイキは精算したお金を金庫にしまうと、ソフィアに声をかけた。


「ソフィア、これから一緒に王都の中心街にでも行かないか?」


「別にいいんだけど…いいの? 店を早じまいして街に行くなんて。」


「いいさ、俺にとったらソフィアとの時間の方が大事だし…」


「っ‼︎」


「あ、いや…… あのさ、この前は結局王都をぶらぶらする事も出来なかったからさ、よかったらあの日の代わりに今日、王都でデートでもしないかな…」


ここで爆弾発言をしてしまった事にダイキは気づいた。つい、言ってしまったのだ。『大事だし』、『デート』このふたつを言ったという事は告白したのと同じことだ。

あまりの恥ずかしさとふられた時はどうしようという不安感でダイキは縮こまった。言われた方である、ソフィアも顔を赤らめていた。


「でいと?」


どうやら、ソフィアはデートという言葉を知らないらしい。

ここまできたら、突っ走るしかない!


「デートっていうのは、男と女が一緒に外を歩いたり、美味しいものを食べたり、話をしたり、ショッピングしたりと…」


「それなら、この前もデートしたってこと?」


「いやいや、そういうことじゃなくて、今回はちゃんと!」


「よくわからないけど、私もダイキくんと2人でいるのは楽しいし…うん、わかった! ダイキくんとでいとしてあげる‼︎」


こうして、2人は王都の中心街に向かった。


「最初に商人ギルドに寄ってもいいかな?」


「うん、別に大丈夫だけど…何か用があるの?」


「商人ギルド共済組合費を払いに行かないといけないんだ。」


※商人ギルド共済組合費とは、商人ギルドに登録している者が、大きな損害などを出したり、出されてしまった時に、商人ギルド全体で助け合おうという慈悲深い制度なのだ。



2人が他愛のない話をしている間に、あっという間に中心街まで来てしまった。

楽しい時間はあっという間に過ぎていくとはこのことだろう。


メインストリートの突き当たりに商人ギルドは位置している。


と、そこに…


「チキンダイキ様ではありませんか?」


こんなことを言うのは1人しかいない。ダイキが苦手とするセレナだ。


「………、一旦戻るぞ。」


タッタッタッ.....ベシッ


「無視か!」

次回も明日夜10時に投稿予定!

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