第15話:オープン初日
いよいよ、オープンの日がやってきた。
ダイキは朝早くからせっせと仕込みなどの準備を進めている。といっても、たいして仕込むものもないのだが…
そこへ、1人来客が。
「ダイキくん、おはよう!」
「あ、ソフィア! 手伝いに来てくれたのか。」
「うん、毎日は無理だけど、できる限り手伝いに来るから、一緒に頑張りましょう! それで、私何を手伝えばいい?」
「それじゃ、テーブル拭き頼んでもいいかな?」
「わかった!」
こうして、いよいよオープン時間になった。
「よし、いよいよオープンだ!」…………………
………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………「って、全然こねーー‼︎」
威勢良く、オープンの掛け声をしたのは良かったが、開店して5時間経っても全く人が来ない。
「ダイキくん、もしかして宣伝とか全くしてない?」
「してないけど…ッハッッ‼︎」
ここで、ダイキは自分のミスに気付いた。
ダイキはてっきり、王都のはずれでも人は来てくれると思っていた。しかしそれは大きな間違い。王都にはごまんと飲食店がある。つまりは、わざわざこんな王都のはずれまで来てくれる人なんてなかなかいないということだ。
だがしかし、王都のはずれながらも、ここだって王都の敷地内なのだ。
周りにも民家はいくつもある。メインストリートからだって、歩いて行けない距離じゃない。客を少しでも捕まえて、口コミで評判を広げていけば、まだまだ挽回のチャンスはある!
□それからさらに1時間後。
ドアを開く音がした。
ダイキとソフィアは期待の眼差しでドアを見つめる。
「こんにちはー! って、あれ? あまり流行ってない様ですね…ぷーくすくすw」
この腹立つ笑い方はあいつしかいない。
なんと、お客様第一号はあのセレナだった。
「おい、何しに来たんだよセレナ!」
「なにって、今日オープンだと聞いていたので立ち寄ってみようと思ったんですよ。」
「わかったよ。」
いくらムカつくからといって、追い出すわけにもいかず、ダイキはセレナに牛丼を出した。
「へー、これが牛丼なんですか。」
セレナは見たことのない、不思議な料理をまじまじと見つめながら、スプーンで一口、口に運んだ。
「っっっ美味しいですー‼︎」
セレナは、幸せそうに噛み締めていた。
いい意味で言うと正直で悪く言うと口の悪いセレナがこんなに美味しいというのだから、素直に受け取ってよいだろう。
あまりの美味しさに、箸が止まらなくなった様子で、セレナはすぐに完食してしまった。
「こんなにおいしい食べ物、初めてです‼︎」
ダイキはこれには少々大げさでは? と感じたが、悪い気はしない。
「では、まだ仕事が残ってるので、私はこれで。」
「セレナ、今日はありがとう。」
「えぇ、ダイキ様も頑張ってくださいね。」
あんなに苦手だったセレナにもこれだけ褒めてくれたら、感謝の気持ちが湧いてくる。
あとは、セレナが口コミでひろげてくれれば上出来だ。
店内は薄暗くなり、窓からの夕陽が机をオレンジ色に染めた。
だが、客は来ず…
外は真っ暗になり、店内は明かりを灯さなければならなくなった。
「そろそろ閉店しようか。」
結局、今日の客はセレナ1人だけ。先行きが不安なスタートになってしまった。
店には酒を置いてないため、夜遅くまで開けている必要もない。
「ソフィア、今日はありがとう。て言っても、手伝ってもらうほど忙しくなかったけど…」
ダイキは苦笑いを浮かべた。
そんなダイキを心配したのか、ソフィアは異常なまでにフォローしてくれる。
「大丈夫だよ、ダイキくん。きっと明日はたくさんの人が来てくれるから! ねっ! 自信持って‼︎」
「ありがとう、ソフィア。」
ソフィアの心遣いは嬉しいが、そこまでフォローされると逆に不安になってしまうというのが、ダイキの本音だった。
「それで、ソフィアもそろそろ帰らないといけないだろう?」
「うん、そうだけど…」
「1人では危険だし、俺が連れて行こうか?」
「大丈夫よ。」
「でもさぁ…」
「ダイキくんには少し失礼かもしれないのだけれど、私って一応魔法使えるし、ダイキくんよりは強いから大丈夫だと思うんだけど…」
ソフィアは遠慮がちに言ったが、ダイキへの破壊力は抜群だった。
結局はソフィアには1人で帰ってもらうことになり、ダイキは店の戸締りを確認した後、風呂に入ることにした。
蛇口をひねり、浴槽に水をためる。
しかし、
「しまったー!今日も風呂の沸かし方聞くの忘れたーー‼︎」
ソフィアに聞こうと思っていたのだが、それをすっかり忘れていた。
しかたなく、ダイキは調理場で温めたお湯にタオルをつけ、体を拭いた。
体を洗った後は、ソッコーでベットに飛び込む。だが、今日はあまり疲れていないため、なかなか寝付けない。
「そういえば、羊が一匹、羊が二匹……って言っていけば、眠くなるんだったよな。」
ダイキは目を瞑り、脳内に羊をどんどんと増やし続けたが、あまり効果は出ず。
「そうだ! 羊をソフィアに換えれば‼︎」
気を取り直して、「ソフィアがひとーり、ソフィアがふたーり、ソフィアさんにーん………」と脳内にソフィアをどんどん登場させてみる。だが、それも、
「幸せだ。あーっ! 逆に目が冴える‼︎」
逆効果だった。
次回も明日夜10時に投稿予定。




