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第9話:ヤマトの国

少し短めですが…

店内に入ると中は暗く、埃っぽい。建物の中を見てもかなり年季の入っている、古くからある店のようだ。


「あの~すみませーん!」


「はーい、少々お待ち下さい。」

カウンターには誰もいなかったので、声をかけてみる。すると、奥の方から男性の声がし、60歳ぐらいだろうか、白い髭を生やした老人が出てきた。


「お待たせしてしまってすみませんね。どうも歳をとると膝が痛くてね…それでご用件は?」


老眼鏡の奥からの眼差しは、ダイキを値踏みしているようだった。


「飲食店開けるような店舗を探しているんですが。」


「なるほど、場所の指定はありますかな?」


「できる限り王都に近い方がいいんですが。」


「王都中心街での空き物件はないので、王都の外れの方になりますがよろしいですかな?」


「じゃ、それで!」


「わかりました。それではこの契約書にサインを。」


「えっ!下見とか無いんですか?」


「そうですが、何か?」


実物を見ずに、契約書にサインすることに疑問を持ったダイキが質問すると老人はそれがどうしたのかと逆に疑問形で聞いてくる。


「ダイキくん、安心して。ここはこの国一信用出来るとこだから。」


これで騙されたらどうすんだよ!という気持ちもあったが、ソフィアのフォローで一応サインを書く。


「では、契約成立です。金額が建物と土地を合わせて、21000000ペルになります。」


「ペル?」


「ペルっていうのはこの国のお金の単位なの。」


聞いたことの無い言葉に首をかしげるダイキにソフィアが耳打ちで教えてくれた。

それからソフィアはマントに忍ばせていたであろうジャラジャラと音を立てる布袋を取り出した。おそらく金なのだろう。


「一括払いで今払いますね。」


「…⁉︎」


老人も驚愕の顔をしていた。長く商売しているだろうが、こんな客は滅多にいないのだろう。


ソフィアがお金を支払ってくれている間、ダイキはこの世界に飛ばされてからここに来るまでのことを思い返していた。

ソフィアとの最初の会話で言葉が通じることは分かっていたが、文字が読めるのかどうかは分からなかった。城でも文字を見る機会がなかったからである。しかし、今日でハッキリした。どうやらダイキはこの国の文字を読めることができるようだ。現に先程も此の店の看板を読むことができた。これがご都合主義というやつだろう。

とはいえ、文字言葉が分かろうともお金の単位が分からなくては商売などできるわけが無い。


後日ソフィアから聞いたことだが、シア王国で流通しているお金の単位で、金貨、銀貨、銅貨がある。相場は1ペル≒1円と考えていいだろう。


そんなこんなしているうちに、ソフィアは支払いが終わったらしく、契約書をダイキに渡しながら言った。


「これで店舗選びは終わったよ。」


「次はどうしたら良いかな?」


予定もほぼソフィア任せである。いたせりつくせりだ。


ダイキの質問にソフィアはメモ帳を取り出し、確認する。スーパーに買い物に来てる主婦でよく見かける光景だ。


「えーと、あとは食材探しと商人ギルドに加入することぐらいかなぁ。」


「え!調理用具とかはいいの?」


「あぁ、それならもう城で昨日のうちに頼んでおいたわ。」


「頼む?」


「普段、城の調理用具を頼んでいる店に特注しておいたの。きっとすごい業物の包丁が届くと思うわよ。」


「そっか、ありがとう!」






◆◇◆

ところ変わって、今2人がいるのは食料品を多く扱う店が密集しているエリアだ。簡単に言えば、市場のようなものに似ているかもしれない。


「ここは、貿易で運ばれてくる食材も売っているから、品揃えはかなりいいと思うよ。ダイキくんのおめあてのものがあるといいんだけど…」


ソフィアが不安そうな表情を浮かべた。きっと、牛丼の中に明らかにソフィアが見たことが無い食材があったのだろう。おそらくは米だ。


「でも、とにかく探してみよう。」




ーーーその後、2人で1時間ほど探し回ったが、肝心の米だけが見つからなかった。

通りをずーっと進んでいくと食材店もまばらになって、2人に諦めムードが漂っていた。

しかしその時、まばらにある食材店の一つにダイキは目をとめた。


「あれは!」


ダイキの見つめる先には、大きな俵があった。

もしやと思い、ダイキは俵の目の前まで走ってくる。


「ちょっ……ダイキくん⁉︎」


ソフィアが慌てて後を追いかけてきた。


「ソフィア、もしかするとこれかもしれない。」


「えっ、あったの?」


店内の品物に興味津々の2人が気になったのか、店の主人であろう男が出てきた。都市は中年ぐらいだろうか、大柄で腕組みをしている手は筋肉でゴツゴツしている。顔も怖い。これでは、客はよってこなさそうである。


「お前たち、米になんかようか?」


『米』という言葉にダイキの耳は反応した。


「やっぱり、これって米なんですね!」


ダイキは嬉しさのあまり、ハイテンションになっている。

その反面、店主は困ったような顔をしていた。


「米を知ってるやつがいるなんて珍しいなぁ。しかし、困ったもんだよ。うちの品物は全てがヤマトの国から来たものなんだが、知名度も低いから全然売れなくてな。」


今、店主から爆弾発言が飛び出してきた。


「ヤマトの国?」


次回も明日午後6時台に更新予定です。

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