Episode 008【一週間と食パンと】
〈ワンダー・クロニクル〉の世界で初めて自分達以外のプレイヤーと出会ったTrashとD。そのプレイヤーはフェルと名乗り、二人と同じく〈アンダー・アイス〉を目指していた。
「なるほど。フェルもゲーム始めたら、ここに来てたんか。」
フェルの話を聞くD。
「やっぱり、お前らも?」
「そそ、俺は隠者の森に。こいつは大地の傷って所に飛ばされとった。」
「そういや、まだ俺らの名前言うてへんだな。俺はD。」
「俺はTrashな。」
「二人はリアフレなのか?」
「リアフレ?」
「せや。俺とDは小さい時からの友達で、くされ縁みたいなもんや。」
「そういう事か。現実の世界での友達って事な。今分かった。」
「お前のDは、どアホのDだな。」
「ちゃうわい! Dは俺の名字の頭文字じゃい。」
「こいつの名前、土居って言うねん。」
「お前、言うなや。俺のプライバシー、ゼロやんけ。」
「お前、アホやの。今突っ込まへんだら、ホンマかどうか分からんまんまやのに。」
「あっ、ホンマや。」
二人のやり取りにびっくりするフェル。
そんなフェルに対してTrashが話す。
「フェー、気にせんでええぞ。こいつ、こんなんやから。」
「オンラインゲームで実名晒すなんて、お前ら変態かっ!?」
「変態ちゃうわい、これでも28歳のちゃんとした大人じゃい。」
「なっ、こいつは俺が晒さんでも、自分で言うてまうアホやねん。」
「DのDは、ど変態のDだな。」
「やから変態ちゃうわい!」
「ところで、フェルは一人でこの世界に来たんか?」
Trashがフェルに質問する。
フェルの話を聞けば、ここ〈ワンダー・クロニクル〉には違うオンラインゲームで知り合い仲良くなったフレンドと一緒にゲームを始めたとの事。そして、そのフレンドを探す為に街に行こうとしている事が分かった。
「それやったら、フレンド登録でハード本体のフレンドを登録したらええやんけ。」
Trashがフェルに問いかける。
「このゲーム、ハードも新しく出たやつだろ? ハードの方でのフレンド登録なんて、まだしてないよ。」
「ああ、そっか。」
考え込むTrash。
「それやったら、名前でフレンド検索してみたら?」
今度はDがフェルに問いかける。
「それが、何故だかフレンド検索出来ないんだよ。」
「やっぱり?」
フェルの言葉にTrashが問いかける。
「どゆこっちゃ?」
不思議な顔をするD。
フェルとTrashの話によれば、理由は分からないがフレンド検索の機能が使えない状態になっており。本来なら一緒に遊ぶプレイヤーを検索し、そのプレイヤーの所まで飛んでいけるのだが。相手の所まで飛んでいく機能すらも使えない状態である事がTrashの話で分かった。
「せやから俺、お前にボイチャして居るとこ聞いたんやんけ。」
「そやったんや。」
「やっぱり飛んでいく機能も使えないのか…。」
Trashの話に不安になるフェル。
「そう心配すんなって。街に行ったら、何か分かるやろ。」
フェルを励まそうとするTrash。
「良かったら、俺らとフレンドなっとかんか?」
Dがフェルに話しかける。
「せやな。これも何かの縁やろ。フェー、フレンドしとこか。」
TrashもDの意見に賛同する。
二人の話を聞いて少し考えるフェルであったが、二人とフレンドになることにした。
「おお、フレンドリストにフェルって書いてあるわ。」
フレンドリストを見て、呟くD。
「あ、そういや。俺とトラって、まだフレンド登録してへんだんやな。」
「そういや、まだやったな。ついでにやっとくか。」
そしてTrashとDはお互いをフレンド登録し始めた。
この〈ワンダー・クロニクル〉では、ゲーム機本体のフレンドを〈フレンドリスト〉に登録する以外には、まず登録したいプレイヤーと直接会わなければいけない。そして相手のステータスを開き、その項目を指で押すと、また別のコマンドが開く。そのコマンドの中に〈フレンド〉の項目があり。それを開いて、次に〈フレンド申請〉の項目を押すと相手にフレンド申請のメールが届く。その申請を相手が許可すれば、晴れてフレンドとなる事が出来るのであった。
「おけ。フレンド登録完了。」
「これで、お前からもボイチャ出来んな。」
「この世界での電話みたいなもんやから、登録しとくと便利やな。」
「そんじゃフェル、一緒に街行こかい。」
「ホントに良いのか?」
Trashの言葉にフェルが問いかける。
「どうせ、俺らも街に行くし。構わんやろ。」
そんなフェルにTrashが答える。
「フレンド登録といい、ついさっき会ったばかりなのに。」
少し困惑するフェル。
「それって、そんなに気にするもんなん?」
フェルの態度を見て、Dが尋ねる。
「実際の世界で連絡先交換するようなもんだぞ。」
フェルがDに答えるが、それでも何とも思っていなさそうなD。
そんなDにフェルが問いかける。
「お前、まさか実際の世界でも簡単に連絡先教えてるのか?」
「え、あかんの?」
普通に答えるD。
見かねたTrashがフェルに話しかける。
「フェー、無理や。こいつにそんな事聞いて、まともな返事なんか返ってこうへん。」
「よく今まで生きてこれたな。」
フェルの言葉に「ホンマ、ホンマ。」と言いながら頷くTrash。
「何やと? これでも、ちゃんと一人暮らししてたんやからな。」
「一週間、6枚切れの食パン生活な。1日一枚でも1日足らんからな。」
Dの言葉にTrashが返す。
「それの何処が”ちゃんとした”なんだよ!?」
呆れかえるフェル。
「とりあえず、一緒に街に行こかい。」
Trashがまたフェルを誘う。
「まぁ、悪い奴らではなさそうだし。一緒に行くか。」
そして〈アンダー・アイス〉に向かい歩き出す三人。
彼等は街道には戻らず、そのまま平原を進んでいた。その道中は頻繁に敵と遭遇する事になった。
ストーンゴーレムの件もあり、三人は自分達よりレベルが5つ高い敵と遭遇した場合は すぐに逃げる事に決めていた。そして、その道中はTrashがDのプライバシーを晒すとういうイジりもしていた。
「…ってのが、こいつの住所。」
「せやから、言うなって。」
「お前ら、本当にバカだな。」
「トラ、お前の事も言うたろか?」
「ええぞ、別に。」
「あぁ、もう。もうちょっとは嫌がれよぉ。」
「D、お前嫌がってたのか?」
フェルに言われ、少し考えるD。
「別に嫌がってはおらへんな。ただ、つい突っ込んでしまうというかなんというか。」
「ただのアホなだけや。」
「ほんと、Dアホだな。」
「あっ! 今 どアホやなしに”Dアホ”っていうたな、フェル。」
「本当の事だろ。”土居アホ”を略しただけなんだから。」
「フェルまで実名言い出してもたやんけ。」
「まあまあ、お詫びにこれでもやるから。」
そう言って、地面に落ちている物を矢の先に突き刺し。
Dに渡そうとするフェル。
「これハウンドウルフの糞やんけっ!! 戦利品で出てきても拾てきてへんのに、犬のウンコなんか要るかっ!!」
「全く、贅沢な奴だな。」
「どこがやねんっ!!」
三人が目指す〈アンダー・アイス〉まで、あと少しの所まで来ていた。
そして日は沈み始め、夜が訪れようとしていた。