Episode 073【迷走の回想】
廊下を走る二人。
その外では、〈第7回 ログタウン・フィストプラネット〉の第一回戦が始まり。多くの観客の歓声が聞こえてくる。廊下の突き当たりまで来ると、二人はそこに置いてある札を見て。左右に分かれた廊下を左へと進んでいった。
部屋のドアが、勢いよく開けられる。そこには何人かの人が詰めていたが、一人を除き”それ”を気にしようとせず、ドアの方を見ようともしなかった。
「おいっ!! Dぃ!!」
Trashの声が部屋の中を響き渡った。
それに、唯一ドアの方に顔をやっていた人物が応える。
「マジで、すまんっ!! こんなハズやなかってんけど。何かどっかで間違えたっぽい!!」
Trashとアカツキの二人に、頭を下げ、頭上で手を合わせたDが謝る。
「”っぽい” やなしに、完全に間違えとんねやろがい!!」
「わりぃ」
申し訳なさそうに顔をしかめるDに、アカツキが言葉を掛けた。
「それで、D。お前、この祭に出るのか?」
アカツキの問い掛けに、Dは更に申し訳なさそうに答えた。
「それがや、大した理由がないと棄権出来ひんねん……」
「はぁ!? お前、アホこっ!! そんなんに間違えて出よったんかい!?」
「マジかぁ……」
怒鳴るTrashの隣でアカツキが頭を抱えた。
そんな時、控え室から聞こえてくる大きな怒鳴り声を気にして。〈第7回 ログタウン・フィストプラネット〉のスタッフが、D達の居る控え室に入ってきた。
「何の騒ぎですか?」
そしてスタッフはTrashとアカツキの二人に目をやった。
「あなた達、参加者じゃないですね。関係者以外の立ち入りは困りますよ。ささ、早く出て行ってください」
そう言って、スタッフは二人の背中を押し。そのまま二人と一緒に部屋から出て行った。
それを見ていたDは、ハアとため息をつき頭を掻いた。
すると、そこに一人の男がDに近づいてきた。
「まさか、もう一人の初参戦者が間違って参加してたなんて。驚きだな」
軽装の防具を纏う、その短髪の男は。
歳はDと同じような感じであった。
「そやねん。また、やってもてん」
「また?」
「ああ。いや、俺こういうヘマようしてもうて、トラをよう怒らしてまうねん」
「トラって、さっき怒鳴ってた方の人の事か?」
「そそ」
「へえ。でも、普通間違って、この祭に参加する奴なんていないけどな」
「どゆこっちゃ?」
Dの言葉に、驚きを隠せない短髪の男。
「え!? もしかして、何も知らないで参加したのか?」
「いや。とりあえず、何かすげぇ!!って感じなんは知っとるぞ」
「何かすげぇ!!って」
そう言って、笑い出す男を見て。Dが言葉を掛けた。
「なんやねん? 別に笑うような事言うてへんぞ」
「いやいや、笑うって普通」
「なんでぇ?」
「だって、この大会に出てる奴らの殆どがテスト・ユーザーだからな。普通、ルーキーが参加する事自体、変なんだって」
「マジか!? テスト・ユーザーばっかって、きちぃな。ところでや、その”ルーキー”って何なんや?」
「ああ。ワンダー・クロニクルが発売されてから、この世界に来た人達の事をそう呼んでんだよ」
「なるほどな。ほんなら、あんたもテスト・ユーザーなんやな」
「いや、俺もルーキーだよ」
「なんやねん。ほんなら、自分も変な奴なんやんけ」
「まあ、そうなるな。それで、もう一人の変な奴がどんな人なのか気になってな」
「それで、話し掛けてきたって事かいな?」
「そう、そう」
「なんやねん、それ!! 人が凹んでるぅ、いうてる時に」
「悪い、悪い。どうせ参加したんだし、ルーキー同士お互い頑張ろうぜ、Dさん」
「なんで、俺の名前知っとんの?」
「さっき、俺達紹介されたばっかだろ」
「ああ、そっか」
「ほんと、面白いな。Dさんは」
「なんで、そうなんねん? ってか、”さん”は要らんで。Dでええで」
「そうか。なら俺もJackで良いよ」
「ジャックって言うんやな。おけー」
「紹介された、あの時。何も聞いてなかったんだな」
「あん時は。トラに見つかったら、怒られるわぁってしかなかったからな」
「いやいや、それ以前に名前言われるだろ」
「だって、紹介されるとか知らんかってんから。しゃあないやろ」
「全くもう」
そう言って、Jackは笑いながらDの元から去って行く。
それを見送ってから、Dは天井を見上げ。ここに至るまでを思い出していたーー
Trashとアカツキが戻ってくるのを列で並び、退屈そうにするDの姿があった。
「ぜんっぜん、進まへんなぁ。これやったら、席無うなってまうやんけぇ」
そしてDは他の列に目をやった。
すると少し離れた所に、人の並びが一段と少ない列がある事に気付く。
「なんや、あれ。めちゃくちゃ人少ないやんけ。何で、皆あっこ行かんねやろ? まぁ、良いや。とりあえず、あっこ行ってこ」
そう言って、列から飛び出し。人の並びが少ない列へと駆け寄るD。
そして列に並ぶと、Dは列の先頭の方を見渡した。
すると、そこでは列に並んでいる人々が紙に何かを書いていた。
そして、その後に自分の持ち物を見せ始めた。
「手荷物検査? ああ!! セキュリティ・チェック的なやつか!! ちゃんとしてんなぁ」
Dがそんな事を思っている内に、どんどんと列は進み。
受付の所までDがやって来た。
「それじゃあ、ここに名前と職業を書いてくださぁい」
そして受付をしている人物がテーブルに置かれている紙を指し示した。
「職業まで書くんか!? すげぇ、細かくチェックすんねんなぁ!! 偉いなぁ!!」
そう呟き、紙に自分の名前と職業を書きはじめるDを、不思議そうに受付の人物が眺めていた。
そしてDが書き終えたのを確認して、また声を掛けてきた。
「それでは、最後にアイテム類のチェックをさせて頂きますねぇ」
そう言われ、自分の鞄の中身を見せるD。
「オッケーでぇす。それでは中に入って、右手に見える部屋に行っていてくださぁい」
そしてDはコロッセオをの中へと入って行った。
「部屋って何や? ああ!! そっか!! ロッカールームみたいな? そこで荷物置いて下さい的な?」
そしてDは受付の人物に言われたまま、右手にある部屋の中に入って行ったーー
天井を見上げるD。
すると外から、自分の名前が呼ばるのが聞こえてきた。
「なんでや?」
そう言って、Dは控え室から出て行く。
控え室から闘技場へと続く廊下を歩き、観客の前へと姿を現すD。
客席を見渡すと、そこには大勢の観客が詰め寄り。
Dに盛大な歓声を送っていた。
前に目を移すと、対戦相手であろう人物が自分の事を睨んで待っていた。
(あかん。何処でどう間違ったんか、ぜんっぜん分からへん……)




