Episode 063【尿意の中で】
元の世界と同じような造りをした街〈ログタウン〉に辿り着いたTrash達は、この街の情報を得る為に酒場である〈居酒屋 和牛八角〉を訪れた。しかし店内に入ってみると、そこも今までとは違い。元の世界ではよくある、個室形式を様していた。その為、他のプレイヤーに声を掛ける事に対して、やや気が引けるアカツキとTrashの二人はDに情報収集の役を託した。
「どの部屋から話聞きに行こかなぁ?」
二人に部屋から送り出されたDは、廊下を歩きながら左右にある部屋を眺めていた。
「う〜ん……、おしっ! とりあえず、しょんべんしに行くか」
そう言って、Dはトイレを探しに行き始めた。
「なぁ、トラ?」
「ん〜?」
「俺ら、普通に飯食ってて良いのか?」
「ええ、ええ。ここは、あいつに任しとけ」
Dを送り出したTrashとアカツキの二人は、Dを他所に普通に食事を取っていた。
「にしてもよぉ」
「ん〜?」
「トラなら、気兼ねなく誰とでも話出来そうじゃんかよ?」
「お前な。俺はコミュ障やねんぞ、そんなん無理に決まっとるやろ」
Trashの言葉に意外そうな反応をするアカツキ。
「お前の何処がコミュ障だってんだよ?」
「お前は、まだ俺の事よう知らんだけや。そもそも俺は、ワンダー・クロニクルやりたがっとったけど。Dがやらん言うたら、せんかったからの」
「そうなのか?」
「まぁ、Dに選択の余地なしでゲームやらしたけどな」
「お前、ひでぇな」
「とりあえず、今は適材適所や」
「なるほどねぇ」
そして二人は、そのまま食事を続けた。
一方、トイレを探しに行ったDは少し迷ったものの。何とかトイレを見つけ出していた。
「あった、あった。もうちょいで、しょんべん漏れるとこやったで」
そしてDがトイレの方に近寄って行くと、廊下の端に用意された長椅子にひっそりと座っている男が見えた。
(あれ? トイレ待ちの人なんかな?)
そう思いながら、Dがその男に話し掛ける。
「すんません。トイレ待ってんの?」
Dの言葉を聞いて、Dの方を向く男。
その顔は何処となく元気がなさそうであった。
「大丈夫? お腹痛いん?」
その男を心配するD、そんなDに男が返事を返してきた。
「ごめん、大丈夫。お腹が痛いわけじゃないから」
「ほんなら、トイレ待ちやないん?」
「そうだよ」
Dに言葉を返す男であったが、その顔は無理に笑顔を作っているように感じた。
「なんか元気なさそうやけど、何かあったん?」
「あぁ、やっぱり顔に出ちゃってる? ちょっとねぇ……」
そう言って、男が俯いた。
「なんや? なんや? このおっちゃんに言うてみぃ」
そう言って、男の隣に座りはじめるD。
「おじさんって、そんな風に見えないじゃん。あ! そっか。ここではキャラだから、関係ないのか」
「え!? そんじゃ、……ごめん。名前、何?」
「僕は、カピパラ」
「そんじゃ、カピもプレイヤーなん?」
「え? そうだよ。もしかして、気付いてなかったの?」
「いやぁ、なんて言うか。気付く気付かんとかやなくてや、プレイヤーとかここの人らとか区別すんのんめんどいやん。そう思い始めたら、そんなん何も思わんようになってもてん」
そう言って、笑い出すD。
「そうなんだ。それで、君の名前は何て言うの?」
「Dやで、D。君もさんも付けんとDって呼んで。あ、あと敬語は俺が無理やから、無しで」
「分かったよ」
「それで、カピは何で落ち込んでる感じなん?」
「それなんだけどね。僕、今二人のプレイヤーと一緒に行動してるんだけど」
「うんうん」
「そのプレイヤーってのがね、一人は僕のリアフレで。もう一人は別のゲームで知り合ったフレなんだけど」
「うんうん、ほんで? ほんで?」
「その二人の扱きがしんどくて……」
「しごき?」
「僕を強くするって言って、特訓させられてるんだよ」
「ああ、なるほど。うんでも、強くなるんやったら有難い事やん」
「普通にゲームならね、今はこんなんじゃん。しんどいんだよぉ……」
「ああ、そういう事か」
「あとね……」
「うん」
「その二人が、とってもSなんだよ。二人ともテスト・ユーザーだし、僕とは比較にならないくらいレベルも高いし」
そう言いだして、しまったという顔をするカピパラ。
(ハンターとイヴさんから。何があるか分からないから、テスト・ユーザーの事は内緒にしておくように言われたのに。つい言っちゃったよ。どうしよ……)
そしてDの方を覗き込むように窺うカピパラ。
「カピもテスト・ユーザーの存在気付いとん!? ってか、フレがテスト・ユーザーなんかぁ」
「Dもテスト・ユーザーの存在知ってたの?」
「うん。俺の連れが、その事を思い始めてん。それに俺ら、一度会うたし」
「え? そうなの? へぇ」
「そんで、特訓言うとったけど。今はこの街で休んどんやろ?」
「そうだったんだけど。何か面白い事聞いたって言われて、今からここを出発するんだよ。昨日、この街に来たばっかりなのに……」
「へぇ、大変そやなぁ。……あ! 街で思い出したけど。この街って、何でこんな感じなんか。カピ、知っとう?」
「ああ、その事か。僕も二人からこの街の事を聞いた時は、びっくりしたよ」
「俺らの中じゃ、テスト・ユーザーの人らが造った街なんちゃうか?ってなっとんやけど。ほんまに、そうなん?」
「みたいだよ。僕も詳しくは聞かされてないけど。昔、この世界で大きな戦争があったんだって。この街は、その戦争が終わってから出来たみたいだよ」
「へぇ」
「ここって、ノイエグラーデっていう国の領地みたいなんだけど。いちお独立自治権があるんだって」
「ほうぉ」
「それでねーー」
カピパラが、まだ話を続けようとした時。
Dがカピパラに手を向け、話すのを止めるような仕草をした。
「どうしたの?」
「悪りぃ、カピ。もうそれくらいにしてもらわんと。俺の頭がついてかへん」
「え? Dって、バカなの?」
「おうよ!」
そんなDを見て、笑い始めるカピパラ。
「笑うこたぁないやんけ、カピぃ」
「ごめん、ごめん。なんか、Dって面白いね」
「そうかぁ? 普通やで」
「いや、バカなんでしょ?」
「おう、アホや」
そして、また笑い出すカピパラ。
「なんか、Dと話してた元気出てきたよ」
「そうか、そりゃあ良かった」
「僕、そろそろ二人の所に戻るよ」
「おお、そうか。了解」
そして長椅子から立ち上がる二人。
「あ! D?」
「ん?」
「フレンド申請して良い?」
「ああ、よかよか」
そして二人がフレンドの登録を済ますと、カピパラはDに別れを告げ。その場から去って行った。
「やっぱ、ここはテスト・ユーザーが造った街なんかぁ。 あ! しょんべん、しょんべん」
そう言って、Dはトイレの中に入って行った。




