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ワンダー・クロニクル  作者: Erde
第一部【出会いと別れ、そして旅立ちと】
63/76

Episode 063【尿意の中で】

 元の世界と同じような造りをした街〈ログタウン〉に辿り着いたTrash達は、この街の情報を得る為に酒場である〈居酒屋 和牛八角〉を訪れた。しかし店内に入ってみると、そこも今までとは違い。元の世界ではよくある、個室形式を様していた。その為、他のプレイヤーに声を掛ける事に対して、やや気が引けるアカツキとTrashの二人はDに情報収集の役を託した。



「どの部屋から話聞きに行こかなぁ?」


 二人に部屋から送り出されたDは、廊下を歩きながら左右にある部屋を眺めていた。


「う〜ん……、おしっ! とりあえず、しょんべんしに行くか」


 そう言って、Dはトイレを探しに行き始めた。



「なぁ、トラ?」

「ん〜?」

「俺ら、普通に飯食ってて良いのか?」

「ええ、ええ。ここは、あいつに任しとけ」


 Dを送り出したTrashとアカツキの二人は、Dを他所に普通に食事を取っていた。


「にしてもよぉ」

「ん〜?」

「トラなら、気兼ねなく誰とでも話出来そうじゃんかよ?」

「お前な。俺はコミュ障やねんぞ、そんなん無理に決まっとるやろ」


 Trashの言葉に意外そうな反応をするアカツキ。


「お前の何処がコミュ障だってんだよ?」

「お前は、まだ俺の事よう知らんだけや。そもそも俺は、ワンダー・クロニクルやりたがっとったけど。Dがやらん言うたら、せんかったからの」

「そうなのか?」

「まぁ、Dに選択の余地なしでゲームやらしたけどな」

「お前、ひでぇな」

「とりあえず、今は適材適所や」

「なるほどねぇ」


 そして二人は、そのまま食事を続けた。

 一方、トイレを探しに行ったDは少し迷ったものの。何とかトイレを見つけ出していた。


「あった、あった。もうちょいで、しょんべん漏れるとこやったで」


 そしてDがトイレの方に近寄って行くと、廊下の端に用意された長椅子にひっそりと座っている男が見えた。


(あれ? トイレ待ちの人なんかな?)


 そう思いながら、Dがその男に話し掛ける。


「すんません。トイレ待ってんの?」


 Dの言葉を聞いて、Dの方を向く男。

 その顔は何処となく元気がなさそうであった。


「大丈夫? お腹痛いん?」


 その男を心配するD、そんなDに男が返事を返してきた。


「ごめん、大丈夫。お腹が痛いわけじゃないから」

「ほんなら、トイレ待ちやないん?」

「そうだよ」


 Dに言葉を返す男であったが、その顔は無理に笑顔を作っているように感じた。


「なんか元気なさそうやけど、何かあったん?」

「あぁ、やっぱり顔に出ちゃってる? ちょっとねぇ……」


 そう言って、男が俯いた。


「なんや? なんや? このおっちゃんに言うてみぃ」


 そう言って、男の隣に座りはじめるD。


「おじさんって、そんな風に見えないじゃん。あ! そっか。ここではキャラだから、関係ないのか」

「え!? そんじゃ、……ごめん。名前、何?」

「僕は、カピパラ」

「そんじゃ、カピもプレイヤーなん?」

「え? そうだよ。もしかして、気付いてなかったの?」

「いやぁ、なんて言うか。気付く気付かんとかやなくてや、プレイヤーとかここの人らとか区別すんのんめんどいやん。そう思い始めたら、そんなん何も思わんようになってもてん」


 そう言って、笑い出すD。


「そうなんだ。それで、君の名前は何て言うの?」

「Dやで、D。君もさんも付けんとDって呼んで。あ、あと敬語は俺が無理やから、無しで」

「分かったよ」

「それで、カピは何で落ち込んでる感じなん?」

「それなんだけどね。僕、今二人のプレイヤーと一緒に行動してるんだけど」

「うんうん」

「そのプレイヤーってのがね、一人は僕のリアフレで。もう一人は別のゲームで知り合ったフレなんだけど」

「うんうん、ほんで? ほんで?」

「その二人の扱きがしんどくて……」

「しごき?」

「僕を強くするって言って、特訓させられてるんだよ」

「ああ、なるほど。うんでも、強くなるんやったら有難い事やん」

「普通にゲームならね、今はこんなんじゃん。しんどいんだよぉ……」

「ああ、そういう事か」

「あとね……」

「うん」

「その二人が、とってもSなんだよ。二人ともテスト・ユーザーだし、僕とは比較にならないくらいレベルも高いし」


 そう言いだして、しまったという顔をするカピパラ。


(ハンターとイヴさんから。何があるか分からないから、テスト・ユーザーの事は内緒にしておくように言われたのに。つい言っちゃったよ。どうしよ……)


 そしてDの方を覗き込むように窺うカピパラ。


「カピもテスト・ユーザーの存在気付いとん!? ってか、フレがテスト・ユーザーなんかぁ」

「Dもテスト・ユーザーの存在知ってたの?」

「うん。俺の連れが、その事を思い始めてん。それに俺ら、一度会うたし」

「え? そうなの? へぇ」

「そんで、特訓言うとったけど。今はこの街で休んどんやろ?」

「そうだったんだけど。何か面白い事聞いたって言われて、今からここを出発するんだよ。昨日、この街に来たばっかりなのに……」

「へぇ、大変そやなぁ。……あ! 街で思い出したけど。この街って、何でこんな感じなんか。カピ、知っとう?」

「ああ、その事か。僕も二人からこの街の事を聞いた時は、びっくりしたよ」

「俺らの中じゃ、テスト・ユーザーの人らが造った街なんちゃうか?ってなっとんやけど。ほんまに、そうなん?」

「みたいだよ。僕も詳しくは聞かされてないけど。昔、この世界で大きな戦争があったんだって。この街は、その戦争が終わってから出来たみたいだよ」

「へぇ」

「ここって、ノイエグラーデっていう国の領地みたいなんだけど。いちお独立自治権があるんだって」

「ほうぉ」

「それでねーー」


 カピパラが、まだ話を続けようとした時。

 Dがカピパラに手を向け、話すのを止めるような仕草をした。


「どうしたの?」

「悪りぃ、カピ。もうそれくらいにしてもらわんと。俺の頭がついてかへん」

「え? Dって、バカなの?」

「おうよ!」


 そんなDを見て、笑い始めるカピパラ。


「笑うこたぁないやんけ、カピぃ」

「ごめん、ごめん。なんか、Dって面白いね」

「そうかぁ? 普通やで」

「いや、バカなんでしょ?」

「おう、アホや」


 そして、また笑い出すカピパラ。


「なんか、Dと話してた元気出てきたよ」

「そうか、そりゃあ良かった」

「僕、そろそろ二人の所に戻るよ」

「おお、そうか。了解」


 そして長椅子から立ち上がる二人。


「あ! D?」

「ん?」

「フレンド申請して良い?」

「ああ、よかよか」


 そして二人がフレンドの登録を済ますと、カピパラはDに別れを告げ。その場から去って行った。


「やっぱ、ここはテスト・ユーザーが造った街なんかぁ。  あ! しょんべん、しょんべん」


 そう言って、Dはトイレの中に入って行った。





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