Episode 060【ホテルと居酒屋と】
風を切りながら、馬を走らせる三人。その先頭を走っていた男が草原にある丘で馬を止め、後ろに居る男達に分かるように前方を指し示した。男が指し示す先に目をやり、不思議そうな顔をする男達の姿がそこにはあった。
「のぉ? あったやろ? 街」
Dが後から来る二人に声を掛ける。
「あれ? 何でだ?」
前方にある街を見て、アカツキがそれに答えた。
「どういうこっちゃ?」
そう言って、鞄から地図を取り出し、確認し始めるTrash。
その間、Dとアカツキは街を見ながら話をしていた。
「のぉ、アカツキ。あの街、今までと何か雰囲気ちゃうの?」
「そうだな。何となく今っぽいよな」
アカツキの言った〈今っぽい〉とは、前方に見える街並みが何処となく元に居た世界。つまり現代の世界の様な感じがしたからであった。
「あそこ行ってみようや」
Dが興味津々で二人に声を掛ける。
「ちょう待て、今地図見よるんやさかい」
落ち着けと言わんばかりに、TrashがDに答えた。
そんなTrashにアカツキが近寄って行き、声を掛ける。
「どうだ、トラ? 街あったか?」
その質問に、釈然としない顔をするTrash。
「やっぱ、地図には載ってへんのぉ……。何でなんや?」
それを聞いて、地図を覗き込むアカツキ。
「ほんとにねぇな。どうなってんだ?」
そんな不思議がる二人を余所に、Dがまた声を掛けてきた。
「なぁ、あそこ行ってみようや。行ったら何か分かるかもしれへんやろ?」
そんなDの目はキラキラと輝いていた。
それを見て、Trashがアカツキに話す。
「うわぁ……。もう、めっちゃアホ満載の顔やんけ……。女はこんなん見て、可愛い言うたりするから分からんわ……」
「だな……。Dの場合、変に見た目良いから余計にな。話ししたら、ただの馬鹿しか残んねぇのに……」
そして二人は今まで訪れた街を思い出していた。そこでは何故だかモテるDの印象しか残っていなかった。
「こんなアホのどこがええねん、ほんま」
「そう、そう」
二人が話していると、返事を待ちきれずに居たDが近寄ってきた。
「おい、聞いとんのこぉ? あそこ行ってみようや、面白そうやんけ」
「お前な、D。少しは怪しいとか思わんのこ?」
「何がぁ?」
「地図に、あっこの街載ってへんねんぞ? 分かるこ? 何かあるかもしれへんって思うやろ、普通」
「思わんねんから、しゃあないやろぉ」
「ったく、お前はアホなんか? ええ? いや、アホなんは知っとるわい。重々わぁっとるわ。んでもな、何処までアホなんじゃい!! ほんまっ!!」
「うるさいのぉ、俺も何処までアホなんか知っとるわけないやろがぁ」
「ああぁ……、アカツキ。あかんわ、こいつ」
「D。トラが言いたいのは、何があるか分からないから警戒しろよって事だ」
「ああ!! なるほど!! オッケー」
そう言って、Dは馬を走らせ街に向かって行った。
その背中を見ながら、アカツキがTrashに声を掛ける。
「お前、ほんと苦労してるよな……」
「いやっ!! もう、マジで!! しんどいわぁ……」
そして肩を落としたTrashがDの後を追い始める。
その背中を見て、アカツキも後を追った。
三人が街の入り口まで来ると、そこには大きな門があり。門の上の方に街の名前が書いてあった。
「ログタウン?」
街の名前を見る、アカツキ。
「何か、今までとはちゃう感じの名前やな」
アカツキと同じ様に、街の名前を見るD。
「ってか、タウンって。今まで、そんなん無かったやろ?」
誰に突っ込むでもなく、Trashが話した。
そして、そんな三人は門から見える街の景色に目をやった。そこには門から一直線に大通りが伸びており、左右にはそれぞれ建物が立ち並び。ある一定の間隔で左右に伸びる通りもあった。一見、普通の街と同じ様な感じではあったが。三人には何故だが違和感を覚えていた。
「遠くで見た時は、現代っぽい感じやってんけど。近くで見たら、そうでもないなぁ」
「それでも何か変な感じがしねぇか?」
「する、する。何や違和感の様な感じがするわ」
Dとアカツキが話しているのを聞きながら、Trashは今感じている違和感の正体を探そうと街を注意深く見ていた。
「あ、俺分かったわ。何で変な感じするんか」
「えっ!? マジこ!? 何処が変なんや?」
「違和感てか、逆に久々過ぎての違和感って感じやな」
Dにもったいつける様に話すTrash。
「何やねん!? 早よ言うてくれや」
そんなDを見て、笑いながらTrashが二人に話し出した。
「お前ら、街にある店の看板見てみぃ。懐かしいぞぉ」
そう言われて、アカツキとDが再度街に目をやった。するとそこには〈居酒屋 和牛八角〉や〈HOTEL ラポート〉など、至る所の看板が現代にある様な名前で書かれていたのだった。そして今まで見てきた街や村にある様な看板ではなく、看板自体も現代のそれを彷彿させる様な形をしていた。
「何や、これ?」
「一体、どうなってるんだ?」
「看板だけちゃうぞ。見てみぃ、あそこ。道路標識みたいなんまであっぞ」
そう言われて、Trashが見ている先の方に目をやる二人。
そこには本当に現代にある道路標識の様な物が立ってあり、先を進むと何処に行くか書かれてあった。
「何じゃ、あれっ!?」
「普通に標識じゃねぇか」
「俺らが感じとった違和感は、これやったんやな。元の世界やったら何でもない事やけど、変にここに慣れてもうとるのもあるから。しっくり来ん感じがしたんやろな」
「ああ、なるほどなぁ」
「うんでもや、トラ。これ、どういう事なんや?」
「まぁ、予想外過ぎたけど。もしかしたら、ここでええ情報が手に入るかもしれへんぞ」
「どういうこっちゃ、それ?」
Trashの言葉の意味が分からない二人が不思議そうにするなか。
Trashだけは何かを確信した表情で〈ログタウン〉を見つめていた。




