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ワンダー・クロニクル  作者: Erde
第一部【出会いと別れ、そして旅立ちと】
59/76

Episode 059【世界最強の名前】

 空に太陽が輝いていた。そして、その下にはイタリアのコロッセオの様な円形闘技場があった。闘技場の外を歩いている人にも、観客の歓声が聞こえてくる程。そこは賑わっていた。闘技場の中に目を移すと、観客が席を立ち。その中央で繰り広げられている戦いに対して歓声を上げている。その視線を集めている二人の戦いに決着が付こうとしていた。

 重厚な装備を纏い、盾と剣を手にしている男が、大剣を持つ大柄な男に対して斬りかかる。大柄の男は、見た目とは裏腹に、その攻撃を身軽に躱す。そして返す刀で、手にした大剣を片手で振り払おうとした。重厚な鎧を纏った男が、それを盾で防ごうとする。しかし大柄な男は、それに構う事なく大剣を振り払う。

 辺りに大きな音が響く、それは金属が砕け散る音であった。そして気付くと、先程の鎧を纏っていた男が地面に倒れ、気絶していた。


「勝者っ!! ロバート・クリフォードJr.ぁああ!!」


 勝ち名乗りが上がると、一斉に観客達の声が上がった。


「ジュニアぁあ!!」

「さすが、チャンピオンっ!!」


 その声を聞きながら、大柄な男がその場から去って行く。


「おいっ!! すげぇな、さっきの奴!!」


 観客席に座って居る男が、隣に座る男に声を掛けている。

 しかし話し掛けられた男は空を見上げたまま、男の話を聞いていなかった。

 一方、薄暗い部屋の中では、幾人かの人々が思い思いに武装し何かを待っていた。

 そんななか、一人の男だけは他のそれとは違い。立ち尽くしたまま天井を見つめていた。

 部屋の外では何やら、大きな声が聞こえてくる。


「それでは、お待たせしました!! 只今より1回戦の第3試合を行わさせて頂きますっ!!」


 闘技場の中央で一人の男が観客に向けて話し掛けている。


「それでは、両者に登場してもらいましょう!!」


 男の一言、一言に観客が大きな歓声を送る。


「まず先に、緑の閃光の異名を取る男。ラルフォンス・ゲーデマンの登場ですっ!!」


 男の案内を聞き、一人の男が闘技場に姿を現して来た。

 それを見て、また観客が歓声を上げる。


「そして今回、この闘技場初参戦っ!! その全てが謎の男、その実力は如何にっ!? Dの登場ですっ!!」


 また歓声が上がる。

 そんな中、観客席で遠い目をして空を見つめていたTrashと、控え室でぼうぉっと天井を見上げていたDが、ある事を思った。



 ーーなんでや?





 晴れ渡る空の下。〈アシアナ〉を出発したTrash達はノボリト研究所に向かう為に、遥か広い草原の中にある一本道を西へと進んでいた。


 「行け、パサー!! 行ってまぇえ!!」


 馬上で馬に声を掛け、はしゃぎまくるD。

 その姿を後方でアカツキが眺めていた。


「Trash、パサーって何だ? サッカーのあれか?」

「俺が知るかい、また適当に言うとるだけやろ」


 いつもの様に少し呆れた表情でDを見ながら、Trashがアカツキに答えた。

 そんな二人の元にDが勢いよく戻ってきた。


「あほぉ!! サッカーのパサーちゃうわいっ!! 誰が司令塔やねん!!」

「何だ、お前!? 聞こえてたのかよ!?」


 驚きながらDに話すアカツキ。


「ったり前やろ!!」

「お前、すげぇ地獄耳だな」


 未だに驚くアカツキに対して、Trashが嫌な表情になった。

 そんなTrashに目もくれず、Dがアカツキに話し出した。


「アカツキ。言うとくけど、この子はエルコンドルパサーやねん。やから、パサーやねん」


 そう言いながら、馬の首辺りを摩るD。


「お前、馬に名前なんか付けたのか? ってか、エルコンドルパサーって何なんだよ?」

「はぁあっ!?? アカツキ、エルコンドルパサー知らんのこ!? 世界最強の馬やぞ!??」

「競馬の馬って事か? ディープインパクトなら、名前くらいなら知ってるぞ」

「アカツキぃ……。ちゃうねん、エルコンドルパサーはそんなレベルちゃうねん。もっとやねん」

「そんな馬、日本に居たのかよ?」

「居ったわいっ!! この子の額にある模様見て、もうエルコンドルしかない思たんじゃ!!」


 Dに言われて、エルコンドルパサーの額にある模様を見るアカツキ。そこには勾玉が縦に伸びた様な形をした白色の模様があった。


「それが、そのパサーって馬にもあったのか?」

「おうよ!! そら、行け!! パサー!!」


 嬉しそうにDはアカツキに答え、また馬を走らせて行った。


「あいつ、ほんま下らん事とかは耳えぇのぉ……」


 さっきまで黙ってDの話を聞き流していたTrashが、アカツキに声を掛ける。


「それで黙ってたのかよ」

「当たり前やろっ!! あんなん、いちいち付き合えるかいっ!!」

「にしてもよ……」


 そう言い出して、自分の馬を見るアカツキ。


「何や?」

「この馬、それぞれに性格違うよな」

「それが、どないかしたんか?」

「いや、何か不思議じゃねぇか?」

「何がぁ?」

「だってよ、この馬。この笛吹いたら、何処からともなく来て。もう一度、吹いたら何処かに走り去って行くだろ?」

「せやな」

「俺、ただの移動手段の道具にしか思ってなかったから。すげぇ不思議に感じるんだよ」

「ああ、そういう事な」

「それに馬の体付きも違くねぇか?」

「言われてみたら、そやな」


 二人が話してると、少し離れた所で馬を走らせているDが大声で二人に声を掛けてきた。


「アカツキぃい!! お前の馬はスプリント系やぁあ!! ケツが丸ぅてマッチョ体型な馬は、スピードがある馬や。そんでもって、トラァあ!! お前のは胴長ですっきりしとるから、ステイヤー系やぁあ!! ちなみに俺のパサーは、これといった特徴がないっ!!」


 その言葉を聞いて、アカツキが言葉を返した。


「それじゃあ、ただの駄馬って事じゃねぇかよっ!!」

「あほぉ!! これもエルコンドルパサーと同じなんじゃ!! やから、この子はパサーなんやぁああ!!」


 そして、草原の方へと馬を走らせて行くD。


「Dって、競馬やるのか?」

「ちゃうちゃう。あいつはギャンブル一切せぇへん。全部競馬ゲームの知恵や」

「ああ、そういう事か」

「それにしても、あのDの馬や」

「ああ、パサーな」

「あのアホには勿体無いくらい、大人しい馬やんけ。馬が可哀想やわ……」

「そうだよな……。俺の馬。俺が乗ろうとした時、蹴ってきそうな感じあったもんな……」

「お前の馬、凶暴そうな面しとんもんのぉ」

「そういうTrashの馬は、何か臆病な感じあるよな」

「あほぉ!! そこが可愛いんやんけ!!」

「そうか?」

「そうじゃい!!」


 二人が話していると、さっきまで馬を走らせてはしゃいでいたDが戻ってきた。


「何や、飽きたんか?」


 戻ってきたDに話し掛けるTrash。


「いや、せやなしにな。あっちに、街あっぞ」


 そう言って、さっきまで自分が馬を走らせていた方向を指差すD。


「街? この辺に街なんて、地図には載ってなかっただろ?」

「D。お前アホやから、何かと見間違えたんとちゃうんこ?」

「いや。ほんまに街があんねんて、来てみぃや」


 そう言って、Dがまた馬を走らせて行く。そして、その後に二人が続いた。






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