Episode 059【世界最強の名前】
空に太陽が輝いていた。そして、その下にはイタリアのコロッセオの様な円形闘技場があった。闘技場の外を歩いている人にも、観客の歓声が聞こえてくる程。そこは賑わっていた。闘技場の中に目を移すと、観客が席を立ち。その中央で繰り広げられている戦いに対して歓声を上げている。その視線を集めている二人の戦いに決着が付こうとしていた。
重厚な装備を纏い、盾と剣を手にしている男が、大剣を持つ大柄な男に対して斬りかかる。大柄の男は、見た目とは裏腹に、その攻撃を身軽に躱す。そして返す刀で、手にした大剣を片手で振り払おうとした。重厚な鎧を纏った男が、それを盾で防ごうとする。しかし大柄な男は、それに構う事なく大剣を振り払う。
辺りに大きな音が響く、それは金属が砕け散る音であった。そして気付くと、先程の鎧を纏っていた男が地面に倒れ、気絶していた。
「勝者っ!! ロバート・クリフォードJr.ぁああ!!」
勝ち名乗りが上がると、一斉に観客達の声が上がった。
「ジュニアぁあ!!」
「さすが、チャンピオンっ!!」
その声を聞きながら、大柄な男がその場から去って行く。
「おいっ!! すげぇな、さっきの奴!!」
観客席に座って居る男が、隣に座る男に声を掛けている。
しかし話し掛けられた男は空を見上げたまま、男の話を聞いていなかった。
一方、薄暗い部屋の中では、幾人かの人々が思い思いに武装し何かを待っていた。
そんななか、一人の男だけは他のそれとは違い。立ち尽くしたまま天井を見つめていた。
部屋の外では何やら、大きな声が聞こえてくる。
「それでは、お待たせしました!! 只今より1回戦の第3試合を行わさせて頂きますっ!!」
闘技場の中央で一人の男が観客に向けて話し掛けている。
「それでは、両者に登場してもらいましょう!!」
男の一言、一言に観客が大きな歓声を送る。
「まず先に、緑の閃光の異名を取る男。ラルフォンス・ゲーデマンの登場ですっ!!」
男の案内を聞き、一人の男が闘技場に姿を現して来た。
それを見て、また観客が歓声を上げる。
「そして今回、この闘技場初参戦っ!! その全てが謎の男、その実力は如何にっ!? Dの登場ですっ!!」
また歓声が上がる。
そんな中、観客席で遠い目をして空を見つめていたTrashと、控え室でぼうぉっと天井を見上げていたDが、ある事を思った。
ーーなんでや?
晴れ渡る空の下。〈アシアナ〉を出発したTrash達はノボリト研究所に向かう為に、遥か広い草原の中にある一本道を西へと進んでいた。
「行け、パサー!! 行ってまぇえ!!」
馬上で馬に声を掛け、はしゃぎまくるD。
その姿を後方でアカツキが眺めていた。
「Trash、パサーって何だ? サッカーのあれか?」
「俺が知るかい、また適当に言うとるだけやろ」
いつもの様に少し呆れた表情でDを見ながら、Trashがアカツキに答えた。
そんな二人の元にDが勢いよく戻ってきた。
「あほぉ!! サッカーのパサーちゃうわいっ!! 誰が司令塔やねん!!」
「何だ、お前!? 聞こえてたのかよ!?」
驚きながらDに話すアカツキ。
「ったり前やろ!!」
「お前、すげぇ地獄耳だな」
未だに驚くアカツキに対して、Trashが嫌な表情になった。
そんなTrashに目もくれず、Dがアカツキに話し出した。
「アカツキ。言うとくけど、この子はエルコンドルパサーやねん。やから、パサーやねん」
そう言いながら、馬の首辺りを摩るD。
「お前、馬に名前なんか付けたのか? ってか、エルコンドルパサーって何なんだよ?」
「はぁあっ!?? アカツキ、エルコンドルパサー知らんのこ!? 世界最強の馬やぞ!??」
「競馬の馬って事か? ディープインパクトなら、名前くらいなら知ってるぞ」
「アカツキぃ……。ちゃうねん、エルコンドルパサーはそんなレベルちゃうねん。もっとやねん」
「そんな馬、日本に居たのかよ?」
「居ったわいっ!! この子の額にある模様見て、もうエルコンドルしかない思たんじゃ!!」
Dに言われて、エルコンドルパサーの額にある模様を見るアカツキ。そこには勾玉が縦に伸びた様な形をした白色の模様があった。
「それが、そのパサーって馬にもあったのか?」
「おうよ!! そら、行け!! パサー!!」
嬉しそうにDはアカツキに答え、また馬を走らせて行った。
「あいつ、ほんま下らん事とかは耳えぇのぉ……」
さっきまで黙ってDの話を聞き流していたTrashが、アカツキに声を掛ける。
「それで黙ってたのかよ」
「当たり前やろっ!! あんなん、いちいち付き合えるかいっ!!」
「にしてもよ……」
そう言い出して、自分の馬を見るアカツキ。
「何や?」
「この馬、それぞれに性格違うよな」
「それが、どないかしたんか?」
「いや、何か不思議じゃねぇか?」
「何がぁ?」
「だってよ、この馬。この笛吹いたら、何処からともなく来て。もう一度、吹いたら何処かに走り去って行くだろ?」
「せやな」
「俺、ただの移動手段の道具にしか思ってなかったから。すげぇ不思議に感じるんだよ」
「ああ、そういう事な」
「それに馬の体付きも違くねぇか?」
「言われてみたら、そやな」
二人が話してると、少し離れた所で馬を走らせているDが大声で二人に声を掛けてきた。
「アカツキぃい!! お前の馬はスプリント系やぁあ!! ケツが丸ぅてマッチョ体型な馬は、スピードがある馬や。そんでもって、トラァあ!! お前のは胴長ですっきりしとるから、ステイヤー系やぁあ!! ちなみに俺のパサーは、これといった特徴がないっ!!」
その言葉を聞いて、アカツキが言葉を返した。
「それじゃあ、ただの駄馬って事じゃねぇかよっ!!」
「あほぉ!! これもエルコンドルパサーと同じなんじゃ!! やから、この子はパサーなんやぁああ!!」
そして、草原の方へと馬を走らせて行くD。
「Dって、競馬やるのか?」
「ちゃうちゃう。あいつはギャンブル一切せぇへん。全部競馬ゲームの知恵や」
「ああ、そういう事か」
「それにしても、あのDの馬や」
「ああ、パサーな」
「あのアホには勿体無いくらい、大人しい馬やんけ。馬が可哀想やわ……」
「そうだよな……。俺の馬。俺が乗ろうとした時、蹴ってきそうな感じあったもんな……」
「お前の馬、凶暴そうな面しとんもんのぉ」
「そういうTrashの馬は、何か臆病な感じあるよな」
「あほぉ!! そこが可愛いんやんけ!!」
「そうか?」
「そうじゃい!!」
二人が話していると、さっきまで馬を走らせてはしゃいでいたDが戻ってきた。
「何や、飽きたんか?」
戻ってきたDに話し掛けるTrash。
「いや、せやなしにな。あっちに、街あっぞ」
そう言って、さっきまで自分が馬を走らせていた方向を指差すD。
「街? この辺に街なんて、地図には載ってなかっただろ?」
「D。お前アホやから、何かと見間違えたんとちゃうんこ?」
「いや。ほんまに街があんねんて、来てみぃや」
そう言って、Dがまた馬を走らせて行く。そして、その後に二人が続いた。




