Episode 056【ネイヴェル族とその男と】
男の攻撃により、Dの体が氷に包まれる。手応えを感じ、男が改めてTrashとアカツキの方を向いた。
「どんな力を持っていようと、戦魔の構えに敵う物などない」
男の言葉に、言葉に詰まる二人。しかし、その間はすぐに終わりを迎えた。
Dを包む氷が、微かに響き始め。その振動は次第に大きくなっていった。
「うらぁあっ!!」
Dの大きな声と共に、氷の塊が砕け散っていく。その光景を見て、男が再び驚きの表情を浮かべる。
「な、んだと……?」
そんな男に向かってDが声を掛けた。
「俺にも分からんけど、今の俺にはアンタの攻撃は効かんみたいや。もう、終いにしよ」
そんなDを見て、男が叫ぶ。
「どこまで、我等の邪魔をしたら気が済むのだっ!? 貴様等、ヤーヌの信仰者共達めっ!!」
男の言葉を聞いて、Dが答える。
「否定する暇が無かったから言うてへんだけど、俺等は別にヤーヌの信仰者やない」
「何っ!?」
男の反応を見て、Dが男にこれまでの経緯を説明する。その表情は、とても辛そうであった。Dの話を聞き終えた男は、それまでの態度とは一変した様になった。
「そんな……、まさか何の関係もない者達に対して見境もなく攻撃を仕掛けていたというのか。私は……」
「そんなん気にせんで、ええから。それよりも、もう終わりにしよ……。復讐も全て……」
しかしDの言葉に対して、男は耳に入っていない様子であった。
「これではまるで、私はヤーヌと同じではないか……」
「ここで辞めたら、そうはなくなるって」
「貴様らは、どうして全く関係のない私達の問題にそこまでするのだ……?」
「ほっとけへんからやん……。何かほっとけへんねって!!」
Dの言葉に、Trashとアカツキも頷く。それを見て男が話し掛けた。
「全く貴様らは、変わったモンスタースレイヤー達だな……」
そう言い終えると、男は俯き何とも言えない表情になった。それを見てDが言葉を掛けようとした、その時。男は突然、自分の胸に対し手刀を突き立てた。あまりの突然の出来事に、反応出来ない三人。
「ぐはっ!!」
男の口から血が飛び出してきた。
「何でやっ!? 何でそんなんするんやっ!?」
Dが男の元へ駆け寄り、蹲る男の肩を持つ。
「生きとったら、またええこと一杯あるやんかっ!?」
Dの言葉に男が返事を返した。
「もう……、良いのだ……。これで、もう……」
そして男はキメラに手を掲げ、何かを唱えた。するとキメラの体から光る粒状の物が現れ、それが上空へと舞い上がっていく。そして段々とキメラの姿が消えていった。それを見て、Trashが冷静に男に言葉を掛けた。
「アンタが死んだとしてもキメラを消したとしても、他のネイヴェル族の人らが復讐に走るんやないんか……?」
その言葉を聞いて、男がTrashの方を向いて答えた。
「その心配はない……」
「何で、そう言い切れんねん……」
そう言って、Trashは男から目を逸らした。自分が思う男への気持ちと、それとは裏腹に聞いておかなければならない事でTrash自身も苦しんでいた。そんなTrashを察してか、男は答え始めた。
「我等、ネイヴェル族はもう……。私が最後なのだ……」
『っ!??』
男の言葉に三人の息が詰まる。
「そ……、れって……」
アカツキが思いを言葉にしようとした時、男が変わりの話出した。
「そうだ……。他の者達は皆、もう既にヤーヌに殺された……」
「そんな……」
「当時の私は族長となる為の試練を受けていた、それを終え村に戻ってみると……」
「村が壊滅状態にあった訳か……」
Trashの言葉に、男が頷く。
「そう言う事だ……」
それを聞いて、アカツキが地面を叩く。
「何だってんだっ!! くそっ!!」
その言葉を聞いた男の顔に、水滴が落ちてくる。男が見上げると、そこには泣きじゃくるDの顔があった。
「泣くな……、貴殿達は何も悪くはないのだ……。最後に私の目を覚ましてくれて、ありがとう……」
「うんなん……、言うたって……。こんなんって……、あんまりやんか……」
「もう……、良いのだよ……」
「そんな……」
「最後に……、貴殿達の名を聞かせてはくれないか……?」
男の言葉に三人が自分の名前を男に告げる。それを聞いて男が話し出した。
「DにTrashにアカツキか……。貴殿達の旅路が無事に済むよう、ささやかながら私が祈らせてもらおう……」
そう言って、男が天に向け右手を掲げた。
「我はネイヴェル族・族長……、ハイランド・ラインスター……。永久の精霊達よ……、かの者達の行く末を守りたまえ……」
すると男の右手から一筋の光が上空に昇っていく、それを見つめるTrash達。
そして三人が、再び男の方へと目を向けると。男はもう息絶えていた。
「うせやろ……、うせやろぉおおっ!!」
Dの声が洞窟内に響き渡る。
男の最後を看取ってから、しばらくの時間が経過したが。三人はその場で座り込んだまま、誰も何も話そうとはしなかった。
「……」
更にしばらくの沈黙の後、Dが話し出した。
「……こんなんて、ありなんか……? こんなんて……?」
その言葉にTrashが答えた。
「ある訳ないやろっ!!」
その言葉に反応するD。
「やったら、どないしたら良かってんっ!?」
Trashに怒鳴るD。
「うんなん、俺が知るかっ!!」
それに対して、Trashも怒鳴り返す。お互いにやり場のない怒りをぶつけ合っていた。それを見ていたアカツキが二人に言葉を掛けた。
「お前ら……、この人のお墓を造らないか……?」
その言葉に、二人の怒りが収まっていく。
「……せやな」
「そうしよか……」
そして三人は〈砂漠の宮殿イシュバーン〉に、ネイヴェル族の最後の生き残りであった。ハイランド・ラインスターのお墓を造り始めた。洞窟の中では、その音だけが響き渡っていた。




