Episode 050【グシュタポ王とアーク族の末路と】
村人が語り出す、遥か遠い過去の物語を。
緑豊かな大地が、どうして〈ダナキル砂漠〉と呼ばれる砂漠と化したのかを。
「もともと私達、アーク族は今で言うダナキル砂漠一帯で暮らしていました。以前の名は希夜の大地と言います」
「希夜の大地?」
「はい。其処は他の所とは比べ、大変綺麗な星空が見れる事で有名でした。その事が由来で其処は昔から希夜の大地と呼ばれ、皆に慕われていました」
「その緑豊かな大地が、何で砂漠になったんや?」
「それは長く続いた戦争が原因で起きた惨事なのです……」
「戦争?」
「はい。我等、アーク族とマヌス族との間で行われていた戦争です」
「マヌス族って言うたら……?」
「お前達にクエストの依頼をした村長の村だろ?」
「せやな」
「何でアーク族とマヌス族は戦争しとったん?」
「戦争が起きた原因は、とても些細な事です。マヌス族の長であるキンダス王が、我等の王であるグシュタポ様の振る舞いがマヌス族を蔑んでいるという事でした」
「何やそれ? ただのイチャモンやんけ」
「理由は何でも良かったのです。当時キンダス王は領土拡大を図っており、至る所に戦争を仕掛けしていました。そして次の標的になったのが資源豊かな希夜の大地でした」
「最悪だな、それ」
「多くの国々を支配下に置くマヌス族の王国ミリードは何千何万という大軍を引き連れて、我等の前に現れてきました」
「数で押してきたか」
「戦争か……」
「でも長く続いたって言うとったよな?」
「それは我等アーク族が魔に精通した種族だったからです」
「魔?」
「はい、私達は魔族に分類される一族の一つなのです」
「えっ!? ここの人らって、魔族なんっ!?」
「そうですよ」
「嘘だろ? どう見ても普通の人間じゃねぇか?」
「魔族と言っても、元来は人間ですから」
「え? どういうこっちゃ?」
「魔族とは元々、魔を司り民の事です。簡単に言えば魔法やその類のものです」
「そうなんっ!?」
「皆様が知っているものとは、だいぶ違うので驚かれても仕方ありません」
「って事は、アーク族は魔法で応戦したって事なのか?」
「いえ、我等アーク族は争いを好まない種族なので」
「やったら、どないしたって言うんや?」
「対物障壁魔法を希夜の大地全体に掛けたのです」
「あそこ全部にかっ!?」
「嘘やろっ!?」
「俺とトラがクソ長い事歩き通しとった、あっこの事やんな?」
「その障壁のお陰でミリードの軍勢は希夜の大地に入ってこれず、戦争状態と言っても一つの戦闘行為が行われずにきていました」
「すげぇ……」
「しかし、それでもキンダス王は諦めてはいなかったのです」
「でも、どうする事も出来ないだろ?」
「魔法以外でなら、人にはどうする事も出来なかったと思います……」
「どういう事だ?」
「我等の魔法に対処すべく、キンダス王はあらゆる事を調べていました。」
「調べる?」
「はい、古来から伝わる魔法に対する文献や伝承を」
「なるほど」
「それでも魔法以外で対処する方法が見付からなかったのです」
「すげぇ魔法やってんな、アーク族の使った魔法って」
「しかし、その中でキンダス王は思ってもなかった物を発見したのです」
「思ってもなかった物?」
「魔獣騎兵ロンデウスの事です」
「ロンデウスって、あのっ!?」
「セリンカに封印されとる巨大モンスターかっ!?」
「そんなにデカいのかよ? それって?」
「キンダス王は古来の文献の中で、太古に起きた戦争の話を読んでいました。そこに書かれていたのが魔獣騎兵ロンデウスなのです。今よりも昔、我等が希夜の大地で暮らしていたよりも遥か昔の太古の世界は。今よりも文明が発達していたと言われています。其処には我等が想像もしないような物が沢山あったとか。その中の一つが魔獣騎兵ロンデウスです。」
「人がモンスターを造ったってのかよ……?」
「おい、トラ……?」
「ヴァンの話にも似た感じのんがあったな……」
「その文献では、魔獣騎兵ロンデウスはたった七日間で大陸の全てを炎の海へと変えてしまったようです。自分を造った国も含めて全てを焼き払いました」
「そんなヤバいもんが、街のど真ん中で眠っとんのか……」
「そして魔獣騎兵ロンデウスは世界を焼き尽くしたのち、自らは深い眠りについたという事でした」
「それをキンダス王が探して、見付け出したって事か……」
「はい……」
「それで障壁魔法が壊されたって事なんやな」
「いえ、違います。王国ミリードで目を覚ました魔獣騎兵ロンデウスは、始めに王国ミリードを襲い出しました」
「見境なしだな」
「そこでグシュタポ王は希夜の大地に張っていた対物障壁魔法を解き、魔獣騎兵ロンデウスの元へと向かって行きました」
「ちょ、ちょう待ってっ!! そのただっ広い障壁魔法って、グシュタポ一人でやっとったんかっ!?」
「はい……。これは争いを好まない我等一族の仕来りで、族長以外の民は治癒などの回復魔法以外は習得しない決まりになっているのです」
「本当に俺達の知ってる魔族と全然違うな」
「そんでグシュタポ一人で、あのデカいモンスターと戦ったっていうんか?」
「はい……」
「キンダス王とかは、どないしたん?」
「全ての真実を伏せ、事の原因を我等一族の仕業だと民に流言したのです。そして自らは何処か遠くの大陸へと逃げて行きました」
「嘘やろ……」
「暴走する魔獣騎兵ロンデウスと戦い続けていたグシュタポ様の疲労は甚大なものでした。そして我等アークの民に言われたのです、それはとても苦渋の選択でした……」
「それってや……?」
「はい。セリヌンティア・カ・カーディアカ、つまり巨木セリンカに魔獣騎兵ロンデウスを封印するという事でした」
「それが苦渋の選択って、どういう事なんだ?」
「セリヌンティア・カ・カーディアカの意味は前にも述べた通り、生命を司る樹です。それは神がこの地に生物を創造する際に、恵みの樹として大地に根付かせた樹と言われ。我等はそれを守ってきていたのです」
「なんか、今のマヌス族みたいな感じやな」
「グシュタポ様の話に抵抗を覚える者も少なくはなかったのですが。それでも最後には皆、グシュタポ様の選択に同意しました」
「それでロンデウスはセリンカに封印されたって事か」
「はい」
「でも、これでやっと平和な日々に戻れるって事だろ?」
「いえ……。魔獣騎兵ロンデウスを巨木セリンカに封印した事により、緑豊かであった大地がみるみる内に砂漠と化していったのです……」
「マジでか……」
「唯一、砂漠化しなかったのがセリンカのあるアシアナの村一帯だけでした」
「そういう事か……」
「そして、そこにマヌス族の軍勢が押し寄せて来たのです」
「はぁっ!? 何でだよっ!? 守って貰っておいて、一体何考えているんだよっ!?」
「彼等には守って貰ったという気持ちは無かったでしょう。キンダス王の言葉があったので」
「くそっ!!」
「そしてグシュタポ様は残り少ない力を振り絞り、再度対物障壁魔法を掛けたのです。そしてマヌス族の誤解を解き、共存しようと説得し出しました」
「グシュタポ……」
「しかし、そこに現れたのがヤーヌです……」
「そいつが一体何をしたって言うんだ?」
「ヤーヌが何処で聞いたのかは知りませんが、我等が魔族である事を知っていました。そしてーー」
「そして?」
「何の事情も知らないヤーヌは、突然我等を襲い始めました。その理由はただ我等が魔族であるという事だけで……」
「嘘だろ……」
「ひでぇ……」
「襲い始めたって事は?」
「はい、ヤーヌには魔法が使えたのです……。広大な対物障壁魔法を二度使い、魔獣騎兵ロンデウスとの戦いもあり。グシュタポ様には、もう我等を守る力が残っていませんでした……」
「それでヤーヌに魂を異世界に飛ばされたって事か……」
「いえ……、我等は皆、ヤーヌに殺されたのです……」
『っ!?』
「これが事の真実です……」
そう言って、目から涙を零す村人。
その顔は様々な感情が入り混じった表情をしていた。
そして、そんな村人に対して三人は何一つ言葉を掛けれないでいた。




