Episode 041【王の帰還】
セトルの家の中へと案内されたTrashとDの二人。そこは外観の見た目同様に広々としており、何処かで見た南国の建物の様に風通しの良い造りになっていた。そして二人は中に入ってすぐのリビングの様な所に案内され、そこに在るソファに腰掛けた。そしてセトルは机を挟んで向かい側に在るソファに座り、二人に話始めた。
「数週間前の話です。雨も降らない、このダナキル砂漠にどんよりとした曇り雲が現れたのです。その雲は、ここから南の方角で目撃されました。また、それを見た村人達も数多く居ます。私が危惧しているのは、それが目撃された方角にあるのです」
何か心配事でもあるような表情で話すセトル。その心配事が分からない二人は、セトルの感情が読み取れないでいた。
「目撃された方角に何かあんの?」
Dの言葉にセトルは目を瞑り、その言葉を発するのさえ躊躇する様に答えた。
「砂漠の宮殿イシュバーンです……」
「宮殿?」
「はい……。宮殿と言っても、そこは洞窟なのですが。我々、マヌス一族の間では砂漠の宮殿と呼んでいます」
「洞窟が宮殿って、一体どういう事なんや?」
「これは我々、マヌス一族に言い伝えられている事なのですが。そこは黄泉の世界に繋がる場所だと言われています。」
「黄泉の世界って、あの世って事やんな? トラ」
「せやな。 それで、その事と宮殿と何が関係あんの?」
「砂漠の宮殿イシュバーンとは、その言い伝えに出てくる黄泉の世界の王が住んでいる所なのです」
セトルの話を聞き、ソファに深々と座り腕を組むTrash。
「なるほどな」
「何や、Trash? 何か分かったんか?」
「何となくな。聞いた感じによると、その黄泉の世界ってのはあんま良くない所なんやろ。それと最近目撃されたって曇り雲ってのも、何かしら関係あるんやないか。やないと長老のオッサンが、ここまでなるかいや。 そうなんやろ? セトルさん?」
「……はい。我々一族は代々、そこには近づかないようにしてきたのです」
「ほぉ。トラ、すげぇな!」
「これくらい想像つけ、ボケ!! それで、その曇り雲にはどういう意味があんの?」
Trashの言葉に、口を紡ぐセトル。その表情は段々と青ざめていった。そのセトルを見て、心配そうに立ち上がりセトルの元へ寄るD。近づくとセトルの体が震えているのが分かった。
「セトルさん? 大丈夫? どないしたん?」
「Dぃっ!」
急かすなと言わんばかりに、止めに入るTrash。そんな二人を見てセトルは、震えたままであったが話し出した。
「……気の優しい方々ですね。そのような方々に、クエストの依頼をして心が痛みます」
「そんなんは気にせんでええで」
「そそ」
「それで、曇り雲は一体何なん?」
「王の帰還……」
意を決したセトルが答えたのは「王の帰還」という言葉であった。
「王の帰還? 王って、その黄泉の世界の王って事?」
「そうです……。ここアシアナはヤーヌ様の恵みにより、村にはモンスターが近寄れないようになっています。しかし、黄泉の世界の王グシュタポやその軍勢は違います」
「どういう事や? それ?」
「グシュタポは遥か昔に、一度この世界を支配しようと黄泉の世界から大勢の軍勢を連れて現れました。それを止め、グシュタポの魂を遥か異次元へと飛ばしたのがヤーヌ様なのです。戦いに勝ったヤーヌ様ではありましたが、グシュタポの力もヤーヌ様と匹敵するぐらいだったと聞いております」
話を聞いて、少しうんざりするTrash。そんなTrashはソファに座り直し、上を見上げ頭に左手を付けた。
「また、ヤーヌか……」
「どないした? トラ?」
「いや、別に……」
Trashの様子に気付かないセトルが話しの続きを始めた。
「それでお二人にはその砂漠の宮殿に行って、何か異変が無いか調べて欲しいのです」
「それだけ?」
少し呆気に取られるD。
「そのグシュ何たらを倒してくれとかやないん?」
「そんな滅相も無い。もし何かあると分かれば、神聖ザイラーに使いを出して。あとは神聖軍に任せます」
「それは何なんや?」
「神聖ザイラーとは古くからある国の一つで、我等が神・ヤーヌ様の子孫達が築いた国です。そこの王族は古くから不思議な力を持っていると聞いています。また我等と同じように神・ヤーヌ様を信仰している所なのです」
「……なるほど。了解、そんなら俺等は何か変な事がないか調べるだけにするわ」
「ありがとうございます」
「そんじゃ」
そう言って、早々に立ち去るTrash。それに置いて行かれる形でDが後を付いて行った。セトルの家を出ると、外でTrashがDを待っていた。
「お前、何かイラついとんのこ?」
Trashの元に寄り、言葉を掛けるD。そんなTrashは言葉も返さずに、歩き始めた。
「どないしてん?」
しばらく歩いて、セトルの家の方を一度見てからDに話し始めるTrash。
「お前、どう思う?」
「何が?」
「ヤーヌって言う神の事?」
「ええ神さん、なんやないの?」
「そうかぁ? ロンデウスにしろ、グシュタポにしろ、結局倒してへんやんけ」
「まぁ、確かに」
「何か俺は、ヤーヌっての無理やわ」
「まぁ。仕事って考えたら、ええ上司ではないわな」
「やろ? お前も、そう思うやろ? 話し聞いとって、会社のアホな連中の事思い出して。すげぇイライラしたわ、その場しのぎも大概にせぇっちゅうねん!!」
「でも……、セトルさんが悪い訳やないんやしや」
Dの言葉に立ち止まるTrash。
「せやな……」
「ほんで、どないする?」
「どないするも何も洞窟へ行くんやし、その為のもんでも買い出しに行こかい」
「あいあい。あと馬な」
「わぁった、わぁった。それ終わったら、風呂でも入りに行くか」
「せやな」
そしてアシアナの中を歩き出す二人。
二人の後ろで聳え立つセリンカには夕日が射していた。




