Episode 039【砂漠の食物連鎖】
〈アンダー・アイス〉を旅立ってから、何週間か経った頃。
TrashとDは〈ダナキル砂漠〉という所をひたすら歩いていた。
「なぁ」
「……」
「なぁって」
「……」
「なぁって、言うとんやん!!」
「なんやねん!? くそ暑いねんから黙って居れんのこ、お前はっ!?」
Trashに怒鳴られるD。
「この砂漠いつまで続くんやぁ?」
「そんな事、知るか!!」
Trashの言葉にうなだれるD。
「もう歩き疲れたわぁ」
「……」
「しんどぉ」
「……」
「こん……」
Dが喋ろうとした時、食い気味でTrashが言葉を返した。
「ほんまに、お前はうるさいのぉ」
「にしても、疲れたわ」
「さっきも言うたけど、くそ暑いねんから黙っとけや!」
「俺は暑いの大丈夫やし、それよか歩き疲れてんて」
「それは何度も聞いたわ!!」
二人は日除けの為に麻で出来たフード付きのマントを羽織り、太陽からの日差しを避けていたが。それでも〈ダナキル砂漠〉の気温は暑く、Trashを苦しめていた。
「こんな事やったら、馬とかやどっかで雇っとったら良かったんやて」
「ほんまにうるさいやっちゃやのぉ。それに馬は雇うんやなくて、笛買って呼ぶんや」
「何それ!? 馬を呼ぶ笛なんかあんのこ? 何で、それ買わんかってん?」
「それなりに高いから、別に要らんやろう思たんじゃい!」
「マジでかぁ……、馬欲しかったなぁ」
肩を落とすDを見るTrash。
「なんやお前、そんなに馬に乗りたかったんこ?」
「うん……」
「馬なんか、小さい時に乗った事くらいあるやろ? 動物園的な所で」
「写真にはあるんやけど、全然その時の事覚えてへんねん……」
「あぁ……、お前アホやもんな……」
「せやねん……」
「まぁ、さすがにきついから。次、街か村見付けたら馬呼ぶ笛買おかい」
「マジで!?」
「おう」
「おっしゃ!! せやったら、先急ご!!」
Trashの言葉に先を急ぎ出すD。
しかし、しばらくしてDがまたTrashに声を掛けてきた。
「なぁ、トラ?」
「……」
「なぁって」
「……」
「なぁって、言うとんやん」
「なんやねん!? まだ何かあんのこ!?」
「やなくて、さっきから後ろに見える黒いのんて一体何や? あれ?」
Dに言われて、後ろの方を見るTrash。そこには曇り雲が砂漠の地を這うかのように黒い大きな物が、こちらに来ようとしていた。
「何や? あれ?」
「この世界特有の気象現象か何かなんかな?」
「どやろなぁ?」
その様子をしばらく眺めていた二人だったが。その正体に気付き、走り始めた。
「なんやねん、あれ!?」
「デカすぎやろ!!」
二人が見た大きな黒い物体は、全長2メートルは優に超える蟻の集団であった。その蟻の軍団が二人を目掛けて追い掛けて来ていたのである。
「アカンて、あんなん」
「たまにはキリギリス見習って、サボれよ!!」
必死に蟻から逃げる二人だったが、とうとう追いつかれてしまい。取り囲まれる二人。
「軽く200は居りそうやな」
周りの蟻を見るD。そして背中から大剣を取り出し始めた。その側でTrashも弓を構え始めていた。
「こうなったら、やるしかないな」
そして蟻のステータスを確認する二人。そのモンスターの名前はアントリアとなっており、レベル自体は二人よりも低かった。
「レベルは俺らより、低いけど」
「数がやべぇな」
そして蟻達に向かっていく二人。二人はこの旅で様々な敵との戦いを経て、キャラクターのレベルとは関係なく戦闘に関して上手くなってきていた。次々とアントリアを倒していくTrashとD。
「D、こいつらの攻撃受け流すか躱すかにしろ!」
アントリアの攻撃を避けながら、Trashが叫ぶ。
「せやな! こいつら蟻だけあって、めっちゃ力は強いな!」
Trashに言葉を返しながら、アントリアの攻撃を大剣で受け流すD。
二人の戦いは、少し変わっていた。それは関西人の性なのか? 二人特有の物なのか?
よく分からなかったが。二人はどんな戦いにおいても、ずっとお互いに喋り合っていたのであった。
「こんなデカい蟻さんも、やっぱ女王蟻の言う事には逆らえへんねやろな」
「ヤやのぉ。俺は絶対、女のケツには敷かれたくないわ」
「こんだけ働き蟻がデカいと、女王蟻もバカデカいんやろな?」
「……想像してもうたやんけ、キモい事言うなや」
そうこうしている内にどんどんとアントリアを倒していく二人。
「だいぶ数減ってきたな?」
「このままスキル温存して、最後まで行くぞ」
「おうよ」
すると二人とアントリアの周りの砂が渦を巻き始めた。その渦は至る所で現れだした。
「おい、これって……」
「やろな……」
二人の想像通り、そこから現れたのは蟻地獄の形をしたモンスター達であった。
「なんやねん!? この虫祭りはぁ!?」
「さすがにあんなんに飲まれたら、どうしようもないぞ!!」
渦から出てきたモンスター達は、まず倒れているアントリアから渦の中へと取り込み始めた。その様子を見て、騒ぎ始めるアントリア達。
「今のうちに逃げっぞ!!」
Trashの呼びかけに、Dが走り出した。それを見てTrashも、その場から走り去っていく。なんとか逃げ切る事が出来た二人は、岩場の陰になった所で腰を下ろし休んでいた。
「ここのモンスターって、虫みたいなんばっかやの」
うんざりした声でTrashに話し掛けるD。
「せやの。最初のうちは、デザートワームばっか出てきたもんな」
同じようにTrashが、それに応えた。
「とりあえず日も暮れだしよるから、今日はここでテントやな」
そう言って、鞄を開けテントの用意をし始めるTrash。それにDが "せやな" と応え、鞄を開け始めた。何度もテントを張ってきた二人は、手際良く作業を進めた。この旅で、二人にはある程度の役割分担も出来ていた。Dは全く料理が出来ないので、料理に関してはTrashが全てを行なっていた。その代わり、Dは洗い物全般を行っていたりしていた。
Trashが料理をするのを見るD。
「お前、凄いよな」
「何が?」
「いや、料理出来るやん」
「こんなん料理言う程の物ちゃうやろ?」
「いや、それでも俺には絶対出来ひんからな」
「せやな。一回、お前の作ったもんがどんなもんか試しに食うてみたけど。あれは最悪やったな」
「やろ!?」
「あんなん、食費の無駄になってまうからな」
「ほんまそれな」
「ほれ、出来たぞ。皿出せ、皿」
「あいあい」
日が暮れた空を見ながら、ご飯を食べる二人。
「ここ来る前に居った街から、何日経ったんや?」
肉を頬張りながら、Trashに話し掛けるD。
「さあのぉ? 10日くらいかな?」
「普通の生活やったら考えられへんくらい、風呂入ってへんの俺ら」
「やな。その割にはあんまし汚れとる感じもせんけどな」
「それ、俺も思た。やっぱ、この世界独特のもんかな?」
「どやろな? まぁ、明日には村に着くけどな」
「そうなん?」
「お前、相変わらず地図見ぃへんのぉ。もう地図に、村の名前出てきとるぞ」
「せやったんか」
「それにしても、俺らがこんな旅しとるけど。フェーの奴は大丈夫なんかの?」
「女性に風呂無しは可哀想やな」
「また会うた時にフェーから色々話し聞こか」
「せやな。椿さんとはどうなったとかな」
そう言って、笑う二人。
そんな二人の上には壮大な星空が広がっていた。




