Episode 037【それぞれの旅立ち】
昨夜の喧騒が嘘の様に、今朝はいつもより太陽が昇ったのが早いかの様に。空は明るく、青空が広がっていた。宿屋〈セブンハウス〉も当然の様に、その明かりに照らされていた。
その部屋の一室で寝ていたDが目を覚ました。目を覚ましたDは上半身を起こして、辺りを見渡す。そこにはTrashの姿は無かった。
(もう起きてんのか、早えなぁ……。ってか、顔痛ぇ……)
自分の左頬を手で摩るD。昨夜のフェルによる騒動の際に、Dはフェルに至る所を殴られていた。
(フェルって、ほんま酒が入ると危ねぇな……)
ベットから起き上がり、窓の方へと向かうD。そして、そこから見える空を見上げるD。
(にしても……)
「ええ朝やなぁ! ……ふわぁ」
両手を上に伸ばし、大きくアクビをするD。
Trashが食堂で朝食を摂りながら、宿屋に配達された新聞を読んでいると。そこに頭を抱えながらフェルが現れた。
「よう、フェー。……はぁまはぁは、だいひひょうふか?」
口に食べ物を突っ込みながら、Trashが話し掛けてきた。
「……。とりあえず口の中の物、食べきりなよ」
そして、頭を抱えながらフェルはTrashが居るテーブルに席に着いた。
「ああ……、頭痛い」
フェルの所に店主が訪れ、注文を取りに来た。フェルはいつものメニューを頼み、出された水を手に取った。
「なぁ、フェー。お前は二度と酒飲むな」
水を飲むフェルに、Trashが話し掛けてきた。その言葉の意味が分からないフェルは、頭が痛い事もあり不機嫌そうにTrashに聞き返した。
「なんで?」
「お前、ほんまに何も覚えてへんのこ?」
Trashの言葉が理解出来ないフェルは、眉間に皺を寄せ。何か忘れていないか思い出そうとした。そんな所にDが頬を押さえながら、現れた。
「あぁ……、痛ぇ……」
「ちょうど、ええわ」
そう言って、Dを目にしたTrashは。Dを捕まえ自分の座る席の隣にDを座らせた。そしてDの顔を掴み、その左頬を指差しながらフェルに話した。
「これ、お前がしたんやぞ。あと、こことここも。他にはこことか。腐るほど、あっぞ」
それでも、一体何の事か分からないフェル。
「D、どういう事?」
フェルの言葉を聞いて、Trashの方を向くD。そんなDに対して、Trashは「もう、言うとったれ」と言葉を掛けた。その言葉を聞いて、フェルの方を向くD。
「前も同じような事あったやろ? フェルが頭痛い日に、俺が身体中痛めとる事」
「……あったね」
「あれや、フェルが酒場で酒飲んで暴れまくった所為やねん」
「えっ!? うそっ!? 本当なの、それ?」
フェルの言葉に恐る恐る答えるD。
「マジで……。俺のアクェンが、フェルのグーパンチ一発で壊されたわ。ぶっちゃけ、あん時のフェルってウォーリアの俺よか腕力あるわ。絶対」
Dの言葉に呆然とするフェル。そこにTrashが話し掛けた。
「って事やから。お前は二度と酒飲むなよ、フェー。あとついでに言うとくけど、お前のその頭痛はただの二日酔いなだけやからっ!!」
Trashの声で、頭を抱えるフェル。
「分かったから、大声出さないで」
その後、三人は雑談をしながら朝食を摂った。
「ほんなら、新しい装備に着替えて。出発の準備でもすっかな」
席を立つTrash、そのTrashにDとフェルも続いた。
「そだね」
「今日まで大事に置いとった新装備、やっと着れるんかぁ」
そして各々、部屋に戻って行った。
ーー
分厚い壁に囲まれた街〈要塞都市グアダル〉
その荒々しくも堅牢な外見とは裏腹に、街の中は他の街と何ら変わらないように見えた。街の中を歩く人々、その中にはモンスタースレイヤーの姿も確認出来た。そして、その中のモンスタースレイヤーの一人が嬉しそうに街を歩いている。
「ギキ、待ってよぉ!!」
そのモンスタースレイヤーに、男のモンスタースレイヤーが追いかけてきた。
「僕が話してるのに、先々進んで。僕の話聞いてる、ギキ?」
男の声に反応する、ギキと呼ばれた女性。
「ごめん、ごめん。私のフレンドが、今日この街を目指して出発するらしいんだって」
「ああ、セネルさんから教えてもらったの?」
「そうなの。セネルさんのフレさんも、私のフレンドと一緒に来るみたいで。その人がセネルさんにチャットしたんだって」
「フェルさん? だったっけ?」
「うん。早く会いたいなぁ」
「良いなぁ……」
そう言って、下を俯く男のモンスタースレイヤー。
「カピ? どうしたの? カピのフレさんも、今こっちに向かってるんでしょ?」
「そうなんだけど。僕の場合はギキのとは少し違うんだよ」
そう言って、ため息を吐く男のモンスタースレイヤー。
「カピさん? カピパラさん? 意味が分かりませんよう」
そんなギキの言葉に答えるカピパラ。
「前にも言ってたけど。こっちに向かってる僕のフレって、一人は幼馴染で。もう一人は、そのフレと遊んでたオンラインゲームで知り合った人なんでけど。」
「だったよね。それで二人とも凄く上手いんでしょ?」
「うん。で、その二人はテスト・ユーザーで。先にこの世界に来てるんだけど……」
そして落ち込むカピパラ。
「それが、どうかしたの?」
「前に三人で遊んだゲームで、鍛えてあげるって言われて。散々、シゴかれたんだよね……」
「でも、それでカピも上手くなったんでしょ?」
ギキの顔を見て、また落ち込むカピパラ。
「そうなんだけどさ。今はこんなんじゃん」
そう言って、両手を広げて自分の体をギキの方に向けるカピパラ。
「そっか。今はゲームの時と違って、実際の肉体で行う事になるのか」
「そうなんだよぉ……」
そして、またまた落ち込むカピパラ。それを見かねたギキが声を掛けた。
「男の子が、いつまでもグズグズしない!!」
ギキに叱咤され、驚くカピパラ。
「……ギキ。これでも僕、結構なオッサンだよ」
「あ! そうだったね。まあ、どっちでも良いじゃん」
そして〈要塞都市グアダル〉の街にギキの笑い声が響く。
ーー
新しい装備品を身に纏うTrashとD。
「どや!!」
DがTrashに自分の姿を見せてくる。それを見るTrashの額には、幾つかの血管が浮かんでいた。
「お前な……。後、何回それしたら気ぃ済むんや!? もう結構前から鬱陶しいわ!! ボケェ!!」
「うんな事言うなや。新しいバッシュおろした時は、嬉しくて誰かに見せたくなるやろ?」
「うんな事はわぁっとら!! 俺が言うてんのは、しつこいっちゅうこっちゃ!!」
「ったく。ノリ悪いのぉ……」
「アホっ!! もう、ノリの範疇超えとるわ!!」
「でも、ええない?」
「何がぁ!?」
「この装備。武器のマイノリティに、この防具のロイヤル・シリーズ。もう完全に剣士って感じやん」
「嬉しそうやのぉ。言うとくけど、マイノリティやなしにマリグニティやからな。その大剣」
「え!? マジで?」
「こんなんで嘘言うて、誰が得すんねん」
「ほんまや!! マリグニティって書いてあるわっ!!」
自分のステータスを確認して、Dが声を上げる。
「うんな事言うとらんと。早よ、外出るぞ」
Trashに言われて、準備を進めるD。
〈セブンハウス〉から出ると、そこにはフェルが二人を待っていた。
「もう!! 遅いよ!! 待ちくたびれたじゃん!!」
二人を目にして、フェルが声を掛けてきた。
「悪りぃ、フェー。こいつの鬱陶しいのんに付き合うてたら、遅うなってもた」
「ごめんな、フェル」
「どうせ、そんな事だろうと思ってたよ。本当にDアホだな!!」
「やから、ごめんって言うとるやろぉ!?」
そこにベルキンと椿が三人の元に現れた。
「いよいよ、ですね」
Trashに話し掛けるベルキン。
「どっかのアホの所為で、えらい遅うなってもたけどな」
そしてDを見る、Trash。
「その事に関しても、もう謝ったやろ!?」
そんな三人を余所に椿がフェルに話し掛ける。
「ヤッホー!! フェルちゃあん!!」
そして、そのままフェルに抱き付く椿。
「トラくんもDくんも、安心して良いよ。私がちゃんとフェルちゃんを守ってあげるから」
そう言って、フェルの頭を撫で回す椿を見るTrashとD。
(いや……、それが逆に心配なんやんか……)
「ほんなら、行くか」
Trashが皆に声を掛ける。
「せやな」
それに答えるD。
「四人とも気を付けてくださいね」
心配するベルキン、それでも笑顔で皆を見ていた。
「トラもDも頑張ってね」
フェルがいつもの様に二人に声を掛ける。
「フェルちゃんの事は任せなさい」
相変わらずフェルの頭を撫で回す椿。
「おっしゃ!! ほんなら、行きまっか!!」
〈アンダー・アイス〉の空にTrashの声が響く。そしてTrashとDは西門の方へ、フェルと椿は南門の方へと歩き出して行った。その足取りは、この世界〈ワンダー・クロニクル〉に来た時とは違い。はっきりとした意志があった。その背中を見送るベルキンは、太陽に祈った。
「どうか、無事に皆が目的の場所に辿り着けますように」




