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ワンダー・クロニクル  作者: Erde
第一部【出会いと別れ、そして旅立ちと】
37/76

Episode 037【それぞれの旅立ち】

 昨夜の喧騒が嘘の様に、今朝はいつもより太陽が昇ったのが早いかの様に。空は明るく、青空が広がっていた。宿屋〈セブンハウス〉も当然の様に、その明かりに照らされていた。

 その部屋の一室で寝ていたDが目を覚ました。目を覚ましたDは上半身を起こして、辺りを見渡す。そこにはTrashの姿は無かった。


(もう起きてんのか、早えなぁ……。ってか、顔痛ぇ……)


 自分の左頬を手で摩るD。昨夜のフェルによる騒動の際に、Dはフェルに至る所を殴られていた。


(フェルって、ほんま酒が入ると危ねぇな……)


 ベットから起き上がり、窓の方へと向かうD。そして、そこから見える空を見上げるD。


(にしても……)


「ええ朝やなぁ! ……ふわぁ」


 両手を上に伸ばし、大きくアクビをするD。




 Trashが食堂で朝食を摂りながら、宿屋に配達された新聞を読んでいると。そこに頭を抱えながらフェルが現れた。


「よう、フェー。……はぁまはぁは、だいひひょうふか?」


 口に食べ物を突っ込みながら、Trashが話し掛けてきた。


「……。とりあえず口の中の物、食べきりなよ」


 そして、頭を抱えながらフェルはTrashが居るテーブルに席に着いた。


「ああ……、頭痛い」


 フェルの所に店主が訪れ、注文を取りに来た。フェルはいつものメニューを頼み、出された水を手に取った。


「なぁ、フェー。お前は二度と酒飲むな」


 水を飲むフェルに、Trashが話し掛けてきた。その言葉の意味が分からないフェルは、頭が痛い事もあり不機嫌そうにTrashに聞き返した。


「なんで?」

「お前、ほんまに何も覚えてへんのこ?」


 Trashの言葉が理解出来ないフェルは、眉間に皺を寄せ。何か忘れていないか思い出そうとした。そんな所にDが頬を押さえながら、現れた。


「あぁ……、痛ぇ……」

「ちょうど、ええわ」


 そう言って、Dを目にしたTrashは。Dを捕まえ自分の座る席の隣にDを座らせた。そしてDの顔を掴み、その左頬を指差しながらフェルに話した。


「これ、お前がしたんやぞ。あと、こことここも。他にはこことか。腐るほど、あっぞ」


 それでも、一体何の事か分からないフェル。


「D、どういう事?」


 フェルの言葉を聞いて、Trashの方を向くD。そんなDに対して、Trashは「もう、言うとったれ」と言葉を掛けた。その言葉を聞いて、フェルの方を向くD。


「前も同じような事あったやろ? フェルが頭痛い日に、俺が身体中痛めとる事」

「……あったね」

「あれや、フェルが酒場で酒飲んで暴れまくった所為やねん」

「えっ!? うそっ!? 本当なの、それ?」


 フェルの言葉に恐る恐る答えるD。


「マジで……。俺のアクェンが、フェルのグーパンチ一発で壊されたわ。ぶっちゃけ、あん時のフェルってウォーリアの俺よか腕力あるわ。絶対」


 Dの言葉に呆然とするフェル。そこにTrashが話し掛けた。


「って事やから。お前は二度と酒飲むなよ、フェー。あとついでに言うとくけど、お前のその頭痛はただの二日酔いなだけやからっ!!」


 Trashの声で、頭を抱えるフェル。


「分かったから、大声出さないで」


 その後、三人は雑談をしながら朝食を摂った。



「ほんなら、新しい装備に着替えて。出発の準備でもすっかな」


 席を立つTrash、そのTrashにDとフェルも続いた。


「そだね」

「今日まで大事に置いとった新装備、やっと着れるんかぁ」


 そして各々、部屋に戻って行った。



ーー


 分厚い壁に囲まれた街〈要塞都市グアダル〉

 その荒々しくも堅牢な外見とは裏腹に、街の中は他の街と何ら変わらないように見えた。街の中を歩く人々、その中にはモンスタースレイヤーの姿も確認出来た。そして、その中のモンスタースレイヤーの一人が嬉しそうに街を歩いている。


「ギキ、待ってよぉ!!」


 そのモンスタースレイヤーに、男のモンスタースレイヤーが追いかけてきた。


「僕が話してるのに、先々進んで。僕の話聞いてる、ギキ?」


 男の声に反応する、ギキと呼ばれた女性。


「ごめん、ごめん。私のフレンドが、今日この街を目指して出発するらしいんだって」

「ああ、セネルさんから教えてもらったの?」

「そうなの。セネルさんのフレさんも、私のフレンドと一緒に来るみたいで。その人がセネルさんにチャットしたんだって」

「フェルさん? だったっけ?」

「うん。早く会いたいなぁ」

「良いなぁ……」


 そう言って、下を俯く男のモンスタースレイヤー。


「カピ? どうしたの? カピのフレさんも、今こっちに向かってるんでしょ?」

「そうなんだけど。僕の場合はギキのとは少し違うんだよ」


 そう言って、ため息を吐く男のモンスタースレイヤー。


「カピさん? カピパラさん? 意味が分かりませんよう」


 そんなギキの言葉に答えるカピパラ。


「前にも言ってたけど。こっちに向かってる僕のフレって、一人は幼馴染で。もう一人は、そのフレと遊んでたオンラインゲームで知り合った人なんでけど。」

「だったよね。それで二人とも凄く上手いんでしょ?」

「うん。で、その二人はテスト・ユーザーで。先にこの世界に来てるんだけど……」


 そして落ち込むカピパラ。


「それが、どうかしたの?」

「前に三人で遊んだゲームで、鍛えてあげるって言われて。散々、シゴかれたんだよね……」

「でも、それでカピも上手くなったんでしょ?」


 ギキの顔を見て、また落ち込むカピパラ。


「そうなんだけどさ。今はこんなんじゃん」


 そう言って、両手を広げて自分の体をギキの方に向けるカピパラ。


「そっか。今はゲームの時と違って、実際の肉体で行う事になるのか」

「そうなんだよぉ……」


 そして、またまた落ち込むカピパラ。それを見かねたギキが声を掛けた。


「男の子が、いつまでもグズグズしない!!」


 ギキに叱咤され、驚くカピパラ。


「……ギキ。これでも僕、結構なオッサンだよ」

「あ! そうだったね。まあ、どっちでも良いじゃん」


 そして〈要塞都市グアダル〉の街にギキの笑い声が響く。



ーー


 新しい装備品を身に纏うTrashとD。


「どや!!」


 DがTrashに自分の姿を見せてくる。それを見るTrashの額には、幾つかの血管が浮かんでいた。


「お前な……。後、何回それしたら気ぃ済むんや!? もう結構前から鬱陶しいわ!! ボケェ!!」

「うんな事言うなや。新しいバッシュおろした時は、嬉しくて誰かに見せたくなるやろ?」

「うんな事はわぁっとら!! 俺が言うてんのは、しつこいっちゅうこっちゃ!!」

「ったく。ノリ悪いのぉ……」

「アホっ!! もう、ノリの範疇超えとるわ!!」

「でも、ええない?」

「何がぁ!?」

「この装備。武器のマイノリティに、この防具のロイヤル・シリーズ。もう完全に剣士って感じやん」

「嬉しそうやのぉ。言うとくけど、マイノリティやなしにマリグニティやからな。その大剣」

「え!? マジで?」

「こんなんで嘘言うて、誰が得すんねん」

「ほんまや!! マリグニティって書いてあるわっ!!」


 自分のステータスを確認して、Dが声を上げる。


「うんな事言うとらんと。早よ、外出るぞ」


 Trashに言われて、準備を進めるD。

 〈セブンハウス〉から出ると、そこにはフェルが二人を待っていた。


「もう!! 遅いよ!! 待ちくたびれたじゃん!!」


 二人を目にして、フェルが声を掛けてきた。


「悪りぃ、フェー。こいつの鬱陶しいのんに付き合うてたら、遅うなってもた」

「ごめんな、フェル」

「どうせ、そんな事だろうと思ってたよ。本当にDアホだな!!」

「やから、ごめんって言うとるやろぉ!?」


 そこにベルキンと椿が三人の元に現れた。


「いよいよ、ですね」


 Trashに話し掛けるベルキン。


「どっかのアホの所為で、えらい遅うなってもたけどな」


 そしてDを見る、Trash。


「その事に関しても、もう謝ったやろ!?」


 そんな三人を余所に椿がフェルに話し掛ける。


「ヤッホー!! フェルちゃあん!!」


 そして、そのままフェルに抱き付く椿。


「トラくんもDくんも、安心して良いよ。私がちゃんとフェルちゃんを守ってあげるから」


 そう言って、フェルの頭を撫で回す椿を見るTrashとD。


(いや……、それが逆に心配なんやんか……)



「ほんなら、行くか」


 Trashが皆に声を掛ける。


「せやな」


 それに答えるD。


「四人とも気を付けてくださいね」


 心配するベルキン、それでも笑顔で皆を見ていた。


「トラもDも頑張ってね」


 フェルがいつもの様に二人に声を掛ける。


「フェルちゃんの事は任せなさい」


 相変わらずフェルの頭を撫で回す椿。



「おっしゃ!! ほんなら、行きまっか!!」


 〈アンダー・アイス〉の空にTrashの声が響く。そしてTrashとDは西門の方へ、フェルと椿は南門の方へと歩き出して行った。その足取りは、この世界〈ワンダー・クロニクル〉に来た時とは違い。はっきりとした意志があった。その背中を見送るベルキンは、太陽に祈った。


「どうか、無事に皆が目的の場所に辿り着けますように」






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