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ワンダー・クロニクル  作者: Erde
第一部【出会いと別れ、そして旅立ちと】
36/76

Episode 036【旅立ちの前夜とフェルの変貌と】

 「ベルキンさんトコって、人種も好みも色んな人が居るな」


 ベルキンに言葉を掛けるTrash。


「ウチのギルドは元々が英会話学校の講師達ですからね」

「それにすっかり馴染むあいつも、あいつやけど」


 〈English.Cafe.Cocoon.〉のメンバーと楽しげに話すDを見るTrash。


「Dさんの場合は、そんな事に気にすらしてない感じですからね。ジャンヌがレズだって事には、だいぶ落ち込んでいましたけど」

「まぁ、あいつはアホやからな。人種云々考えとったら、奴の脳みそが機能停止してまうし。それよりもジャンヌさんの恋愛対象外って事の方が気になって、ショックやったんやろうな」

「でも、良かったですよ。こうやってTrashさん達の送別会が出来て」


 ベルキン達が〈ギオールの酒場〉に来ていたのは、Trash達三人の送別会をする為であった。ベルキンはTrash達が酒場で食料の調達をすることを耳にし、先回りをしていたのだった。


「ベルキンさん達は今後はどうするん?」


 〈アンダー・アイス〉の地ビールを片手にTrashがベルキンに話しかけた。


「Dさんに発生したクエストの件で知った事や、Trashさんから聞いた話の事とかで。私達プレイヤー、つまり "モンスタースレイヤー" に関して謎が多い事が分かりましたので。ここを拠点に色々な所に遠征してみようと思っています」

「なるほど」

「TrashさんとDさんは、ヴァンフリートさんから聞いた研究所に向かうんですよね?」

「とりあえず、そうしようと思とる。ヴァンの言うた事やから、それなりの核心に迫れると思うし」

「その研究所って、何処に在るんですか?」

「ここから、西へ向かった所に在るみたいやわ。相当遠くの方らしいけど」

「それなら私達は西と南以外の方面を、当面は遠征しますよ」

「なるほど。それは、ありがたいな」

「フェルさんの向かうリディアス地方は、ここから南へ行った所に在るみたいですからね」


 手にしていた地ビールを飲み干し、Trashは気にしていた事をベルキンに聞き始めた。


「ところでベルキンさんはモンスタースレイヤーの真理って話、聞いた事ある?」

「モンスタースレイヤーの真理? 聞いた事ないですね」

「ギルド通信とかでも、そんな話出てきた事ないん?」

「ないですね。それって一体なんなんですか?」


 ベルキンにダビドから聞いた話をするTrash。


「モンスタースレイヤーの能力ですか? スキルとかの事ですかね? そう考えると話は通ると思いますが」

「でもネルソンとかみたいに、モンスタースレイヤー以外でも魔法を使える奴も居るからな。中には魔法以外のスキルを使える奴等も居るかもしれへんし」

「そうですねぇ……」


 話をした後に考え込む、Trashとベルキン。


「やっぱり深い意味はなくて、格言的なもんやったんかな?」

「実際のゲームでも、思わせ振りなセリフとかありますからね。ところで知ってますか?」


 ベルキンの言葉に追加した地ビールに手をやるのを止めるTrash。


「何が?」

「最近、ギルドに入るプレイヤーやギルドを設立するプレイヤーが増えていってるみたいですよ」

「前にゲッツから、デカいギルドを聞いた事はあるけど。ある程度時間が経って、他のプレイヤーも落ち着き始めたって事なんかな?」

「そうかもしれませんが。皆ここで生き抜いていく為にって感じですね」

「生き抜く? それって、具体的にどういう事なん?」

「Trashさん達はギルドに入っていないから、実感はないかもしれませんが。今この世界でギルド間による勢力争いが始まりだしていってるんですよ。主に戦闘系ギルドによる争いが多いですが。私の所は少し変わっているので、それによる被害はまだないんですが。とりあえず皆には警戒するように伝えています」

「面倒くさい事になってきよるな」

「ある地域では強引な勧誘とかもあるみたいなんで気を付けて下さいね」


 ベルキンの言葉に表情が変わるTrash。


「それって、つまり……」


 Trashの言葉を察して、ベルキンが答える。


「そうです。中には戦闘行為を仕掛けてくるプレイヤーも居るみたいです……」

「そいつ等は、死んだらどうなるかとか考えてへんのか?」

「考えてない事はないと思いますが。それよりも……」


 ベルキンが話そうとする言葉を、Trashが続けて答えた。


「自分の方が大事って事か……」

「はい。この世界ではプレイヤー・キルって呼ばれたりしています。略してPKと言う事が多いですね」

「PKね。そのままホンマに人殺しになってもうたらどないするつもりやねん、ホンマ」


 ベルキンの話を聞いて、Trashはある事に気付いた。


「それでか!! フェーの奴に椿さんを同行させたんわ」


 Trashの言葉に頷くベルキン。しかし、その顔は少し苦笑いをしていた。


「あれ? 何かちゃう?」

「そのつもりだったんですけど。その話をギルドのメンバーにする前に、椿がフェルさんについて行くって言い出したんですよ。まあ、ちょうど良かったんですけどね」


 そう言って、フェルにくっつく椿に目をやるベルキン。


「それでも、ありがたいで。何処で黒の盗賊団のリーダーみたいな、テスト・ユーザーに出会うか分からんからな。」


 その言葉にTrashの方を見るベルキン。


「その事なんですが。テスト・ユーザーの方の行方も探そうと思っているんです」

「元の世界に戻ろうとしとるテスト・ユーザーを探すって事か?」


 Trashの言葉に力強く答えるベルキン。


「はい。危険が多い事は承知していますが、テスト・ユーザーの全てが黒の盗賊団の様な人達ばかりって事でもないですから」

「確かに協力してくれる様な人が居ってくれたら、だいぶ助かるし」


 そしてベルキンは地ビールを手にとって、Trashと乾杯しようとジョッキを向けた。


「お互いの健闘を祈って」


 ベルキンの言葉に答えるTrash。


「せやな」


 そして互いのジョッキを合わせる二人。




 Trash達の送別会は、その後も続き。盛大に盛り上がっていった。しかしフェルがお酒を手にしてから、事態は一変し。〈ギオールの酒場〉に居た全ての人間を巻き込む、大きな騒ぎとなった。


「D!! もっぺんアクェンでフェーの奴どうにかしろ!!」


 そう言って、床に倒れるベルキンを起こすTrash。


「任せとけ!! アクェン!!」


 そしてフェルの方へと走っていくD。


「大丈夫か? ベルキンさん?」

「はい、なんとか」


 負傷したベルキンを安全な所に避難させるTrash。

 そこに勢いよく、Dが吹っ飛んできた。そんなDに目をやる二人。


「あかんわ、トラ。手ぇつけられへん……」


 そう言って、フェルを見るD。

 そんなフェルは楽しそうに暴れまくっていた。






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