Episode 003【必殺のど天然】
TrashとDは村を目指すべく、地図を見ていた。
現在、二人が居る場所は〈大地の傷〉と言われる所である。
マップには行った所のある場所と、そのマップ所有者を中心に距離にして約10キロ程度の範囲内のものが表示されるようになっている。また〈所持品〉のコマンドから地図を選ぶと、そのマップ所有者の内容が地図として具現化され他者にもその内容が見れる事も分かった。
「俺のマップより、お前のマップの方がまだ表示されるものが多いな。」
そう言って、Trashの地図を覗き込むD。
「言うほど変わらんけどな。」
地図を見ながら、Dに返事をするTrash。
Trashは地図を見ながら、考え事をしていた。Dにはラスボスを倒したら帰れると答えたが、次々と拡張パックが出てくるオンラインゲームにラスボスが存在するのか。この原因を起こした首謀者が本当に居るのか。また、どうして〈ワンダー・クロニクル〉の世界に来てしまったのか。それに、どうしたら現実の世界に帰れるのか。いくら考えても答えは見つからない、やはり今は情報が必要だ。Trashが村か街に行こうと言ったのは、本当は情報を得る為であった。
「おっしゃ!」
決意をあらたにするTrash。
「村か街が近くにあったんこ?」
Trashの言葉を勘違いをしてDが尋ねてきた。
「あぁ、ちょい待て。」
どうしたんだ?という表情でDがTrashを見ている。
TrashがDの言葉で再度、村か街が近くにないか探していると。そんなに遠くない場所に〈アンダー・アイス〉という街がある事が分かった。
(街やったら村よりマシな情報が得られるかもな。)
「おい、ここから北東へ行った所に街があるわ。」
「おっしゃ! ほんなら、さっそく行こや。」
「オーライ。俺が居った隠者の森を通るから、お前のマップも俺と同じになるな。」
「へぇ〜、そうなん?」
「お前、ほんまにアホやな。」
「何で?」
Dの能天気さに気が和むTrash。
イライラさせられる事もあるが、こういう所もある。
「ほんじゃ行くぞ、アホ。」
「あいあい。」
二人は一路〈アンダー・アイス〉に向けて歩き出した。
〈アンダー・アイス〉に向かう途中、いつものように二人はくだらない話ばかりしていた。
ふとDの背中に目をやるTrash。
「お前のそれって、ちゃんと鞘から抜けるんこ?」
「何がぁ?」
「その、どデカイ剣。いざって時に使えるんか?」
「あぁ、これ。普通に考えたら抜けへんねんけどや。」
そう言い出し、自分の背中をTrashに向け大剣を抜き出すD。
「ほれ、よう分からんけど。ちゃんと抜けんねん。」
目の前で起こった事と、Dの言葉を聞いて驚愕するTrash。
(はぁ!? 自分でやっといて何で分からんねん。今、剣を抜くと同時に鞘が左の方向に回転したぞ。剣が抜きやすいようになってるって事やろうけど。普通に考えて、そんな状態やったら剣がグラグラして背負ってられへんやろ。どないなっとんねん!? にしても、こいつに聞いた所でどうにもならんからなぁ。ほっとくかぁ…。)
「その剣て、両手持ちの剣なんやろ? 抜くのは片手でも出来んねんな。」
「抜ける事は抜けるんやけど、振ったり切ったりするんは両手やないと無理やわ。結構重いねん、これ。」
そう言って、Trashに大剣を渡すD。
大剣を持つなり、その重さに驚くTrash。
(なんじゃこれ!? 両手でも振ったりすんのなんか無理やぞ。あいつ、ようこんなん片手で抜けたな。さっきの鞘といい、ここがゲームの世界やからなんか? そいや地図出す時も、いきなり空中に現れたしな。)
Dに大剣を返す、Trash。
「な? 結構重いやろ?」
「せやな。」
Dに返事をしながら、自分の弓を目にやるTrash。
(って事は。一度もつこうた事ない、この弓も普通に使えたりするって事なんか? でもスキルとかはコマンドから選択せなあかんねやろな。)
そんな事を考えてるTrashの横で、腰にあるバッグから地図を取り出すD。
「お前、今何した?」
「別に何もしてへんぞ。」
「やなしに、どうやって地図出した?」
「ここから普通に地図とっただけやぞ。」
(どういう事や? さっき俺は所持品のコマンドから地図選んで出したけど。普通に取り出せるんかい。)
「お前、俺がボイチャで話ししてた時もそうやって地図出したんか?」
「そやぞ。」
(なんやこれ? よう分からんけど、ここの行動はゲームのまんまやなくてもええって事なんか? 試してみる必要があんな…。)