Episode 027【ネルソンの言葉】
〈アンダー・アイス〉を背にし、森に向かい走る二人。
その二人の後を20体近くのハウンドウルフが追いかける。
「ウォー・グリーフを、そんな風に使うなんて。そのTrashって人、よく思い付いたわね。」
隣を並走するベルキンに話しかける椿。
「本当だね。このままハウンドウルフを引き連れて、王都梯団に先回りしないと。」
「それで兵士達とハウンドウルフを鉢合わせさせるのが、ベルキンの役目なんでしょ。それ、さっきも聞いたよ。」
「そうだっけ?」
「そうだよ。それ聞いたから、ついてきてるんじゃん。」
「あ、そうだったね。」
「本当ベルキンって、たまに抜けてる所あるよね。王都梯団にハウンドウルフを鉢合わせさせるのは良しとして、アンタまで兵士達に見付かったら意味ないでしょ。」
「でも椿にしては珍しいよね。」
「何が?」
「だって椿って、他人に意外と冷たいでしょ。フェルさんにフレンドの事教えた時も、ビックリしたけど。この世界に来てから、椿変わったよね。」
「別に何も変わってないわよ。」
「じゃあ、どうして手伝ってくれてるの?」
「そのTrashって人と一緒に居るんでしょ、フェルちゃんも?」
「フェルちゃん? そりゃあ、Trashさんと一緒に盗賊達と戦ってるよ。」
「だから私は手伝ってるの。」
そう言って、嬉しそうに笑う椿。
それを見てベルキンが椿に話しかけた。
「あれ? 椿もレズだったっけ?」
「違うわよ! ジャンヌと一緒にしないでよ。」
「じゃあ、何でなの?」
「だってあの子、ちっさくて可愛いじゃない。なんか良いのよねぇ。」
「…フェルさんの前で、小さいとか言わない方が良いよ。」
「どうして?」
「結構、気にしてる感じだったから。」
「そうなんだ。可愛いのに。」
そして二人は森の中へと入って行った。
ーー
Dの腹に触れているネルソンの手から、ブリッツ・ロートが放たれる。
ブリッツ・ロートの直撃を喰らい、後方に吹き飛んでいくD。
するとDと入れ違うように、Trashがネルソンの元へと飛びかかってきた。
そして右手に持っているダガーをネルソンの顔を目掛け、突き付けようとするTrash。
近くに居たDの体が死角となり、また舞い上がる砂埃の所為で。
自分の元へと近づいてくるTrashの存在に気が付かなかったネルソン。
首を右に振りTrashの攻撃を躱そうとするが、反応が遅れた為に左頬を微かに切ってしまった。
ネルソンはTrashの右手首を掴み、前と同じように投げようとする。
「今、俺を殺せなかった事を後悔させてやる!!」
Trashを睨みつけるネルソン。
「後悔すんのは、お前じゃ、ボケェ!!」
Trashがそう言うと、ネルソンが避けた右側からTrashの左手がネルソンの顔を襲う。
ネルソンの両目を塞ぐように、ネルソンの顔を掴むTrash。
「ブラックアウトォ!!」
そしてTrashはネルソンに投げ飛ばされていった。
急に視界が真っ暗になるネルソン。
「貴様ぁ、何をしたぁ!?」
怒号をあげるネルソン。
すると今度は何かに縛られたかのように、両手足を動かす事が出来なくなるネルソン。
「フェー、奴の左腕をトリプリケートで狙え! 俺は反対側を狙う!」
Trashの声が響く。
「分かった、トラ。」
そして弓を構えるフェル。
Trashもネルソンに対して弓を構え出していた。
『トリプリケート!!』
舞い上がる砂埃を切り払いながら、Trash達が放った矢がネルソンへと向かっていく。
「がぁああああ!!」
辺りにネルソンの悲痛な叫びが轟く。
そして砂埃がはれていき、Trash達の前に完全に姿を表したネルソン。
そのネルソンの両手足は紫色をした棘の様な物が巻き付いていた。
そして腕には矢が深々と突き刺さっていおり、血が滴り落ちている。
「これで、もう奴は攻撃出来へんくなるやろ。」
緊張の糸が切れ、気を抜くTrash。
すると後方からDの声が聞こえた。
「ソードスラッシュ!!」
Trashの横を斬撃が走り去っていく。
そして、そのままネルソンに斬撃がぶつかる。
右肩から左脇にかけて、ネルソンの着ている服が破けていた。
そして、そこからは先程よりも多くの血が流れ出している。
それを見ていたTrashはDの方へと向かい、無言で殴りつける。
「お前、人殺しになりたいんこっ!?」
Dに怒るTrash。
そのTrashの顔を見たDは、俯向くように顔を下に向けTrashに謝る。
「すまん…。」
その様子を見ていたTrashの後ろから、ネルソンが倒れる音が聞こえた。
それに反応してネルソンの方を見るTrash。
ネルソンはバインドアンカーの効果が切れ、地面に崩れ落ちていた。
「僕たちがやった事だけど、これは酷いね…。」
ネルソンの変わり果てた姿を見て、フェルが話した。
「ゲームって分かってても、人を相手にするとな…。」
仰向けに倒れているネルソンを見ながら、ゲッツが答えた。
今までモンスターと幾度と戦ってきた彼等であったが、人間との戦闘は今回が初めてであり。
その結果の衝撃は、あまりにも酷かった。
倒れているネルソンの元へ歩いていくTrash。
そしてネルソンのステータスを確認する。
微かではあるものの、ネルソンのHPは残っていた。
「良かった。」
安心したように呟くTrash。
そしてTrashはネルソンに話し掛けた。
「今ここに、王都梯団の兵士達が向かって来よる。」
ネルソンは目を開け、Trashに言葉を返す。
「その連中に捕らえさせる為に殺さずにいたのか…?」
「そんなんやあらへん。俺は人殺しになりたぁないだけや。」
「甘いな…。 そんな事をしたところで俺は王都梯団の連中に捕まるよりも先に、殺されるだけだ…。」
ネルソンの言葉に驚くTrash。
「どういう事や!?」
「俺も監視されているようなものだ…。」
ネルソンがそう答えると、上空から剣の形をした赤黒い光が降ってきた。
そして光はネルソンの体を貫いた。
「ぐはぁっ!!」
Trashの前に表示されている、ネルソンのステータス。
僅かに残っていたネルソンのHPは0になっていた。
「え、何!? どういう事!?」
悲鳴にも似た声を出すフェル。
息絶えたネルソンを驚きの表情で見ているTrash。
(何なんや!? これは!?)
ーー
城内の一室で椅子に座り、肘掛に片肘をつく男。
その男は肘をついている方の拳の上に自分の顔をのせていた。
そこに別の男が入ってきて、椅子に座る男に声を掛けた。
「呼んだか?」
椅子に座る男は、部屋に入ってきた男に顔を向け答えた。
「ネルソンはしくじったみたいだ。」
「ネルソン? ああ、エルンダ地方に派遣した奴か。弱い奴だったからな。それにしても王都梯団の連中にやられるなんて、呆れて何も言えんな。」
「やったのは、この世界の住人じゃないさ。 と言っても、そいつ等はネルソンにトドメを刺さなかったがな。」
「そういう事か。」
椅子に座る男の話を聞いて、不気味に笑う男。
「この世界でいう所のサロスヌビアの変動再びだな。」
そう言って、椅子に座る男も不気味な笑みを浮かべた。
スキル説明
【バインドアンカー】
魔法の棘を発現させ、敵を一定時間拘束する魔法。




