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ワンダー・クロニクル  作者: Erde
第一部【出会いと別れ、そして旅立ちと】
23/76

Episode 023【仮初めの魔術師】

 曇り空の中、風に吹かれ木々の枝が揺れる。

建物の中からは、エイルとラムザが壊れた壁から駆け出してくる。

必死の形相の彼等は何かを叫んでいたが、一筋の雷鳴の轟音によりその声は掻き消されていた。

その雷鳴の正体である赤黒い稲妻は、地面に倒れている男に向かって一直線に走り出していた。

その男は一つも動く事なく無防備のまま、赤雷の全てを受け止める。

辺りに物凄い音と共に衝撃が轟く。


『Dっ!!』


男に赤雷が直撃してから、ようやくエイルとラムザの声が聞き取れた。

エイル達が見る先は黒い煙と砂埃が立ち込め、Dの安否が確認出来ないでいた。

しかし魔導師の男ともう一人の男だけはDの安否を把握していた。


「他に誰か居るな。」


ネルソンが誰ともなしに言葉を掛ける。

ネルソンの言葉に答えるように茂みの中からヴァンフリートが姿を現わす。

その顔は怒りの表情を浮かべていた。


「こんな所で出会えるとはな、ネルソンッ!!」


ヴァンフリートの言葉とは裏腹に、ネルソンはヴァンフリートの顔に見覚えがなかった。


「貴様は誰だ?」


ネルソンの言葉を予想していたヴァンフリートが答える。


「お前が俺の事を知らないのは当然だ。だが、あの場所に俺も居た。13年前のあの場所にっ!!」

「なるほど…。全ての動くものを削除したと思っていたのだが、壊し残しがあったのか。」

「俺はお前達を一人残らず、殺す為。今まで生きてきたんだっ!!」


鞄から幾つかの道具を取り出すヴァンフリート。

その手にあるのは、何重にも紙を貼られ丸められた爆弾のような物や色とりどりの液体が入った瓶が見えた。

ヴァンフリートは自分とネルソンの丁度真ん中辺りに、丸い包みを投げ出した。

包みが地面に当たると小さな爆発音と共に砂埃が立ち込めた。

次にヴァンフリートは緑色の液体が入った瓶の蓋を開け、その中の液体を自分に振り掛ける。

そして最後に赤色の液体を飲みほし、鞄から想像も出来ない程の大きな杖を取り出しネルソンに向かって行った。


「一言の言葉もなく、死ねっ!!」


ヴァンフリートが振り下ろす杖がネルソンを襲う。

それをネルソンが持っていた杖で受け止める。

杖がぶつかり合うと同時に大きな衝撃音が鳴る。踏ん張るネルソンの足が地面に少しめり込んだ。


「不良品ふぜいが、この俺にたてつくか。」


ヴァンフリートを振り払い、ネルソンがヴァンフリートに杖で攻撃する。

後ろに跳び、ネルソンの攻撃を躱すヴァンフリート。

それを予測していたかのように、ネルソンがヴァンフリートに向け魔法を放つ。


「とこしえに縛られし青獣よ。契約の名の下に、汝の刃となれ。 ブラウ・フローデンッ!!」


ネルソンの杖から青白い稲妻がヴァンフリートに向け放たれる。

ヴァンフリートに稲妻が直撃する。

Dに稲妻が当たったように、黒い煙と砂埃がヴェンフリートから立ちあがる。


「またか…。」


ネルソンが呟く。

そのネルソンの先には無傷のヴァンフリートが立っていた。


「なるほど。その砂埃に見える物は防魔の術式が掛けられた粉だったわけか。」


よく見るとヴァンフリートの体の周りに立ち込める防魔の粉は、ネルソンが放った稲妻を拡散し跳ね返していた。


「お前の魔法は、俺には効かない。」


ヴァンフリートの言葉を聞いて、笑いだすネルソン。


「不良品が、笑わせてくれる。その程度の術式で俺の魔法の全てを防げると思っているのか?」

「俺の名前はヴァンフリートだ!! 不良品じゃねぇ!! 喰らえ、 クラレ・ローエンッ!!」


ヴァンフリートの杖から獣の爪の形をした炎がネルソンに向け放たれる。


「不良品ふぜいが魔法だと? しかし、この粉の中で魔法を出すとはさすが不良品だな。」


しかし炎は防魔の粉に拡散される事なく、そのままネルソンに向かってきた。


「何だと?」


クラレ・ローエンをまともに喰らうネルソン。

燃え上がるネルソンに向け、ヴァンフリートが言い放つ。


「謎に包まれたまま、死ね。」


そしてDの所に向かうヴァンフリート。


「俺を怒らせるなよ、貴様。」


背後から聞こえた言葉に振り返るヴァンフリート。

そこにはネルソンが立っていた。

多少の火傷が見てとれたが、大きな怪我はしていなかった。


「俺のクラレ・ローエンがまともに当たったはずなのに…。」

「術者でないお前の魔法で俺を殺せると思ってたのか?」


驚きに満ちた表情を浮かべるヴァンフリート。

その顔には赤い蛍光色の筋が走っていた。


「その顔の紋様。先程、貴様が飲んだ液体は "仮初めの魔術師" だったのだな。そして…。」


辺りを見渡すネルソン。

周りには防魔の粉が舞っていたが、よく見るとそれはヴァンフリートの周りにだけ舞っていた。


「体に振りかけたのは "招聘の霊薬" だったのか。どちらも変わった色をしていたので初めは気付かなかったが、どうやら独学で作ったようだな。」


身構えるヴァンフリート。


「それが分かったところで、お前の魔法は俺には届かない。一撃で倒せないなら、何度でも喰らわせてやるだけだ。」


ヴァンフリートに対して無防備に立った状態でいるネルソン。


「クラレ・ローエンッ!!」


再度、ネルソンに炎の爪が襲いかかる。


「シルト。」


ネルソンが呟く。

するとネルソンの前に半透明の白い盾のような障壁が現れた。

その障壁により、ヴァンフリートの放ったクラレ・ローエンが防がれる。


「クソッ!」

「もう一度、お前の自慢の魔法を放ってみるか? その偽りの魔法を。」


ネルソンの言葉を聞くヴァンフリートの顔は、先程よりも赤い筋が増えていた。

そしてヴァンフリートの息遣いも段々と荒くなり始めていた。

そんなヴァンフリートの顔を掴むネルソン。


「所詮は、不良品は不良品なのさ。」


ヴァンフリートの後頭部を地面に叩きつけるネルソン。

ヴァンフリートは仰向けになった状態で倒れる。

その様子を声も出せず、ただ呆然と見る事しか出来ないでいたエイルとラムザ。

そんな二人にネルソンが声を掛ける。


「お前達、これを燃やしておけ。」


そしてネルソンは建物に向かい歩き出していく。


「 "これ" やない。」


言葉のした方を向くネルソン。

そこには大剣に寄りかかりながら立っているDが居た。


「やはりトドメを刺しておくべきだったか。」

「ヴァンフリートはヴァンフリートや!」

「お前、やっぱりうるさいよ。」


大剣を手に取り、ネルソンに向かい走り出していくD。

ネルソンの杖には再び、ブリッツ・ロートの光が走っていた。






スキル説明


【ブラウ・フローデン】

攻撃魔法の一つで、青白い稲妻が単体の敵を襲う。

※モンスタースレイヤーであるプレイヤーは適応した職業であれば、Lvに応じて習得が可能。しかしNPCが魔法を使うには、それぞれの精霊や獣魔などと契約する必要がある。そしてNPCが魔術師になるには、その為の鍛錬と知識が必要になり。その過程を経た上で魔術師による洗礼を受け、魔術師としての能力が解放される。


【ブリッツ・ロート】

攻撃魔法の一つで、赤黒い稲妻が敵を襲う。威力はブラウ・フローデンより高い。また敵一体に与えるダメージは減るが複数の敵にも攻撃が可能である。


【クラレ・ローエン】

攻撃魔法の一つで、獣の爪の形をした炎が単体の敵を襲う。


【シルト】

防御魔法の一つ。自分の前に白い半透明の盾の形をした障壁をはり、相手の攻撃魔法を防ぐ。一度、魔法を防ぐと障壁は砕けちり効果は無くなる。また術者の能力に合わせて障壁の強度も変わるので、完全に防ぎ切れない事もある。



アイテム説明


【防魔の粉】

魔術師により防魔の術式が施された粉。この粉が舞っている所に魔法を放っても、その魔法は拡散され跳ね返される。対魔法に用いるアイテムで、その携帯様式は様々である。


【仮初めの魔術師】

魔術師ではない者が、ある一定期間だけ魔法が使えるようになるアイテム。仮初めの魔術師を飲んだ者には、その液体に応じた色の紋様が体に浮かぶ。使用出来る魔法は一つのみであり、魔術師が放つ魔法に比べると威力や効果などは劣る。また魔法を使用する毎に体力が消耗される。仮初めの魔術師は複数の種類があり、それぞれに正式な名前が付いているが総称として「仮初めの魔術師」と呼ばれる事が多い。


【招聘の霊薬】

体に振り掛ける事により、防魔の粉を自身の体の周りに引き寄せる事が出来るアイテム。防魔の粉が作られ使用されてきたが。辺りに舞う粉は敵の魔法だけでなく、自身の発動させる魔法自体も拡散させてしまうという欠点があった。また粉が薄い所では魔法が上手く拡散されず、そのまま魔法を受けてしまうという欠点もあり。効率よく敵の魔法を防ぐ目的で、考え作り出されたアイテムである。

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