Episode 002【金髪男と確認と】
話題沸騰のゲーム〈ワンダー・クロニクル〉を始めた土居。
しかし、オープニングムービーを見終えると周りの景色が一変していた。
辺りを見渡すD。
そこは辺り一面、草原が続いていた。空は晴れ渡り、太陽の光が輝いている。
一通り辺りを見渡した後、Dは自分の体を触り始めた。
そして体を触り終えると、その場に座り込み何かを考え始めた。
(どないなってんの? これって、アニメとかで良くあるやつやん。ホンマにそうなん? そういう感じなん?)
Dはある事を考えていた。最近のアニメで良くある内容「ゲームの世界に入ってしまう」または「ゲームと良く似た世界に連れてこられる」といったものである。そしてもう一つ、さっきとは全く関係なく。ゲーム自体がこういう仕様なのか?などと考えていた。そして考えた結果。
(どれにしろ、ここの操作に慣れとかなあかんな。)
という事であった。
そして色々と試してみることにした。メニューの出し方、アイテムの使い方、装備品の確認など。
まずはじめにメニュー画面を開こうとした。これを開かない事には何も始まらない。
(説明書ではスタートボタンを押せば、確かメニューが開いたはず。………そんなもんねぇよ。どないしたらええねん!)
Dがそう思うのは、当たり前の事だった。先ほどまで手にしていたコントローラーが何処にも無いのだから。
しかしメニューを開かない事には何も始まらない、Dはどうすれば良いのか考えていた。
(こういうのは、メニューって念じたらええんやないか。)
そう思ったDは、集中し頭の中でメニューと念じてみた。
すると眼の前にメニュー画面が現れた。
(うお、ホンマに出た。空中にやや透明のメニュー画面が浮かんでる感じやな。顔動かしてみてもついてくるし。)
メニュー画面が開けたDはアイテムや装備品、ステータスなどを見てみた。
現在所持しているアイテムは「癒しの薬」が5個と「魔法の薬」が2個。装備品は武器が「グレートソード」に防具が「レザーアーマー」「レザーパンツ」「レザーグローブ」「レザーブーツ」。レベルは1で職業がウォーリア。
ゲーム初期にありがちな所持品や内容ばかりであった。
Dはメニューの中にある項目を見始めた。その中には「生産」や「クエスト」「スキル」など色々とあった。その中でDは一つの項目に目をやった。それは「フレンド」という項目。
(そいや、英臣がフレンドとかって言うてたな。)
フレンドの項目を押してみると「フレンドリスト」が開かれた。しかし、リストの中には誰の名前も書かれていなかった。
(変やな、誰の名前も書いてあらへんやん。)
Dがそう思っていると。電話がなるような音がして、それと同時に眼の前にボイスチャット「Trash」と書かれた項目が現れた。とりあえず、その項目を押してみるD。
『おーい。アホ、生きとるかぁ?』
イヤホンもしていないのに英臣の声が聞こえてきた。
『おーい、死んでもうたかぁ?』
Dはどう会話していいのか悩んだが、とりあえず普通に声を出して話してみることにした。
「お前、英臣か?」
『おう、生きとったか。ここでは〈Trash〉って呼べ、誰に知られるか分からんからんな。』
「うんじゃ、トラ吉。」
『アホぉ、これ気に入っとんねんから。そんな呼び方すなっ!!』
「じゃあ、トラで。」
『まぁ、それで許しといたろ。ところでお前、今どこに居る?』
「わっけ分からんトコ居るぞ。」
『そやなしに、どんな感じの所に居んねんって事や。』
「ただっ広い草原に居るけど。お前は何処に居んねん?」
『全員が同じ所に飛ばされる訳ではないんやな。』
「どゆこっちゃ?」
『俺は変な森の中に居る。マップで見たら〈隠者の森〉って書いてある所や。』
「マップ?」
『お前、メニュー画面とか開けるこ?』
「開けるぞ。」
『せやったら、同じ感じでマップって思ってみろ。』
Trashにそう言われ、マップと思ってみると。メニュー画面を開いた時と同じように眼の前にマップが現れた。
「おぉ、マップが出てきたわ。」
『そこに緑色の三角形があるやろ? それがお前を表しとって、ある程度の周辺地域の名前が出てへんこ? あとマップの拡大縮小も出来るから、この世界の全体も見れるはずやわ。』
「へぇ〜、そうなんか。」
『でも行ったことがないからかどうなんか分からんけど。自分の周辺以外は何も表示されてへんけどな。お前のマップに隠者の森って表記されとるこ?』
「隠者の森ねぇ…。あっ! あったわ。」
『そんな遠くに離れとる訳やないんやな。お前の居る所は何て書いてある?』
「う〜んっと、〈大地の傷〉って書いてあるぞ。何で傷なんや? ここ草原やのに。」
『まぁ、何か意味があるんとちゃうか? 〈大地の傷〉って事は、ここから南西の方角に居るって事やな。すぐ近くやな、今からそっち行くわ。』
Trashがそう言うとボイスチャットが切れた。
しばらく待っていると、Dはある事に気付いた。この世界にも時間の流れがあるのか、段々と日が傾いている事に。
(よう出来てんなぁ。今何時なんやろ?)
そんな事を思っていると、遠くの方から誰かが歩いてくるのが見えた。
金髪の男で腰にダガーを二つ提げ、背中には弓と矢を背負っている。背丈は自分よりも少し低いくらいだろう。
服装は同じ物を着ているように見える。髪の毛は短くもなく長くもなくといったところか。
その男が段々とこっちに近づいてくる。
「お前、まんまやな。おかげですぐ分かったわ。」
金髪の男がそう言うと草原に腰を下ろした。
Dは、その男の声を良く知っていた。聞きなれた声であった。
「その声って。お前、英臣か!?」
「今はTrashな。」
目の前に現れた男は英臣が作ったキャラクターだった。
外見は英臣でないが、声は英臣のままであった。
「お前、そんなキャラにしたんか。誰が来よんねやろ?って思ったわ。」
「ここに来る途中に色々試してみたけど。相手のことを集中して見たら、名前とか出るぞ。」
「マジで?」
「試しに俺でやってみろや。」
Dは言われたように、Trashを見てみた。
するとTrashの頭の上に名前とHP、MPが表示された。
「すごいな!」
「敵に出会ってへんから、どう戦ってええんか分からんけど。普通に剣とかは振れるしな。」
「そうなんや。それよか、ここって何処なん?」
「さぁ、よう分からん。ワンダー・クロニクルの世界によう似とるけど。」
「最近のゲームって、実体験出来るようになってんのか?」
「アホぉ、科学はまだそこまで進化しとらんわい。」
「やったら、何かしらの理由でワンダー・クロニクルの世界に入ってもうたって事か?」
「そう考えんのが一番やろな。」
「どないしたらええんやろな?」
「まぁ、こういうのはラスボス倒したらゲーム終了って感じか。誰かしらの仕業やったら、そいつから連絡来るやろ。」
「そやな。とりあえず、ゲーム続けな先に進まんか。」
「多分な。ゲーム進めながら元に戻る方法でも探そうや。」
Trashがそう言うと。今度は、お互いのキャラクターの職業を確認しておこうという事になった。
Trashが言うには職業はそれぞれ特色があるらしい。Dの職業であるウォーリアは両手持ちの武器が装備出来る。攻撃力やHPは高く接近戦に長けている。また重装備が可能な職業であり、パーティーの中でも前衛で活躍する職業である。しかし両手持ち以外の武器は装備出来ず、盾は装備出来ない。また両手持ちの武器は一撃一撃の攻撃力が高い分、小回りがきかず連続しての攻撃が苦手である。Trashの職業はストライダーである。HPやMPは平均的なものだが機動力は高く、ナイフやダガーといった武器を二刀で装備し手数の多い攻撃が得意である。また弓矢による遠距離からの攻撃も可能である。パーティーの中では前衛でも後衛でも活躍する事が出来る。ウォーリアと同じく盾は装備出来ないが、その分 回避力は高い。しかし武器を二刀出来る反面、装備出来る武器自体が小物な為に一撃による攻撃力は高くない。また弓矢による攻撃もターゲットと離れすぎると、攻撃力は弱くなってしまう。
この他にも様々な職業があり、また職業にも下位職・上位職が存在する。上位職は下位職から派生していくが、下位職の熟練度を満たし尚且つ特定のアイテムが必要になってくる。
「色々とあんねんなぁ。」
「どうせ、お前はそのデカい武器で暴れ倒そうとしか思ってへんだんやろ?」
Trashにそう言われ、その通りと言わんばかりに笑うD。
Trashは呆れながら話を続けた。
「とりあえず、村か街を探すか。拠点が無いことにはレベル上げるんも大変やさかい。」
「そやな。」
「戦い方も行く途中に覚えていったらええやろ。」
そして二人は話し終えると、立ち上がり歩き始めた。