Episode 017【サロスヌビアの変動】
月が輝く真夜中の空の下、王都梯団専用地区の中を走り抜ける人影がある。
「指揮官室には、もうすぐで着くんか?」
その中の一人が誰かに話しかける。
「あそこの建物の中に、指揮官室があるはずだ。」
話しかけられた人物が答える。そして、そこに向け走り出す。
D達は何とか無事に王都梯団専用地区の中に潜入する事に成功していた。
4人は指揮官室がある建物の中に入っていく。
建物の中にも警護の兵士達は居るものの、4人はその警護の中をくぐり抜けていく。
「あそこだ。」
エイルが指揮官室を見付け、皆に声を掛ける。
そして用心深く、指揮官室のドアを開けるエイル。
ドアを開けてみると、意外にもそこには誰も居なかった。
「はぁ、何とかここまで来れたな。」
Dが一息吐く。
「あとはルーンダイヤを見付けて、ここから抜け出すだけだな。」
周りを警戒しつつラムザが答える、そして4人は部屋の中を探し始めた。
部屋の中は様々な物が置かれていた。その中には〈アンダー・アイス〉に関する資料や、他の国の情勢などが書かれた書類などがあった。その中の一つを手に取るD。
「なんやこれ?」
Dが手に取ったのは〈アンダー・アイス〉の事が書かれた物であった。
「地中深くに封印されたモノに関する報告書?」
手に取った資料の表紙に書かれた文字を読むD。
それにルーンダイヤを探しながらエイルが答える。
「本当かどうか分からないが、この街の地中深くには巨大なモンスターが魔法の氷で封印されてるって伝説があるのさ。王都梯団の奴等は、そんな事まで調べてるみたいだな。」
二人の話に割って入るラムザ。
「そんな事してねえで、早く見付けて。ここを出るぞ。」
そして再度ルーンダイヤを探し始めるD。
ルーンダイヤを探している中、Dがある箱を手に取った時。突然、Dの頭上から柵が落ちてきた。
「しまった! 罠か!!」
それを見てラムザが叫ぶ。
「クソッ!! 逃げるぞ、お前達。」
エイルがラムザとアリシアに声を掛け、指揮官室から出ていく。
それを見てDが声を掛ける。
「ちょ、待って!!」
その声に部屋から出ようとしたアリシアが振り返りDに声を掛けた。
「あなた、まだ本当に私達が王都梯団の奴等に親の形見を取られた兄妹だと思っているの?」
その言葉に戸惑うD。
「私達の正体はある盗賊団の一味よ。街の中で王都梯団の奴等に囲まれていた時も、あいつらが私の事を怪しみ取り調べようとしてただけよ。本当にここまで他人を信じるなんて、お人好しにも程があるわよ。」
Dにそう言い残しアリシアが部屋から出て行った。
アリシアの言葉を聞いて呆然とするD。そして部屋の中に大勢の兵士達が駆け込んできた。
ーーDとのチャットを終え、商業地区の中を歩くTrash。
Trashは〈アンダー・アイス〉の住人の何人かに話を聞いて回っていたが、何一つ役立つ情報は得られていなかった。
(街の人らも、俺らがようさん現れた事に対して不思議がっとるけど。それが何でかまでは分かっとらんみたいやな。)
今まで聞いた内容を思い出し、考えをまとめるTrash。
(それにしても、今日色んな人と話して思たけど。確かにDの言うた通り、NPCって言うより普通に人間な感じやな。)
街の住人達を眺めるTrash。
すると一人の男がTrashに声を掛けてきた。
「アンタか? 此処の住人に話を聞いて回っているっていう、モンスタースレイヤーは?」
Trashが男の方に目をやる。
少し長めの赤毛をした、その男からは少し怪しげな雰囲気を感じた。
そして警戒しながら、Trashが言葉を返す。
「なんや? お前。」
Trashの言葉を聞いて、慌てて言葉を返す男。
「待て待て、俺は怪しい者ではない。」
「そんなん言う奴が、一番怪しいわ。」
Trashの言葉を聞いて、納得する男。
「そう言われたら、そうやけど。本当に俺は怪しくはないから。」
「そんなら、それを地面に置け。そしたら信じたろ。」
男が手に持っている杖を見てTrashが答える。
「それで信じてもらえるなら。」
そう言って、持っていた杖を置く男。
「これだけで良いのか?」
男の言葉を聞いて、聞き返すTrash。
「どゆことや?」
Trashの言葉を聞いて、男は提げていた鞄から爆弾の様な物を取り出した。
「例えば、こんなんとか?」
「何で、そんなん持っとんねん?」
「護身用に?」
「もう何でも、ええわ。とりあえず鞄の中身も全部出せ。」
Trashに言われて、鞄の中身を次々に出していく男。
その様子を見ていたTrashだったが、男の鞄の見た目からは予想も出来ないくらい次々に物が出てくる。
そして、その殆どが爆弾やナイフなどの武器であった。
「どんだけ出てくんねんっ!?」
「えっと、これで最後かな。」
そして男が最後に取り出したのは、分厚い本であった。
「お前、一体何もんや? よう、それで怪しい者やないって言えたな。」
Trashの言葉に男が答える。
「俺の名前はヴァンフリート。ここから少し離れた街に住んでる学者さ。」
「学者?」
「うん。今はこの街の事を調べに来てるのさ。」
「その学者が俺に何か用か?」
「そう、そう。アンタ、街の連中に一体何を聞いて回ってるんだ? 他のモンスタースレイヤーの連中なんて、そんなに此処の連中と話ししないだろ。」
ヴァンフリートの言葉を聞いて、周りを見渡すTrash。
確かに言われてみれば、他のプレイヤー達が街の住人達と話ししている所をあまり見かけていなかった。
「俺は、ここの住人が俺たちの事をどう思とるか聞いとったんや。」
Trashの言葉を聞いて、ヴァンフリートが聞き返す。
「突然、沢山現れた事にか?」
ヴァンフリートの言葉に驚くTrash。
「お前、何か知っとんのか!?」
ヴァンフリートは「やっぱり。」と呟き、Trashに話し始めた。
「俺もここ最近、モンスタースレイヤーの連中が沢山現れたんで気になってたのさ。」
「やっぱり、それって変な事なんか?」
「どうなんだろな。モンスタースレイヤー自体は前から居たんだが、こんなに沢山は今まで居なかったのさ。」
「どういう事や?」
「俺にも詳しくは分かってないんだ。何せ、モンスタースレイヤーの連中は俺達とあまり話そうとしないからな。」
「なるほどな。」
「ただ、これもサロスヌビアの変動の一つなのかもしれないと俺は考えている。」
〈サロスヌビアの変動〉という、初めて耳にする言葉にTrashが聞き返す。
「何や? サロスヌビアの変動って。」
「昔からウィッシュガルドの世界で起こる不思議な現象の事を、そう言うのさ。」
「不思議な現象?」
「そう。今までも何回か、そういう事が起きたらしい。」
「らしいって、どういう事や? お前自体、今回初めて経験したって事か?」
「こんなのは初めてだな。それに俺が読んだ文献には、だいぶ大昔にサロスヌビアの変動が起きていたみたいだしな。」
「なるほど。」
「もし、気になるなら。ノボリト研究所のアカシって人物に話を聞けば、何か分かるかもしれないぞ。」
「ノボリト研究所?」
「ああ、ここから西に進んだ所にあるよ。ここからだいぶ離れているけどな。」
「何で、そんな事を俺に話すんや?」
「アンタは他の連中とは違う感じがしたからな、それに…。」
「それに?」
「俺の研究に、アンタなら力になるかもって思ってな。」
「研究?」
「そう。俺はこの世界の伝説や不思議な現象を調べてるんだよ。」
「それと俺と何か関係あるんか?」
「いや、何となくだけど。アンタもこの世界の事に関して、何か調べてるんじゃないのか?」
「なるほど。そういう事か。」
「そっ。だから何か分かったら、ここに連絡してくれ。俺も何か分かったら、アンタに伝えるようにするからさ。」
そう言って、Trashに自分の住所を書いた紙を渡すヴァンフリート。
「ところで、アンタの名前は何て言うんだ?」
「俺はTrash。」
「Trashか。それじゃあな、Trash。」
そう言って、地面に置いた物を鞄に詰め込み Trashの元から去っていくヴァンフリート。
(あいつもNPCなんかな?)
去っていくヴァンフリートの背中を見ながら、そう思うTrashだった。
Trashはその後も街の住人に話を聞いて回ったが、街の住人は相変わらず不思議がっているばかりであった。
そして日も暮れ出したので、Trashは宿屋に戻る事にした。
Trash達が泊まっている宿屋〈セブンハウス〉に戻り、食堂に行ってみるとフェルが地図を広げて見入っていた。
「どした? フェル。地図なんか広げて。」
声を掛けられ、Trashが戻ってきた事に気付くフェル。
「おかえり、トラ。」
「ただいま。ほんで、何しとんねん?」
「English.Cafe.Cocoon.に行って、フレの事聞いたら。フレの居場所を知ってる人が居たんだ。」
嬉しそうに話すフェルを見て、Trashも喜ぶ。
「ほんまか? 良かったやんけ。」
「うん!」
そしてTrashが一人で帰ってきた事に、気付いたフェルが質問する。
「そういえば、Dは?」
「ああ。あいつは、何かまた人助けしとる。」
「また?」
「ああ、こっちの世界では初めてやったか。とりあえず、何かしとるわ。」
「どういう事?」
フェルの質問にTrashが説明する。
それを聞いたフェルが再度Trashに質問する。
「それで、Dはその女の人の形見を取り返すのに手伝ってるって事?」
「みたいやわ。ほんまにあいつはぁ、下手したら犯罪者やぞ。」
「何だかんだ言って。トラはDの事、心配してるんだね。」
「どこをどう聞いたら、そうなんねん!?」
「だって、トラも手伝おうとしたんでしょ?」
「それは、あいつがアリシアって人の迷惑にならんようにやんけ。」
「ふぅん。」
「あ。フェー、信じてへんやろ?」
「さあねぇ。」
「ったく。」
「それにしても、D遅いね。」
「あいつ何しとんねん? ほんま。」
二人が話していると、短く音がなり目の前にウィンドウ画面が開き。
そこにはクエスト発生〈友の窮地〉と書かれていた。
それを見て、顔を見合わせるTrashとフェル。
「これって?」
フェルがTrashに確認する。
すると〈セブンハウス〉にベルキンが駆け込んできた。そしてTrashとフェルの名前を呼ぶベルキン。
ベルキンの声に食堂から出てくる二人。二人を目にしたベルキンが二人に声を掛ける。
「Dさんが、王都梯団専用地区から兵士達に取り押さえながら出てくるのをウチのメンバーが見たって!!」
ベルキンの話によると、English.Cafe.Cocoon.のメンバーが帰ってくると。王都梯団の兵士達に取り押さえられているプレイヤーを見たとの事であった。そして、そのプレイヤーの特徴がDに似ていたので慌ててTrash達の所に向かっていると。急にクエスト発生の画面が開いた話をした。
「ベルキンさんにもクエストが?」
ベルキンに聞き返す、Trash。
それにベルキンが答える。
「はい。」
ベルキンの話を聞いて、もう一度顔を見合わすTrashとフェル。
その顔は、先程と違い何かを確信した表情であった。
「フェー。」
「うん、絶対そうだね。」
そしてベルキンにTrashが聞く。
「そんで、Dはどっちの方に連れて行かれたんや?」
その言葉を聞いてベルキンが「こっちです。」と二人を案内し〈セブンハウス〉から駆け出して行く。
そしてベルキンの後に続いて、Trashとフェルが〈セブンハウス〉から出て行った。
Dの所に向かい走る三人。その夜の〈アンダー・アイス〉には風が少し吹き始めていた。




