戦国の大陸・プロローグ
そして共同葬儀から数日の後、ネロとピカリは二人で港まで歩いていた。
イツキも共に行きたがったのだが、ムツキとサツキと共に空港に先に来るということになったのだ。
そしてネロは、短い距離ながらピカリと二人きりで歩くことに気まずさを感じている。
普段ネロが見ているピカリは、華々しいステージ衣装を着て、マイクを持ち、キラキラと光を放つクラス最強の戦士の一人。
三年最強のシリルやアリアンナ、二年最強のザロックやらを思い出すと最強って言っても大したことないと思いがちだし、確かにクラス優勝には運も絡む。
それでも、特異な秘術を持つピカリは、その性格も相まって奇妙なカリスマ性がある。
けれど誰にも愛想よく振舞い、笑顔を輝かせる普段のピカリと違い、毅然とした態度で自分に目もくれず歩くピカリは、なんだか腹立たしい。
「あの、ピカリさん」
「なに?」
こちらを見もしないピカリに、ネロは言う。
「普段はそんな感じなんですか? なんかやな感じですね」
目を狭めて言われた言葉にピカリは別段驚きもせず、睨むように目を細めてネロの方を向いた。
「私があんたになんかした?」
「いえ、何もしないのがどうかと思うんですが。っていうか、普段と印象が違い過ぎて」
あまりないことだが、ネロも少し敵意がある。それはピカリがネロに向けているものに比べると極めて微弱なものだが。
「普段ってねぇ、あんたが私の何を知ってんのよ? ホント頭悪いわね」
「アイドルがそんなこと言うんですか? 頭悪くても信念曲げる方がどうかしてるんじゃないですかね?」
既に火花が散っている二人だが、ピカリは自分の信念にすら言葉をかけられても、平気な顔でせせら笑った。
「アイドルなんてステージの上で人を幸せにすればいいのよ。別に舞台裏でどんな顔したって平気でしょ?」
「憧れのアイドルはそんなんじゃないと思いますけど?」
ネロが一番心を傷つけるだろうと思った言葉を、しかしピカリはアイドル状態の時のように笑顔を振りまいて、ネロに語る。
「あったりまえでしょ! サキはどんな時でも私達を楽しませてくれる最高のアイドルでエンターテイナーなのよ!? もしサキが裏でこんなカスみたいなこと言ってたらあんな素敵なアイドルにはなれないわ!」
「そ、そう思ってるなら普段の姿を変えたらどうなんですか?」
「それができれば苦労しないわよ」
ふい、とピカリは足を速めて進む。
ネロも同じ速度で隣を歩くが、ピカリにかける言葉は見つからない。一体ピカリが何を考え、どういう風に過ごしているのかはネロには理解できないことであった。
「おっそーい! 二人とも遅いよ! 私がどれだけ寂しかったか……」
イツキが怒ったように言った直後には腕を組んでその苦痛を思い出すように語るが、これにはピカリは溜息を吐き、ネロは苦笑いだ。
「あんたが寂しいとかは知らないわよ」
「お母さんとかいたんですよね?」
「いたけどね。二人がどんな風に仲良くなったかとか気になるしさ!」
とイツキは意気揚々と二人に笑いかけるが、当の二人は微妙な目つきで互いを見た。
「仲良くなる前提、やめた方がいいわよ」
「まあ、そうですね」
ぷいと互いに顔を背けるネロとピカリを見て、イツキは少し困惑した。
「……おかしいなぁ?」
何もおかしなことではないが。
ネロは正直過ぎるし、ピカリも悪口や憎まれ口をたたくのに抵抗がない。そんな二人がちょっとの会話で仲良くできるわけがないのだ。
けれどイツキは、二人の良いところを知っている。だから仲良くなれると確信している。
問題はそれに、どれくらい時間がかかるか。
「準備できたぞー!」
ムツキが叫び、二人はイツキに先導されるように小型の飛行艇へと入った。
三人掛けの向かい合う座席にピカリ、イツキ、ネロが、反対側にムツキとサツキが座る。
「イツキの母のサツキと申します。ピカリちゃんにネロちゃん、いつも娘に親しくしてくれてありがとうね」
「いえ、普通ですよ、普通」
とネロは既にサツキに慣れ親しんでいるのでそう答えるが、ピカリが少し挙動不審気味に言葉を濁している。
「あんまり仲良く、っていうか、まあ、勝手にこいつが親しくしてきています」
「えへへ、照れちゃって」
「照れてないわよ」
サツキには愛想が良いが、イツキに対しては少し冷たい。
単純にピカリは、言ってしまえば普通の嫌な子だ。家族に対しては流石に遠慮するが、イツキ自身に対しては良く思っていない。
イツキは人に対して遠慮がない、壁を作っているエレノンなどに対しても、それを堂々とすり抜けてくる。そんな彼女を疎ましいと思うのは当然だ。
「ピカリは愛想悪いけど努力家ですっごい真面目な子なんだよ! 歌も踊りも上手いし!」
けれど、イツキはそんな風にはしゃいでサツキに説明した。
それはピカリも満更ではないが、ネロはお人好しだなぁ、と思う。
イツキには良いところしか見えていないのだ。それが誰であっても、たとえ自分を嫌う相手でも、明確な悪でない限りは魔女であっても。
それは、善人と言えたとして、普通ではない。
そんなところが、エレノンやピカリがイツキを嫌がる理由だろう。
「これからもイツキと仲良くしてやってくださいね?」
「……はい」
ピカリが苦々しく答えると、イツキはにやにやとその頬をつつくのである。
「言ったわね? 言ったわね? じゃあこれからよろしくピカリちゃーん!」
と抱き付くのを、いい加減ピカリも声を荒げるのである。
「社交辞令に決まってんでしょ!」
喧嘩する二人を見ても、サツキは穏やかに笑っていた。
「いいんですか? あれで」
ネロがこそっと耳打ちするが、まるで気にせずサツキは言う。
「あれがいいと思うけど」
良いところも悪いところも見て仲良くなる、そんな関係がネロにはまだすんなりと飲み込めないのである。
積もる話も特にない飛行船の中では、自然と口が閉じられる。
サツキなどは無言が苦にならないが、この場に慣れていないネロとピカリはそんな静寂がどうにも息詰まるものになってしまう。
何か話すことは、となってもイツキを通せばよいのだが、ピカリは本当に気になることがあるからこそネロに、直接それを聞いた。
「ねえあんた……、エレノン・バルタルタとはどういう関係なわけ?」
「えっ、エレノンですか?」
予期せぬ名前にネロは驚くが、ピカリとて、気になるものは気になる。
クラス最強決定戦での大胆な告白はもはや学校中の噂になっている。それはピカリでさえも気になっている。
「エレノンとは、べ、別になにもありませんよ?」
「滅茶苦茶動揺してるじゃない……。でさ、実際どこまで行ってるわけ?」
ピカリが少し恥ずかしそうに尋ねるも、ネロはだんだん取り繕う余裕もなくなってくる。
「どこなんて、どこも行ってませんよ! エレノンはステラさんと一緒に行ってますよ!」
「えっ!? 先輩と付き合ってるの!?」
「えっそうなんですかっ!?」
「なわけないでしょネロ、落ち着きなさいよ……」
イツキが呆れて注意したところで、補足するように呟く。
「なんか結婚とか子供作るとか言ってるくせに、まだキスもしてないんだって」
「あ、そうなんだ。へー……なんでしないの?」
「なんでって……」
困惑しきったネロが言葉を失うと、ピカリはまたほんのり頬を赤くして問う。
「普通、そういう関係になったらそういうことするんじゃないの?」
「い、いやでも……エレノンも大変ですし」
「だからこそ、離れる前に色々した方がよかったんじゃない?」
「それは、そうかもしれませんけど」
「別にピカリだってそんなことしたことないでしょ?」
ネロを助けるようにイツキが言うも、ピカリは当然のように言う。
「アイドルだし」
「よく言うわ。プライベートとステージスタイルは別って断言したじゃない」
「うっさいわね! キスくらい何度もしてるわよ!」
「それマジ!? 誰と!? 」
「言わないわよ!」
思い切りピカリが怒鳴るが、イツキが首元に手を回して顔を引き寄せ色っぽく耳元に囁く。
「恥ずかしがらなくていいじゃな~い。ね、誰と誰と?」
「あんたじゃないことは確かよ」
強がってピカリは言うが、嘘である。そもそもこんな性格のピカリがイツキ以外と仲良くなることなどないのだから。
けれどイツキは信じたがためにわめきたてる。
「私じゃないの!? どうせ私でしょ?」
「違うって言ってんでしょうが!」
喧嘩する二人をネロ達は暖かい目で見守る。
最初の時の嫌悪は、すっかり鳴りをひそめたようだ。
戦国の大陸は魔女の大陸よりもはるかに大きく、そのために勢力図も群雄割拠の戦国である。
元々は人間の天帝と呼ばれるものがそこにいた魔族を追い払ったという伝説があり、それ以前の混迷を極めた状態を由来して戦国という名を冠していたものの、実際は穏やかであったらしい。
しかし昨今では利権争いにより他の人間との抗争、そして新たな魔族の侵攻により歴史以前の混迷を極めているという。
魔女の大陸と手を結んでいるサド国はその中でも天帝の一族に忠誠を誓う勢力であるが、肝心の戦力や兵站、領土さえも無能な主君に捧げているため国力は低下の一途を担っている。
見切り発車もいいところなので、以前にあげた五種類のを短編ごとに進むかもしれないです。




