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第一部完結編1・捜索

 学校に戻ってきた三人は、即刻校長室で教員達に囲まれた。

 リースと親睦のあるイツキとネロ、エレノン会のメンバーもだ。

 部屋にいる者の顔を一瞥し、ノアは重い口火を切った。

「では今回の件……一年リース・ジョンが魔女ノーベルと武闘家ハッケイの娘である、魔女であるということですが」

 ノアの眼はリースを捕えた。

「事実ですか?」

 問いに、リースは無言の首肯で答える。

 エレノン会や一部教師など事実を知らぬ者に戦慄が走るが、概ね察していたノアは小さな溜息だけを吐いて、話を押し進める。

「では率直に聞きます。リース。……あなたは、魔女側につきますか? それとも今まで通り我々と共に魔女と戦いますか?」

 ノア自身この質問をするかどうか悩んだ。リースがどちら側につこうと、この場合では今まで通り魔女と戦うと答えるのが普通だからだ。

 それでもこう尋ねたのは、リースの人柄を考えてのことだ。

「私は、シズヤを、エレノン達を守りたい。彼女達が私の仲間だ」

 リースの言葉を静かに聞いて、ノアは教師陣を見渡した。

「では皆さん、もしリースが人を殺そうと暴れ出した時に止められると思う人はいますか?」

 危険な存在として、責任ある者がそれを止められるかどうか、だが戸惑う教師が答える前に、シズヤが真っ先に言った。

「絶対に大丈夫だよ! 私の力なら……」

「……私も。もう誰にも負けない」

 次いでエレノンが言って、ノアは穏やかに笑む。

 リースを信頼し、認めた者達が今もなおリースをしかと信頼しているのだ。教師として嬉しいことだ。

「……では、いいでしょう。次に、このことをどれくらいの人に知らせるか、ですが」

 秘術を得た存在が魔女だった。という事実は、魔女と共闘しつつ魔女と戦うということ。

 似たような存在のシュールについては五学校と同盟国サドにのみの秘密だが、リースのことまで他の学校に知らせる必要はない。

 だが不器用なリースのことを考えると、あえて全世界にそのことを知らせても悪くはない。むしろ悲劇的なキャッチコピーで売り込むことも不可能ではない。

 どうするにもリスクは伴う。最適解がどの程度であるかが難しい。

 こういう時に、ノアはナミエがいなくなったと強く感じる。

 多くの雑務をこなし、時には自分以上に責任ある仕事をしていた彼女こそ組織の中枢、こういう時にいないことはノアを不安にさせる。

 けれど泣き言を言ってられない、今決めるのは、最高責任者たる自分なのだ。

「今回のことは、ここにいるメンバーだけの秘密にします。できますね?」

 そもそも閉鎖的なこの大陸で、わざわざ外部の力を招く必要もない。そもそもリースは厳密には魔女ではないために、そう簡単に調べることもできない。

 唯一この情報を持ってきたディペンドンについて問題があるが、それは彼女の進路の希望を見れば心配のないことだ。

 重々しい雰囲気の中で皆が暗黙の了解をしていく中、教師のモナドが声をあげた。

「今ここにいない先生にはどうします?」

 尚も戻ってきていないロイと、長らく出張し続けている教師モコとマナフの合計三人、それについてノアはこう言う。

「戻って来次第、私が伝えます。他に質問がある方はいますか?」

「一つ」

 リースの言葉に全員が注目した。

「イェルーン達魔女の一味にも私の素性が知られている。彼女達はどうする?」

「……頭が痛い話ですが、詳しく説明してくれませんか?」

 何故イェルーンが魔女の一味と言われているのか、そのことすらノアは厳密に把握していない。



 そして、リース達が全てを語った時、ノアはリースが魔女である以上の動揺を覚えた。

「即刻指名手配する必要があります。ニッカ、今すぐ全ての学校にこの事実を伝えなさい。……レイヴンのみならず、シンクレアにイェルーンまで裏切るとは……。いやそれ以前に魔女を統べるなど……」

 常軌を逸した事実に眩暈すら覚えるが、迷ってはいられない。

「彼女達の動向を調べなければいけません。みんな、森の探索を……」

「その必要はない」

 扉を開けたのは白い影、それはロイが出現させた弱小兵。

「ロイ!」

 アーサーが叫ぶが、それより先にとロイは言葉を続ける。

「森は殆どもぬけの殻だ。キルとヴィーの二人の魔女がいるだけ。イェルーン達はゴリアックを退けた後、街に戻って行った」

「ゴリアックを……!?」

 リースが魔女であること、魔女側につく裏切り者が出た事、それ以上の衝撃がこの場に走る。

「どうやら魔女も一枚岩ではないらしい。キルとヴィーは森にいるままだと思うが、ノーベルとスノウがイェルーンについた。……魔女が主導しているのではなく、イェルーンが魔女を焚きつけたように見えた」

「ならば、街の中で戦うのみだな」

 言うと同時にリースが部屋を出る。

「待ちなさい! 話はまだ……」

「指名手配されたイェルーン達を倒す、それ以外に何かあるか?」

 リースが言うと同時に、シズヤもエレノンも、ネロもイツキもエレノン会も動き出す。

「……もう! ニッカ、厳戒態勢を敷きます! 敵の一味の顔写真も公開しなさい! なりふり構ってられません!」

 半ばヤケになりながらもノアはできる限りの手回しを始め、更に他の学校へ電話を始めた。

「皆さんにも協力してもらいます! 即刻関係者を見つけたら生死問わず私の元に連れてきなさい!」

「はっ!」

 教師達が一様に返事をすると同時に、全員が一斉に校長室を出た。



 森の中でイェルーンとゴリアックが睨みあうところまで話は遡る。

「二年の、ネイローに負けた奴が俺とタイマン張るってか?」

「あぁ~んの時の私は未熟だったかァもしれねェ。だが今! 私のテンションは久々に上がりまくっている!」

「テンションでどうにかなると思われるのは心外だな」

 イェルーンが薬を飲みほすと同時にゴリアックは構える。

「まあ命は助けてやる。さあ来い」

「かははっ!? 随分親切にしてくれるじゃあねえか! こっちもお返しに優しくなぶり殺してやるよ!」

 両手に薬を持ったイェルーンが一歩踏み出した瞬間、ゴリアックの跳躍の一歩が既に距離を詰めていた。

「はっ!?」

 イェルーンですら驚愕の一言。

「腹部からねじ上げられた一撃、大層な威力だろ?」

 イェルーンの意識は、その一瞬だけ覚醒した。だがその言葉を理解できるほどの余裕はない。

 嘔吐しながら上へ吹き飛んでいったイェルーンに、尚もゴリアックは言う。

「私は魔勝陣(まがじん)という流派を得意とするが……今のはただのパンチさ」

 イェルーンに伝わらずとも、それを傍で聞いているスノウと二人のクルイには充分伝わる。

「さて、では奥義の一つでも披露しようか?」

 直後、スノウが地面を凍らせ、滑りゴリアックに近づく。

 近づけば何もかも氷に変えることができる。だがそれは認識できればの話。

麗舞(れいぶ)

 瞬間、スノウの目にはゴリアックが分身したように見えた。

 緩やかな、決して高速ではない動き、それなのに何人ものゴリアックが優美な動きを取りながら自分を取り囲んでいく。

 嵌められた、とスノウが歯噛みするが時既に遅し。

禁打(きんだ)(いち)

 全く予期せぬ場所からの不意の一撃を、スノウは為す術なく頭部に受けた。

 その一撃で、スノウは音もなく倒れた。

 相手の内部に損傷を与える一撃、外傷は一切なくとも神経を打つ攻撃にスノウは為す術なく倒れたのだ。

「おっと、そろそろ……」

 落ちてきたイェルーンの腹を蹴り上げ、そのままゴリアックはそれを落とした。

「さて、どうする? えっと……変な奴」

「……無謀に突撃して死ぬ、儚い人生だった」

 フールはそう言いつつ、もしも体が奪えれば何でもできるという可能性に期待し、それを敢行した。

 だが――結局は彼の言葉通りになる。

(はじ)めの一砲(いっぽ)

 放たれた真っすぐな拳はフールに触れたことを感じさせないほど、一切減速することなく殴りぬけた。

 その間にあるフールも、その嘆きの仮面も、全てを打ち砕いた。

「儚い人生だな」

 吐き捨てるゴリアックだが、直後彼女の足は氷となって砕け散った。

 何が起きたか分からないが即座に腕を使って前に跳ねる。

 そして、立ち上がったスノウの姿を確認した。

「あれを食らってもう起き上がれるというのか!? ……いくら魔女といえど……」

「僕は……僕はこんなことしかできないから」

 呟く声は確かにスノウのものだが、まるで雰囲気が違った。

 弱弱しく泣き出しそうな表情も、遠慮気味に震える体も。

 スノウの体は既にイェルーンの体から離れたディスペアが奪い取っている。

「こ、このまま倒してやる!」

 それは彼なりのイェルーン達を守るという気持ちなのか、フールの敵討ちなのか。

 ゴリアックは秘術により氷化の対抗策があったが、今の状況では秘術を使っても足の修復に時間をかける。つまり無防備な状況。

 体を全て凍らされて、その上で出現した指輪を凍らされれば……死ぬ可能性もある。

 ゴリアックはどうすれば自分が死ぬか分からない。だがそんな一抹の不安と、目の前のあっぱれな勇気にエールを送りたくなったのも事実。

「やられはせんが、見逃してやる。ただ一つ、恐れ逃げ出したわけではないぞ」

 ゴリアックの言葉は真実かどうか分からない。だが不安なディスペアは、既に治りつつあるゴリアックの足を見て、それが真実だと思い込んだ。

 ゴリアックは手で這う形で森を抜けていく。その間、ディスペアはスノウの体を借りたまま、イェルーンを見守った。



 街の中でイェルーンの一味を探し出す作業は難航し、結局出会えたのは次にあげる二組のみである。


 既に学校側の捜索が始まったと気付いたシンクレア達は空港へ行き、集合次第移動を始めようと考えていた。その考えは既にイェルーン達の誰もが把握している。

 そんな中。

「まず……最初に不意打ちだったことを謝りたい」

 ハッケイと共に空港へ進む時に、シンクレアは声をかけられた。

 振り返り見れば、ノアに襲いかかった時、真っ先に自分に殴りかかった学生服の女だ。

 すぐにシンクレアが秘術を出す、同時にブシンも拳を構えた。

「七拳のシンクレア、何があってこのようなことを?」

 冷静そのもののブシンは、一切怯まず尋ねた。

「己の正義のため……いや、己の悪のためか」

 正義なのか悪なのか、シンクレアが今まで信じてきた物が正義か悪かも分からない。だが分かるのはイェルーンが悪であり、自分が成したいことは悪であるということのみ。

 それを誇ることもせず、詐称することもなく、今の自分が悪だとシンクレアは言える。

「……そう答えていただけて有難い。容赦なく戦える!」

 だが既に勝敗は決したようなものだった。


 無様に倒れるブシンを、シンクレアは何でもないように見下した。

 ブシンは怒り狂うことなく冷静に戦おうとした。だが冷静であるに関わらず彼女は使命感に燃えた。その不釣合いな感情は、拳から生ぬるい風を出現させるのみ。

 拳の爆発と冷気が強力なブシンは、武術においてのレベルは高くない。

「では、行きましょう」

 ハッケイに声をかけるシンクレアの、その足をブシンは掴んだ。

 振り払おうと足を延ばすが、ブシンの声をシンクレアは聞き入った。

「七拳の! 誇り高い戦士だと聞いていた。親殺しの汚名があれど、誇り高く、強い戦士だと! ……私の、私の秘術はあなたに憧れて、真似て作ったのに……」

 武闘家としての実力と、秘術による戦闘スタイル、それを確立した拳のみに頼らない様々な攻撃を実践したシンクレアには少ないながらも根強いファンはいる。その一人こそがブシンだった。

「君は武術がお粗末すぎる。しばらくは秘術なしで戦うことだ」

 嫌味な言葉かもしれないが、そこに嘘は一つもない。的確なアドバイスとも言える。

 ブシンはただ拳を強く握った。



 戦国の大陸の和服を着こなし、両目とも長く黒い髪で隠れたようになっているのがエイノ・イランラ。第二学校の教師の一人である。

 キャラの強い学校教師の中で、基本的に無口で誰に対しても敬意を向けるような立ち居振る舞い、温和な性格といえばアーサーと一緒だが、いつもロイと一緒にいたがるアーサーと比べれば、文句を言わないが地味な印象の強い、便利な人材とノアからは思われており、ナミエなどは教師陣の良心、と称していた。

 生徒から名前は憶えられていないし、部活の顧問もしていないで基本的に雑務に従事している。気が弱いとか、いじめられっ子みたいな印象があるかもしれない。

 そんな彼女が街の中、誰もいないような裏路地でついにレイヴンを見つけた。

 レイヴンの体は傷だらけだが、既に秘術による変身をし、悪魔のような姿をしている。

 裏路地の地面に座り込み、死んだように動かない。

 誰かを呼ぶべきか、エイノは悩むが、そうしている間に逃げられてしまっては元も子もない。

 仕留めるなら今、ここで。

 エイノの秘術はニーデルーネと戦ったレイゼイ・シンコに似ている。というかシンコが真似たのだが。

 無数の紙の札を操り、様々な術で敵と戦う、隙がある反面多様性のある秘術。

 エイノは十の札を浮遊させ、レイヴンの方へ飛びかかった。

 自分が姿を現してもレイヴンは動かない、眠っているのだろうか、ならばしめた、とエイノは札の一つを剣に変えて、それを貫いた。

 あっさりと貫通、いや、それは空蝉(うつせみ)

 直後、空から落ちた黒い塊にエイノは潰された。

「観察力も注意力も足りてないな」

 一言だけ言い残し、レイヴンは脱皮した皮と潰れたエイノを放置して港へと向かった。



 空からイェルーン達を探すリースとシズヤを見上げながら、エレノンは頭を働かせる。

 イェルーン達は果たしてどこへ向かうのか。自分が前にしたあの女の悪意は、恐らく半端なものではなく、より多くの害をもたらす。

 妥当なところでこの大陸の全土を敵に回し、もしかしたら全ての大陸にすら害を及ぼすかもしれない。

 故にエレノンは空港へ向かっていた。

 しかしイェルーン達と交戦するには予言が必要、日付が変わるまでに時間はまだ少し必要だし、キルとヴィーとの戦いで球は残り少ない。

 何より予言による戦闘は自分で意図しないことでの球の消費が激しすぎる。既に向こう半年分以上の球の消費を実感しているエレノンは、容易にそれを使えない。

 強引に自分とイェルーンが適当な場所で相対する光景をイメージすれば、球はどこかへ飛んでいき自分とイェルーンをその場に運ぶが、そんな秘術の無駄遣いはできない。

 狙うは空港、その一点に絞り防衛網を張る。

 故に南へ走っていた。だが途中、エレノンを後ろから呼び止める声がした。

 遠くからの、か細い声、それを彼女は聞き逃さない。

 警戒しつつ、しかし全速力で駆け、そこで見つけたのは疲労した様子のミーシャだった。

「……ミーシャか。なに?」

「エレノン……怖い」

 何が怖いのか、そう思って体を心配したエレノンはミーシャの変化した顔を見た。

 嫌悪の表情の仮面がミーシャの顔半分を覆っていたのだ。

「私の中に私じゃない者がいる!」

 ジーとの戦いの中で体の中に入り込んだアローンは、ミーシャの体を治癒する代わりにその命を落とす宿命にあった。

 ただ問題なのは、潔く融合したネロとトリックと違い、アローンはその定めを嫌悪していた。

『死ね死ね! こうなるくらいならいっそ死んでしまえ!!』

 嫌悪の呪詛を四六時中かけられ、一人になったミーシャはただ不安だった。

 それはヴァルハラの被害を受け、耐えがたい依存症の中に苦しんでいた時を彼女に思わせた。


 ミーシャは元々、シリルと同様に荒んだ生活を送っていた。

 小さな体躯は変わらずだが、今のあどけなさを振る舞うあざとさなど一切なく、ざらついた肌で敵を磨り潰す近接戦を得意とする、特に同級生の顔に傷をつけることを好んだ悪党。

 そんな彼女がヴァルハラと出会うのは当然だと言えたし、真っ先に被害者になることも誰もが予想できただろう。

 だがミーシャはヴァルハラ事件の後、すっかり気を弱くしていた。

 そもそも不良と言って他人が嫌がる顔は好きだったが、別に重い過去もなければ悪の道を進み続ける熱意もなかった。一度痛い目に遭ってしまってすっかり自信を無くしたのだ。

 けれど今更どんな顔をして普通に戻ればいいのか、そもそも戻れるのかどうか。

 不安に挫けそうな時に、収容されていた施設で彼女はシリルに出会った。

 シリルはその時でさえまだ勝手に脱走するような性格だったが、札付きの悪のミーシャにシリルは直接会って聞いたのだ。

「あなたは、まだ悪いことする?」

 突然来た悪党はミーシャにとって恐怖でしかなかった。過剰に怯えるミーシャにシリルは、その存在のことを教えた。

 強く、気高く、けれど弱くて情けなくて、だから憧れられる存在。

「悩んでいるなら、是非その人に会ってみて。私も協力するから」

「本当にシリル・ホーネット? 私の知ってるのと違う……」

「私は変わった。きっとあなたも変われると思うから」

 そうシリルが言った。自分よりも尚深く暗いところにいる人が、純粋な笑顔を向けてくれた。

 それだけでミーシャは充分だった。あとはただエレノンと直接会って判断するだけ。


 施設内でエレノンがどんな人間か、を聞き回っている間だった。

「……ミーシャさんって、もしかしてエレノンのファン?」

 話を聞かされたカナタは、ミーシャの悪い風聞も知っているために恐る恐る尋ねる。

 だが尋ねられたミーシャは困惑した。凄い人間なのだろうと思ってはいるが、自分が一年の、しかも地味目で弱い人間のファンであるというのは、少なからず自尊心を傷つけられる。

「私は……別に」

「エレノンって凄いんだよ! いつもいつも静かで他人に厳しいことばっかり言ってしかも自分勝手なんだけどね……」

 そこから語られたエレノンの情報量が最も多く、そして魅力的なものだった。

 その時点でもうミーシャにはエレノンさえ必要なかったのだ。

 ヴァルハラの被害者であるという繋がりが、彼女を救ったのだ。


 だが今助けを求めたのはエレノンで、それにエレノンは答えてくれた。

 倒れそうな体を支え、小さな手を固く握ってくれている。

「……私がついてる」

「でも怖い! こんなの嫌ぁ……」

 するとエレノンは抱っこするようにミーシャの背中をさすりながら耳元で囁く。

「……死ぬわけじゃない」

 エレノンはそれきりただ抱きしめてやるだけだった。

 強引で滅茶苦茶だけれど、アローンが息絶えるまでずっとミーシャの傍にいてくれた。

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