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魔女とクルイ編18・双子の魔女

 吹き飛ばされたキルは背骨が折れつつも平衡感覚のみでなんとか背筋を伸ばし、目前のゴリアックを見据えた。

 序列元三位、スノウやバニラのような物質変化の固有魔法ではないなりに不死の能力を持ち合わせている彼女だが、それでも窮地だと感じていた。

「こ~ろ、ころころ……」

「戯れている場合か? 俺は今、お前以上にメラメラと怒りの炎が燃えてんだよぉ……」

 ゴリアックの拳から炎が出現する。

 ちなみに炎舞炎膚は実際に体を燃やす技、何故ゴリアックが使えるかというと、指輪の秘術による体と魔力の回復と、リースの見様見真似で行っているものであり、魔法適正と回復力のなせる技である。

 本来の彼女の巣喰乱や皆身蹴のような『魔勝陣(まがじん)』と比べると、体術としては容易と言えるが、魔術の造詣がなければ使えないも破壊力は格段に押し上げられている。

「行くぜ、破我納火!」

 跳ねたゴリアックはその炎を纏った拳をキルの腹にぶちこもうと振りかぶる。

 だが瞬間、キルの体が炎に変わった。

 そのまま炎の塊となったキルは再び燃え盛る校舎の方へと向かった。

 固有魔法『殺人鬼の秘め事(キラー・インリドル)』、体を炎に変え、また体を炎によって補うことが可能なキルの不死の奥義。

 予め校舎を破壊し燃やしていたのは、ゴリアック以上の再生力を手にするためである。

 燃え盛る校舎の炎で体を元に戻す、そのように手を伸ばしたところでキルの思惑は外れる。

「よくも先生の体をぉ!!」

『三倍槍』ヤリサイ・ライノスタの尋常ならざる速度での突きの連撃に、キルはその体勢を大きく崩す。

「こっ! 殺す!!」

 顧問であるレイゼの体を全く燃やされてしまった怒りで暴走したヤリサイに、怒るキルの炎を躱すという考えはなかった。

 火炎に包まれたヤリサイは絶叫をあげ、火だるまになってようやくその場から退いた。

 だがその足止めの一瞬があれば、ゴリアックが追いつくには造作もない。

「羅鬼数多・燃え!!」

 既に至近距離にまで近づいたゴリアックに気付かなかったのは、キルの不運

 しかしその吹き飛ばされた方向が燃え盛る校舎の中であったことは最大の幸運である。

 傷つき気をも失いかけた攻撃にさらされても、体がみるみる万全状態に戻って行き、キルは瓦礫同然の中から這い上がり、ゴリアックに五体満足の姿を見せた。

「……ああ?」

「ころころころ!! こーろころ!!」

 余裕たっぷりの笑顔をキルは見せた後、二人は再び睨みあう。

 ゴリアックが拳に炎を纏わせると同時に、キルは校舎を壊した時以上に大きな火球を出現させた。

「ころころ、殺す」

 興奮した様子でもなく、ただ哀れな家畜を見捨てるように、キルはその手を振り下ろした。

 遠巻きから見る人物はキルのようにゴリアックが流石に死んだものと思っただろう。

 だがゴリアックはその拳のみで炎を散らし、その場で立っていた。

「……炎が駄目なのか。次は俺から行くぞ」

 既に拳に炎はないが、指を鳴らす姿に、やはりキルは恐怖を覚えた。

「ジー! ジー連携魔法!!」

 キルは体を炎に変え、大きく移動した。



 一方、ネロ達はジーを前にどうにもできなかった。

 雷でマスクドノブレスの雑魚軍団を薙ぎ払うアローンジーは、その根源がロイだと気付くと、その攻撃の矛先を変えた。

 片腕のロイとそれを赤子のように抱くアーサー。

「気付かれた! アーサー、君だけでも逃げろっ!!」

 言いながらロイはその仮面をノブレスからアルティメットに変えようとしている。

 だがアーサーは目をしっかりとロイに向け、その重い口を開いた。

「いいえ、私は戦います。貴方を守るために」

 同時に、アーサーは片手でロイを持ち、片手で盾の秘術を持った。

 アーサーの秘術は『自分のみが存在できる空間を作り出す盾』、敵の攻撃や敵の侵入を許さない光の円柱は、アーサーのみが存在でき、そこで自由にできる。

 範囲は、上方は天まで届くが円柱直径一メートルばかり、しかも味方すら入れない。

 いわば、アーサーのみを完全に守る空間を作り出すことができるのだ。

 だから、ロイを持った今のままでは使えない。

「アーサー、僕のことはもう……」

「馬鹿言わないで! 私だって、先生なんだから……!」

 盾が光り始めると、アーサーはそれをジーに向かって投げた。

 光が広がり、まるで巨大な円柱がジーに向かって移動しているような光景、その円柱の中心には投げられた盾。

 ジーは雷をそこに放つも効かず、だが難なくそれを避けた。

「アーサー!」

「大丈夫!」

 アーサーは二つ目の盾を放る。

「ふ、二つ目!? 今までそんなの出せたのかい!?」

「今、初めてよ」

 驚くロイに、アーサーは見せたことのないような強気な笑顔をした。

 一つ目の盾は既に落ち、しかしアーサーは三つめ四つ目と盾を投げていく。

「鬱陶しいわね……嫌い」

 今度は空から、アローンジーはアーサー達に雷を落とす。

「……させない」

 それを、エレノンの秘術の星形球の一つが防ぐ。

 雷をすっかり吸収するとそれは、役目を終えたように消える。

「っきー!! 何よそれ! うざいうざいうざい……!」

「アローン、少し落ち着きましょう。怒るのはヘルの仕事です」

「ヘルはもう死んだでしょ!」

 フールのみが知恵を貸そうと傍にいるが、トリックを庇った後のディスペアの姿が見えないことがますますアローンの怒りを増長させた。

 放っても降らしてもダメ、となるとジーが次に行うことは何か。

 それを考える前にキルが突撃してきた。

「ジー! 連携魔法! 連携魔法!!」

「げ、頭おかしい魔女。……でもそれなら」

 アローンはいくらかジーの記憶を読み取っている、それでキルの異常さは散々に知っているが、その連携魔法の強さなら知っている。

 飛んできたキルに恐れおののく者はいても、止められる人間はいなかった。

 そしてアローンジーとキルが指をからめて手を繋ぐと、その手からそれぞれ炎と雷が光る。

「ころころころ……」

「くるくるくる……」

 僅かにアローンジーはフールにどこかに行け、と目配せをすると、フールは素早くその場を去る。

 二人の腕の矛先は、ロイとアーサー、後ろにゴリアックも確認できる。

殺意と狂気(キル&クレイジー)!』

 それはもはや、雷でも炎でもない。

 圧倒的な閃光の後には、何も残らなかった。

 その後に指輪が出現し、ゴリアックがまた全裸で戻ってきた。

 しかも、横に星形の球に突き飛ばされたロイとアーサーがいる。

 ジーは嫌悪の顔で歯噛みしているが、キルの顔は恐怖に染まっていた。

「……凄まじい威力だ。悔しいが、今回は俺の負けにしてやってもいい。だが人を殺すな、そうすれば次はない」

 圧倒的な実力に対しゴリアックが敬意を示し、足早にそこを去った。だがキルは何故生きているのか、と恐怖し逃げ出そうとした。

 だが、アローンジーがそうさせない。

 キルの体に電気を通し、その肉体を操る。

「まだ狙え、今度は躱せないでしょ」

 アローンの目の先にはロイとアーサー、恐れ怯えたままのキルは既に道具でしかない。

ジーが強引に二発目を構える。

「行くわよ、殺意と……」

 言葉の途中、体の中に奔流となった魔力はジーの背中に数本のボウガンが刺さって動きを止める。

 と同時に、ライオンの獣人と化したレオニーがその拳で思い切りジーの後頭部を殴り倒した。

エレノンを見守っていたエレノン会の面々が命をも懸けた決死の突撃を始めたのだ。

 解放されたキルは素早く逃げ、北の森へと一目散に駆けだした。

 一方殴られ前のめりに倒れたジーは、疎ましげに後ろを向いた。

 レオニーはその間に高く跳ね、重力と重量を合わせた拳を見舞おうとする。

 だが、下からの雷撃が直撃し、哀れに落ちた。

「レオニーちゃん!!」

 叫ぶカナタに、ジーの追撃が放たれた。

「カナタさん、早く逃げて!」

 それは帯電クリームを塗ったイロが庇う。

 一瞬カナタは逡巡した、イロを置いていっていいものか、と。

 その場にはゴリアックもいるしロイもいる、だから迷わず逃げるべきであった。

 自らの神経に電気を通し尋常でない速度で動いたジーは、ただの女子高生同然のイロの脇腹を蹴りぬけると、そのまま帯電した腕をカナタに伸ばす。

「帯電皮膜! ミーシャを舐めないで!」

 間に入ったミーシャはその腕を掴み返すが、庇ったカナタはジーが空から落とした雷を浴び、すぐに倒れた。

 そしてアローンジーの格闘能力はミーシャの比ではなかった。

 首にハイキックが決まり、その時点で鈍い音が鳴るも、そのまま足で首を踏みつけて完全に折った。

『速いっ! 驚いた! 一瞬で四人も……』

 トリックが叫ぶ間に、エレノンより早くネロが飛び出していた。

「やめろォっ!!」

 言葉もなく鎌を二本取り出し、ネロは無防備にとびかかった。

 ロイが、アーサーが、ネロを止めようと叫ぶも、エレノンは最後の球を飛ばしていた。

「……シリル、雷をどうにかできる?」

『任せな! つうかもう呼んだ! ネロの傍だ!!』

 それを聞くと、エレノンは安らかに瞳を閉じた。

「……なら、大丈夫、もう未来は見えた」

 呟き、腕の星形リングが回転し、エレノンの腕から解き放たれた。


 ネロはがむしゃらだった。

 他人に深い怒りを持ったことはない、ただ正直に生きてきたとだけ言える。

 自分を守ったエレノンに普通以上の想いを持っていたのは確かだし、それを襲ったアリス、エレノンの興味を惹いたシリルに少なからず嫌な感情を持ったこともある。

 だがそれ以上に気に入ったから、二人が嫌いというわけではない。

 基本的にネロは人懐こいのだ、人付き合いをよくして、誰とでも仲良くなれる、そんなどこにでもいるような存在。

 だからこそ、目の前の魔女が許せなかった。

 クラスメイトを殺め、あまつさえ仲間まで利用するその精神には反吐がでる。

 だから、今ネロは無謀にも走り、滑稽なほどまっすぐ向かっている。

「ラージサイズ二重奏……いや三重奏・哀歌(エレジー)

 目前にいるジーはまずその帯電した拳を振るおうとした。

 たった一人の無謀な人間、適当な攻撃でも倒せる。

 だがその目論見はエレノンの星形の球が鋭い槍となり、当たってずらす。

そして体勢を崩されたジーの左腕を、ネロの鎌が切断した。

魔女の体となれば切断すら難しいが、リースの銀すら破壊できる彼女にはそれができた。

「ひぎっ! てめえ!!」

 ジーの怒りと同時に目から電光が瞬く。目から放たれたその雷は、ネロに直撃するも、なぜかネロは平然としている。

 雷を食う気体生物、それがシリルの出現させたエレオロイメル、それはシリルが許可するまで帰ることができないルール。

 次にネロの左手の鎌が、ジーの胸を貫く。

「あがぁっ!! て、め……」

 だが息がある、それはネロも予想がついた。念には念を入れるための三重奏。

 仰向けに倒れかかるジーの背中には、いつの間にか地面に設置された天を仰ぐ鎌。 

「このまま、押し倒して、頭をぶっ刺す!!」

 エレノンの槍で傷ついた右手で自分を支えるジー、それを押し倒そうと覆い被さるネロ。

だが、ジーはそれだけではまた倒れない。

「舐めるなっ! 魔女の体を……」

 ネロが新たに鎌を取り出し駄目押しで更に刺そうとすると、ジーの口内で魔力が生成される。

 体から電気を放つ以上に、強力な雷撃を口から放とうというのだ。

 無論アローンの苦肉の策だ。だが目や体と違い自分の体の中から発する攻撃なら強いはずだと思い込んでいる。

 鎌が刺さるか、雷が飛び出すか、どちらが早いかとネロが恐怖に目を閉じた瞬間、その体はふわりと浮いた。

 鳥人となったダグラス・ラスペードが脚でネロを掴み、安全な後ろに放ると、そのままその巨体で滑空しジーを思い切り踏みつけた。

『妹の仇だ!! くたばりやがれぇぇぇぇぇえええええええええ!!』

 雷が放たれ、ダグラスの体に電流が流れる。

意識はない、だが動く。

ダグラスの巨体がジーにのしかかると、後頭部から鎌がめり込み、額を突き破る。

 同時にアローンはその体から出た。

 すぐ近くにある体、それを求めてアローンは這うように移動をする。

「あ、あれは……」

『アローンだ! 俺と同じで体を乗っ取ろうとしている! 嬢ちゃん、仲間を守りたいなら早く止めるんだ!!』

 ネロが鎌をもって走るも、既に手遅れ。

 ミーシャの体に入ったアローンは、けれど叫んだのはミーシャ。

『この体ぼろっぼろじゃないのぉぉぉおおお!? ヤバイ、取り込まれる! こんな、私が……』

 常軌を逸した様子のカナタ、ネロは恐る恐るトリックに聞く。

「ど、どうすれば……」

『ありゃもう大丈夫だ。俺と同じであの子の体に封印されるよ。いや知らなかったがクルイと人の両方がボロボロだと、なんか人の体の中で溶けちまうみたいだ』

 トリックがネロを危険な目に遭わせてまでも体から出なかった理由はそれ。

 まさしく、融合と呼ぶにふさわしい。

「え! じゃあトリックさんは……」

『いいっていいって。どうせジョーカーも死んだし、嬢ちゃんと会えて結構楽しかったしよ』

 エレノンすら好ませるネロの正直な人生は、トリックが記憶を読んで満足するに値するものだった。

 多数のクルイの中でも邪念の少ないトリックは、その暖かな人柄に惚れこんでいた。

『悲しがるんじゃねえぜ、っつっても無理か。でも何はともあれ一件落着だ』

 クルイ達の件は、フールとディスペアがこの場を去ったために、これ以上何かはないだろう。

 ただ、ようやくアローンがいなくなったジーは、気が付いたら絶命の直前だった。

 不意に体を奪われ、知らないうちに好き勝手された挙句、気付けば死ぬ直前でバトンタッチ。

 今まで感じた事のない激しい憎悪も、ぶつける場所がない。

「……く、狂、え……」

 最後、ジーの体から雷鳴が轟き発光、体の全てを雷の魔力として放散した。

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