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ヴァルハラ編2・部活と秘術について

 話があると残されたのだからリースは秘術関連かと思ったが、そうではない。

「我が校には部活動がある。参加はしなくていいんだが……いや、今のは聞かなかったことにしてくれ。強制入部だから、何部に入るかは決めろ。いいな」

 既に学生寮のところまで来て、教師は部活の一覧が書かれた紙をリースに渡す。

「これ以上は私がとやかく言うより、部長の人がやることだ。あとは任せる」

 じゃあな、と一言だけ言い残して教師は職員寮の方へ行った。

 それを見送るとリースは紙をじっと見る。

 剣道部、柔道部、拳道部、銃道部、鎌部、槌部……。

 リースは格闘家であるため、拳道というのがいいのだろう。

「部活、か」

 感慨深く呟くと、その紙をひょこりと覗き込む金髪一人。

「部活って言うのは正しいんですけど、クラブって言うより部隊って感じなんですよね」

 あーあ、と悲しそうに、突然現れたネロが溜息を吐く。

「何故ここに? 別に付き合ってもらう必要はないのだが」

「そんなつれないこと言って良いんですかぁ? 私、リースさんのこと、嫌いになっちゃいますよ?」

「別に構わんのだが……」

「ええっ!? ひ、ひどい……」

 ショックを受けたネロは足を止めたが、リースがすたすたと先に行くためすぐに小走りで追いついた。

 そして、右腕に抱きついてそのまま言う。

「実は予想してたんですよ! どうせ部活の参加を先生に言われるだろうなーって」

「ああ。それでなんなんだ? というかうっとうしいのだが……」

 ネロはショックを受けながらも、自分の話を続けていく。

「……あのですね、イツキさんもシズヤさんもエレノンも、あんまり部活に乗り気じゃないんです。だから真面目な私がもっと懇切丁寧に説明してあげようと思いまして」

 リースは言葉を聞きながら、紙を見て発言した。

「ふうむ、しかし、鎌部はちょっとなぁ……」

「あー! あー! 武器だけで決めたでしょう!? 言っておきますが入る部活は自由なんですよ!? ……鎌部、ですけど」

「私は拳道部だろうな。の前に、秘術を教えてもらえないのは厳しいな……」

 リースがとても悩ましげにしているが、ただの純粋な悩みである。部活は恐らく秘術によって決めるのだろうから、その前に部活を決める意味を、リースは問うているのだ。

 が、ネロはそう思わない。まるで自分に保証人になれと催促しているように感じる。

「わ、私は、あの、なんと言いますか、自由が好きなんですよ……」

 突然何を言い出すのか、リースにはさっぱりわからない。

「自由が好きか。なら部活も学校も来なければいいだろうに」

「えっ!? そ、それって、もしかして、保証人にならなければ学校に来るなっていう暗喩ですか?」

「はぁ?」

 しばらく二人無言が続いていたが、リースがようやく理解して、一言。

「別に主にそこまで頼ろうなど考えていない。そこまで頼れる仲でもなし」

 いつもと変わらぬ調子の言葉に、ネロは安心以上に不安を覚えた。

「そ、そうは言いますけど、少しは頼って良いんですよ? 確かに、内容に拠りますけど、少しは、その、ねぇ?」

「私より弱い主に頼ることなど、あるか?」

「あっ、あ、ありますよ! えっと、一人じゃ出来ないこととか……いろいろと」

 言いながらネロは顔を背け、口笛まで吹きそうな雰囲気である。

「ん、部活場というのはどこだ?」

 と言うとネロは水を得た魚のように笑顔を取り戻し、リースの腕を掴んで走り出した。

「こっちですよ! こっちー!」

 雰囲気、イツキに似ているな、などと考えながらリースはつれられた。


 運動場にある地下扉、その下に広がる巨大な空間。

 数々の女性が様々な武器を持ち、お互い研鑽(けんさん)している。

 一応同じ武器同士の者が集まっているらしいが、それぞれ形が違っていたり、能力が違ったり、とても一括りには出来ない。

「ちなみに、鎌部は三人だけなんですよ。私とエレノンとニーデルーネさん」

「そうか。拳道部はどこだ?」

 全く興味なさそうに歩き出そうとするリースの腕を、ネロが掴んで引き止めた。

「鎌部、今のままじゃエレノンと私だけになっちゃいます……」

「そうか。それよりも拳道部は……」

「別にですよ、出なくていいんです。鎌部に入って拳道部の方に出てくれてもいいんです! どうかお願いします! 埋め合わせとか何でもしますから、どうか鎌部に入ってください!」

「ふむ、何でもか……」

 と熟考する仕草を見せるリースに、ネロが思わず息を呑んだ。

 もし保証人になってくれなどと言われたら、もう絶交ではないか、と考えすぎる。

「まあ、何でもいい。その鎌部とやらは何をするんだ?」

 きょとん、とネロは反応できなかった。

「おい、どうした? 何もしないのか? まあそれでも構わんが」

「あっ、あの! いいんですか!? どうして? 何もしてあげられないのに……」

 ネロの質問はもっともである。リースに見返りはないし、リースより弱いネロが何かをしてあげられることもない。

 ここで株を稼げば保証人になってくれるかも、などと考えるリースでないことは既に知れているし、かといって全く無駄なことをするリースではないとも知っている。

「どうして、か。どうしてだろうな。どうもそのように頼まれると、断れんのだ」

 少し困ったように頭を掻くリースを見て、ネロは確信する。

「それは……それは、リースさんが友達になったからですよ!」

「なに?」

 不審そうに問うリースに、ネロは一言一言、一生懸命大切な言葉を紡いでいく。

「何も見返りを求めずに、ただ相手を助けてあげたい、相手のためになりたい、そういう風に考えられるって、友達なんじゃないですか」

「イツキは、一緒にご飯を食べて、殴り合って、家に行ったら友達だといっていたが」

 ネロは少し困ったように笑う。

「それは、人それぞれですよ。みんな友達ってこういうのだ、って思うものがあるんです」

 ネロの笑顔は、リースから見て本当に幸せそうな笑顔であった。

「リースさんなら……いや、でも、うーん……でも、うーん……」

「友達か、何でもいい。それより鎌部は何をするんだ?」

 三度目の同じ言葉、いい加減リースも面倒くさそうであるが、ネロはネロで人生を左右する選択で悩みに悩んでいる。

 お互い意思疎通が出来ていないが、ともかく仲は深まったに違いない。



 鎌部のスペースがないため、運動場で校長とかが立つ朝礼台の上で、リースとネロは相談していた。

 何の相談かはリースに知らせていないが、その説明をネロは一人で話を始める。

「秘術っていうのは、本当は誰でも何でもできるんですよ?」

「ふむ、その話か」

 数十人程度の生徒が運動をしている運動場にわざわざ連れて来てまでする話だろうか。

 この振り回し振りもイツキに劣らない、とリースは密かに思う。違うのはこちらの方は可愛げがある、と言えて、イツキは憎めない奴、とまでしか言えない程度だ。

 それはともかく、ネロは秘術の説明を続ける。

「秘術は、とある人物によって授けられます。そしたら、私の鎌ですとか、イツキさんの銃とか、シズヤさんの操作能力とか、人によって様々な力を得ます。でも本当は、私だってイツキさんみたいな銃を出せますし、シズヤさんみたいに植物や空気を操れるはずなんです」

「何? それが出来るならそれをすればいいじゃないか? というかできていないではないか!」

 出来るならするべきである、というリースの意見は当然である。

「もうちょっと聞いてください。出来るはずですが出来ないものなんです。例えばリースさん、空は飛べないですよね?」

「まあな」

「でも、強くなれるとは思っている」

「ああ」

「それが秘術の秘密なんです。本当は誰もが無限の能力を与えられるのに、たった一つだけ自分が出来ると思ったイメージしか実体化できない、それが秘術なんです」

「……よく、わからないのだが」

「空は普通飛べない。秘術は普通与えられる。すると秘術で最強の能力を与えられると誰もが思う。だから、それぞれみんなが最強だと思う何かを使えるようになるんです」

「ふむ……さっぱり分からん。想像どおりの事しか出来ないということか?」

「そうそう、その通りです!」

 ネロは満面の笑みでリースが納得してくれたと思い安心しているが、リースの追及はここで始まる。

「空が飛べるとかいう例を言う必要があるか? かえって分かりづらいのだが」

 ネロは言葉を詰まらせる。

「それに、だったらなぜエレノンの能力は中途半端なんだ? イメージ通りになっていないではないか?」

「えっ、そ、それは、何ででしょう?」

「それに、最強のイメージが使えるなら、シズヤの能力を最強だと思う者は皆、シズヤの操作能力を使うようになるだろう」

 捲し立てられたネロも、これには反論する。

「それは違いますよ! 一度自分が出来るようになったイメージは強く残りますから、それしか出来なくなるのは仕方ないんです。新しく使うようになる人も、シズヤさんとは違う強い能力を貰おうと思うから変わったことになるんです」

「で、実際にそれより弱くなる、と。何故だ?」

「な、なんででしょうねぇ?」

「それはズバリ!」

 大きな声に、二人は走っていたとある人物に目を向ける。

 紛れもなく、イツキである。

「出来るわけがない、と心のどこかで思ってしまうからよ!」

「イツキさん、一体いつから……、というよりどうして走っているんですか?」

「それより話の続きを頼む」

「ええ任せなさい。例えばリース、誰かに腕相撲で負けた後、腕立て伏せを十回やってからもう一回その人と戦うと、勝てるかしら?」

「無理だろう。訓練が足りないな、もっと筋肉をつけるなり相手を弱らせるなり……」

「そうその通り! それが想像力の欠如。実際には勝てる可能性があるのに、絶対に勝てないと思い込む。それと同じことが起こっているの」

 ネロもリースも、何となく物知り顔に変わる。

「みんな心のどこかで、何の代償もなしに強い力を得ることができるわけがない、とか、あのシズヤさんより強くなれるわけがない、とか、思っちゃうのよ」

「な、なるほど……」

 鞭撻(べんたつ)していたはずのネロがいつの間にか教えられている。

「だから特訓が有効なのよね。自分がこれだけ頑張ったんだから、こういう事ができるようになっているに違いない、という想像もできるから」

 心の全てが能力に作用する、と言っても過言ではない。

「ふむ、そのように考えられるならイツキもいろんなことができて当然のようだが……」

「私は十分いろんなことができてるじゃない。それに、銃弾に貫通能力がない、という制限を加えることにより更に数々の攻撃が可能になっている。これこそ想像力を利用した能力の応用!」

 あえて制限を加えることで「○○ができないのだから××はできるだろう」と想像を容易にすることで、自分の能力を専門化する。それがイツキの貫通しない銃の秘密。

 ふふん、と偉そうに胸を張るイツキに、それでもリースは咎めるように。

「そんな風にしても、シズヤには敵わないのだな」

 放たれた言葉は一気にイツキを萎ませた。

「リ、リースさん、それは言い過ぎですよ」

 一瞬にしてがっくりとうなだれたイツキは、それでもリースの言を認めた。

「や、別に言い過ぎではないわ。事実だし。ただまぁ、世の中の例外って奴よね」

「例外、ですか?」

「もったいぶらずに言え」

「そうね……シズヤ、だけに限った話じゃないけど、ゴリアックとかネイローみたいな人は割りと変な考え方の持ち主だから、例に漏れるのは仕方ないかな、って」

「ゴリアック! ……ネイローとは?」

 リースにとって聞き覚えのある名前とない名前、ない名前の方に疑問を向ける。

「二年生で最強って言う人ですよ! ゴリアックさんは知ってるんですか?」

 名前だけで何故か印象に残る人物、ゴリアックにリースは少し興味を持ちつつある。

 ちなみにイツキは言葉を濁したが、さっき言った例外とは、頭がおかしく傲慢であれば、そういったできないという思い込みがなく強力な秘術が使えるというわけである。

 

 残りは他愛もない会話で、三人揃って寮に戻った。

 いや、戻る途中でイツキが言う。

「じゃ、私今日は家に帰るわ」

「あ、はい。それでは」

 とネロは平然と別れを告げるが、リースはそうはいかない。

「なに? イツキは学校を辞めるのか?」

「そんなわけないでしょ。家が学校に近いから、寮は実際物置みたいなものなの」

 かんらかんらと笑うイツキに、リースは睨みを利かせる。

「それなら、昨日私の家に泊まったのは何故だ?」

「友達になるためよ! 何なら、私の家に泊まる?」

 別段会話におかしな点はなかったが、なぜかリースはこれを挑発として受け取ってしまった。

「ああ、泊まってやろうではないか!」

「え、ほんと?」

「リースさん……まあ良いか。一応言っておきますけど、私の部屋、リースさんの隣の隣ですから、今度から何かあったら言ってくださいね」

 そうしてネロが別れを告げると、リースはそのままイツキに付いていった。

「ねえ、服とかは……」

「ない、貸してくれ」

 ごく当然のように人を頼ることを出来ていることに、もしネロが見ていたら感動ものであるが、イツキは図太い精神の持ち主だとしか感じなかったようだ。

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