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大会編29・インターバル

 三つの戦いが終わり、また三年生全員の一回戦が終わった後、緊急でインターバルが挟まれた。

 その理由は、教員会議のようなものを作ったからである、というのも流石に期待されていた部長がこの時点で二人も、ノーマークだった生徒に敗れ去ったからだ。

特に、エリカもブシンも第二対魔女学校が誇る優秀な戦士で、前々からノアは外へ売り込んだりもしていた。一回戦敗退はあまりに認めたくない現実。

 本来なら、少なくとも一、二年生の戦いならば行われなかったはずの会議は、三年生という高度な実力者同士の戦いだからこそ開かれたといって過言ではない。

「まずゴロロ先生、シリルは最近変わったことはありませんでしたか?」

 ノアが尋ねると、ゴロロはこげ茶の短い髪を揺らした。

「いんや、ここんとこクラスに来てね。今日久しぶりに見たくらいだ」

 皆が危惧しているのは、特にシリルのような問題のある生徒に留意しなければならないことは、外部に対して情報を漏らす見返りに魔法の技術を得るなどして強くなった場合。本日の戦いではシリルは十中八九彼女自身の戦い方であるが、それでも分不相応な実力を発揮した、というのは教師にとって問題なのだ。

  茶色く日焼けした手をぶんぶん振ってゴロロは否定の意を示す、そこでナミエが答える。

「エレノンを愛しお守りする会、の副部長になったということは知っているか?」

「いんえ、知りません。シリルが部活ですか? そらまあなんと想像できねや」

 妙に訛った口調で、しかしゴロロは驚きをあらわにする。

 ノアとナミエのみが確認したことであるが、確かにシリル・ホーネットが別人になっている、というのは誰もが感じていることだ。

 アーサーなどは二年の時の担任で、不良のシリルに泣かされたことが何度もある、その度にロイとも諍いを起こしていたくらいだ。

 そのロイが手を挙げて言う。

「元々、実力は十分にあった。問題は、シリルが本当に更生しているかどうか、だと思う」

 そういって、ロイはアーサーの方をちらりと見る。アーサーは少しだけ怯えている風に見えた。

「私はシリルを信じるとする、直接変わったシリルと話したからな」

 ナミエはそう宣言するも、それに乗るものはいない。

「シリルの次の相手はダグラス・ラスペード。同じ部の部員の姉です。手荒な真似はしないと思いますが……」

 ナミエの言葉をまるで無視し、ノアが告げる。それにこたえるものは誰もいなかった。

「ミーシャといい、シリルといい、全く、なんということか……」

 ただ、ノアの言葉には誰もが共感するのみだった。

 シリルに関してはロイが確認を取ることにした。理由としてはロイが三年の学年主任であり、何より何度も諍いを起こしているため、疑う役としてうってつけだからである。

 ナミエとしては生徒は信じるべき、とも思うが、念には念を入れたいのも本音である。今回は黙認した。

「次に、暗器部部長ですか。ディペンドン・セメンタル。すいません、初耳です」

 ノアの正直な言葉を受け、ナミエがちらりと隣に目をやると、そこにディペンドンと同じ桃色の髪をした、小顔の教師がこほんとかわいらしく咳払いをした。

 まとまりのない髪は常にふわふわと揺れているが、モナド・ミーナニンは曲がりなりにも暗器部の顧問である。

「ディペンドンはあれでも部長なんですよぉ? まぁ、いいですけど」

 そっと、目を細めてノアを責めるように見るが、すぐにモナドはきりっと説明を始める。

「彼女は、ディペンドンはとってもお喋りな子ですね。努力家で仲間想いで、真面目というよりかは本当におしゃべりに夢中になっちゃうことがよくありますね。でもお友達想いの良い子です」

「モナド、良い子とかじゃなくて別の話をだな……」

 ナミエが控えめに注意するも、ノアは満足そうに言う。

「いや、性格を知ることも大切です。何より、強さはどうだったんですか?」

 それを言われてモナドはうーんと唸る。

「あぁ、そのぉ、ご覧になった方は分かると思うんですけど、そんなに強くないです。あのエリカに勝つ実力を秘めているとは思いますけど、相打ち覚悟でしたから」

 事実、エリカが撃った弾が腕を貫き体にあたっていたならば、試合はエリカの勝ちだったろう。

 今回の戦いは運が良かった、と言われればそれで終わってしまう話なのだ。

「そ、う、で、す、か……、そ、う、で、す、ね……」

 かみしめるように考えるように、ノアは時間をかけて言葉を紡ぐが、うまく話を進められない。

 一つ、ニッカが違和感を疑問にした。

「ちょっと待ってモナドさん。ディペンドンが饒舌って?」

「うん、ニッカさんも知ってるよね?」

「あいつ、今回の戦いで一言も喋ってなかったぞ!?」

 その言葉が発端となり、モナドが後にディペンドンに話を聞くことにした。

 替え玉、とまでは言わないが、何か危険なことをしていなければいいのだが、と話はそのように終わった。



「おいギラ、もう帰んのかよ?」

 インターバルの間、アリスが呼び止めるも学校の北側でギラが森に戻ろうとしていた。

「ああ、明日のリースの戦いを見ないことは心残りだが、初日のもので充分だ」

「充分ってな……ゴリアックの戦いは見ねえのかよ?」

 その言葉にギラも一瞬頬が震える。だが、その瞳の決意の色は変わらない。

「アリス、俺もお前のようにここの者たちのために何かをしたいのだ。胸を熱くさせる戦いも、幼き少女達が行うにはあまりに危険だ。俺たちのような男が、大人が、そういった役回りをすべきだと思わないか?」

 そう、ギラは少しの憂いを帯びた表情で言った。

 リースとネロの戦いのような激戦や、イェルーンとステラのような残酷な戦いを、年端もいかない少女達にさせることをギラは潔しとしなかった。

 アリスにも気持ちがわからないことはない、だがアリスはそもそも魔族であり武人、それを否定する答えを二つ持ち合わせていた。

「女だ子供だって言うのは、リースちゃん怒るぜ? 確かに戦いたくもねーってんなら、俺達が代わりに、たとえ死んだって魔女と戦ってやる。だがリースちゃんやゴリアックはちげえだろ?」

 それはその通りであった。リースは生まれながらにして戦う宿命を課せられた存在、それをギラが勝手に嫌がっているかのように受け取るのは筋違いである。

「それに、お前さん、ただ見ているのが嫌なだけなんじゃないか?」

 アリスの言葉にギラの表情は一変した。

「リースちゃんだけでなく、あのピカリとかシキとか、イェルーンとかステラとか、化け物みてえに強え奴ばかり見て、自分も鍛えたくて仕方がねえだけだろ? かっこいい言い訳すんな」

 一瞬、ギラはアリスを睨もうとしたが、震える目はそれができず、ゆっくりと閉じられた。

「……そうかもしれんな。俺は欲に囚われていたのか」

 溜息を吐くギラの表情は、本当に疲れたようだった。

 だがすぐに、新たな覚悟を決めた決意の瞳をアリスに向ける。

「それなら、それでもいい。リースのためになる、俺のためにもなる、ならばそれでいいじゃないか、だろう?」

「んだよ、リースちゃん悲しむぞ。明日の試合観ねえと」

 三年の戦いが終われば部活戦が始まる。リースの戦いはまだ残っているのだ。

「俺も強くなりたいのだ、誰よりもな。いなくなって悪い、と伝えてくれ」

 そして歩き出したギラを、これ以上アリスは止めなかった。

「ま、明後日には食糧ついでに話聞かせてやるよ」

 そのまま進む戦士の後ろ姿、止める方が無粋だろう。

「いいんですか? 止めなくて」

 ジョーカーが忍び寄る。それをアリスは面倒くさそうな顔で答える。

「あいつも武人なんだろ。口で止められる相手じゃねえよ」

「ならば武力で……」

「テメェも狂ってんな。テメェには一生分からねえよ、黙っとけ」

 アリスは踵を返し、ジョーカーを横切り、背中だけを見せた。

「……わかる方が愚かでしょうに」

 ジョーカーの小さな言葉は、既にアリスには届かない。


 裏路地にて、イェルーンはスノウに擦り寄られていた。

 カビの生えた土管に腰掛ける二人、イェルーンは怒りとも驚きとも吐かない困った表情で左肩に触れるいじらしい手の感触に吐き気を感じている。

「……教えて、強さの秘密」

「あのなぁ……」

 結局、スノウは自力で情報を集めることを諦め、イェルーンに聞くことにしたのだ。

 イェルーンにとって、別に町の魔女シュールから受け取ったということを隠そうがバラそうがどっちでもいい。

 だが考える、学校の奴らの味方をするのは癪だが、魔女に寝返るといえば聞こえはいいが、魔女に肩入れするってのも癪なのだ。

 イェルーンとしては人生を面白可笑しく、楽しく生きたいのみ。ただ情報を伝えるだけでは面白味に欠けるというもの。

「ま、学校に秘密があるとだけ教えてあげる、優しくてセクシーなイェルーンお姉様のサービスよん? なんつって!」

 イェルーンはすぐ傍のスノウの鼻を舐めて、立ち上がった。

「知りたきゃ学校に攻め込むなりなんなりしな。楽しみにする……が」

 イェルーンは腰を思い切り折り曲げ、顔をさっきよりもスノウの顔に近づける。

「ネイローだけは殺すなァ!? あんの女だけはこの私自らどろどろのぐっちゃぐちゃにして、飲んで味わって……そんでそんでェ……! はひゃっ! はひゃひゃっ!!」」

 イメージしただけでイェルーンのテンションは上がっている。スノウはそれを惚れ惚れ見ながら、しかし学校というキーワードをしっかりを確認した。

「……おかしくて、クレイジーなイェルーン……」

 そのスノウの目は、魔女と会合する時とも、昨日までのイェルーンを見るものとも違う。

 熱っぽく、濡れたように揺れる瞳に籠ったものは恋慕や敬愛が混じったかのようだった。


 結局、応援服からいつもの服装に戻ったエレノンが着替えから戻る途中、ふわりとニーデルーネが目の前に出現した。

「……どうしたの?」

 それはサイズオブイモータルではなく、人間であるニーデルーネである。見慣れた黒のツインテールに、漆黒の上下の制服はこの学校のものではない、外の大陸のものであるらしい。

「や、エレノンちゃん、元気? 調子は?」

「……世間話はいい。なに?」

 そんな話し方だけで、エレノンがニーデルーネの不審に気付いた。

 ニーデルーネは自分を啓蒙するほどの人であるのに、それがこんな回りくどい話し方をするには理由があるに違いない。

 ニーデルーネは少し困った風に笑顔を見せて、出し抜けに言った。

「シリルっているじゃん? どんな感じ?」

 はぁ、とエレノンは溜息をついた。

「……ナミエ先生にも言った、もう大丈夫。この心配性」

 擁護から自身への罵倒と来てはニーデルーネも言葉が出ない。

「そっか、なら安心ね」

 ニーデルーネはそれ以上は聞かなかった。それはエレノンに対する信頼が大きい、彼女が不器用であるが『よいこ』であることを一番知っているのはネロとニーデルーネだろう。

 人と協調せず、人を思いやらず、しかし誰よりも人を大切にする、そんなエレノンだからこそ信頼がおける、一番大切なものは守り通してくれる。

隣に歩くニーデルーネの身長は僅かにエレノンより高いのみ、死神状態と比べると背が低くなっているが、彼女の普通の身長は当然これである。

 横に歩くエレノンの顔は一切見ず、しかし背中をぽんと叩いて呟いた。

「私のこと、応援してくれないの?」

 試合に来てくれ、という言葉に含まれた意思を感じ、エレノンは溜息をついて応対する。

「……先輩の試合、退屈。それに、部活……じゃなくて、シリルを応援したいし」

 ニーデルーネの応援に行かない理由をシリルのせいにするようで言うことが憚られたが、しかし部活などに縛られるわけもないと、エレノンは真実を話す。

 だがニーデルーネの癇に障る。自分よりも出会って僅かなシリルの応援を優先するというのはなんとも悲しい。

「部活って、鎌部でしょ? 私もあなたも」

「……幽霊部長が言うことじゃない」

「死神部長ね、まあそうかもだけどさ」

 チラッと初めてニーデルーネがエレノンの顔を見る。ローブに隠れた顔はいつもと変わらぬ無表情だった。



 インターバルの間、シリルはどこかへ行ってしまったエレノンを部員で手分けして探していた。

 彼女が承ったの範囲は校舎内の屋上とその下の三階である。

 屋上には当然ゴリアックしかいないので、基本的に三年生のクラスがある三階を探し回ることになるのだが、それが少し問題である。

 シリルにとって学校の、特にこの付近の居心地は悪い。同胞殺しの女王蜂、逆鱗の灰蜂などといまだに囁かれ。

 今もなお、教室でたむろする女子はシリルを見た瞬間に目をそらしたり、あからさまに嫌悪の表情を示したり、陰口を叩いたりしている。それもあえてシリルにわかるようにだ。

 三年間戦い続けた戦士達、そう言った真似をしないものも多々いるが、それはそれでシリルと相性が悪い。

 声は出さずに、しかしあちこちきょろきょろとせわしなく首を振り歩くシリルは非常に目立つ。

 遠くの廊下、階下からロイが見えると同時に、目前に麗しき女性が立ち塞がった。

 ウェーブがかった金髪のロングヘアに、悩ましげに左手で頬杖をつくようにしている姿は確かに麗しい。

 ただ胸と尻と股間を隠すだけのような非常に露出度の高い水着のようなものしか着ていない姿と、服装より佇まいより目立つのが普段から鋭いだろう目を、いっそう敵意と悪意に強くしていることであろう。

 シリルとて彼女の存在は知っている。これほど過激な格好をしているのは奇人の多い三年とはいえゴリアックと彼女のみ、とくにこのダグラス・ラスペードはその家系が特殊だ。

 後ろに女子を二人引き連れたダグラスを容易に横切ることができず、なによりその猛禽のような瞳からシリルは目が離せない。

「……どうかなさいましたか? ダグラス・ラスペードさん」

 首を振って髪を払ったダグラスは、よく見えるようになった瞳でもう一度、憎悪も湛えてシリルを睨んだ。

「どうなさいました、と思う? シリル・ホーネット?」

 見るからに眼球すら怒りにピクピク震えている。どう答えたら正解なのか、思わず勘ぐってしまう。

 ロイは廊下の奥からその光景を興味深く見ていた。二人がどのような会話をするのか、それも重要である。

「勝利宣言、なんて陳腐な真似は致しませんよね?」

 シリルが選んだのは挑発だった。普段自分に目もくれないダグラスが一体何故自分にこれほど因縁をつけるのか、ここでたやすく喋らせようという魂胆である。

「生憎、ブシンを倒したあなたに勝利宣言するほど自惚れてはいません。しかぁし!」

 突如声を荒げたダグラスの瞳には、人をも殺す狂気が孕んでいた。

「……あなたの部活と私の家族、と言えば分かるでしょう?」

 平静を装うダグラスを見て、シリルもその原因を察した。

「レオニーさん、ですか。あなたが心配するようなことは何も致しませんよ?」

「あら、そうですか、だったら安心安心」

 小走りするようなステップでシリルに近づいたダグラスは笑顔でシリルを見上げ、すぐに目を狭めた。

「なんて、言うと思ってる?」

 あまりの激しい怒りのためか、それとも攻撃のための明確な意思のせいなのか、ダグラスの腕から金と茶の混じったような色の羽が生えてきている。

 シリルがのけぞって黒の書を手に持つと同時に、ダグラスの大きくなった三本の指と鋭く黄色い爪がその腕を捕えた。

 痛みに書を落とすと同時に、ダグラスの赤い猛禽の睥睨と黄色い嘴がシリルに伝える。

「いいか? シリル・ホーネット。俺はお前に何の恨みもねえし関わろうとも思っていないが、不意な機会でが終わる奴もいる。ゆめゆめ行いには気を付けろ」

 そう言う姿は既に、鷲の獣人というに相応しく、声も喋り方も姿も、何もかもがダグラスとは違っていた。

 ダグラスが手を放すと、爪が食い込んだ腕から血が滴る。

 元に戻ったダグラスは、すぐに落としていた紐のような服を器用に着こなすと、一言だけ残し、踵を返した。

「では、ごきげんよう」

 掴まれた腕をさすりながら、シリルはその後ろ姿を睨もうとしたが、女性にしても目のやり場に困る服装であった。


「ダグラス、挨拶が過激すぎるよ」

 すれ違いざまにロイが言うと、ダグラスは冷たい目で見るだけですぐに去った。

 次にロイが腕を擦るシリルに声をかける。

「大丈夫か、シリル・ホーネット」

「これはロイ先生、大丈夫です、これくらいなら」

 軽く腕を振って見せると、シリルは笑顔を見せた。

「では、私も試合の準備があるのでこれで」

 そう、シリルは堂々とロイの横を通り行く。

 それをロイは尻眼で見た。

 あれでは、どちらが問題を起こすかと聞かれると、ロイは答えられない。

 シリルは今までは間違いなく不良だった、散々な人間だった。そもそもシリルとロイは何度も説教したり無視しあった仲だ、なのに今見たシリルはまるで別人。

 驚いている間にシリルは歩いていき、これ以上、ロイは追及できず。

 結局はほかの生徒のように試合を見守るしかなかった。



 三年の教室、二年の教室、暗器部の部室、様々な場所を探し回ったがモナドはいまだにディペンドンを探し出せない。

 時間をかける訳にはいかないのに、焦る中、校舎から体育館に向かう途中で校舎の陰にそれを見た。

 壁際を歩いていたであろうディペンドンに話しかけているのは、信じられないことに、学校最強のゴリアック・エルム。

「ディペンドン・セメンタル。暗器部の部長、あの武器はお前の秘術じゃねえな?」

 それはモナドも知っている、ディペンドンの秘術はあの刃ではない。

 直接言葉を投げかけられたディペンドンは、変わらぬ無表情と無言だった。

「針でもない、刀でもない……となると、お前の秘術は何なんだ?」

 強い者しか気にしないゴリアックに興味を持たれた、というのはなかなかこの学校にとって誉れ高いことである。しかしモナドは部員のそれを喜ぶ以上に不信感が募る。

(どうしてディペンドンさんは何も言わないの?)

 この二人の間に割り込む前に、平時のディペンドンを観察すると決めたモナドは、まだ少し待つ。

 二人はしばらく睨みあうように顔を合わせるが誰も何も言わない。

 鋭く勇ましいゴリアックに比べ、ディペンドンの顔はいくらかピクつき、顔も少し赤らんでいる様子が見て取れるくらいか。しかし表情に大きな変化はなく、口だって少しも開かない。

「……話したくないならそれでいいさ。ただ、正体を見せる前に敗退などするな。できれば私に直接見せろ」

 そう言っている途中からゴリアックは背を向けて跳び去った。

『ヤアヤアワレコソハ……ッテ、イネーゼッ! ディペンドンッ!!』

 その妙に甲高い声はゴリアックに届かず、ディペンドンの上に乗った木製と思われる人形の姿をゴリアックは見なかった。

 ディペンドンは言葉を発さないものの、小さく地団太を踏んだ。

 ちょっと緊張しつつ、モナドは姿を現す決意をした。

「ディペンドンさん、ちょっといいかしら?」

 くるり、とディペンドンが振り向くと同時に人形が喋る。

『ケエッ! コモンノ、エット、ナンダッケ!?』

「モナドよ! 全くもう……じゃ、なくて」

 ディペンドンは相変わらず喋らない、秘術のこの人形もお喋り好きなのは周知の事実だが、それにしてもディペンドンが何も言わないのは不思議だ。

 だがその不思議をディペンドン本人から聞かずして知る手段が今ならある。

「ねえお人形さん、どうしてディペンドンは喋らないの?」

『イイテエェーッ!! イイテエケドッ! イワネーヤクソクダ!!』

 うぐぐと人形は言いながら口を抑える。しかし言いてえ、と返事するまでの間が一秒もなかったので、モナドは押してみる。

「そこをなんとか! 誰にも言わないから、ね?」

『チクショウッ! ヒントダッ!!』

 ノータイムの返事からノータイムでディペンドンは自分の唇に指を当てた。

 口を開かないものの、にぃと唇をゆがめて笑った。

 その可愛らしい顔に、思わずモナドも破顔した。

『コレハ『サイシュウヘイキ』ナノサッ!』

 あらゆる物に改造を施す人形の秘術、それを持つディペンドンの意志がそう言うのならば、顧問のモナドはおおむね察することができた。

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