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大会編26・戦い終わって

「ふえ~ん、勝てなかったよぉ、エレノン、慰めて?」

 上目遣いでエレノンを見つめるミーシャは、きゃぴきゃぴと笑顔を見せた。

「……腑抜け」

「あっ! ひっど~い!!」

 ぷんぷんと怒るミーシャであったが、すぐにしゅんと寂しそうな顔をした。

 実際、自分は全く戦わずして敗北した。諦めた、勝てない、痛い目に会うくらいなら先に降参しようと、そんなことで負けてしまったのだ。

「……みんなごめん、私、会長なのに」

 泣きそうな顔をするミーシャを、カナタが励ました。

「全然平気ですって! むしろクラス最強なんて凄いですよ! 私達だって全然勝ててないし、エレノンなんて二回戦負けですよ!?」

「……その私に負けたくせに」

 エレノンがカナタをむっと睨みつけるが、カナタはエレノンも可愛がるように頭を小突く。

「そうですわ、会長なんて強さで決まるものではありませんし、気にすることないです」

「何よりあれは誰だって諦めますよ」

 レオニーとイロが付け加えた後、シリルがもう一つだけつけ加える。

「そもそも、カナタさんが情けない、と言った後にエレノン様があれは仕方ない、と弁明しましたよね?」

 満面の笑みのシリルに、カナタとエレノンが突っかかる。

「ちょーっとシリルさん、それは言わない約束ですよぉ!?」

「駄目! 言わないで!」

 本気で焦るカナタと、恥ずかしそうに照れるエレノンを見て、ミーシャはついに涙した。

 今この場にミーシャが感じているのは優しさと、自分がここにいても良いという気持ち。

 誰もを信じることができず荒れた昔だったが、今この場には自分を認め、仲良くしてくれる人がいる。

「エレノーン! 私嬉しいよー!」

 抱きつくミーシャをうっとうしく思いながらも、エレノンは自分のことを私というミーシャに、少しだけ距離が近くなったと感じた。



 弓道場に似た銃道部に部員が集まっているが、ザロックに声をかける者は少ない。

 ザロックは二年では期待が集まる副部長、次期部長とも言われているのに、学年最強の存在が相手とはいえ戦わずして負けを認めたのだ。

 クラス最強の功績は大きくとも、一矢報いる覚悟くらいは示して欲しいと誰もが思う。

「……先輩、大丈夫ですか?」

 イツキの言葉に、ザロックは過剰に反応した。

「大丈夫、か? ……大丈夫に決まっているだろう、何もせず負けたんだから」

 大丈夫、というのは当然心の問題である。だが普通ならば体の怪我を心配するように言う言葉、今のザロックはそう裏を読んでしまった。だから顔を反らして、つい意地の悪い言葉を出してしまう。

「そっ、そんなつもりで言ってませんって!」

「どうだか……」

 そんなことはザロックにも分かっている。分かっているのだ、だけど、自分が勝手に、このようになってしまう。卑屈で、死にたくなる。

 じわりとザロックの瞳が潤う。

 そんな彼女の首に、ニッカが腕を回す。

「こーらザロック! 相手はネイロー・クインだぞ!? 本当に仕方ないって、ナミエ先生をして自分より強いと言わしめた化け物だ! 言っちゃ悪いが順当、順当」

 ニッカの言うことは間違っていないが、論点があまりにズレている。勝てないなんてことは誰でも分かっているのだ。

 だが、少しでも励みになれば、そう思いニッカは言わずにはいられなかった。

「おーおー、大丈夫だって! みんな実はお前が腑抜けだって気付いたんだよ!」

 とザロックの旧知の友人も励ましの言葉をかけるが、ここでぴしゃりと低い声が響く。

「いんやぁ? ザロックは腑抜けではないし、相手がネイローとはいえ、降参したのは順当じゃあねぇ」

 ガン、とショットガンの背を地面にたたきつけたのは、射撃場、丸い的の並ぶ部分、真ん中の的の下に鎮座する部長、エリカ・クルホンである。

 いつも通り、博徒のように和服を半分着崩し、下着代わりにサラシを巻いた女豪傑を臭わせる雰囲気は、その喋り方も相まって余計に雄々しい。

「お前、相手が魔女だったらどうする気だぁ? 目の前で私が殺されたら、許してくださいって武器をしまって逃げ出すのかぁ?」

 ザロックは言葉を失う、だがニッカがザロックを擁護した。

「おいエリカ、言い方ってものが……」

「先生ぇ、この大会は何のためにある? 最強の名誉かぁ? それともただの訓練かぁ? 違うだろうが! 魔女を倒すため、それが全てだろぉ?」

 ショットガンの秘術をしまうと、エリカは立ち上がった。

「確かに一対一なら、とっとと諦めて死ぬのもいいかもなぁ? だが現実はそうじゃない。少しでも敵に傷を与え、少しでも後続の生存率を上げなければならない、分かるな?」

「は、はい!」

 ザロックは威勢よく返事をし、それにエリカは笑顔で頷き返した。

「お前が部長として必要なのは、後の者の事を、自分の味方のことを考えることだ! 情けない面して無駄に心配かけてんじゃねえぞぉ!?」

 手厳しい言葉であるが、既にザロックに卑屈な思いはない。

「さ、さすが部長……」

 イツキが驚嘆の声をあげるが、周りの者も同じ気持ちである。

 そして、堂々とエリカは部員たちに自分の良い顔を見せて、部長という姿を示す。

「んじゃあお前ら! 明日は私が見せてやるよ! 部長の生き様って奴をなぁ!」

 そのままエリカは荷物をもって帰宅を始めた。

 そして皆に背中を見せて言う。

「……精々、ゴリアック辺りなら派手に散って見せるぜぇ?」

「えっ? いやいや負ける気でいくんですか!?」

 イツキが慌てて問いただすと、何故かエリカが怒って言う。

「馬鹿野郎ぉ! あんな化け物勝てるわけねぇだろ!」

 最後に、馬鹿! とエリカがつけ加えると、すぐに扉を閉めて帰っていった。

「な、なんて無茶苦茶な……」

 格好いいのやら、格好悪いのやら、ザロックは小さく笑って呟いた。



「……ステラ、私、やったよ?」

「ああ、見てたよ。えふっ! 結構、酷いことするんだな」

 保健室のベッドで寝るステラは、まだ本調子ではない。

 椅子に座ったネイローが介護するように優しい目をした。

「ステラは、嬉しい?」

「嬉しいかって? げほげほっ! 別に嬉しいも何もない。私自身の成績は、変わらないんだから」

 何度も咳きこみながらであるが、ステラの体内に酸はもうほとんどなく、後は今一度誰かの秘術による回復をしてもらえば全快である。

 ステラの言葉に少ししゅんとしたネイローは、また訊ねた。

「……まだ、最強になりたい?」

 それには、ステラはすぐには答えられなかった。

「うーん、この能力で最強になれるなら、なりたいかな。でも、私はこの能力が気に入ったんだ、これのままなら、最強じゃなくたっていい」

 しみじみと呟き、ステラは少し辛そうに深呼吸した。

「……ステラ、褒めて?」

「なんで?」

 今まで怠惰な自分を叱り続けてきたステラに、精力的な自分を見せることで褒めて欲しかったのだが、ステラはその理由にまるで気がつかない。

「褒めて」

 今度はちょっと強気にネイローが言った。

「んー、なんかネイローは変わったねぇ。んん! 眠くないの?」

「褒めてくれるまで、寝ない」

「じゃあ、一生寝られないね」

「褒めて!」

 褒めてやってもよいのだが、どうにも意地になるネイローを見ると意地悪したくもなってしまう。これは人情だろう。

 いい加減悲しい表情を浮かべた時に、ステラはそっと頭を撫でた。

「よしよし」

 ネイローは満足そうな笑顔を見せてから、ステラの方に倒れて、すぐに寝た。

 腹にネイローの頭を受け、おふっ、と情けない声を出した後、ステラも穏やかな表情で眠りに落ちた。

 ステラの不満はただネイローが理不尽に強いからだけではない。ネイローが普段はだらしないくせして強いから腹立たしいのだ。

 けれど、褒めてもらうために一生懸命になったり、自分のために頑張る様子は、妹のように愛らしい。

 誰よりも強く嫉妬の対象であった、自分を苦しめるネイローは、同時に我侭な純心を見せる癒しであったのかもしれない。


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