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魔女大陸動乱編9・安寧と出航

「魔女の祖、っての知ってるかい? ゴール」

「……いえ」

 何事か、とキルはきょろきょろ周りを見るが、ゴールどころかハイパーまでも借りてきた猫のようにおとなしくしている。

 それをヴィーがこそっと耳打ちする。

「最強の雌、モナド・バルバドス・ゴルドギン。全ての魔女より強いという最強の生物よん。大人しくゴールに応対してもらいましょうね」

「ころ……」

 神妙な面持ちでその女を見るが、キルとてその漲らんばかりの力が只者ではないことはわかっていた。ただ、強いとてなんとか倒そうとするのがゴールなのに、おとなしく付き従っていることが意外だったのだ。

 モナドは最強の女であれど魔女ではない。ならば種族として魔女は彼女を打倒すべきなのではないか、という疑問。それが解決していない。

「私もこないだシントに聞いてやっと合点が行ったんだけど、キュートのやつここにそれを封印したっぽいんだよ。全ての魔女の祖、虹の魔女レイ」

「……聞いたこともないですが」

「やっぱ? どうせキュートの指金だろうけど、それをシントが知ってるのも胡散臭いけど……間違いないっぽいね」

「魔女の祖、レイですか」

「こっからが本題、今まではソウジュの魔法と打ち据えられた大塔でそれが封じられていた。けどデビルがここで死んでその膨大な魔力が流れた。……魔女の祖は目覚めかねない」

「それは不都合ですか?」

「私より迷惑なやつだった。キュートやシュールへの当たりを見る限りじゃ同類だから見逃すわけもないだろうし、私は気にしないけどデビルが死んだ後じゃ世界勢力がめちゃくちゃになるんじゃないかな。もちろん、魔女も、魔族も」

 途方もない話にゴールは理解が追いつかないが、長き時に過ごしていたこの場所に、他と違う何かがあることは肌で感じていた。

 魔女の祖、最強の雌をもってして存在を警戒させる存在を想像することすら覚束ないが、それが自分にとっても好ましい存在でないということを把握した。

 もっとも、迷惑さで言えばモナドも充分迷惑な存在だが。

「して、どうすればいいと?」

「硬い。ゴール硬いね。どうしたの」

「……そんなにその魔女が恐ろしいというのなら、貴女がこの大陸の人間を全て殺してしまえばいいじゃありませんか!? なぜ停戦などと生温い方法を!?」

 空気がひりつき、ハイパーが僅かに恐怖で震える。誰も戦う意思がないその場所で、ただモナドだけが笑みを讃えた。

「そこまで人間、嫌いじゃないの。一方的に誰かの味方になるとか敵になるとか柄じゃないし」

「ええ、ええ、そうでしたね。いつだって自分勝手に気ままにして……従わされるしかない! 貴女のそういうところ、大嫌いですわ! 大嫌いな女にそっくり……!」

「……バニラは既に死んだのにまだ素直になれないんだ? 愚かしい……」

 罵倒の言葉をきっかけにその場の殺意が満ち溢れるが、ゴールが動くより先にモナドの掌底がゴールの顔面を捉え彼女を打ち据える。

 戦うことすら許されず、地べたに倒れる黄金の魔女を溜息混じりに吐き捨てる。

「……私はしばらくここの動向を見守るまで。停戦中に戦う奴は誰であれ殺して止める。別に権力や何やらには手を出さない。いいな」

 脅しめいた確認の言葉に、ゴールは無言で地面を握る他なかった。





 場所は第三対魔女学校、集うのは第一地域より校長ベリー、生徒シラナミ、教師サヨ。

 第三地域より校長ベンティフ、生徒グルフェン、教師アインツ

 第四・第五連合より校長エイナとバーバラ、生徒バロミ、教師ロブレン。

 そして第二地域――

「……もう動けたんだねぇ、ノア」

「本調子ではないですが、この事態に寝ているわけにはいきません」

 校長ノア、生徒ゴリアック、教師ゴロロがそれぞれ参集した。

 紛れもなく魔女の大陸の対魔女を司るそれぞれの地域の最強の集合であるが――。

「ナミエが逝き、マナフは帰らず、ロイは四肢を失って、ゴロロか。ニッカの方がマシなんじゃないかな?」

「あまりいじめないでください。不幸な事故、と言うと責任逃れのようですが対処の仕様がない事態でした」

 既に険悪な雰囲気が漂う両者の間であるが、敵意を剥きだしのエイナに比べればノアは穏便に済ませようという気が強い。

「ま、そうだよねぇ。魔女が群れなして襲ってきたんだし。小言より今は本題だね」

 だが、エイナはここで終わらせるという気持ちが強い。

「最強の雌、モナド・バルバドス・ゴルドギンの提案で一年魔女との停戦が決めつけられた。魔女が攻めてくる場合はモナドとの共闘になるが、あれを敵に回そうという存在はいないだろう。だから、この一年で私は対魔女連合の長を決めたいと思っている」

 ノア、ベリー、ベンティフがそれぞれエイナを見つめる。バーバラも表情を変えていないため、その事態の把握は難しくない。

「エイナ、自分がリーダーになって支配すると?」

「一年の準備期間があれば魔女を滅ぼすことは充分可能だ。魔女がいなくなったらシュールの存在をどうするか、外部の大陸との外交など新たな政治に目を向ける必要があり、そうなった時に代表は一人である方が都合がいい。となれば誰がその代表になる?」

「誰でもいいだろ、そんなん」

「ならベリー、君はもう話に加わらないでくれ」

「んなっ!」

 切り捨てられたベリーはイライラと睨むが、それでも反論はないので黙って座る。サヨとシラナミはそんな不甲斐ない姿にそれぞれ思うところがあるが。

「……代表を決めるとなると、現状魔女の討伐数が多い我々第二地域がなるのが筋ではないですか?」

「それ、その通りだよノアちゃん。だからこっちも正直に言うけど、魔族との関りがずぶずぶな君達に任せたくないんだ。死者も多ければ、クロスフィールドやラスペード家……そして何より裏切り者イェルーン!」

 ノアは一瞬驚きに目を見開くが、千里眼を持つエイナが秘匿された事実を知るのは道理であって、すぐに襟を正した。

「……ま、第五地域の超巨大悪運に比べて小さな不幸が積み重なってる感じだけどさ、代表になるにはちょっときな臭さが強いんだよね。大人しく譲ってくれないかなぁ?」

 あくまでエイナは自分の調子を崩さない、しかし相手に反論の余地も許さない。

「……仕方ないですね」

 ノアとてそれが正しいかどうかはわからない。だが自分が代表となることで他の地域の者に不安を覚えさせるのも道理で、それが正しいとは思わなかった。

 問題は、代表を作る必要があるのかどうか、だが。

「私は嫌ですぅ……」

 ただ不安そうなベンティフが、はっきりと否定の意を示した。

「や、ベンティフも気楽に考えて。そういう権力とか好きじゃないでしょ? 面倒な雑務はあるだろうけど統括とか義務とか責任とかを私が一手に引き受けるって話で……」

「今まで通りでいいじゃないですかぁ……寡頭制の五人で議決するカウンシル、バーバラさんのテレパシーがあれば不都合ないじゃないですかぁ……」

 それもそう。やや手間にはなるが。

「代表が五人いると、外部との繋がりの多いノアが」

「ノアさんではなく第二地域ですし他の四人が反論すればいいじゃないですかぁ」

「……ベンティフは流されてくれると思ってたけど」

「私は変化するのが嫌なので流されて変わることはないですぅ……。それにいいじゃないですかぁ、バーバラさんがあなたの意のままに動くなら、それだけで二票分の意見になりますよぉ?」

 今のままの五人で決める制度なら、それはその通りのように思える。だが現実、バーバラはエイナの操り人形ではなく、確固とした己の意見を持っている。

「どうしてエイナさんは権力を握りたいんですかぁ?」

「魔女討伐後の迅速な動きこそ肝要なんだ! エリオット教! 三大魔皇! モナド! 魔女を討伐した大いなる力を持つ存在を世界は放っておかない、誰かに利用されることも大きな力に飲まれることもなく、毅然としたリーダーが必要だ。民を導き、自衛するだけの力が……!」

「まず魔女討伐ですよねぇ……?」

 ベンティフの言葉にエイナが押し黙る。

 さて、つつけば押し黙る状況の、エイナの焦りを過ちを誰もが感じている中で、それをノアもバーバラもベリーも伝えない。

 今は伝える必要がないからだ。

「まず、討伐しましょうよぉ。私達、曲がりなりにも協力しあって、ついに魔女を倒したりしたんですから、その後のことも今まで通り一緒に決めたらいいじゃないですかぁ……?」

「……それじゃ、遅い」

「エイナさんが早いんですよぉ……」

 なおもエイナが言い返そうとするのを、傍のロブレンが肩に手をやり止めた。

「その時、貴女が無事である保障もない。……その時にしよう」

「……っ! く、く、説き伏せられたのは認めるよ。悔しいもんだねぇ……」

 第五地域が壊滅し、ノアも瀕死の重傷を負った、そういう事態があるからこそか、エイナもそれが先見の明ではなく不安からくる焦りでしかないという自覚をした。

 自分が全て間違っているとは思っていないが。

「なら……この話は後! 魔女を倒すための話だ! それともし倒せたら私がこの大陸を主導していくからな」

「はいはい異議なーし」

「私も、構いません」

「その時は好きにすればいいですぅ……」

「ご随意に」

 空回りと言えば空回りだが、僅かな不和も解消しようやく魔女の大陸はしばしの安寧を得ることになった。



「イェルーンが国を作った、と」

「おーおー、魔族の大豪族とやりあってるよ」

 平和を手に入れたステラは、これから子を産むための装置を活発にさせ予定より早くの出産を準備する。

 そのイェルーン討伐部隊はステラの我欲から誕生したものだが、裏切り者イェルーンが校長たちの間で周知となった以上、差し向けないわけにはいかない。

「私もわざわざ見張りとして分身を送ってるけど、まぁひどい有様だな」

 ニッカの監視はイェルーンの傍にも届いているが、口にするのもおぞましき、と言った表情で何も言えずにいた。

「……歯痒い。速く元気な子を産んで、あいつを殺してやりたいのに……」

「私が言うのもなんだが簡単に死ぬやつじゃないだろ。エレノンも行くとは言ってるが全力で戦える状況じゃないって言うし、役割としては監視と戦力を削ぐってくらいだ。実際殺すかどうかはまた校長たちの決定次第だな」

「……そうですか。ご迷惑をおかけします。言い出しっぺなのについていけないなんて」

「一番行きたいのをこらえてるんだろ。無理すんな」

 寝ているステラの頭をぐしゃぐしゃと撫でてからニッカは部屋を出た。



 空港にて、戦士たちが集う。

「出航オブ出航だぁ! 待ちわびた待ちわびた、戦いたくてウズウズしてるよ!」

「そんな戦いたいもんかね……?」

 妙に乗り気なヤリサイを訝しく見つめるのは元エリオット教のドリツェン。

 この戦いは、ドリツェンも他の者も身内の恥を濯ぐための戦い。楽しむものでは決してない、憎悪と欲のぶつけ合い。

「誰が相手だろうと首級をあげるは栄誉だよ、私は戦士として敵を討つ喜びを知ってるし、戦う名誉も知ってる。難しいことは先生任せ!」

「良くも悪くも兵隊の鑑だな……、そっちの姉ちゃんは」

「……まだ、私は悩んでいる。己の拳を、戦う意義を」

「悩まなくていいじゃないですかブシン先輩! 悩まず戦うスタイルじゃないですか!」

「……どうしたものかな」

「どうしたものかなってこっちの台詞だよ、大丈夫かこいつら……」

 既に不安いっぱいなドリツェンは、自分が数少ない大人であることも含めて、しっかりやらなきゃな、と思った。

殺李書文欲しいのでFGOを…

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