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魔女大陸動乱編1・サヨとレイミーヤ

戦国の大陸の方のストックないので魔女の大陸の方で

 ゴロロは悲しみに包まれて街を外れて森沿いを歩く。

 先日ゴリアックが森のパトロールに出たところ、脱獄者にして殺人鬼『夜歩き』リム・ミドナイトの死体が見つかったとかですっかり株を取られてしまった。正式には消し炭であるそれらしき燃えカス、であるが。

 教師の自分が今回は完全に補欠だったということで、魔女と出会わないなりにも危険な場所で誰かを守れたら、と漠然と歩いているのだ。

 どちらかといえば、早くノアが復職して、自分が退職できたなら、とゴロロは思っている。

 自信がなくなった。

 生徒だった頃は最強とは言わないまでも、応用力と柔軟性に富んだ実力者で、実戦では最も有能だなんて言われた時もあった。

 体から自在に操ることができる泥を出す、そんな地味な秘術は当然多人数相手には使い辛く、もっぱらは白兵戦であるが、それすらもハッケイ・ジョンとの戦いで打ち砕かれた。

 教師を辞めたい、は言い過ぎたかもしれないが、今は一人の時間が欲しい。

 自分を見つめ直す時間が。

「はぁ……」

「はぁ……」

 溜息が重なった。

 ゴロロがふと隣を見ると、憂いを帯びた冷たい瞳がなお悩ましく映える美しい少女がいた。

「……ディペンドンか?」

「……あ、ゴロロ先生? いやゴロロ先生って言っても私も一応は先生になるからまあでも同僚の先生にも先生ってつける人がいるからゴロロ先生っていう呼び方が別段間違っているわけではありませんが一応は先輩なので先輩呼びの方が……」

「おんめは本当に黙ってりゃ美人なのにな」

 今度は呆れて溜息を吐く。

「んで、なにが悩みがあんなら、ほれ、わだすに言っでみ?」

「え?」

 きょとんとディペンドンが小首をかしげる。そんな小動物的愛らしさも言葉数が少ないからこそ。

 というか、お喋りのディペンドンが黙り込むほど驚かれたのだからゴロロの方が何か弁明したい気分になる。

「わだすだって先輩だし、そもそも生徒の悩みでも後輩の悩みでも聞くもんだ」

 先輩ぶったことなどないゴロロはそんなことを照れながら言うと、ディペンドンは少し意外そうな顔をした後、得意の饒舌で語り出した。

「これはほんの昨日の話でもともとロイ先生に教師になりたいって話をしてたからその……」

 別に大した時間も取られなかったし、そんな大袈裟な出来事がと言えば、そんなこともない。

 しかしディペンドンの心に引っかかり続けているのは、そんな先輩教師に話してもらった教師としての心構えの話である。

話した場所は、誰もいなくなった教室。

「これから何を始めると言うんですか? そもそもノア校長がまだお休みなさっている間なので教職につくことはないわけですがそれでもこのような行動に出るということはその仕事につくための重要な何かであることは私にも推測できますが……」

「この机の数が何か分かるか?」

「? 生徒の数ですね。」

「君がこれから教え、命を守るべき者の数になる」

 ディペンドンはすぐに理解して、硬直した。

 無言、それがディペンドンの答えだ。

「何か言わなければ分からないよ、と普段は言うけど、君が黙るということはその意味をちゃんと理解しているようだね」

「それは……」

 と、まで言ってまたディペンドンは言葉を切った。いつもの軽口を続けられる気持ちではない。彼女の頭に浮かぶのは、この誰もいない椅子に座って並ぶ同級生たちの顔、その全員をこれから自分が守っていく、そういう立場になるということだ。

「無論、自分のクラスだけじゃない。僕のこの体だって……いや、余計なことだね。単純な話さ」

 ロイの小さな体は、今だけはディペンドンには大きく見えた。

「改めて聞く。君には命を賭して戦う覚悟があるか。命を賭して守る覚悟があるか」

 ディペンドンは尚も黙ったままだった。



「ロイ先生もえげつねえことすんだな」

「ゴロロ先生の時はこんなことなかったのですか?」

 考える時間もなく、ゴロロはちょっと思い出してから即答する。

「ねえ、ねえ。当時の校長が二つ返事で許可したよ」

「そうですか、そうでしたか……」

 ディペンドンは尚も悩ましげにつぶやいて、一人思考の渦に囚われる。

 ゴロロが狡い、なんて少し思ったが、何よりも愚かなのは自分の目算の甘さだ。確かに軽い気持ちだった。今までも命がけで戦うことはあっただろうが、それは自分のスタイルじゃないと割り切っていた。なにせ暗器で不意打ち、できるだけ遠くから隠れて暗殺するのがスタイルだから。

 けれどこれからは、教師になれば、自分が先頭切って戦わなければならない事態もあるだろう。

 自分にそれができるかどうか、その一線でディペンドンは悩んでいた。

 それを轟音が醒ました。

 キュラキュラキュラ、という場違いな音は履帯、キャタピラという機械の音だ。

 重く低いエンジンの音が心臓をも締め付けるほどに鳴り響き、草を踏みしめ柔らかな地面を割るほどの巨体。

「なんじゃありゃあ!!」

 ゴロロが叫ぶと同時に、ディペンドンもその姿を注視した。

 そもそも車というものが殆どないこの大陸で、戦闘用に改造された車など、戦車など、想像もつかない存在。

 けれど革新的な頭脳を持つ一人の奇抜な天才がそれを明確にイメージし、彼女自身の最強として秘術として顕現した。

『頼もーう第二地域の人達よ! 教師ゴロロだな! 最強ゴリアックを出せぇい!』

 威勢のいい女はその戦車の中から声を響かせていた。ゴロロのことを知っているらしいが、その挑発的な態度に戦闘準備満々の様子たるや味方とは思えない。

ゴロロは早速体に泥を流し始め大声でディペンドンに檄を飛ばす。

「このことをみんなに知らせてけろ! ここは食い止める!」

『おうよく言った! 我々第一学校が最強であると知らしめてやる! 砲塔回転!』

 分厚い鉄で覆われた車体を人間が相手すること事態難しいが、その車両の性能たるや。

 全面を一メートル近い鉄板で覆い、履帯にも攻撃を受けないように薄い鉄板を張りつけ、回転する砲塔の砲身は二メートルにも及ぶ長大、弾は五十㎝にも及ぶが、故に鈍重。

 というか徒歩のゴロロがあっさりと裏に回れるほどである。

「ディペンドン、これはのろまだ! 気をつければ勝てる!」

『そうは問屋が卸さねえってんだ! 行くぜフォームチェンジ!』

 掛け声とともに、履帯の鉄板は外れ前面の装甲は徐々に徐々に薄くなり、砲塔も短く、砲身も狭まる。

 これぞ秘術。戦車のスケールを自由に変化させ、敵や状況に応じて柔軟に戦力を変更させることができた。

『近づかれちゃ敵わねえ、と思ったかヴァカめがっ!!』

 同時に機銃が二門追加、後方にバックで距離を取り、主砲も加えた三つの攻撃がゴロロを襲う。

 だが主砲は、方向をよく見れば躱すことができる。それをさせないために追加された機銃だが、それはゴロロが秘術で防ぐ。

 まるでホースから水流が噴出するように、ゴロロの体中から泥が流れ壁を作る。

 分厚く、質量も水より強い泥の壁は小さな弾丸を簡単に飲み込み防ぐ。

 しかもその泥の壁は、あっという間に戦車の回り三百六十度を取り囲んでいた。

『おおうおうおう泥はマジィな! 泥濘にとられちゃ動けなくなる。だぁが! フォームチェンジ砲身!』

 叫びと共に砲身が広がり、伸び、大きな弾丸を発射できるようになる!

『発射ァ!!』

 巨大な音と共に弾丸が発射されると、同じように泥の壁に呑まれた後、全ての泥を吹き飛ばし爆裂した。

「爆発する弾! けんども無駄だ」

 直後、先ほどと同じ泥の壁が即座に組み上がる。いかに榴弾で泥の壁を破壊しても無限に壁が発生しては進めない、と思いきや。

『こうなりゃ突進よ! フォームチェンジ! エンジンと走行にステータス全部振る!』

 そう言うや否や、なんと今度は砲身すらなくなったただの自走機関!

『突き破れぇぇぇぇぇぇぇええええええええいっ!!』

 どしぃいん、と履帯が泥を巻き込み、削りながら少しずつ壁を削る。だがゴロロの泥はその部分の補強をして、逃さない。

 なんとか通ろうと、再び鋭い槍のように砲身が伸びた。泥の壁を突き破ったその部分を基点に脱出できないかと尚もエンジンを噴かせる。

『抜けろぉぉぉ、ぅぅうおおおおおおお!!』

 エンジンが唸る。鳴り響く、煙を吹き始める!

『抜けんのかっ!?』

「抜かせねえだよ」

 視点に入らない横の泥壁をあっさり通り抜けたゴロロは、砲塔の上に乗り、隙間から泥を流し込んだ。

『うわわわわっぷ! なにこれ泥!?』

「棺桶だ。とっとと降りねえと死ぬぞ」

 勝負あり。戦車の形である以上中に泥を流し込まれてはかなわない。

 そう言うと、戦車は音もなく消え去り、中から泥まみれの女が二人、息を切らして這いつくばった。

「ぜえぜえ、くそ、まさかゴリアック以外に負けるとは……。泥なんて反則だぞ泥なんて! ズルだ! ズル!」

「レイミーヤさん、だからやめようって言ったのに……」

 レイミーヤと呼ばれたのはだいぶ背の低い小柄な女だった。黒い髪を耳のところで渦巻のようにまとめておりヘッドホンのようにしているのは特徴的だ。

 それに声をかけたのは、地面につくほど長い黒髪で目元まですっかり隠れているこれまた奇妙な女だ。けれどこっちの方は、ゴロロは充分知っていた。

「さ、サヨさん!? え、サヨさん! なしてこんな……?」

 急に大きな声を出されて驚いたサヨは、おっかなびっくり口早に説明した。

「え、えっと、第二学校は戦果を挙げたけど、戦力の低下も甚だしいからって、援軍です。私と、このレイミーヤさんが、それで……」

「あんた達がやらなくても私達が魔女くらい倒したってのに! とりあえずゴリアック出しなさい!」

「いや、わだすに負けてる時点でゴリアックなんて……」

 そう諌めてもレイミーヤはぷんすかぷんすかとゴロロを素手で叩く。が、大して鍛えてもいない小柄なレイミーヤではゴロロにくすぐったいと思わせるのが精いっぱいである。

「本当にごめんなさい。突然攻撃して。私は止めたんですけど、レイミーヤさんが強引に……」

「は、はい」

 と、ゴロロはサヨに対しては恐縮している。

 なにせ憧れていた存在、かつてノアと第一学校の校長ベリーが互いに喧嘩しかけた時、仲裁に入ったサヨの実力は一瞬にしてナミエを退けるほどだった。

 その時の気迫、鋭い眼力、何もかもが圧巻で、第一学校のレベルの高さが伺えた。

 と言っても、今レイミーヤを倒したのでやはり個々の実力に差があることが分かったのだが。

「だーうっさいうっさいうっさいうっさい! サヨは悔しくないのか!? 自分達のが絶対強いのにさ、先に戦えたからって魔女倒してデカい顔されて!」

 そんなレイミーヤの言葉には、カチンとくるものがある。まるで機会さえあれば、自分達なら簡単に魔女を倒したと、そんな風に聞こえる。

 けれどゴロロは、知っている。仲間のために、命を賭して魔女と一人で戦ったネイローを、生徒達を守るために一人魔女を食い止め散ったナミエを、ただ足止めするために普段はならないほど衰弱するまで戦い続け死に続けたニッカを。

「デカい顔なんぞ、しとらんが。何も知らん奴が勝手なこと抜かすなや!」

「わっ、何よ急にデカい声出して! 私にたてつく気!?」

「今のはレイミーヤさんが悪いですよ」

「サヨまでそんなこと言うの! くきき……こうなったらゴロロ、私とタイマンしなさい! 勝って実力を……」

「さっき負けたじゃないですか、レイミーヤさん」

「くきききき……」

 レイミーヤの能力は戦車生成、しかもその操作は一切が自動操縦、彼女は車長として一番高いところの椅子に座り、ただ視界の確認をして動かすのみで良い。

 そしてサヨを乗せていたのも単なる移動のため、別に何かを手伝ってもらったわけでもないし、逆に足手まといになったわけでもない。強いて言うなら中からレイミーヤを諌め続けていたくらい。

 自分が負けた、という事実は認めがたいが、それをレイミーヤは知っていた。

「悪かったわよ! 何も知らないくせに勝手なこと抜かしてごめんね! フン!」

 とぷんすかぷんすか鼻息を鳴らしながらも素直に謝ると、彼女はまた移動用の小型の戦車を作り出す。

「ごめんなさい、レイミーヤさんも悪気はないんです。ただ、防衛ではなく先生方は魔女の森の戦闘で、命を失い、ロイ先生は足を失ったんですよね?」

「え、えど、はい」

「だから、もう少し待ってくれれば、レイミーヤさんは自分が助けに行けたのにって、それが悔しいって……」

 そこまで聞いてようやくゴロロはレイミーヤの評価を少し改めた。口は汚いし、性格は悪いが、自己評価の高さ故の使命感や責任感からのものなのだろう。多少は優しいのかもしれない。

『ほらサヨ行くよ! 今の校長がロイだってんならそっちに挨拶だ!』

「はい。えっと、さっきのディペンドンさんに説明……」

「それならわだすがすます。お二方は先に……」

 なんとかその場もまとまろうとした時。

「あらあら三人、キル、さあ今度こそ見せてくださいまし」

 また突然、魔女二人がその場に闖入した。

見切り発車なので…

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