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ダーク・ハート  作者: 駿河留守
開拓
8/36

猫好き

 あの後、藤崎さんは何事もなかったかのように立ち上がって大きくため息をつきながら私たちに一礼して未來ちゃんの後を追いかけるように行ってしまった。結論から言って藤崎さんよりも未來ちゃんの方が戦闘力がある気がしたので一旦保留にした。それでも中学生の未來ちゃんにあんな無職で足フェチ変態の男の人といっしょに暮していていい訳がない。

 どうすればいいか。いろんなことに首を突っ込みがちな私は未來ちゃんのことが気になって仕方なかった。あのふたりはこの長垣の町のどこかに住んでいる。しかも、かなり近くにだ。昨日、藤崎さんと偶然出会った商店街通り家に帰る。

 キョーコちゃんはいない。彼氏のいるバイト先でいちゃいちゃしているに違いない。だから。今日は私ひとりで家に向かっている。パチンコ屋の前を通るけど藤崎さんの姿は見当たらない。

「さすがにあれだけ言われて二日連続パチンコで生活費稼いだりしないよね」

 二人分の食費などの生活費を稼ぐのにギャンブルはよくないということくらいあの変態さんにも分かっているようだ。それでも私は未來ちゃんが心配になる。いくら強くても大人と子供でしかも男と女では力の差は歴然。今の生活に特に不満を持っている感じではなかった未來ちゃんでもいつかは後悔をする。キョーコちゃんも同じようなことを昼休みの時にそういっていた。ここは未來ちゃん自身にも藤崎さんのもとから離れてもっと健全で安全な暮らしをしてほしいと思うわけなのだ。行くと所がなければ私の家でもいい。きっと、おばあちゃんも孫がひとり増えた気分になってうれしいはずだ。

 未來ちゃんに会えるだろうか?

 東中だということは分かっている。この商店街にも近いところにある。偶然遭遇するかもしれない。

「まぁ、そんなことめったにないよね」

 そう呟くと商店街の路地から一匹の三毛猫が姿を現した。私の方を見てみゃーと鳴くとふてふてと電信柱の前まで歩いていく。座り込む。その後ろをついてくるように路地から出てきたのは猫のようなかわいらしさを持つ未來ちゃんが現れた。

「みゃー」

 猫の声真似をして頬を赤く染めて手をふるふるとふるわせて三毛猫に触ろうとするが、シャーと威嚇されてしまい手を引いてしまう。特に何もしていないのに威嚇されて嫌われたせいで目をうるうるとさせて寂しそうだ。もし、耳とか尻尾があったらへにゃりと垂れ下がっているに違い。三毛猫の前にしゃがんでその自由奔放なネコの姿をじっと見つめている。その頭は撫でてくださいと言わんばかりに。

「かわいい~」

「うにゃ!だ、誰よ!」

 うりうりと猫のように未來ちゃんの頭を乱暴に撫でる。未來ちゃんは一瞬敵意を見せたけど、すぐに私だと分かるとその敵意を解いた。

「子安さん。突然何するんですか?」

「かわいい子猫さんの頭を撫でてるの」

「わたしは猫?」

 うん、猫。

 だんだん不機嫌になって来たのでそろそろやめる。

「何してたの?」

「いや・・・・・なにって・・・・・・」

 マイペースに前足をなめる三毛猫の姿を見て不機嫌な未來ちゃんの表情がやんわりをふにゃける。再び頬を赤くして猫を撫でようと手を伸ばすとすぐにそれを察知されて引っ掻かれる。

「なんで?」

「猫好きなの?」

「好きなんだけど、なんでか近寄っただけで威嚇され触ろうとすると今みたいに攻撃されるし、いったい何が悪いの?」

 一見チャーミングで猫耳とかつければ完全にお仲間だと思われてもおかしくない気がする。でも、それは猫自身には不快に思うのだろうか。自分のテリトリーに土足で踏み込んできたよそ者だと思われているのだろうか?それともこの猫が人に慣れていないだけなのだろうか?

 ためしに未來ちゃんの隣にしゃがみ込んで三毛猫の頭を撫でるために手を伸ばす。

 それに気づいた三毛猫はじっとこちらを見つめる。未來ちゃんのように威嚇されることもなく引っ掻かれることもなく普通に頭撫でる。三毛猫はそれを嬉しそうにじゃれてくる。

「なんで子安さんには攻撃的じゃないの?」

「何が悪いんだろうね?」

 三毛猫を撫でるのをやめるともっと撫でろよと目線で訴え来る猫。代わりに撫でようと未來ちゃんが手を伸ばすとオメーじゃねーよと訴えるように威嚇される。

「何か猫の嫌がるような感じになってるとか?」

「その嫌がる感じってなんですか?」

 知らない。私金魚しか飼ったことないし。

「そうだ。猫は猫じゃらしとか好きだっていうよね」

 あたりを見渡して近くの植木から生えていた雑草の中に合った猫じゃらしを一本引っこ抜く。それを三毛猫の前に持ってくるとそれを掴もうと飛び掛かってくる。それをじゃらしていると楽しそうに遊んでくれる。

「未來ちゃんも」

「はい!」

 すぐに同じ場所に生えていたものを取ってきて私と同じように三毛猫の前に持ってくる。私の物は一旦どかして未來ちゃんの猫じゃらしに集中させる。でも、全く反応しなくなった。

「やっぱり私だから・・・・・・」

 なんか落ち込んでいる未來ちゃんが見ていられなくなった。

「そ、そうだ。餌付けとかは?猫は餌をくれる人ならだれでも寄り添うって言うし」

 おやつに食べようと思っていたパンを取り出して未來ちゃんに渡す。それをちぎって与えようとするけど、威嚇されて引っ掻かれる。それを交わそうとしてちぎったパンが手からは慣れて落ちる。それを見計らって猫は食らいつく。

「これってわたしが与えったって言います?」

 どちらかと言えば猫が奪ったという表現が正しい気がする。

「猫好きなのに猫に嫌われるってわたしどうすればいいんですか?」

「・・・・・・ぬいぐるみとか?」

「それもうやってます」

 だんだんかわいそうになってきた。

「わたしがほしいのは猫の自由奔放に動く姿と愛くるしい姿、毛並でもふもふしたいだけなんです。何この異常な嫌われ方はおかしいです」

 確かに変だね。

「未來ちゃんって猫っぽいよね」

「よく言われます」

 私の見込みは間違っていなかった。

「それがまずいって言うのは?」

「この間は犬のコスプレで同じようなことをしたけど無駄でした」

 その犬のコスプレをした姿を見たい。すごく見たい。

「あ」

 三毛猫は未來ちゃんの近くいるのが不快に思ったのは商店街を沿うように歩き出してしまった。未來ちゃんはそれを距離を置いて追う。私も同じように追う。

「首輪がないから野良だね」

「飼いたい」

「無理じゃない?」

「・・・・・・・」

 何とかして猫好きの未來ちゃんの猫嫌われ体質をどうにかしてあげたいとは思うけど。こればかりは猫さん本人に聞くしかないのだけど、できたら苦労しないよね。

「ちなみに何で追いかけてるの?」

「そこに猫がいるから」

 大丈夫かな?

 自由な三毛猫はついてくる私たちを気にもせずに小道を進み商店街どおりを抜けて住宅地に向かって行く。塀の上に登ったり途中で出会った猫と睨み合ったり通りかかった女子高生と戯れたり本当に自由だ。その姿をよだれを垂らしながら見つめ続ける未來ちゃん。タイミングを見て触ろうとしても威嚇されるか逃げられる。それでも懲りずに追っかけるのは本当に猫が好きなんだね。

 あれから15分ほど歩いて商店街からも家からも離れてしまった。帰れるかどうかを心配しつつも未來ちゃんと猫を追いかけていると猫がある一軒家の敷地に入って行った。それは少々古びた木造の2階建ての一軒家だ。敷地に入る門からは広い庭が見える。そこにたくさんの猫たちが集まっている。日向でくつろぐ猫、毛づくろいをお互いにする猫、昼寝をする猫各々好きなようにその庭でくつろいでいる。まるでそれは。

「猫の楽園!」

 目をさんさんと輝かせて何の抵抗もなく自分も猫のように人に庭に入って行く。

「ちょっと!未來ちゃん!」

「にゃん!」

 袖を捕まえたけど、すぐにふり払われてどんどん庭に入って行く。

 まぁ、見た目は猫っぽい未來ちゃんならこの家主の人が他の猫と同じように見てくれるかもしれないから大丈夫だよね。・・・・・・・うん、大丈夫じゃない。

 猫の仲間に入れてもらうと近寄る未來ちゃんに反応した猫たちが一斉に威嚇したり逃げ出したりした。それを見てその場にうずくまって涙目になってこっちを見る未來ちゃんの姿はかわいそうだけどすごくかわいい。かまってほしそうにこちらをジッと見つめ続ける子猫のようだ。その胸に抱いて頬をスリスリしたい。

 藤崎さんの家から出るのならば、私の家でペットとして飼ってもいい。というか飼いたい。

「ひとんちの前で何してるの?」

「ひゃ!」

 完全に油断していたせいで急に背後聞こえた声につい声をあげて驚いてしまった。振り返ると毛先が同じように反り返り全体的もそっとした腰あたりまである灰色の髪に半分くらい眼を開けた灰色の目をした少し不気味な女の人が大きな紙袋を抱えていた。大人の女性で私なんかとは比べ物にならないくらい出るところは出てしまるところはしまっていてほのかに化粧を施している。格好は体に密着した灰色のTシャツにひざ下でしかない黒の短パンだ。

「あの・・・・・ね、猫かわいいですよね~」

 とにかく、やばそうなのにその場を和ませるのに適した猫たちを利用した。

 それに対して女の人は無反応だった。なんか感じからして冷たい感じの人だ。

 すると敷地の庭にすでに侵入している未來ちゃんの姿が目に入ったようだ。

 一体なんて理由を言ってこの場を切り抜けよう。せめて、未來ちゃんだけでも見逃してもらえるようにしよう。

「猫が好きなの?」

「・・・・・・え?は、はい!大好きです」

「あなたじゃない」

「へ?」

「あの子」

 未來ちゃんのこと?

「大好きですよ。見ればわかると思いますけど」

 あの笑顔を見れば誰だって未來ちゃんが猫好きだって分かるよ。

「何をそんなに怖がっているの?」

 まったく感情のこもっていない同じトーンの声でそう私に話しかける。

「いや!勝手に人の家の敷地に入っているので非常識ですよね!そうですよね!今すぐ帰ります!だから、許してください!食べないでください!私たちを売らないでください!」

「あなた何を言っているの?」

 私にも分からない。

「まぁ、別にいいわ。猫目当てで来るのはあなたたちが初めてじゃないし」

 女の人が家の敷地には言った途端、日向で昼寝をしていた猫も毛づくろいをしていた猫も未來ちゃんを威嚇していた猫もみんなその女の人に反応して一斉に顔をあげて一斉に女の人に寄ってくる。その際、猫たちはきれいに未來ちゃんを避けている。それに涙を流す未來ちゃん。

 猫たちは女の人にねだるように行儀よく座ったり、足によりかかったり前足をあげて必死に顔を近づける猫もいる。

「少し待ちなさい」

 一匹の猫を撫でる際に見えた紙袋の中には大量の缶詰が見えた。もしかして、この猫たちはここでこの人を待っていたんだ。

「海野」

「はい?」

「私は海野って言うの。あなたは?」

「えっと、子安陽子って言います」

「そう。子安さんは猫が好き?」

 そう尋ねながら、海野さんは撫でていた猫を抱きかかえあげて私に渡してくる。それを受け取って抱きかかえる。茶色の毛並みをした小さな猫は紙袋に必死に前足を伸ばしてねだってくる。その姿を見ているとすごくかわいい。

「好きみたいね」

「え?」

「嫌がらないじゃない。その子」

 半分しか開けていない眼で笑った海野さんは未來ちゃんのいる庭へ向かって行く。未來ちゃんは猫に囲まれている海野さんの姿を羨ましそうに指をくわえて見ていた。

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