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ダーク・ハート  作者: 駿河留守
開拓
6/36

奇妙なふたり

「改めまして鬼島未來って言います。13歳です。長垣市立東中学校の中学2年生です。えっと・・・・・趣味は読書ですかね。で、そのうさん臭い男が藤崎上武って言います」

「私は子安陽子。16歳だね。趣味とかは特にないかな」

 学校から少し歩いたところにある焼き肉チェーン店にやって来た。このお店はそれになりにいいお肉を普通の値段で提供する普通のお店だ。決して安いお店ではない。

「じゃ、じゃんじゃん食べましょう。すみません!上カルビ追加で!」

「私牛タンもいっしょにお願いします」

「お前ら容赦ないな」

 すでに焼き肉を問答無用で食べ始めている。いるのは私と未來ちゃんと藤崎さんの3人だけ。キョーコちゃんは運の悪いことに今日はバイトなので来れないようだ。

「未來は分かるが子安さん。あんたは俺たちとは赤の他人だ。遠慮というものはないのか?」

「変質者に必要のない対処ですね」

「おい」

「まぁ、所詮わたしたちみたい学生を無償でごはんを食べさせている時点で変な人だって丸分かりだし。もしかしたら、この後に見返りとかを狙っているのかもしれないしね」

「すみません。私そういうの無理なんで食べちゃったお肉はちゃんとお返しします」

「バカ!そういうのはないから大丈夫だ!吐いてまで返してもらう必要などこにもないからやめろ!」

 指を喉の奥まで突っ込んで吐こうとするのを止められる。

「特上カルビのお客様」

「特上カルビ?わたし頼んでない」

「私も」

「ああ、俺が頼んだ」

「はぁ?あんた遠慮ないとかぐちぐち文句言う割には一番高いの食べてるじゃない!わたしも頼む!」

「頼んだの全部食べたらな」

「牛ホルモンのお客様」

「ああ、わたし」

「お前どんだけ頼んでんだよ」

「いいじゃん。あんたのおごりなんだし」

「だから少しくらい自重してもいいだろ」

 少しイラつきながらも特上カルビを焼き始める。それを私はじっと見つめる。

「焼肉で自重とかできるわけないじゃない!」

 言い返しながらもその隣に牛ホルモンを焼き始める。

「高い高いって文句言うならわたしみたいにホルモンでも頼めばいいじゃない。ホルモンって安いしおいしいし」

「は!内臓系が好きなんてありえない。俺はそれを肉とは呼ばない」

「藤崎さんホルモン苦手なんですか?」

「ホルモンもそうだがレバーとかもダメ」

 ああ、私もレバーは苦手かも。

「レバーとかおいしいじゃない!それに鉄分とかも豊富なのよ。あんたにとってはいい条件の食べ物じゃない。こういうの食べないから鉄分足りてないって医者に言われるのよ」

「そういうお前だって野菜とか食わないせいで口内炎が出来たとか言ってぶつぶつ文句言ってただろうが!」

「それはあんたが栄養価の低い物しか食べさしてくれないからでしょ!」

「お前が出した野菜を食わないからだろ!」

 なんかすごく仲いいね。

「そもそも、レバーって肝臓だぞ。そんなものを好んで食うのはオオカミとか肉食動物とかだけだ!獣だけなんだ!だから、お前は獣なんだよ!」

「誰が獣よ!」

 私からすれば未來ちゃんは子猫みたいな存在。まぁ、獣と言えば猫も獣だけど。

「獣が嫌なら野菜を食え!」

 そういってピーマン、ニンジン、タマネギを乱暴に投入する。カルビの上に乗ったのを私がどけて空いているとこまで移動してしっかり焼きいれる。肉もいい感じに焼けてきたのでひっくり返す。

「緑黄色野菜とか食べる奴とかありえなし。馬じゃあるまいし、なんでわたしが草を食べなきゃいけなの!」

「草とかいうな!立派な食べ物だぞ!」

「そんなものを食べるとか前世は水牛とかじゃないの。そっか、自分の仲間だから内臓系も食べられないんだ~」

「テメーバカにしてんの!」

 もうすぐお肉食べれそうだな~。

「お前みたいに好き嫌いが多い奴は人の好き嫌いも多いんだよ!だから、いつまでたっても友達出来ないんだよ!」

「うるっさいな。仕方ないでしょ!」

 もういいや食べちゃお。さすが特上カルビおいしい。牛ホルモンも噛みごたえがあっておいしい。二つも追加で焼いておこ。

「そもそも、ホルモン焼くと油のせいで火が強くなって肉が焦げるんだよ!」

「別にいいじゃない!こんがり焼けたほうがおいしいじゃない!」

「俺は表面を炙った方が好きなんだよ!」

 ホルモンのおかげで火が強いな。お肉がすぐに焼けるのはいいけど、焦げるのは嫌だし少し火を弱めよう。ついで焼けたから食べちゃお。

「そもそも、人には得意なものと不得意があるんだよ!」

「私はその不得意な物が緑黄色野菜なの!それであんたはホルモンとレバー!わたしより多いとか子供ね」

「範囲からすれば圧倒的にお前の方が多いだろ!」

 タマネギみずみずしくておいしい。特上カルビおいしいな。もっと焼こう。

「でも、私より圧倒的に大人なのに~。未だに苦手なものがあるなんて~。子供みたい~」

「お前って本当に腹立つな」

「仲いいですね~」

「仲いい訳ないでしょ!」

「そうだ!こんな小娘!」

 睨み合う二人を見ているとなんかすごくホッとする。昨日のことで恐怖におぼれて怯えているのかと思ったけど、これだけ元気にケンカしているのだから私の心配していたことも無駄だったみたい。

「そういえば、お二人はどんな関係なんですか?」

 焼き上がったお肉を頬張りながら尋ねる。ケンカの熱が冷めないという状況下の中の微妙な雰囲気の中でも藤崎さんが答えてくれた。

「まぁ、人から見れば変わった関係に見えるよな」

「主に藤崎のせいで」

「お前はいちいち一言余分だ!」

 なんかまたケンカが始まりそうだから聞きたいことを質問形式でどんどん聞いた方が良さそうだ。

「兄妹ですか?」

「誰がこんなゴミの妹よ」

「なんでこんなゴミの兄貴だよ」

 息ピッタリなところを見るとまるで兄妹みたい。でも、顔とか全然似てないし違うよね。

「じゃあ、お友達?」

「さっきこいつが言っていたようにわたしには友達がいないのよ。だから、この藤崎とは友達でもなんでもないの」

 ツンデレみたいでかわいいな。

「少なくとも友達という関係ではない」

「じゃあ、なんですか?」

 食事の手を休めて真剣に聞く。

 もしかしたら、この藤崎って言う胡散臭い男がまだ中学生の未來ちゃんをたぶらかして騙して毎日無理やりいろんなことをやらされていたり・・・・・・。

「家族・・・・・と言った方がいいのかな?ふたりだけで暮らしてるし」

 家族!ふたりだけで暮らしている!夫婦ということ!まさか、もうすでに私よりも胸もお尻も出ていない幼さ120%の未來ちゃんはすでに私より大人の階段を昇りすでに妊娠でもしているというの!

「いつからそういう関係に?」

「なんでそんなに責められながら聞かれる必要があるの?」

 もしかして、今未來ちゃんがもくもくと焼き肉を食べているのはきっとお腹の子の分も食べているせいなの!

「未來とはいっしょに暮らし始めて5年になるか」

 5年間も!すでに小学生のころから藤崎さんは未來ちゃんに手を出しているの!もう、ただの犯罪者じゃん!

「まぁ、お互いにいろいろあったからな」

 いろいろって何!ベットとかお布団の中でいろいろやるってこと!

「毎日、運動会みたいに騒がしいけどね」

 毎日ベッドの上で運動会!

「あわわわわわわ」

「子安さん?どうしたの?」

「私なんて彼氏もできたことないんだよ。処女なんだよ」

「何の話?」

 私にも分からない。

「ただ分かることは!藤崎さんが犯罪者ということだけです!」

「はぁ?」

「そうね。藤崎は犯罪者ね」

「おい!待て!一体いつ俺がどんな罪を犯したんだ!」

「血の繋がりのない中学生の女の子と連れ込んでふたりだけ暮らしているのを犯罪」

「いや、善意でやっていることだ!」

「善意で犯っているの!」

「漢字の変換おかしいぞ!」

 善意ってことはもしかして未來ちゃん公認ってこと?

 混乱する私を余所にもぐもぐと焼き肉を食べてさりげなく追加注文をしている。気にもせず否定もしないってことは間違いではないということなの!

私は未來ちゃんを強盗から助けた。そのお礼でここにいる。でも、私にはまだやるべきことがある。中学生の女の子を不信感でいっぱいのこの男から助け出さないといけない。そんな使命感に私は襲われている。

「もしもし、警察ですか?」

「待たんかい!」

 スマホを取り上げられる。

「すみません。間違い電話です」

 そういって電話を切って私に返してくれた。

「110」

「取り上げた意味ないだろ!」

 再び取り上げられる。

「どうして子安さんは俺をそんなに犯罪者にしたがるんだよ!」

「すでに犯罪者みたいな顔してるじゃない」

「未來。世の中に言っていいことと悪いことがあるんだが、中学生のお前ならば分かるだろ」

「脅してる!」

「待て待て!これはこいつの保護者としての教育で!」

「教育!調教!」

「あんたの耳はどうなってんだよ!」

 ダメだ。いろんな衝撃的な事実が次々と分かってしまって頭が混乱してる。

「整理しよう。まず、藤崎さんと未來ちゃんは血の繋がりがなくて、5年間も二人っきりで暮らしている。で、悪者の藤崎さんが毎晩のようにベッドの上で未來ちゃんと騒がしい運動会のようなことをしている。そして、すでに二人は家族になっていて未來ちゃんのお腹には・・・・・・・・・」

「後半がおかしいよ!気付いて!」

「子安さん。少し冷静になって」

 未來ちゃんが注文してくれたオレンジジュースを手渡してくる。氷がたくさん入っていてキンキンに冷えたオレンジジュースは熱のこもった体を内側から覚ましていく。煮えたぎっていた私の脳内が少し冷静になってくる。

 それを見計らって未來ちゃんは説明する。

「この藤崎は確かに見た目は胡散臭くて悪そうな奴よ」

「おい」

「でも、親のいない私にとっては家族当然なの。そうね・・・・・。例えるなら・・・・・」

「おやじだろ?」

「わたしの忠実な犬ね」

「おい!」

「ペットなの?」

「そう」

「おい!」

 なるほど、藤崎さんが未來ちゃんをいいようにたぶらかしていると思ったけど、逆みたいだね。未來ちゃんの忠実な犬。つまり、

「奴隷なのね」

「正解!」

「不正解だ!」

 安心したら食欲が戻って来たのでお皿を戻しに来た店員さんにカルビを追加注文をする。

「でも、悪い奴じゃないのよ。気違いってわたしを本当の家族のように接してくれる。わたしのたったひとりの家族なの」

「未來ちゃん」

 ふたりは家族という関係であるということは分かった。真面目な顔で未來ちゃんが藤崎さんのことを話している姿を見ると藤崎さんが悪いことをしているということでなさそうだ。でも、やっぱり気になるのはどういうつながりでこのふたりがいっしょに暮しているのかということだ。共通点が見当たらない。それにいくら家族同然の藤崎さんも男であることには違いない。いつか予期せぬ過ちが起きるかもしれない。どうしてそう思ってしまう。将来的にも影響はいいものではない。

 この時から私は未來ちゃんと藤崎さんの妙な関係が気になっていた。何か大きなもやもやが胸に引っかかった。何かを隠している気がするという私の謎の勘がうずいたのだ。考えるとさっきみたいに脳みそが沸騰しそうになるので私は冷静に未來ちゃんが焼いてくれたお肉を食べる。

「ところでお前ら」

「何?」

「いったいいくら食べたんだ?」

 青ざめた藤崎さんが尋ねた。

 その日食べた金額の請求も見た藤崎さんの顔には大粒の汗が流れていた。

「ごちそうさまです」

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