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ダーク・ハート  作者: 駿河留守
不死鳥
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不死鳥

 真っ暗で何も見えない。あ、でも自分の体は見える。ここはどこだろ?分からない。分かっていることと言ったら私って死んだんだってことくらい。死んじゃったらこんな真っ暗なんだ。どこを見ても同じ真っ暗で怖い。このままこの闇にのまれて消えていくのかな。きっと、未來ちゃんは大泣きで藤崎さんも言葉なしに立ちすくんでいるんじゃないかな。仕方ないよ。私はふたりを責められない。何度も関わらない方がいいと手を引けって言われてるのにそれを聞かなかった私も悪いんだ。こうなって当然だよ。

 お母さんもお父さんもおばあちゃんもそれにキョーコちゃんも私が死んだことをどう思うのかな?お母さんとお父さんは慌てて日本に戻ってくるだろうな。おばちゃんはただ二人に泣きながら謝るだろうな。自分のせいだって。キョーコちゃんは人目なんか気にしないでワンワン泣きそうだよ。それ以外にも中学の友達とか近所の友達とか・・・・・本当に・・・・・。

「なんで死んじゃったんだろ?」

 気付いたら私の頬にも涙が流れていた。拭いても拭いても流れる涙は止まらない。

 ひとり真っ暗の中泣き続ける。そして、漏れる本音。

「私まだ・・・・・死にたくなかったのに」

 その叫びは誰にも届かない。はずなのに。

 突然、私の目の前に現れた眩い光。直視することが出来ないで手で光を遮る。その光は暖かくて心地の良いものだった。その光の中に何かが大きく広がる。まるで私を包み込むようにその光は私を囲む。そして、その光の形はよく見ると鳥のようだった。


 目が覚めるとなんか見覚えのある天井がある。しかも結構最近で2回目な気はする。クリーム色をした天井に長方形のカバーのされた明かり。この天井を初めて見たときの前に起きた残酷で現実からかけ離れすぎたことが起きた後だったからすぐにここがどこだか分かった。ここは藤崎さんと未來ちゃんの住んでいるマンションのリビングだ。夜なのか部屋は暗くてカーテンの隙間から漏れる街灯と月明かりだけが部屋を照らす。私が寝ているのはソファーの上。その隅に未來ちゃんがもたれるように眠っていた。頬は赤くむくんでいて泣いていたんだなって分かる。体を起すとダイニングテーブルに伏せて寝息をたてて寝ている藤崎さんの姿もあった。特に変わったところもない。私の知るふたりだ。

 そういえば、私って死んだはずじゃなかったけ?

 お腹を確かザクザクって未來ちゃんに切り刻まれたはず。

 服の中に手を入れて確認しても傷があるようには思えない。自分の目で確認するべく服をめくってみる。うん、お腹には全く傷はない。じゃあ、あれ夢だったんだ。怖くて悪い夢だったんだ。服をめくったままフウッと一息ついて何か視線を感じて見てみるとダイニングテーブルにふて寝していたはずの藤崎さんがこちらをジッと見つめていた。主に私のお腹を。

「きれいな肌だ」

「きゃーーー!」

 服を急いで下げてソファーから立ち上がろうとすると未來ちゃんの足を踏みつけてしまう。

「うにゃ!」

 踏まれて起きた未來ちゃん。謝ろうとしたけどバランスを崩してガラス戸の桟に頭をぶつけてしばらくその場でもがく。

「陽子さん何するんですか」

 眠そうな目をこすりながらそう聞いてくる。

 頭を押さもがきながら藤崎さんの方を指差す。

「へ、変態がいたの!」

「・・・・・・元からですよ」

「それはどういうことだ?」

 藤崎さんが部屋の明かりをつけてくれる。

「俺は別に子安さんの生のお腹とくびれと服の隙間から見えた派手な黒のブラジャーがチラッと見えただけで別に変態じゃない」

「変態!」

 未來ちゃんが藤崎さんの脳天にクマの木彫りの置物を叩きつける。そのまま藤崎さんは動かなくなる。

「あの、死んじゃうよ」

「いいの。どうせ不死だし」

 未來ちゃんの言うとおり藤崎さんはすぐに痛いなってぼやきながら復活した。気付けば、桟にぶつけた頭の痛みは消えていた。ぶつけたところを触ってみても痛みがまるでなくて消えてしまったようだ。不思議だ。

「そういえば、私なんでここにいるんですか?」

 確かこのふたりといっしょに遊びに行ってそこで海野さんと会ってそれから・・・・・それから、確か私死んだんじゃなかったけ?

 何か言いにくそうに未來ちゃんは私から目をそらす。そんな未來ちゃんを見た藤崎さんが頭を撫でて私の前にやってきて私と目線を合わせるためにしゃがむ。

「落ち着いて聞いてくれ」

 唾を飲んで頷く。

「子安さん。君は一度死んでいる」

 その言葉にはまったく驚かなかった。だって、私は未來ちゃんの殺人衝動に襲われたんだし。

「でも、なんでここにいるのか。それは君に一度は聞いていると思う。俺の血を飲むと不老不死になるって。ここまででもう察しがついただろ?」

 殺されたはずの私がここにあるわけ。それは不死鳥の血を飲んだから。未來ちゃんが藤崎さんはその気になれば死んだ人だって蘇生できるってもしかしてそれを私にやったってこと。でも、確かそれは自分と同じ苦しみを他の人に味わってほしくないからだったはず。

「なんで私を生き返らせたんですか?」

「・・・・・・それはだな」

「理由なんてないですよ」

 藤崎さんの背後から未來ちゃんが飛び込んで来る。私はそれを受け止める。小さくて暖かい未來ちゃんは小刻みに震えていた。

「ただ、わたしは失いたくなかっただけなんですよ。わたしの悪の心まで好きになってくれた人をわたしたちの現状を見てそれでもずっとそばにいてくれた陽子さんを。失いたくなかった」

 服の上から分かる。今、未來ちゃんは泣いている。

「わたしの勝手で陽子さんを生き返らせてしまった。藤崎にも辛い思いをさせて。これから待っているのは藤崎と同じ不死という死に遠い存在でありながら死におびえる日々です。そんな辛い世界に私のわがままで連れてきてしまって、本当にごめんなさい」

 藤崎さんは何も言わず目をそらす。すべては未來ちゃんが話してしまったみたいだ。未來ちゃんはいつも自分を責めている。すべてを自分のせいにして全部を背負おうとしている。それはきっとストレスになって殺人衝動を強くしてしまう。こんな時でも私は自分のことよりも人のことを考えるなんて一体どこのお人好しだよってキョーコちゃんに言われそう。

「なら、私のわがままも聞いてもらっていいかな?」

 きっと、未來ちゃんのそのわがままも悪の心なんだ。悪いと思っていながらも自分を優先させて私を生き返らせるように泣いてすがる。今泣いているのだって許しを得ようとしているだけのことだ。だったら私も悪の心を前面に出し言うよ。

「本当に未來ちゃんと藤崎さんのせいで私のどこにでもある平凡な日常が台無しだよ。どうしてくれるの?どう責任にとってもらうおうかな~」

 藤崎さんも『え、俺も』って顔してて面白い。未來ちゃん申し訳なさそうな顔をしている。

「仕方ないですよ。なんでも言うこと訊きます。それで許しを得るつもりはないですけど」

 ほほ~、なんでもね。

「なら、これからもずっと二人のそばにいたいな~」

「え?」

 同じ反応をした。

「確かにこの不老不死の力を手に入れちゃったけど、そんなのはこの際どうでもいいんだよ。ただ、この世界に現実に戻って来れたことに私は喜びを感じているよ。もし、これから先辛いことや苦難がたくさんあるかもしれない。その時は問答無用で付き合ってもらいますからね」

 戸惑いを隠せない未來ちゃん。少し言葉が悪かったかな。ここまでが少し意地悪をした私の中に存在する悪の心。ここからが私の意思。

「これからも友達でいていいかな?ふたりといっしょにいていいかな?迷惑じゃなかったらだけど。どんなことがあっても私は離れない。そばからいなくならない。だから」

「当たり前じゃないですか!」

 未來ちゃんが再び飛びついてくる。勢いに負けてそのまま倒れる。

「不老不死になっても陽子さんは陽子さんですよ!わたしの友達ですよ」

 ああ、かわいいな。その泣き顔。こっちまで泣けてくるじゃない。


その日から私はふたりの本当の意味で友達になって強い絆で結ばれたんだ。

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