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ダーク・ハート  作者: 駿河留守
悪魔
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仲間

 ここは猫天国。右も左も前も後ろもどこを見渡してもねこねこねこねこねこ。猫好きのあなたぜひ訪れるなら入場料無料無休の海野家に訪れていかがですかっとキャッチコピーを作ってもいいほど、ここは本当に猫の天国のようだ。三毛にトラに白に黒にいろんな猫ちゃんがここにはやってくる。しかも、敷地に勝手に入っても家主の海野さんという女の人は特に何も言わない。ぜひ訪れるなら海野家に。

「何勝手に宣伝みたいなことしてるの?」

 別に海野さんの家に人をたくさん呼ぶためじゃないですよ。すべては猫のためです!

 すると私の周りに猫たちがすり寄ってくる。

「お~お~。かわいいの~」

 やってくる猫たちを撫でていく。

「猫に好かれてるわね」

 前に会った時と同じように半目で腰まである反り返った灰色の髪をした大人の女性が縁側に腰掛けてこちらも猫たちに囲まれていた。寄り添う猫やひざ上でお昼寝をしてしまった猫や餌をくれと手招きをする猫と本当に自由だ。

「それで今日は何しに来たの?今日はあの猫みたいな猫に嫌われる子はいっしょじゃないのね」

「はい、今日は個人的に用事があったので来ました」

「用事?」

「はい、ここにいる猫を一匹ほしいな~って思ったんで」

「なんで?」

 キランと瞳を鋭く輝かせて私を睨む。こういう愛着があるものになると人が変わる人っているよね。

「実はあの猫に嫌われていたあの子が何だかかわいそうだな~って思ったんで少しでもその人嫌いをしないような猫はいないかな~って」

「いないわよ」

「え!即答なの!」

「前に言ったでしょ。猫は目がよくて気配に敏感。見た相手を気配で野生的に危険かどうかを判断している。猫側から合わせることなんて無理よ。猫は自由な生き物なんだから、主人を気まぐれや待遇で簡単に変える。危険だと感じた相手に猫たちがついて行くはずがないわ。そのくらいだったら主人を変えるのが猫よ」

 やっぱり、難しいよね。まぁ、本を読んでも猫が懐いてくれるのには人間性がいい人ほど良くなつくらしい。たぶん、猫たちは本能で未來ちゃんのあの悪魔の心を見破って危険だって判断してあそこまで警戒して威嚇したりしているんだ。そうなると、他の生き物にも同じような目に合っている気がするのは気のせいだろうか。

「悪の心か・・・・・」

「どうしたの?あなたみたいな子がそんな深刻そうな顔をしても似合わないわよ」

「いや・・・・・ちょっと考え事ですよ」

 おそらく、今日も未來ちゃんは藤崎さんと待ち合わせのために商店街にいる。あんなことがあった後だし、どんな顔をして会えばいいのか分からない。どうすれば、殺人衝動を起こすストレスを与えずに会えばいいのか分からない。考えるのが嫌でこうして猫がたくさんいる海野さんの家にやって来たのだ。

 すると足元にいた猫たちがカリカリと私の靴を爪を出さないで引っ掻く動作で気を引こうとしている。その猫たちの目線が視線を落として暗い私のことを心配しているような眼差しだった。

「どうしたのよ?」

 それを察したように海野さんが聞いてくる。

「あなたとはまだ会って2回目だけど、マイペースそうなあなたにも悩みってものがあるのね。でも、そこまで思い詰めるっていうのは誰も言えないことなんじゃないの?だから、あえてあなたのことを詳しく知らない人間に言った方が気が楽になることもあるのよ」

 なんでだろうな~。海野さんは猫みたいに気配だけで私の心境を読んでいるみたい。これだけ猫たちと関わっていたら自然とそうなるんだろうな。

 確かに私は誰にも言えない悩みを持っている。あんな悪魔みたいな未來ちゃんをどう普通に付き合って行けばいいのか。藤崎さんには今までと変わらずとは言ったもののやっぱりひとりの友達としてあの衝動を私もどうにかしたいと思っている。

「急にいいですか?」

「あなたはいつも急じゃない?ここに来ることといい」

 ハハハ、そうですね。

 落ちつて深呼吸する。口を滑らせないように細心の注意を払う。

「あの日ですよ。突然、いっしょに笑っていた友達が突然悪人になったらどうします?」

 海野さんは半分開いた目でじっとこちらを見つめた。なぜ、そんなことを聞くのかと問いただされた時に私はどう対応していいか分からない。でも、それを察した海野さんは膝で昼寝をしていた猫を起こして膝の上から動いてもらう。そして、膝に肘を置いて手を顎に当てて私の突然すぎる謎の質問に何の疑問も感じないで答えてくれた。

「私はそれでも友達を続けるわね」

 まさかの回答に開いた口がふさがらなかった。海野さんはそんな私を余所に続ける。

「あなたの友達がどうして悪人になってしまったのかは知らないけど、仮に私の友人がそうなっても私は友人を続けているわ。だって、どんな姿になってしまっても一度心を許した相手をそう簡単に裏切ることは私にはできないもの」

「海野さん・・・・・」

 一見だれも信用しなさそうな感じの人で、猫にしか思いを寄せなさそうな感じなのにそこで人のことを考えているんだ。さらに海野さんは続ける。

「それにその悪人になったのが友人の望まない形ならばなおさらよ」

 その時に浮かんだのは自分のむき出しになった悪の心を恨む未來ちゃんの姿。あの子も望んであんなことをやっているわけじゃない。藤崎さんもそれを分かって未來ちゃんと関わっている。必死に壊れてしまいそうな未來ちゃんの心を支えている。

「あなたも私と同じような経験をしたのね」

「同じ・・・・・経験?」

「そう、私の場合は友人ではなく思い人が裏切った。悪人になった」

「え?」

「・・・・・ここからは私の独り言よ。別に聞かなくてもいいわ」

 そういうと両手をついて空を見上げた。

「数年前の話なんだけど、いっしょに仕事をしていたその思い人・・・・その男と次の仕事のために待ち合わせをしていた。その仕事はすごく難しくて私ひとりではどうしようもないものだった。でも、その男がいっしょならなんだって乗り越えられる。この男のためだったら私なんだってするって。でもね・・・・」

「来なかったんですか?その思い人は」

 海野さんは頷く。

「おかげで仕事は失敗。私を含んだ他の仲間にも大きな損害が出た。何人かの仕事を仲間もそのせいで失った。それ以来仕事が出来なくなった。それは同時に生活もままならないということよ。金の欲しさに身売りして人格が壊れた子もいた。みんなその男を恨んだ。でも、私は違う。きっと、この裏切りは仕方なかったことなんだって信じてる。そのせいで私たちの人生をむちゃくちゃにしないといけない重要な理由があったんだって信じてる。そして、いつかは私の前に現れて裏切った理由を教えてくれて謝ってくれると信じてる。だから、私は今日もこうして待ってる」

 猫たちが寄り添うように海野さんに寄り添ってくる。それを受け止めるように頭を撫でる。

 猫たちが海野さんのところにやってくるのはただ餌をくれるだけじゃない。こんな心の広くてすべてをプラスに受け入れる雰囲気を猫たちが感じ取ってここなら安全だって信じているからだ。

 私にだってできるはずだ。いくら未來ちゃんがどれだけの人を殺したとしても、それが未來ちゃんの本心じゃないってことを知っているんだから、いくら自分の命がどれだけ危険になったとしても私は未來ちゃんの友達だ。

「行くのね」

「はい」

 一礼お辞儀をしてから未來ちゃんの待つ商店街に向かうおうとする。

「ちょっと待ちなさい」

 呼び止められる。

「猫のためにはならないけど、この間の猫に嫌われる子でも猫と触れ合う方法があるわよ」

「え?」

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