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ダーク・ハート  作者: 駿河留守
悪魔
24/36

不知

「陽子。今日はどうしちゃったわけ?」

 いつものように菓子パンを持って私の席にやってくる。

「どうしたって?」

「いや、いつもならすべての授業を睡眠で制覇するようなあんたが寝ないで他事するなんておかしいじゃない」

「そう?私はいつも通りのつもりだよ」

「どこがよ」

 まぁ、確かにいつもがっつり寝て気付いたら次の授業になってることも珍しくなかったけど普段の私は本気を出せばこんなものだよ。勉強は自分のためだけど、私が今やっていることは人のためのことそのためならば私はがんばれるのだ。

「何かあったの?」

何が?と菓子パンをかじりながらバイト募集の中からすぐに始められて融通の利きそうな自給の高いバイトを駅の構内で無料配布される資料から探す。

「昨日、藤崎と未來ちゃんを追いかけた後のこと」

 菓子パンを食べる手が止まる。

「家に戻ってきても私の質問には上の空だし、何があったの?」

「い、いや~」

 まさか、未來ちゃんが人殺しを躊躇なくできるとか藤崎さんが不死身だってことなんて言えるはずもない。いや、言ったとしても信じてくれないかもしれないけど、念には念だよね。

「まさか、藤崎が未來ちゃんを犯してたの?」

「え?い、いや・・・・・・そうなんだよ~」

 ごめんね。藤崎さん。もう、いい言い訳が思いつかなかったよ。でも、別にいいよね。

「陽子。帰りに紐とシャベルを買って帰るわよ」

「何する気?」

 ちなみに首を絞めて藤崎さんの息の根を止めてそのまま証拠隠滅に埋めてもあの人死なないからね。キョーコちゃんは知らないと思うけど。

「ねぇ、陽子」

「何?」

 珍しく真剣な眼差しをしている。それでも私はバイト募集の冊子から目を離さない。キョーコちゃんのことを未來ちゃんの殺人衝動から守るためならキョーコちゃんとの交流なんて惜しくない!

「なんか今すごくムカついたのは気のせいかしら?」

 気のせいだよ。

「未來ちゃんのことを本気で考えるならいい加減に大人に相談した方がよくない?あたしら子供が出来る範囲っていうものがあるじゃない?一体未來ちゃんがあの男に何をされているか知らないけど、もし未來ちゃんにとって将来的によくないことをされているなら、それは虐待とかにもなる可能性だってあるのよ」

 キョーコちゃんにしてはまともなこと言う。

「きっと、私はまだ授業中で夢の中なんだ。きっと、そうだよね。キョーコちゃんみたいな子がそんな常識で正論を語れるはずがないもんね」

「絶交する?」

 まさか。

「とにかく、あのままだとマジで未來ちゃんにもよくない。あの子のためにもいい加減にあたしたちも大人の行動に」

「いいの」

「・・・・・・は?」

「いいの。あのふたりはあれで」

「でもさ、血の繋がりもない無職の変態ロリコン男と暮らしているのよ。普通じゃないわよ」

 確かに普通じゃない。あのふたりは私たちとは大きく外れてかけ離れた存在だよ。でも、普通じゃないけど、誰よりも普通なんだよ。あのふたりは。未來ちゃんはただ悪の心と良の心に差が大きすぎて戸惑っているだけで、藤崎さんは人を守りたい未來ちゃんを守りたいという気持ちが強いだけの人。ふたりとも人なんだよ。外れているようで何も変わらないんだよ。

「いいの」

「一体、どこにその根拠があるのよ?」

「特にはないけど。・・・・・でも、ふたりとも5年もいっしょに暮らしているんだよ。嫌だったら未來ちゃんはとっくに家出しているはずだよ。それもない」

「それは藤崎しか頼る相手が」

 そう、未來ちゃんは藤崎さんしか頼る相手がいないのは本当だ。殺人衝動を受け入れてくれる相手は不死の体を持っている藤崎さんくらいだ。でも、それ以上に未來ちゃんは一目見て即座に自分という存在を殺人衝動がにじみ出る悪の心ごと認めてくれたことが信頼の大きな要因になっている気がする。

「確かにそうかもしれないよ。でも、決めているのは未來ちゃんだよ。藤崎さんじゃないのは今までいっしょにいて分かったでしょ?」

 今まで未來ちゃんは藤崎さんをバカにしたり罵ったりしていたけど、どこかふざけている感じがして本気にした言葉じゃない。それは藤崎さんだって分かっているはずだよ。私にも分かったんだからキョーコちゃんにも分かるはず。

「ま、まぁ、そうね」

 飲み物に口をつけてそれ以上何も聞いてこなかった。

 いつもと違う私の姿にキョーコちゃんが戸惑っていたということは私が知るはずもない。

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