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ダーク・ハート  作者: 駿河留守
鬼と不死鳥
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不死

 なんでこんな子供が死なないといけなんだ?俺は確かに不死の体だからこそ多くの人の死をマジかで見てきた。そのほとんどが多くの未練を残して死にたくないと願いながらも死んでいった。だが、こいつはどうだ?確かに人を殺した罪は重い。殺されて同然かもしれない。でも、この子は俺に向かって死にたくない、生きたいと言った。目の前にある命を俺は・・・・・。


 藤崎は小太刀を近くに落ちていた鞘に納めて小太刀を未來に放り投げる。それを慌ててキャッチした。

「なんで?」

 すると藤崎は一瞬だけ目元を暗くした。

「俺はこの不死の体を使って多くの人を殺してきた」

「・・・・・・え?」

「数からすればお前の殺した人数の方がかわいいかもしれないな」

 俺がこの何もないビルにやって来たのはここが一番、俺を襲う刺客が少なく落ち着ける場所であるからだ。心落ち着ける場所で休息を取って明日もまた人を殺しに行く仕事に行く予定だった。

「俺は今まで殺した命はどれもゲスイ奴らだよ。金のためなら一家を壊滅させたり、権力のためならライバルを殺すような奴らばかりだ」

「そ、それは・・・・・・あ、あなたはいいことをしてるじゃないですか!」

 まだ、混乱しているようで声が裏返ったり震えている。

「悪いことをする人たちをこ、殺す。わたしが殺してきたのは何の罪もない普通の人たち」

「勘違いするなよ」

「え?」

 俺は歯を食いしばり未來から目線を外した。

「最近殺したのはとある一家だ。おやじはゲスイ野郎だったがその妻と5歳の娘はそんなことは知らない。でも、殺した。そういう命令だったからだ。何の罪のない妻とまだ未来のある娘を俺は手を掛けたんだ。一度だけじゃない。俺はその度にここにきている」

 仕事の前に心落ち着かせて忘れるためでもあるが、それ以上にここに来たら一度は思い出すようにするためだ。

 この事実に未來は後退りする。選んだ相手を間違えたと思った。でも、それは死にたくない、生きたいという未來の意思がそう思わせた。しかし、すぐに切り替える。ならば好都合だ。殺しに慣れているのならば自分を殺してくれると。

「なら、わたしを」

「今!」

 未來の声を断ち切るように叫んだ。その後は一歩近づいて優しく未來を抱き包んだ。

「今の俺の目の前にいるのは死にたくないと叫んだ少女だ。確かにたくさんの罪を重ねてきたかもしれない。でも、それはお前の中にいる悪魔のせいであってお前自身じゃない」

 未來はすぐに藤崎を引きはがそうとする。力の差は歴然で引きはがすことが出来ない。

「違うの!あれはわたしなの!わたしの悪の心なの!誰もが持ってる悪い心なの!」

「そうだな。誰もが持ってる。みんな持ってる。お前だけじゃない。ならば、なぜこの世界にはいい人がいるんだ?」

「そ、それは」

「そいつらは悪の心と共存しているんだ。お前の中にあるその悪魔もいつか共存することが出来れば、殺人衝動を抑えることが出来るかもしれない」

 藤崎は胸の中で暴れる未來と目線を合わせる。

「む、無理だよ。そんなの」

「すぐには無理だ。それまでは俺が何度でもその小太刀で殺されてやろう。俺は絶対に死なない不死の男だ。お前の前からは絶対にいなくならない」

 未來は急に目の前のあったばかりの男の暖かな心に再び涙を流した。今まで冷たく暗い世界にいた未來を引っ張り上げてくれる大きな存在。

「ほ、本当に・・・・・本当にいなくならない?」

「もちろんだ」

 その力強い返事にここ数日未来を縛っていた枷が外れて大声をあげて泣いた。安心感が込み上げてきて押さえることのできなかった量の涙が出た。

 俺もそれにつられて泣きそうになった。今までこの不死の力を殺しのために使っていたが、力を手に入れて初めて人を生かすためにこの力を使える喜び。それらが重なって泣きそうになるのを上を向いてごまかす。

「俺は藤崎上武だ!お前の名前はなんだ!」

 未來は嗚咽しながら涙を拭き取って笑顔で言う。藤崎が見た初めての輝かしい明るい笑顔で。

「鬼島未來。よろしく藤崎さん」

「ああ、よろしく。未來」

 俺はその日、殺しの仕事を辞めて未來とふたり暮らしだした。それがちょうど5年前の話。

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