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ダーク・ハート  作者: 駿河留守
鬼と不死鳥
20/36

 長垣に移った後は大量に人を殺したことによる貯金のおかげでしばらくは殺人衝動が起こらなかったがそれでも恐怖に押しつぶされそうな日々が続いた。いつあの押さえられない殺人衝動がやってくるのか、もしやって来たとき今度は一体どれだけの人たちが自分に殺されるのか。施設に移って3日後に未來は施設を抜け出した。最低限の資金と衣類と小太刀を持って出た。未來は施設から見えた建設途中で事業が中断されたビルを知っていてそこに入り込んだ。風を遮る壁がなく床と天井と柱があるだけの骨組みだけのビルの中で体を丸くして一晩過ごした。だが、次の日ついに悪魔が再び顔を出した。

 何かを刺したいから誰からを殺したいという欲求が変わっていることにはすでに気付いていた。こうなれば、もう自分が死ぬしかないと小太刀の刃を自分の喉元に向けた。だが、刃が刺さるか刺さらないかの境で手が止まる。死にたいのに死ねなかった。どうすればいいのかもう分からなかった。

「誰か・・・・助けてよ・・・・・お願いだから誰か助けて」

 大粒の涙を流しながら訴えた切実な願いは通じた。

「・・・・・誰かいるのか?」

 その時誰もいないはずのビルの中に現れたのは藤崎上武、つまり俺だった。

 未來はそれが希望だと思いもしなかった。俺はこんな廃墟にいる少女の存在が謎すぎて理解が出来ていなかった。そもそも、なぜこんなところに女の子がいるのか。いろいろと疑問が浮かんだ。真っ先に思ったのはここにいない方がいいと伝えたかった。

 そう思い近づこうとした時、未來の手に握られている凶器が目に止まった。

「なんでお前みたいな子供がそんなものを持っている?」

 危険を感じた俺は未來を警戒した。

 未來はもう当たり前だと思っていたのにいざそう言われると悲しくてさらに涙が溢れる。

「そうだよね。わたしって変だよ。おかしいよね」

 その涙は変に警戒威嚇する俺を怖がったものじゃない。様子がおかしいとすぐに感じた。

「どうしたんだ?急に?」

 どうせなら、このまま警察に捕まった方がいいと思った未来は何も知らない今あったばかりの見知らぬ男に語る。

「わたしね。人を殺したの。数えきれないほど、たくさん。それもね、無意識にだよ。しっかり覚えていないのに肉を切り刻んだり削いだりする感触だけはしっかりと残ってるの。だから、私は警察に連れて行って揖斐村の殺人事件の犯人が私だって言ってよ」

 最初、こいつは何を言っているのか分からなかった。

 しばし、冷静に考えてみる。揖斐村の事件は大ニュースとなりもはや日本において知らない人間は存在しない。だが、今の時点で犯人はすでに首を吊って死んでいることが分かっている。それが本当に犯人だったのか分からないままだが。その本当の犯人がこの猫のような少女なのか信じられなかった。

「おいおい、大人をからかうな」

「嘘じゃない」

 でも、信じない。どうせここにいるのも家出かなんかだろうと思い込んでいた。

「本当なの。信じて」

「信じろってお前みたいな子供にそんな男女大人子供も含めて20何人も殺せるわけないだろ。大人をバカにするなよ」

 少しバカにしてやると何か空気が変わったことに気付く。それが未來のせいであることには気づくのに多少の時間がかかった。

「なら、証明してあげるよ。あなたの首で!」

 未來は赤黒い瞳をして小太刀を引き抜いて俺向かって突っ込んできた。それに咄嗟に対応できずにそのまま腹部を刺される。根元まで差し込み体重をかけて刺さった刃を下していき腹を斬り裂いていく。そこに未來の意思はなかった。人を殺したいという欲だけが体を動かした。そして、意識が戻ったころには見たのは俺の腹部は真っ赤な血で染まりもう、助からない量の血が出ていた。そのまま力なく倒れた。

「また・・・・まただよ」

 顔を覆いその場にうずくまり泣いた。殺人衝動は藤崎を殺したことで収まっていた。

「お、お前は一体何者なんだよ?」

 声が聞こえた。

 未來は人を殺してしまったのを見られたと緊張感が走る。でも、これで自分の罪を償うために誰もいない部屋に拘束されるならそれでもいいと思っていた。だが、そこには新しく人は来ていない。なら、どこから声がしたのか?

 未來はしばらく見えた世界の光景が信じられなかった。腹に小太刀が深く刺さったままの倒れた俺が上半身をお越して起き上った。痛みで顔を引きずっているようで歯を食いしばり刺さったままの刃を抜き取り投げ捨てた。その瞬間、傷口から血が噴き出て吐血するも死んでいないその光景が信じられなかった。

「なんで?どうして?」

「それはこっちのセリフだ。俺が一体何をしたんだよ?」

 傷口から流れる血が俺を中心に広がっていく血の水たまりは小太刀を引き抜いて数秒後にはもう広がらなくなった。

「ようやく止まったか」

 そして、俺はいつものように何事もなかったかのように立ち上がった。

「どうして死なないの?」

「どうして?・・・・・その前に揖斐村の事件はお前のせいなのか?」

 困惑しながらも素直にうなずく。

「なら、なんでこんなところにいるんだ?」

「逃げてきたの。私は押さえれば押さえるほどさっきみたいに人をあなたみたいに殺してしまう。だから、逃げたの。これ以上なんで起きるか分からない殺人衝動で人を殺したくないから」

 俺は未來の流す大粒の涙とあの殺気と悪魔のような赤黒い瞳とこの少女の変貌、そして容赦のない小太刀での攻撃でそれらを納得した。そして、問の回答を告げる。

「俺は・・・・・不死なんだ」

「・・・・・え?」

 不死?

「絶対に死なない。斬られても刺されても焼かれても毒でも病気でも死なない。圧死も感電死も窒息死もしない。絶対に死なない。あんたが質問した俺が死なない理由だ」

 その現実を受け入れることが難しかった。そんなものがこの世界に存在するのか。訳が分からなかった。でも、あれだけの血を流して刺し斬られたのになんともないように立っているのだからきっとそうなんだろう。

「お前のその殺人衝動ってなんなんだよ?一体どういう条件で出てくるんだよ」

 

絶対に死なない人がいる。わたしがどれだけ殺しても死なない人が目の前にいる。罪をこれ以上を重ねないための方法。それはわたし自身が死ねばいい。でも、それが出来ない。人を殺すことが出来ても自分は殺すことが出来ない。わたしにはそんな勇気を備えていない。だから、誰かに殺してもらう。この人なら分かってくれると未來は思った。


「おい聞いてるか?」

「お願い」

「は?」

投げ捨てられた未來は拾って藤崎に渡した。

「これでわたしを殺して」

 藤崎はしばらくキョトンとしていたがすぐに切り替える。

「どうして俺がお前を殺さないといけない?」

 未來は震えた声で訴える。

「だって、たくさんの人を殺したんだよ。あなただって不死らしいけど、一度殺されてるんだよ。当たり前じゃない。罪を償うのは」

「なら自分で」

「できないから頼んでるんでしょ!」

 空っぽのビルに未來の声が響き渡る。

「できないの。だって、私はまだ・・・・・死にたくないもん」

 その言葉がちくりと俺の胸を刺す。

「わがままだよね。もう、数えきれないほど生き物を殺してたくさんの人を殺したのにまだ生きたい、死にたくないなんて言ってるわたしが見苦しいよね?でも、罪は告ぐわないといけないの。まだ、会って10分くらいしかたってない男の人に頼むことじゃないのは十分分かってる。でも、あなたにはわたしを殺す理由がある。あなたを刺したこと」

 震えた手で大粒の涙をぬぐって両手を大きく広げる。

「わたしを殺して」

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