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 暗くて狭い世界。人目のつかない闇、影の世界の姿を私は見た。

 闇、影の世界の住民は私の住んでいる世界に普通の生活を送って暮らしている。それもそうだ。彼らは私たちと同じ人間の姿をしているのだから。人間界に暮らす悪魔のお話なんてなんかおとぎ話でありそうだなって思う。

きっと、その悪魔は心優しいんだけど、悪の心を持っていて人々から嫌われていてお友達は誰ひとりいなかった。そんな悪魔でも嫌わない女の子がいた。その女の子は悪魔のいいところをたくさん知ってる。だから、お友達になることに何の抵抗も示さなかった。でも、運命は残酷で悪魔はその女の子を悪魔の本能のままに襲って殺してしまった。悪魔はきっとワンワン泣いてそのまま死んでしまうんじゃないかな?

即席でこんな悲しいおとぎ話を作れるのには私も同じ経験をしたから。私は悪魔のお友達の女の子。悪魔は未來ちゃん。そして、悪魔の未來ちゃんが本能のままに刃を振り回して私に襲い掛かって来た。何の抵抗もできなかった私はそのまま刺殺された。だから、今こうして暗くて狭い世界にいるんだ。両手で両足を抱えて小さく縮こまるように座っている。何も見えない暗い世界に。するとそこに一筋の光が差し込んで目をしかめる。その光はだんだんと起きくなって世界は再び現実に引き戻される。

 視界に見えたのは天井。クリーム色をした天井に長方形のカバーのされた蛍光灯がさっきまで私のいた暗い世界に光を指した正体のようだ。なんだか長い夢を見ていたような気がして頭がまだ働かない。でも、この天井は見覚えがない。首を回せばそこは知らない部屋でその知らない部屋のソファーに私は寝かされていた。慌てて体を起す。

「起きたか?」

 声が聞こえて思わず身構えてしまう。

「どっちに身構えてるんだよ」

 目の前に見えたのはガラス戸に映る自分の姿だった。そのガラス戸に移る私の背後に人がいたので振り返って再び身構える。

「あれ?藤崎さん?」

「よう、もう大丈夫か?」

 ダイニングテーブルの椅子に腰かけて本を読んでいたようだ。

「・・・・・・私まだ処女のままだよね?」

「そんな確認はしなくていい!」

 聞き慣れた藤崎さんのツッコミだから本物だ。

 でも、なんで私は藤崎さんのいる部屋にいるんだろう。よく見ればソファーにテレビにダイニングテーブルにどこから見てもここはリビングのようだ。私の家はリビングというものはない。どちらかと言えば居間だ。藤崎さんがいるということはここが藤崎さんの家のリビングなのだろう。真新しいフローリングのリビングは掃除が行き届いているようで新品同然のようだ。ダイニングキッチンもあってお金がないという割には結構いい部屋に住んでいるじゃないかと少し矛盾を感じる。私から見て左に木の扉、右に襖がある。その扉から未來ちゃんが入って来た。

「よ、陽子さん」

 私の姿を見てすごくホッとしたような表情を浮かべる。

 未來ちゃんもいるとなるとここはやっぱり藤崎さんと未來ちゃんの家のリビングのようだ。でも、なんで私はふたりの家にいるんだろうと、改めて思い出そうとした瞬間私に電撃が走った。思い出すのを脳が瞬間的に拒んだがそれでも私は思い出してしまった。

 暗闇に赤く血の滴り垂れる銀色の刃と赤黒い瞳をした悪魔と全身ズタズタに切り刻まれて死んでもおかしくない男が立っていたこと。

 思い出した瞬間、頭が重くなってくらくらして倒れそうになってそのままソファーに腰かける。放心状態になった私は周りにいる人物を見て全身から嫌な汗が噴き出て鳥肌が立つ。あの時と同じ恐怖が再びに訪れようとしていてパニックになりそうになる。

「未來。少し子安さんを連れて外に出る」

「うん」

 頭を抱えてソファーの上で小さくなる。

「少しそこにいてくれ」

 そういうと藤崎さんは本をテーブルに置いて立ち上がり襖を開けて中に入って行った。その後を追うように未來ちゃんも入って行った。

 そうだ。あの部屋で確か藤崎さんは未來ちゃんにのど元を小太刀で貫通させられて死んじゃったはずなのになんで生きているの?ズタズタにされた足には血どころか傷も見当たらない。斬りおとされてなくなっていた腕はちゃんとある。お腹に空いていた大穴もなく、目も二つともしっかりあった。

「そ、そうだ」

 小声で恐る恐る。未來ちゃんに刺された左足を見る。そこには傷はなく、跡もない。触れてみても痛みも感じない。

 きっと、あれは怖い夢だったんだ。そうなんだ。よかった夢で。

 そう結論づけてソファーから立ち上がってふたりの入って行った襖の先を覗くとそこは真っ赤な血のしぶきでいっぱいのお部屋だった。

「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!」

「よ、陽子さん?どうしたの?」

 やっぱり夢じゃないの?そこには確かに覚えがある。この腐敗臭と血の匂いをごまかすようなラベンダーの香りもする。思い出した瞬間、足が震えて尻餅をついてしまって動けなくなる。

「思い出したみたいだな」

 な、なんで忘れてたの?浮かんできた疑問が一気に頭を押しつぶすようにやってくる。何で藤崎さんが生きているのか?どうして未來ちゃんが私を襲ってきたのか?そして、なんで今はいつも同じ感じになっているのか?そして、私の足の傷はどうなったのか?

 パニックになって頭が痛い。

「子安さん行くよ」

 藤崎さんに手を引かれて立ち上がる。よろよろとした私の体を藤崎さんが支えてくれる。

「藤崎!陽子さんに変なことをしたら殺すわよ!」

「もう、殺されとるわ!」

「そ、そうですよ!」

 それで何で生きてるの!って思うのも何回目だろ・・・・・。

「じゃあ、未來頼んだぞ」

「うん、なるべくがんばる」

 どうして襖の向こうから未來ちゃんが出てこないんだろう。声が聞こえるからいるのは分かるんだけど、倒れそうになる体をテーブルとかに手を付いたりして襖の奥を覗く。中はお肉かが腐ったような腐敗臭と血から溢れ出る鉄の匂いが充満していてとてもいられるようなところじゃなかった。そんな部屋の片隅に未來ちゃんは手錠をされて壁に固定された金属の棒にくくりつけられて拘束されている。

「み、未來ちゃん!どうして!」

 そういえば、私がソファーに座っている時に藤崎さんとふたりだけでこの部屋にいた。

「まさか!藤崎さんは毎日のように未來ちゃんを縛り付けてSMプレイをしているんですか!大人として男として最低です!」

「いや、違うんだって!これにはいろいろとやばい事情があるんだよ!」

「やばい事情ってなんですか!まさか、これ以外にも別のプレイを!」

「違う!」

「じゃあ、もうすでに未來ちゃんのお腹の中にはふたりの赤ちゃんが!」

「どうしてそうなる!これはこんな未発達なお子様なんか見て発情なんて絶対にしない!」

「藤崎。それ以上言うともう私も抑える気なくなるよ」

 これはキョーコちゃんといっしょに未來ちゃんを藤崎さんの魔の手から守る計画を本当に立てないと未來ちゃんの明るい人生が藤崎さんのせいでお先真っ暗になってしまう。それだけは何としても阻止しなければ。

「ほら!行くよ!子安さん!」

「待って!せめて!未來ちゃんの手錠だけでも!」

 手を引っ張る藤崎さんに抵抗する。

「こうしないと危険なんだ!それはさっき思い知っただろ!」

 そう言われた瞬間、私の抵抗する力が弱くなる。

 危険。小太刀を持った暗闇で赤黒い瞳を不気味に輝かせる未來ちゃんの姿を思い出して体が急に言うことを気なくなった。

 そこに優しく未來ちゃんが話しかける。

「陽子さん。私は大丈夫ですから」

 そう笑って言う。瞼の間から覗かせていたのは赤黒い瞳。

「すぐに戻る」

 そういうと私の腕を強く引いて部屋の明かりを消して襖を閉めて玄関まで私を引きずるように連れて行く。

 私に向けたあの笑顔は私の知る未來ちゃんの笑顔だったはずだ。でも、一瞬だけ覗かせた赤黒い悪魔の瞳の色は語らずに私に伝えた。

―――早く行け。殺されるぞ、って。

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