鬼
私の家は南向きに居間があって客室がある。その客室には死んだおじいちゃんの仏壇があっておばあちゃんが家にいるときはそこを寝室としているのでほぼ客室としては機能していない。私の部屋は2階にある二つの部屋の内のひとつ。残りは空き部屋になっていて使っていない。ほぼすべての部屋が畳になっていて台所と廊下と縁側がフローリングになっている。家の奥にトイレやお風呂がある。
ここまで説明する必要もない気がする。
「使わいないものは適当に冷蔵庫に入れておいて」
「は~い」
未來ちゃんに買い物袋から材料以外を冷蔵庫にしまい、私は鍋とか必要な道具を取り出す。
「そういえば、いつも藤崎さんって商店街にいるイメージあるよね」
「ああ、あれはわたしを向かえに来ているんですよ」
古本屋に行った時もその藤崎さんを無視したおかげでお怒りの電話がかかって来たしね。
「結構心配性なんだね」
「・・・・・・まぁ」
でも、この心配性はさっきまでは藤崎さんの保護者としての心構え的なものだと思っていたんだけど、今はただの変態ロリコン足フェチ無職プー太郎となっているので信用も何も存在しない。
「今、俺のことをすごく非難しなかった?」
「したわ。変態ロリコン足フェチ無職プー太郎底辺ゴミクズ野郎ってね」
「いろいろ訂正しないといけない箇所がたくさんある気がするんだが・・・・・」
そのためには藤崎さんの記憶を掻き消す以外の方法がない気がする。
「陽子、藤崎のお皿にはちゃんと下剤仕込みなさいよ」
「了解」
「了解じゃないよ!」
でも、下剤ないからどうしようもないな。
「藤崎さん、薬局で下剤買ってきてください」
「自分で!」
「いいから行きなさいよ」
「そうよ。文句言わないでさっさと言ったら?」
「おい待て!下剤とかを仕込むなら気付かれずにやるのが普通だろ!なんで仕込ませる対象に仕込ませるもの買いに行かせるんだよ!おかしいだろ!」
「藤崎さんは変態ロリコン無職プー太郎ドMさんだからいいかなって」
「子安さん待って。最後おかしいよ。いつ俺がドMになったんだ?」
「いいから買いに行きなさい!」
「家の中で木刀を振り回すな!」
すっかり木刀を気に行ってしまったキョーコちゃんが木刀を振りかざして藤崎さんに襲い掛かる。家のものが壊れないかなって心配だから止めようと思ったけど、そのまま庭に出てくれたので止める必要もなくなった。
「止めろよ!」
「未來ちゃん。お野菜切ってくれる?」
「は~い」
「聞いちゃいねー!」
その後もしばらくキョーコちゃんから逃げ続ける藤崎さん。本当に丈夫な人だ。夕方には空腹で2回も倒れたのにもかかわらずあれだけ走り回れるのは普通じゃない。
そんな二人を相手しないで未來ちゃんはまな板の軽く洗ってニンジンを取り出してピーラーでニンジンの皮をむき始めた。普段にやってるだけあって手際がいいな。
「な、なんですか?そんなに見られると恥ずかしいです」
「いや、なんでもないよ」
普段もこんな風にお料理しているんだろうなって考えたらなんだかうれしくなった。
最初に藤崎さんとふたりで学校まで来てくれた時の印象は何か少し外れた少し私たちとは違う世界で生きているようなそんな感じがした。その原因として大きいのが藤崎さんの第一印象だ。胡散臭さがいっぱいで血の繋がりのまったくない中学生の女の子を連れているという事実に大きな戸惑いを感じた。
日常から大きくはず得た経験のすぐ後のことだから余計にそう感じてしまった。
でも、こうしてお話したりしてよく分かった。未來ちゃんも藤崎さんも私よりも圧倒的に普通なんだよね。
お互いに好きなものがあって嫌いなものがあって、苦手なものがあってそれに関してケンカしたりして、でも結局いっしょに帰ったりする仲のいい家族。両親が海外外赴任している私よりも全然家族をあのふたりはやっている。人のいないこんな家に住んでいる私よりもきっとこのふたりの家はすごく暖かくて明るいものなんだろうなってそう感じた。
「包丁どこですか?」
「あ、ごめんね」
乾燥機の中から包丁を取り出して未來ちゃんの目の前のまな板に置く。
なんだか少し羨ましい気がした。未來ちゃんと藤崎さんのことが。
私も包丁を手に取ってジャガイモの皮むきを始める。藤崎さんとキョーコちゃんは相変わらず庭で走り回っている。それよりもキョーコちゃんは彼氏が知るのにあんな風に知らない男の人と遊んでいていいのだろうかと思う。
それにしてこの未來ちゃんとの関係が始まったあのコンビニ強盗の後とは思えないくらい、平和だなって思う。この時・・・・・わね。
「人参切り終わりました」
「早いね。じゃあ、お肉もお願い」
「分かりました」
未來ちゃんがパックから安かった鶏肉を取り出す。まな板において包丁を握った瞬間、ビリッという電撃が私を突然襲う。体がピクンとなって強張る。私が今まで経験したことのないくらいのピリピリとした空気が張り詰める。経験したことがないと思ったけど、一度だけしかも最近感じた。ピリピリと皮膚の表面が電気ショックで痺れそうなくらいの恐怖と緊張感が再び私を襲う。
あの強盗の事件以来ぬるま湯に戻っていた私の日常が再び刺激的な物へと変わって行こうとしていた。そこに何も知らない私は土足で訳も分からず踏み込んでいた。意識をしていたわけではない。きっとこれは誰にも、非日常なことが好きなあのキョーコちゃんですら気づかない。
これから私は日常から大きく日常から外れる。
そんなことを私は知らずにジャガイモの皮をむいている。




